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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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Substory 05上 長い夜

 急遽、デミトリー邸の広い前庭に作られた司令部と呼ばれる野戦用天幕の歩哨に任命されたのは第三部隊の兵士だった。西地区守備隊の花形はもちろん第一部隊だ。式典で先頭を歩くのも、貴族街の警護担当も第一部隊だ。第一部隊はカルチェンコ家に連なる家系や寄り子、門弟氏族など、()の家系に関係の深い者達で構成されている。家格や関係、重要性が下がると第二部隊所属となる。


 第三部隊は実働部隊という名の下働きだ。武で名を馳せるジラール家の寄り子であり懐刀(ふところがたな)と言われるミドリエフ家に連なる者たちが主な構成員だ。普段は貴族街より外周でしか活動していない。実質的に街の治安を守っているのは第三、第四部隊になる。第四部隊は市井の者がほとんどで、深夜の門衛や最外周の見回りなどの雑用任務が多くなるが、仕事の大部分が第三部帯と被るし、優秀な者は第三部隊への引き抜きもあるという、街の若者の憧れの職業だった。


 今夜の、訓練と称された急な出動命令は誰がどう考えても怪しかった。ただ、つい最近あった南地区での異変に対する訓練と言われれば、やっと上層部もやる気になったのか? と思えるような命令だった。だがそんなものはどうせ嘘だ。何回そんな期待を裏切られたことか。


 歩哨という名の門番に就いていた二人は時々顔を見合わせていた。人の動き、命令、その全てがこれが訓練などではなく、実戦であることを告げていた。シフトが来るまではここを離れられない。早く原隊に復帰してみんなと愚痴を言い合い、情報を共有して生き残るために備えたかった。この、真夜中になろうという時間に、デミトリー本人が天幕内にいるという事実に嫌な予感しかしなかった。


 そして、ついに原隊に復帰するシフト交代の寸前にそれは起こった。第一、第二、そして第四部隊に出動命令が出ただと?! 訓練じゃないのかよ! 実働部隊である第三部隊を後回しにする理由はなんだ? ジラール家を排除しているとしか考えられなかった。ということは出撃する場所は、どっちだ?


 白い月の出ていない不気味な青い月光に満ちた夜だった。心なし青かった夜空を赤や黄や白い光が瞬いては遅れて爆音が聞こえて来た。オーサー邸だ。第三部隊の隊員は、とりあえずそこがウォーカー邸ではなかったことに安堵した。ただ、これは誰がどう見てもおかしい。おそらく第三部隊に出撃命令は出ない。この忌まわしい屋敷を守れというまったく面白くもない命令に従事しなければならない。


 いよいよ門衛をやらされている二人の目の前から第一部隊の行進が始まった。なんだこいつらの行進は。ダラダラ歩きやがって。これが軍人の行進か。せめてもの抵抗で侮蔑(ぶべつ)を込めた視線送っていたその時、空がドス黒く渦を巻き、そしてその隙間が禍々しい赤色に染まったかと思ったら火の玉が降ってきた! 第一部隊、第二部隊のやつらはパニックになってバラバラに逃げ惑い始める。お前ら退避か解散命令でも出たのかよ! 内心で(ののし)りながらここに火球が落ちて来ないかを確かめるために恐ろしい色の空を見上げていた。こんな火球相手では剣技(けんぎ)盾技(たてわざ)のスキルも役になんか立たないだろう。ここは一番狙われやすい軍事目標である司令部なのだ!


「おい! これ変じゃないか!?」


 どうせ周り中でぎゃあぎゃあ騒いでいるんだ。今さら俺たち二人ぐらいが私語をしたところでわかりゃしない。


「なんでここに落ちて来ないんだ!?」


 お互いの戦術評価が一致していることに安心したし、危険度が下がった気がした。いや、変だろう、ここが一番重要な軍事施設だぞ? 少し余裕が出て周りを見ると派手に火球が落ちているが、死人はおろか怪我人もいないだと? 建物にも火はついていない? あ、でも塀と建物の一部に損壊がある? 火が付いていないただの岩石の落下みたいだ。なんだこれは? しかし、そこら中の前庭の草木に火が着いて燃え始めていた。


 さすがに第一、第二部隊にも消火の命令が出た。出たが、そもそも兵がバラバラに逃げていて命令が届いていなかった。歩哨に就きながら第一、第二部隊の奴らを冷ややかに見ていた。二人は、今となっては歩哨に就いているお陰で消火活動に参加しなくて済んでラッキーだと思っていた。


 しばらくすると天幕の中からよく知る人物が肩を怒らせながら勢いよく出てきた。


「おう、お前ら、ご苦労。どうだ?」


 ぶっきらぼうに仲の良い先輩兵士のような口調で話し掛けてくるこの人物こそ、我が第三部隊の若き隊長であり、カルチェンコ家に敵対するジラール家の寄り子であるミドリエフ家の三男、ライオネル・ミドリエフだった。カルチェンコ家が第三部隊が力を付けることを嫌ってこの若い三男坊を隊長に指名したのだが、それが大きな間違いであることを第三部隊の隊員達はみんな知っている。


「はっ。ここ司令部はもちろん、屋敷にも火球は一発も落ちていません。ありえません。完全に陽動です」


「ふん。ウチでは一般兵でもわかることがな、馬鹿共にはわからん」


 そう言うと後ろ姿のまま先に適当な敬礼をして、肩を怒らせながら早歩きで屋敷に向かって歩き出した。二人の歩哨は、歩み去る背中に天幕の中にいる誰に対してするよりも丁寧で綺麗な返礼をした。


 ◇


 屋敷後方の後宮にも貧乏くじを引いた奴らがいた。後宮の出入り口扉を守るように命令された二名の兵士だ。もちろん、第三部隊の兵士だ。しかも彼らは、第一部隊の隊長から「後宮に行って門扉(もんぴ)を警護せよ」と直接命令されてこの任務に就いている。前庭に集合して整列した際に、通りすがりの第一部隊の隊長から命じられたのだ。その場には第三部隊隊長のライオネルもいたが、階級が上の第一部隊の隊長から「人手が足りないから」という理由を付けられたら断ることもできなかった。自分たちを見送る我が隊長の目を見れば「これぐらいどうってことないですよ」と目礼するしかなかった。自分たちも末席とはいえ、ミドリエフ家に世話になっている家系の者なのだ。ここに来る道すがら、相棒とは「まぁ、立っているだけの楽な仕事だ」と言い合うぐらいの余裕はあった。なぜなら、我が隊長に敬礼しながら通り過ぎる時、


「守れって言われたのは後宮の扉だけだけどな」


 などとボソリと言うからだ。歩きながら笑いをこらえるのに必死でイラついた気持など吹っ飛んでいた。それが聞こえた前列の仲間の目が「お前ら楽な仕事でいいなぁ」と言っていたのはやり過ぎだと思うが。もちろん、何かあれば体を張るしかない。愛人たちを見殺しにしたなんて言われたらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。


 現場に着いて後宮の担当者に警護に就くことの挨拶をしようと面通しを願い出たところ、後宮の主人であるデミトリーの第一愛人どころか、愛人たちの誰も直接会うこともせずに奴隷のメイドを通じて「ご苦労」の一言で済まされた。また、その奴隷メイドの態度も酷いものだった。さすがに仕事でもこいつらを守ることの意義を考えずにはいられなかったが、口に出さないだけの分別は失わずに済んだ。これよりも酷い屈辱の言葉を浴びることが珍しくない環境のお陰だなと思った。


 直接命令された突発的な仕事だ。自分たち二名が抜けた分の仕事を誰かが代わりにやっているような状態だ。つまり、ここに交代の人員は来ない可能性が高かった。これが訓練なら早く終われと願っていた時、そうはならないことを知らせる出来事が起きた。少し離れたオーサー邸のあたりで戦火が上がった事と、この屋敷に火球が降って来たからだ。禍々しい空を見上げて身構えたが、屋敷が燃える気配はなく、後宮のある屋敷裏側には一発の火球も落ちて来なかった。


「なぁ、これ、なんだ?」


「知らん。こんなこと出来る魔法使いなんて普通じゃないぞ。普通じゃないほど優秀な魔法使いが屋敷に当ててないんだ。そんなもん、それ自体が目的に決まってるだろ」


「だよなー。そんな奴、相手にできないぞ」


 その時、扉が勢い良く開けられた。先ほどの無礼な奴隷メイドが立っていた。


「いったいなんの騒ぎですか!」


 二人は無視した。


「いったいなんの騒ぎかと聞いているのです!」


 ひとりがメイドを冷めた目で見て言った。


「我らは貴殿の兵ではない。貴殿には命令権も無い。よって返答の必要も無い。おわかりか」


 戦闘訓練を受けた者の戦時中のテンションの声だ。いつでも殺し合いをしなければならないし、その覚悟の決まった者の声だった。メイドは震えて扉の向こうに消えた。


「お前もまだまだだなぁ」


 そう言われてメイドの相手をした兵士は肩を(すく)めた。とりあえず二人とも気分だけは良くなった。



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