第14話 正論
いきなり斬り掛かってきて今はひっくり返ってる馬鹿を見下ろす。どうしようか? とりあえずもう少し痛めつけておこう。傷がたくさん残ってた方がこいつの反省度も高くなるだろう。知らんけど。
拳で殴ると手が汚れるからこいつの鞘を拝借しよう。こんな固い鞘をわざわざ使うとか、金の使い方間違ってるんじゃね? 装備全部見直した方がいいぞこいつ。
俺はそいつの腰の鞘を引き抜いて、とりあえず鎧がない膝を思い切り殴りつけた。
ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!
右、左、右、左っと。
起きないな? 死んでるのかな?
鞘の先で顔をぐいっとこっちに向けると「うううっ」と呻いたので生きてる。
うーん。やっぱり意識がないのに殴ってもしょうがないか。
収納で身ぐるみ剝がせたら早いのに! しょうがない、手で脱がそう。
まずは転がった片手剣を鞘に入れて~、腰の装備ベルトを外して~、このふたつはこっちの手の届かないところに置いて、と。あ、っと。冒険者章、冒険者章っと。
冒険者章を掴むと右足で顔面を踏んで、せーの、で引きちぎる。
「せーの!」 ぶちん
引きちぎった冒険者章を腰ベルトのところに放り投げる。
チャリーン
次に胸当てかな。背中側の胸当てのベルトに手を掛けて一気にひっくり返す。
「よいっしょー」
ごろん。
さっきドーガの時は時間無くてナイフで切ったりしちゃったけど、今回はちゃんと綺麗に追い剥ぐぞ! まずは横のベルトの留め具を外して~
「お、おい、小僧、お前なにしてんだ」
酒場の方から誰かが声掛けてきたけど無視だ。付き合ってられん。よし、これで外れるな。もう一回ひっくり返して、っとー
「いや、お前! なにやってんだって!」
なんかうるさいのがいるなぁ。見てわからんのか?
「見てわかるだろうが。胸当て外してんだよ」
作業に戻ろう。えーと、次は
「あ! なんだよこいつ! 漏らしてるじゃん! えー、マジかよ。ズボン脱がすの嫌だなぁ」
あぶねー。触る前に気付いてよかった~とりあえず無事なブーツを引っこ抜く! ズボっと抜けたら足が落ちて踵が床に当たるゴトッ! という音がギルドに響いた。
「はっはっはっは。なかなかやるな少年。見どころあるじゃないか。ただもうそのぐらいでいいだろう。そいつだってべつ」
ゴトッ!
もう片方も脱がして、っと。あとは服か。こんなもん金になるのかね。きたねーしもういいか。よし、あと金目のものは~
「お姉さん、こいつってギルドに金預けてませんか?」
冒険者章をおねえさんの前に置きながら聞いてみた。
「え? え?」
あ、これ、ダメなやつかも。
「おい! いいかげんにしろ!」
さっき声掛けてきた奴がまた因縁付けてきた……は~。めんどくさいなぁ。
「なにがだよ? お前も喧嘩売ってんのか?」
「なんだと! いや、ちょっと待て。そういうんじゃねえよ。なんちゅう狂犬だ……お前さっきからなにやってんだ。それじゃまるで追剥だろうが」
なんだこいつ。自分たちのことを棚に上げて人のことを犯罪者呼ばわりかよ。しょうがない。ここはひとつわからせてやるか。
「あのなー、お前全部見てたよな? このひっくり返ってる馬鹿がなにしたか? 見てたんなら言ってみろよ」
「なっ、それは」
「こいつ、ギルド内で剣を抜いて俺のこと斬り付けやがったよな? 俺が避けなかったらどうなってたんだよ? お前も冒険者やってんならわかるよな。まさか避けなくても刃は届かなかったなんて言わないよな? あ、それともあれか? お前ら冒険者同士仲良しグループで俺が不利になるようにそんな事実はありませんでしたとか言うつもりか? どうなんだよ」
「いや、だけどこれは」
「職員の皆さんも見てたんだけどー?」
職員さんの方を見る。全員がカウンター越しに少し見えてる俺と目線が合ったけどスっと逸らされた。切ない。
「特にこのお姉さんは目の前だったからな。俺が反撃しなかったらおねえさんも斬られてたかもしれないんだけどそれはどう思うんですかあ?」
冒険者は黙ったままだ。そりゃそーだ。こんなもんこっちが完全有利だ。なにやろうと反論の余地なんかありはしない。子供だと思ってナメて掛かってるだけのアホだ。
「それでも装備を剥ぐのに文句があるなら冒険者死亡時財産譲渡権を行使できるようにすれば文句も無くなるのか?」
腰の短刀に手を置いたまま冒険者の目を見ながら言い放つ。
「……お前、ここにいる冒険者全員を敵に回すぞ」
「え! なんで? マジで? こいつってそんなに人望あって慕われてる奴なの!?」
そう言うと酒場の方が微妙な空気になった。
言った冒険者もちょっと目を逸らした。
「というわけでおねえさん、こいつの預入金っていくらですか?」
「ないわ」
調べもしないで言い切った。
……しばし見つめ合う俺とおねえさん。その目がはっきりと言っていた。
「こいつにそんな甲斐性はないのよ」と。
それはまぁそう。
「わかりました。つまらないことを聞いてごめんなさい」
なにかおねえさんの雰囲気が変わりつつある気がしてビシ! っと頭を下げておいた。敵に回したらダメな人って、いるよね?
酒場の冒険者の何人かが、真剣を持ち出した上に子供に返り討ちにあい、憧れの受付嬢の前で漏らしながらひっくり返って貯金が無いことを暴露された男に少し同情した。
貯金が無いって聞いてなんかムカついてきた。よし、お前は全裸の刑だ。どうせ今日はもうすでに汚いものを何本も見てきたんだから今更それが一本や二本増えたところで構うもんか!
シャツは簡単にすっぽ抜けた。
脱げた時に後頭部がゴ!と床に当たったけど気にしない。
腰ひもをほどいて濡れたズボンで手を汚さないようにズルっとひざ下までおろした時、階段の上の方から声がした。
「これはいったい何事だ!」




