第137話 家族会議
若き天才魔法使いが、身に着けたスキルは『魔法使い』だと言ってきた。なんて?
「スキルが『魔法使い』なの? 職業は魔法使いで?」
「そうよ。わたしってば元々天才だけどね! その天才美少女魔法使いに『魔法使い』のスキルが上乗せされたのよ!」
おそらくこの世界のスキルには『剣豪』とか『剣聖』もあるのだろう。だったら魔法系の職業名みたいなスキルがあってもいいよな。
「適性があるところに同系統のスキルが上乗せされちゃったの? それ、とんでもないよね。スキルの『魔法使い』ってさ、それって魔法使いなの? それとも魔法使いなの?」
「は? なによそれ」
んん? 俺の認識がおかしいのか?
「魔法使いってさ、その強さの違いでメイジ、ウィザード、ソーサラーがあるでしょ? サリアのスキルの魔法使いはどれなの? ほら、剣を使うスキルだと『剣豪』とか『剣聖』とかグレードが存在するんじゃないの? 知らないけど」
「なる、ほど、ねぇ」
サリアが考え込んでいる。自分の中に聞いているのだろう。
「わかんないわ」
それもそうか。他のスキル名があって初めて比較出来るからね。『上級魔法使い』とかあればわかりやすいってことだ。
「スキル取得前から魔法が得意だったんだよね。昨日の魔法が凄かったはずだよ。その豊富な魔力量で身体強化とかも余裕があるんだろうね。魔法が得意なら俺の『走査』も取得出来そうだから今度練習してみようよ。あ、その代わり雷魔法教えて! 何回か見させてもらったけどもっとじっくり見ないと攻撃魔法は真似できなさそうなんだ」
「いいわよ、なんでも教えてあげるわよ。この家族で隠し事したってもうしょうがないものね」
うん、俺もそう思う。隠すより共有した方が良いと思う。わかったかゲットーファミリーとかいう偽家族。これが本当の家族だ。
「あたしはねぇ『刀剣』ね。剣に関することなら広く浅くなのかしらね。よくわからないけど長剣が好きなのよね」
そうなんだよね。なんとなく名前は浮かぶし使い方というか大雑把になにするものかはわかるんだけど、マニュアルがあるわけじゃないからよくわからないよね。こういうものこそ国が研究するべきだと思うんだよ。ウチのクランでスキルのサンプル採取して研究しようかな。キュロスの長剣か。どこかに日本刀の技術が転がってないかなぁ。武器工房の『鉄槌と金床』のガイアにオルカの武器と一緒に相談してみようかな。
「ロックー。わたしのはなんだっけ?」
オルカがサリアに抱っこされたまま聞いてきた。自分のスキル名忘れちゃったのか。
「オルカのはたぶん『縮地』かな。短い距離をとんでもない速さで移動出来るんだよね」
目の前で見たキュロスが同意する。
「急に消えたからびっくりしたのよね。あの速さで来られて剣を振られたらちょっと対処が難しいわよね」
「弱点が無いわけじゃないんだよね。今のままだと真っすぐなだけの短い移動だから、合わせて剣を出されるだけで斬られてしまう可能性があるから。フェイント入れたり、複数回を組み合わせるとかで複雑化したいんだよね」
そのための身体作りをしている最中だ。
「オルカはこれからまだまだ強くキレイになるよ」
サリアに抱かれながらニッコリと微笑んだ。強くなるのが嬉しいのか綺麗になるのが嬉しいのか。きっと両方だろう。
「私はね、よくわからないのよ。スキルはあるのよね。でも何かが足りなくてうまく動いていないみたいなの」
シェリルが少し困ったように言った。
「なにか教会に関係があるみたいなのよね。グランデールの教会に行ったんだけど、そこでは『祝福』がもらえなくって、帝都かアゼリアの大聖堂に行かないとダメなのかもって言われたのよね』
なんだなんだ? 恐ろしい話が出てきたぞ。女神の祝福が直接絡んでるっていう話か? アゼリア正教国の総本山だったら黒目黒髪の俺は入国自体が難しいだろうなぁ。俺はロガリウス帝国の大聖堂というか宗教施設にもあまり歓迎されなさそうだが。
「グランデールの神父様にはとっても残念がられたのよね。一応ね、小さい頃から炊き出しのお手伝いとかで教会には行っていたのよねぇ。聖女見習いみたいなこともしていて、そこで十歳の時にね、スキルをもらったんだけど、何か途中で止まったというか。足りない感じなのよね。だから治癒の魔法はすこーしだけ使えるの。そんなことがあって、でもロガリウスとアゼリアでは宗派が違うから、下手をすると異端扱いになるからってお父様が箝口令を敷いて隠したのよね。それ以来教会にも行けていないわ」
サラっと、とんでもない暴露をされたぞ。
「なかなか大きい話が出てきたわね。まぁ、ロガリウスはそこまで宗教の縛りがキツくないというか、どっちかって言ったらぜんぜん緩いから大丈夫だけど、アゼリアの前にロガリウスの総本山にもまだ行ってないのよね?」
サリアが欲しい情報をくれた。俺へのフォローかもしれない。やさしいね。
「そうね、行くならまずはそっちよね。帝都までは長旅になるし、公にするとまた揉めそうだからお忍びみたいにしないといけないからなかなか難しいのよねぇ。前回は結婚前に行っておきましょうと準備をしていた矢先に戦争になってしまってそれきりだわ。最初の時は帝都でのデビュタントの時のついでに行くつもりで準備もしていたんだけれど、あの時は早く帝都を出ないといけなくなってしまったから行けてないのよねぇ」
お嬢様! いろいろ出てきたなおい! けけけ結婚ね、そうね、婚約していたしね、直前だったしね、それは。というかそれよりヤバいのはだね、
「デビュタント直後に帝都を脱出? シェリル、それって皇帝かそれに連なるヤバそうな奴に見染められそうになって脱出したってことでしょ?」
アゴに人差し指を当てて「ん~」って言ってる。ビンゴか。
「いろいろあったみたいなのよね。私は直接は聞かされていないけれど、ね」
当時、成人したばかりのわずか十五歳だとしても、この美貌だもんね。シェリルは辺境都市グランデール近郊の商業に強かったワイマール男爵家が生家だ。力のある家に強く出られると太刀打ち出来ないからとりあえず急いで帰らざるを得なかったんだ。それでグランデールに戻ってすぐ、帝都から話が来る前に地元で評判の良かった武のジラール家と懇意になって後ろ盾を得るということで婚約を結んだんだろう。そうしないとワイマール男爵家は商家ごと乗っ取られてしまいかねない。
結局は結婚直前にデミトリー・カルチェンコに乗っ取られたんだけど、案外デミトリーの息子のどれかがシェリルを欲しがって、デミトリーはワイマール家の商家としての力を得ようとして五年前の戦争を利用してこうなったんじゃないか? それが一番しっくり来るんだけど。皇帝も交えてシェリルの争奪戦か? もしそうだとしたら、正に傾国の美女だな。いや、これは俺の憶測だ。話したところで誰も幸せにもならん。胸にしまっておこう。
自由の身になったシェリルは今後どうなるんだ? 貴族社会的には実情は知らずとも奴隷娼婦の身分に落とされたってことは知れ渡ってるんだよな? だったら変な虫は付かないか。いや、この野蛮な世界だ。自由になったのが知られたらまた奴隷にしてでもって考える馬鹿が出てもおかしくないな。いつも油断せず、戦う覚悟だけはしておこう。何かが起きる前に事情を知れて良かった。これで俺は油断しないで済む。むしろ来るなら来やがれ。デミトリーと同じ目に遭わせてやる。
「ロガリウスの大聖堂は帝都にあるんだね。落ち着いたらこっそり行ってみたいね」
「長旅ねぇ。あんまり楽しくはなさそうだけれど、帝都はちょっと興味あるわね」
サリアは行く気はありそうだな。でもまだわかってないな!
「サリア、旅には俺が一緒だってことをわかってないなぁ」
「え? そ、そんなことないわよ、あんたが一緒ならそりゃどこでもアレよ、良いに決まってるわよ」
いや、あの、そうじゃなくてですね。歩く倉庫としての俺のスペックがね?
「ロックが一緒だとねー、いつでも美味しいし気持ちいいのよっ!」
オルカが助け舟を出してくれたけどね、微妙に言い方が誤解をまねくというか。サリアがキっと俺をにらむ。
「あんた、そういえばこの娘と森に一晩出かけていたわよね」
それは森への狩りのことだよな?! そこに殺気を含む意味あるか?!
「いや、それって森への狩りの話だよね?」
「き、気持ち良いってのはなんの話のことかしらねっ!」
「ん~、気持ちいいのはね~、しゃわーが気持ちいいのよ。外でするしゃわーはとっても気持ちがいいのっ! あとはね、寝る時もふわふわするのよ」
全部が抽象的だ。説明自体がふわふわしている。ものすごく誤解を生む表現が上手過ぎる。
「サリアも一緒に狩りに行くんだからその時にオルカの言っている意味がわかるよ。今ネタばらししてもいいけど、どうせならその時まで知らない方が喜びも大きいと思うよ」
「ちょっと、なんか、あれよね。思ってたのと違う、かも?」
ぜんぜん違うよ!




