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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章『DAY6~7』

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第135話 共有

 眠くてしょうがないけど風呂だけは入らないとダメだ。ひとしきり笑ったあとはそういう結論になった。シェリルは入る必要無いかなと思ったけど「私だけ仲間外れにする気なの」と可愛く言われたらそんなわけないじゃないですかー! だよね。どうやらシェリルも一睡もしないで俺たちの帰還を待ってたっぽい。


 だからそう言われた瞬間、全員の着ているものを『収納』した。シェリルとサリアが「きゃっ」ってハモってた。オルカは笑ってたし、キュロスも笑いながら「これ、便利よね!」って言ってた。最近やっと『出納』を使いこなしてきたな、と思う。最初にここで一人で風呂に入ろうとした時は焦りすぎて胸当てが外せないって騒いでたからね。


 なんか、風呂場じゃないところで裸だとエッチな感じだねって言ったらみんな赤くなっちゃった。サリアが「どーすんのよこれ! あんた責任取りなさいよ」って言われてもね?


 どう責任取ればいいのって迫ったら風呂に逃げたので皆んなで追いかけてそのまま入った。もう眠くてフラフラだったけど俺の担当のシェリルが綺麗にしてくれた。お返しにみんなの背中は俺が流したよ。疲れてたから風呂はサッと済ませて、でも俺の聖域のブローはしっかり担当させてもらった。


 今日は疲れててみんなヤバそうだということで、ベッドの上でブロー&マッサージを施術(せじゅつ)した。今日はいつもと違ってオルカ、サリア、キュロスの順番でやったんだけど、思った通りみんなマッサージの途中で寝てしまった。


 最後にシェリルの番。魔法のブローのいいところはドライヤーと違ってうるさくないところだね。寝てる人の横でやっても大丈夫だ。その代わりマッサージとかで声が出るとよく聞こえちゃうんだけど。


 シェリルが何回も「ありがとう」って言うから最後は「ありがとう」禁止にしたら笑ってた。


「違うんだよ。俺こそがありがとうなんだよ。俺にとってみんなはもう家族以上に家族なんだ。俺はもうみんなのことが大好きなんだ。でもね、俺は誰のことも縛る気は無いよ。本当だよ。お金なんかどうでもいいんだよ。だいたいお金なんか俺には何の価値もないからね? そんなものは稼ごうとしたらいくらでも稼げるから俺にとっては意味も価値も無いんだ。俺がシェリルから、みんなからもらったものは絶対にお金なんかじゃ買えないものだから。フランが言ってたでしょ? シェリルは今日から自由だって。キュロスとサリアの時も言ってたよ。あれはそういうことなんだよ。フランは俺のこともわかるから。みんなは俺からも自由で、どこで何をやっても、誰を選ぶのも自由なんだよ。俺はみんなを愛しているけれど、愛される必要は無いんだ。愛しているから、愛している人が幸せになるならそれでいいんだ。だからシェリルが幸せになるなら俺はなんでもするし、できないことはないよ。セカイを敵にするのもぜんぜんへーきなんだ。おれはいつでもどこでもだれがあいてでもぜったいにまけないから」


 外はまだ昼にもなっていなくて、窓から差し込む春の陽は暖かく眩しいほどだったと思う。うつ伏せになったシェリルの背中に乗ってマッサージしてた記憶はうっすらとあるんだ。肩を揉んだら声を出して気持ち良いって言ってたよね? 背中、腰辺りをマッサージしながらこれはものすごい役得だ! って思って睡魔なんかに負けてる場合じゃないだろ、気合い入れろって思ったことは覚えている。その時にシェリルに何か言ってた気がするけど、丸ごとスッポリ記憶が抜け落ちてて、まったく何も覚えていない。


 目が覚めるとそこは薄暗い部屋の中で自分がどこにいるのかわからなかった。何かが動く気配がして天井を見ている俺の目の前に透き通る青灰色(クリアブルーグレー)の瞳が光っていた。ここはオルカがいる場所だ。じゃあここが俺の寝床だ。


 ふたりで寝室を出るとみんなはもう起きていて、これから食事だからサっとお風呂に入って来なさいとサリアに言われた。相変わらずシェリルが付き合ってくれたんだけど、これ気になるよね。風呂でうしろ抱っこされている時に聞いてみた。


「シェリル、気のせいかもしれないんだけど、俺がお風呂入る時って必ずシェリルが付き合ってくれてる気がするんだけど。俺のこと、そんなに気にしなくてもいいんだよ?」


 後ろから「ん~」って聞こえたから口の横に人差し指を当てているのが想像出来る。


「ロックわぁ、お風呂上りのブローはやらなくてもいいのよって言われたらどう思うの?」


「えっ! それは! 俺がしたいからさせてもらってるんだよね。うーん、でもみんなが嫌がることはしたくないな」


「それと同じだから気にしなくていいのよ。それともロックは私とお風呂に入るのは嫌だったかしら?」


「嫌なわけないよ! というかこの世にそれを嫌がる奴は存在しないね! なんなら他の誰にもそれはさせたくないね!」


 俺は常に自分に正直でいたいのだ。


「ふふふ。だったらそれでいいんじゃない」


 そうなのかな。本人がいいって言ってくれるなら甘えてしまうなぁ。子供だからこうしてくれているんだけどさぁ。それでも、これを失うことになるとしても早く大人になりたいって思ってしまうなぁ。


 風呂を上がってみんなそろって夕食を食べて、リビングのソファーでくつろいでいた。オルカとキュロスがふたりで武器の手入れをしていた。ふと思い出してオルカと俺の防具を『排出』した。ほとんど汚れもなくて、軽く拭くぐらいしかやることはなさそうだった。あぁ、そうだ。スキルだ。


「思い出した。スキルの話をしようと思ってたんだった」


 サリアがこっちを見た。


「ああ、あんたのその不思議なやつね。別に話さなくてもいいわよ?」


 この世界の常識的な話だな。スキルは他人どころか親や兄弟姉妹にも話さないのが普通っていうやつだ。


「うん。みんなのスキルは別に教えてもらわなくてもいいんだ。でも、俺のは知っておいてもらった方が今後もみんなの前で使いやすいから。オルカにも最初のころに話したし」


 オルカ以外が手を止めて俺を見ていた。たぶん、俺とオルカの感性の方が変なんだろう。この世界のまともな社会で育っていないからだろうな。


「俺のスキルはたぶんだけど珍しいものだと思う。簡単に言うと物が『収納』できる。そこにあると俺が認識したら『収納』できる。どこまで遠くのもが『収納』できるかは試していないからわからない。そしてそれは今のところ大きさと数に制限は感じない」


 サリアの目の前のテーブルに置いてある果実水の入ったコップを指差して『収納』して、今度は俺の目の前を指差して『排出』。コップを持ってひとくち飲んで『収納』してサリアの前に『排出』する。サリアは、カップを覗き込んで中身が減っていることを確認してから飲んだ。


「このスキルは『出納(すいとう)』って言うんだけど、『収納』したものは全てが頭の中で整理されるんだよね。握りこぶしの大きさの石とか、頭の大きさの石とか。『収納』したものの中から探し出すのは一瞬なんだ」


 キュロスがハっとした。


「あたしの契約書を出した時のやつよね?」


「そうそう、それ。それでさ、今のところこれに容量制限が無さそうなんだよね。だからデミトリーの屋敷の中のものを全部持って来たんだ」


「は?」


 サリアは眉を寄せていた。


「あんた……いったい何をやらかしてきたのよ」


「え? いや、だから今言った通りだよ? デミトリーの屋敷の中を回って手あたり次第『収納』してきたんだ」


 部屋の中の空いているスペースに良い感じのティーテーブルと椅子を出した。うん、これは趣味がいいね。窓から差し込む明るく暖かい陽射しと読書と紅茶が似合いそうな調度品だ。


 全員が無言で椅子とテーブルを見ていた。


「ねーねー、あんたさ、わたしたちに兵隊見張っててって言ってさ、屋敷にすっ飛んで行ってたわよね。あれってひょっとして金貨を探しに行っただけじゃなくって」


「そーそー、金庫も隠し金庫も地下貯蔵庫も家具とか絨毯とか窓とか全部貰って来たよ。あ、そうだ。後宮があってさ、あいつら腹立ったから服とかアクセサリーも全部持って来たよ。あー、だけど厨房の中のものはもらわなかったんだよね。だって、あそこにまだ人いるからね。使いそうだったからそれはあきらめたんだ」


 とりあえずテーブルの上に愛人たちのアクセサリーの一部をどじゃーっと『排出』して山にした。サリアが胡散臭(うさんくさ)いもののように宝飾品を見ている。


「それ、ヤバくないの?」


「今回の暗殺を請け負う時の条件が『成功したらその場から好きなものを好きなだけ持って帰っていい』っていうことでオーサーと握手しているんだよね。もちろん誰も俺のスキルのことは知らないんだけど」


 続けて金のインゴットのピラミッドと、なんだかわからない約定書の束をテーブルに出した。しーんと静まるリビング。


「ふふ、うふふふ」


 最初に笑ったのはシェリルだった。いつの間にか『排出』した椅子に座ってティーテーブルを撫でていた。気に入ったようだ。センスの良い調度品にシェリルが座るとしっくり来るなぁ。深窓の令嬢感と相まってとてもお似合いだった。そんな普段と違うシェリルの姿に驚いたサリアだったが、すぐにキュロスが爆笑しだしたのを見てサリアも笑いだした。笑いながら頭から俺に突撃してきてソファーでひっくり返った俺の上に乗っかったまま笑ってた。ひとしきり笑い終わるとサリアが俺の腹の上から大きな声を出した。


「あんたいったい何やらかしてんのよ! 極悪非道過ぎないこれ?!」


 キュロスがインゴットの重さを確かめるように両手で持ってポツリと呟く。


「いやー、こんな大泥棒、グランデール始まって以来よね」


 いや、許可取ってるから泥棒じゃないよ?


「今日、誰も来なかったのは気を使っているんでしょうね。明日あたり何か言われると思うわよ」


 シェリルが微笑みながらアドバイスをくれた。


「そうかもしれないね。でも、ほら、約束は約束だから。オーサーだって俺が金庫の中身を全部持って行くだろうぐらいは想像してたはずだからね。それでも取引成立(ディール)って言って握手したし、今回は俺の勝ちだよ」


 シェリルが小首を傾げている。


「ん~、でもね、大貴族のお屋敷の金庫でしょ? 普通は本人と許可のある人物しか開けられないのよね。他人が開けようと思ったら解呪や魔術師の専門家を呼ばないと無理じゃないかしら。机の引き出しぐらいは壊せるかもしれないけれど、金庫は無理よ。開けられないし、重くて動かせないでしょ?」


 それがこの世界の貴族の常識なのか。とりあえずデミトリーの執務室のデカい机を『排出』して見てみる。


「まぁ普通はそうだよね。机もこんな感じでけっこ頑丈そうだもんね。壊すのも大変なんだろうなぁ」


「ちょっと、あんた、これ誰の机なのよ」


「たぶんデミトリーのかな」


 サリアが「うわぁー」っていう顔で見ていた。俺の顔を。


「で? 引き出しの中身は?」


「ぜんぶ俺の中にあるよ。でも俺は字が読めないんだよね。あ、そうだ。今後ね、俺とオルカにみんなで字を教えて欲しいんだ。お願いします」


「いや、あのね、そんなことはいいのよ。今それどころじゃないでしょこれは」


 とりあえず邪魔そうな机とインゴットと誓約書を『収納』する。先に出したイスとテーブルはシェリルが気に入ったのか座っているのでそのままにしておくことにする。サリアが何か考え込んでいる。


「ねえ、全部持って帰って来たって言ってたわよね。まさか隠し金庫とか地下とかにありそうな秘密の倉庫の中身なんかは持って帰ってないわよね」


「え? 当然持って帰ってるよ」


「なーんでそれが当然なのよ! なんで? なんで隠してあるのにわかるのよ?!」


 あー、そうか。そっちの話もしなきゃだ。


「えーとね、その話の前に、まずはこの、物をしまったり出したりできる『出納』スキルの話を終わらせようかな」


 テーブルの上のアクセサリーから適当にデッカいルビーの宝石を拾い上げて、それをみんなが見ている前で手のひらの上に載せて『収納』。


「今、宝石を『収納』したでしょ。これを空中に『排出』する。当然、地面に向かって落ちて来るから、地面に落ちる前にまた『収納』する」


 空中を指差して『排出』、落ちて来るところを指で差して床に着く前に『収納』する。


「これを繰り返す」


 十回繰り返した。


「今、十回繰り返してみた。ということは、それだけ長い距離を落下したことになるでしょ」


 サリアが「まさか」と呟いた。今度は少し離れたところを指差す。


「さっきまでは下に向かって落ちてくるのと同じ方向に『排出』し続けたわけだけど、その落下方向を真横に向けて『排出』すると」


 今度は宝石が何もない空間から横向きに飛んで来た。それをパシっとキャッチする。


「『収納』したものはその時の状態のまま『収納』されて、おそらく中では時間が存在しないか止まるかしてまったく劣化しない。どこにどのように『排出』するかは俺が決めることが出来る。時間が存在しないから食べ物は腐らないし、冷めないし氷が溶けることもない。焼き立ては焼き立てのまま、冷たい物は冷たいままだよ」


「ずっと美味しいままだからロックが狙われちゃうのよ」


 いつの間にかシェリルの膝の上に座って抱っこされていたオルカが「わたし知ってるのよ」とドヤっていた。シェリルがオルカの頭を撫でていた。ぬいぐるみかな?


 三人は俺の言ったことの意味を理解しようと考えている。キュロスは「すごーい」と言ったっきりなので、あまり深くは考えていなさそうだが、突然質問してきた。


「ねーねー、ロック。投擲(スローイング)ナイフを投げたやつを『収納』したら好きなところに出せるってこと?」


「お! さすがキュロス! その通り。ナイフ、弓矢、石、斧、なんでもいけるよ。あと『排出』する場所は相手に当たる直前にすれば基本的に避けるのも無理だよね。それと、複数を同時に扱えるから、事前に百本のナイフを仕込んでいれば百本同時に相手に刺すこともできるよ」


 キュロスが嬉しそうな表情のままブルっと震えた。サリアが「まさか」というようなノリで質問をしてくる。


「あんた、それさっき、大きさも重さも関係ないって言ってたわよね。昨夜(ゆうべ)、わたしの火球(ファイヤーボール)に合わせてたのって魔法じゃなくてコレだったのよね?」


「そうだよ。河原で拾って集めたでっかい岩石を使ってるんだよね」


「重さも大きさも無関係なの? 回数も容量も?」


 サリアが独り言のように呟いている。ヤバさがじわじわとわかってきたかな。





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