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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第7章 再生

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第138話 朝から旺盛

 昨夜はいろいろみんなの秘密を共有し合った。これでパーティーとして、より有機的に戦術を練ることが出来る。あとは実地で具体的に何が出来るかを知りたいな。サリアの魔法、キュロスの近接攻撃、シェリルの癒しの効果は特に興味があるけれど、本人は『少し』というのをかなり強調していたから要確認かな。


 スキルなどの秘密を打ち明けたけれけど、自分の中では特に何も変わらなかった。強いて言うならシェリルはスキル習得という、本人にとって恐らくプラスにしかならないことがあることがわかったので早めに解決してあげたい。そう思って確認したら「機会があればそうしたいかなぁ」っていう感じだった。『どっちでもない』以上の『そうしたい』という方向の思いを聞いた以上、『可及的速(かきゅうてきすみ)やかに望みを叶えるべし』という結論になった。


 そのためには、ロガリウス帝国首都であり、皇都でもあるロガリアに行かねばならない。首都ロガリアには白い月の女神アウレリアスを唯一神とする『聖月(せいげつ)教』の総本山である大聖堂がある。アゼリア正教国も同じく『真聖月(しんせいげつ)教』を信仰しているが、ロガリウス帝国のそれとは宗派が違っている。どちらがオリジナルなのかとか、力の強さとかわからない。そもそも宗教に関しては俺はこっちの世界ではまったく触れていないのでよくわからない。けどさ、真とか元祖とか付いてる方が後出しっぽい感じがするよね。知らんけど。


 詳しくは聞いていないが、シェリルとサリアの話からすると黒目黒髪が禁忌(きんき)に触れるということで俺は歓迎されないらしい。『聖月(せいげつ)教』における黒目黒髪は、白い月の女神アウレリアスの敵対神、青い月の魔神ヴァリウスを表すからだそうな。そんな無茶な。神話に出て来る姿に色が似ているだけで迫害とか酷い話だ。それもこれも魔法、魔術なんかで怪我が治るとかいう世界がいけない。科学が伸びないからそんな世迷い事がいつまで経っても消えないんだ。


 翌日、たぶんオルカに起こされた。気が付いたらオルカの顔が目の前にあったからだ。自然に目が覚めたのかと思うほどやさしく起こされたな。意外な特技を持っているらしい。外はまだ陽が昇るかどうかの時間らしく薄暗い。まだ寝ている他の三人を起こさないようにオルカに手を引かれながら静かに寝室を出ると、ユセフとバーズがいると言われた。あー、朝練ね! 起こしてって言ったもんね。顔を洗って、武装してテラスから中庭に飛び降りた。オルカに指導しながらストレッチをしているとユセフとバーズが現れた。オルカが真っ先に「おはよーございます」とにこやかに挨拶すると二人の機嫌も良くなるというものだ。


「おはようございます。ユセフさん、バーズさん」


「ロック様、オルカ様、おはようございます」


「おはよう。今日はロックも参加か。殊勝(しゅしょう)な心掛けだな」


 オルカに起こしてもらうよう頼んでいただけですから自慢にもなりませんと正直に答えて朝練スタートだ。しかし、ユセフは執事服を脱いでプロテクターを装着しているし、バーズはほぼ普通に武装していて不安になってきた。


「お二人の恰好が本格的過ぎてちょっと怖いんですけど。これ、軽い朝の鍛錬っていうやつですよね?」


 そう言うと二人が少し困ったような顔で俺を見た。なんだ? バーズが「まぁ見ていろ」と言うので、庭に備え付けのイスにユセフと座って見学開始。朝練初参加だからね、なにをするのか最初は見て覚えないとね。


 バーズとオルカが対峙する。お互いの武器はテーブルの上に置いてある。いま持っているのは、それぞれの武器に準じた木刀だ。これは俺が最初の頃に提案したやつだ。武術の心得のないオルカの訓練なら、殺傷力の無い木刀の方が本気で打ち込みが出来るかもしれないとアドバイスしたんだ。それを使っているということは効果があったのだろう。バーズが「来い」と言った瞬間、オルカが消えた。


「うわぁ……」


 思わず声が出た。いきなり消えたオルカがバーズの左脇をすり抜けた。すれ違う瞬間『ガッ』という音がした。バーズがオルカの攻撃を防いだ音だ。オルカがバーズをすり抜けたと思った瞬間には旋回しながら二撃、三撃と連続で打ち込んでいく。打ち込みというか斬撃だ。オルカが両手に持つのは短剣(ショートソード)の木刀だ。ダガーよりもリーチがある。もうそんなものがこの速度で打ち込めるほど筋力が付いたのかと感心した。獣人の肉体のポテンシャルの高さだろうか? キュロスを知るだけにそんな思いが頭をよぎる。そんなことを思う間にも『ガガッ! ガガガッ!』と打撃音が止まらない。有酸素運動がこれだけ続くのか? よく見るとオルカはあまり力を入れていないようにも見える。バーズもそうだ。


「あのぉ、ユセフさん、俺にはこの模擬戦ってまぁまぁハイレベルに見えるですよねぇ」


「ロック様、それは違います。これはハイレベルでございます」


 三分ほども続いただろうか、それは突然終わりを迎えた。バーズが何かやった。たぶん、オルカの攻撃のパターンを先読みして、その繋ぎのタイミングに強引に割って入ってペースを崩して肩口に一撃を入れていた。そこからガガガっと連撃で鎧に木刀を当てていた。連撃の分はもう力は入っていなかったが、真剣なら確実に致命傷だ。


 勝負あり。オルカは肩で息をしていた。真っすぐ立つことも辛そうだ。バーズは軽く汗をかいたな、という感じで、息を切らせるというほどではない。この人たちってば早朝からこんなことしてたの? バッカじゃねーの!? ハードすぎるだろ!


「あのー、ユセフさん、これ、朝練ですよね?」


「ロック様、朝練なのでございます。前回からこうなっています。我々は本日よりこのような恰好をすることにしました」


 胸当てを軽く引っ張りながらユセフが言った。オルカが続けて二本目に挑もうとしている。


「オルカ、ちょっと待った。バーズさんも、ちょっとお茶でも飲みながら打合せしましょう」


 ユセフが持って来てくれていたお茶を飲みながら休憩にした。


「オルカ、すごいよ。こんなに成長しているとは正直驚きだし、もちろん想像以上に強くなっているね」


 オルカがニコリと笑う。この顔だけ見ればちょっと漢字の書き取りの点数が上がった子供ぐらいの(ほが)らかさだ。やっていることは殺伐としていることこの上ないけれど。


「バーズさん、攻撃力としてはオルカは素晴らしい成長だと思うのですが、これでいいんですかね?」


「ほう。そう思うのか? いいぞ続けろ」


「オルカ、バーズさんは強いだろう? どれだけ打ち込んでも全部受けきってくれるから面白いし、もっともっとって思うよね? でもこれが実戦だとオルカは死んじゃってるんだよ?」


 途中まで俺の話に共感して頷いていたオルカが最後はフリーズしていた。


「もちろんこれは訓練で練習だから負けてもいいんだ。そして、さっきのが攻撃を練習するためのものだと決めているならそれもいい。ただ、模擬戦と考える場合はあまり良くない。もう、わかるよね? 最後に負けたからだよ。模擬戦だとすれば、勝つことよりも負けないこと、怪我をしないことも大事だよ。練習にテーマを持とう。守備の練習を入れてもいいと思う。わざと隙を作ってそこを攻撃させるんだ。相手が打ち込んで来る場所がわかってたら反撃も簡単になるよ。次からは対戦前になにを練習したいか考えてからやってごらん。そうするともっといろいろ出来るようになると思う」


「と、割と良いことを言うロック、俺と手合わせしよう」


 あー、藪蛇(やぶへび)だぁ。ここでやらないっていうのはありえない。オルカが俺を見ている。オルカの短剣木刀を借りる。やったことないけど二刀流だな。バーズ相手に短剣一本では手が足りないことは自明(じめい)()だ。


 胸を借りるつもりで思い切っていこう。対峙して身体強化を掛ける。手加減はナシだ。フェイントを入れまくって突っ込む。短剣は、右手は逆手、左手は順手持ちだ。狙うのは手首、足、背中だ。とにかく刃が当たればいい。最初はスピードに任せて連撃を打ち込む。軽く隙を作ると必ずそこに打ち込まれる。本気か余裕かわからない。わからないってことは余裕だと思うようにする。俺がバーズに対して有利なのは背の低さだ。これを利用するしかない。低い体勢から足を狙い続ける。時々上に剣戟(けんげき)を入れてフェイントを誘う。全部防がれて面白過ぎる。斬撃の速度を上げていく。バーズが受けに徹してくれている今しかない。永遠に続くかと思われた速度アップのタイミングで一回空振りしてサウスポースタイルにスイッチと同時に短剣の順手と逆手もスイッチして左手の横なぎをフェイントに順手の右で踏み込んで最短距離を突く! その瞬間、逆手の左手の短剣の上から体重を乗せたダガーを打ち込まれて地べたに縫い付けられる! 攻撃不可の判断をして咄嗟に前方に身を投げ出して距離を取った。くそ! 刺しきれなかった!


「そこまで」


 ユセフの声がした。さすがに疲れた。「ありがとうございました」とバーズに礼を言ってイスに腰を下す。ユセフが淹れてくれた冷たい水を飲んで休憩。目の前ではオルカがユセフと模擬戦をしている。さっきのオルカとは違ってがむしゃらな感じが影を潜め、なにかやろうとして試している感じがする。いつの間にか太陽がすっかり顔を出して明るくなっていた。暑い。今日も良い天気らしい。


「最後のはなかなかおもしろかったぞ」


「いやぁ、あれはもうただのインチキですよ。やれることがないからやっただけです」


「ふっ。速度は七、八分といったところか? まったく、最近の子供は手に負えんな」


 バレてた。三味線(しゃみせん)()いているつもりはないが、ここで速度で圧倒してもしょうがないからね。強い武闘家と闘うとどういう感じなのか知りたかったんだよね。


「何か役に立ったか?」


「もちろんですよ。俺、武術ってなにも知らないからすごく楽しかったし、勉強になりました。またよろしくお願いします」


「これ、いいな。本気で打ち込めるのがいい」


 バーズは手に持つ木刀を眺めながら言うが、これでも当たり所が悪かったら死ぬからね?


 ユセフ対オルカはバーズの時とは違った。ユセフはオルカの攻撃の先読みがすごい。いつの間にか先読み後追いが逆になってオルカが防戦一方になって終わった。オルカも「どうしてこうなった?」という顔になっていた。


 一戦一戦が長かったので今朝はここまでとなった。オルカと二人でお礼を言う。


「ふふふ。若いお二人にお付き合いするとこちらもつい歳を忘れてしまいますね」


「そうだな。今度はウォーカーも付き合わせよう」


 部屋に戻るとみんな起きていて朝風呂入って汗を流してからの朝食が美味かった。なるほど、オルカが朝から食欲旺盛だった理由がわかったよ。朝からとんでもない運動量だ。


 ユセフからは、昼頃にウォーカーが来るから時間が欲しいという話だったので、それまでに出来ることをやっておく。屋台とゲットーの残党共の様子見だ。




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