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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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第134話 約束

 ウォーカーが乗って来た馬車は、どこかで見たことがあると思ったら『夕暮れの泉亭』の箱馬車だった。それを使わせてくれてやっと帰れることになった。オルカとサリアはだいぶ疲れが溜まっているようだ。オルカは俺と同じで子供の身体と体力不足、サリアは魔力の使い過ぎだろう。キュロスは体力も精神力もさすがの強さだなぁ。二徹、三徹ぐらいはぜんぜん平気そうなタフさだ。


 俺がオルカ、キュロスがサリアを抱えて馬車に乗り込んだ。俺はギリギリの状態で御者に商業ギルド前の屋台と『一夜の夢』経由での帰宅を伝えると、席に座った次の瞬間には商業ギルド前に着いたとキュロスに起こされる有様だった。完全に移動中の記憶がすっぽ抜けている。


 オルカとサリアを起こさないように麻袋に入れたボア肉を『排出』して馬車を降りた。屋台の開店準備だったルシアが俺に気が付いて「ロック!」と大きい声を出すと、周りにいたみんなが駆け寄って来た。


「カレンさん、おはようございます。これ、今日の肉です。使い切ったら閉店、余ったらみなさんでどうぞ」


 そんなことを言ってたらライズが「一発目に言うことがそれか?!」とあきれていた。いや、ライズよ、仕事が第一だぞ? あれ? これって日本名産の社畜精神か? その場には『銀狼の牙』の他には臨時従業員のビート、足の悪い元冒険者のガーニー、それとなぜかジェイがいた。最初にジェイから突っ込みが入った。


「ロック、お前それ似合い過ぎなんだがどうなってんだ。やっぱりお前って、『そう』なのか?」


 だから『そう』ってなんやねん。いきなりメイド服の話題か。いや、気になるよな。また着ていることを忘れていた。馬車の中で着替えるとか考えるのも無理なほど疲れているのだよ。


「これなー。潜入任務にちょうどよかったんで着てそのままなだけだよ。着替える暇もなくて。まあそんなことはどうでもよくてだな、細かい話は後日として、西冒険者ギルド長官のデミトリーは死亡で失脚した。その他のお偉いさんはみんな無事だ。で、ゲットーファミリーは解散になった。組員達のうち二百人以上が俺の奴隷になっている。捕まえてない残りの連中、ファミリーが経営していた店、全部一旦俺の預かりになる。ガーニー、今日からはゲットーの奴らの売り上げの取り立ては無い。ただし、これはあくまでゲットーファミリーの分だ。他のチンピラは知らん。今後そういう輩が出たら俺らが全部ぶっ潰すつもりだが、態勢が整うまでに不届き者が出たら報告をくれ。後できっちり落とし前を着けるから、その場では無理しなくていい。元ゲットーファミリーの奴らで冒険者クランを立ち上げる予定だ。カレンさん、お店任せました。ちょっと、俺もう限界なんでまた明日お願いします」


 質問は受け付けずそれだけ言うと今日の分の氷柱を作ってキリエとウィルに家具や道具のお金を渡して解放してもらった。ふらふらと馬車に乗り込んで次に気が付いたのは最高級娼館『一夜の夢アン・レーヴ・デュヌ・ニュイ』の表玄関の馬車回しだ。ほんの数分の気絶だなこれ。今度は起こそうとしたサリアが寝ぼけながら俺に抱きついてきたので、そのままお姫様抱っこして、オルカをキュロスに任せた。身体強化を入れた方が頭の中もシャキっとすることに気が付いて少し元気になった。あとで反動が怖いなこれ。ほとんどドーピングじゃないか? 御者にちょっと時間が掛かるかもしれないと伝えてから玄関扉をくぐった。


 中では奴隷紋のある美人コンシェルジュさんがいて案内されるがまま着いて行く。カウンター横のドアを通って廊下を進むと今回はすぐにドアがあった。この向こうは秘密の花園の玄関ホールだなと気合を入れてドアをくぐった。


 うおっ! 今回は美姫(びき)たちが一階ロビーに勢ぞろいだ。なんという迫力。そこにゴスロリバトルスーツを着たサリアを抱えたメイド服を着た俺、登場。ザワつくロビー。あっという間に囲まれるが行先が塞がれるようなことはなかった。姫たちが口々に「おめでとう」とか「かわいい」とか、あといろんなことを言われたのだが、ついにひとりが


「サリア、あんたなに狸寝入りしてんのよ! 起きてるんでしょ! いつまでロックちゃんにしがみついてるのよ!」


 とか言い出して。え?


「え? サリアさん起きてんの?」


 思わず立ち止まって聞いてみた。サリアが片目だけ開けて


「男が細かいこと気にするんじゃないわよ。ほら、行くわよ」


 と言ってまた首にしがみついてきた。サリアはまわりの姫たちからはブーブー言われていたが、それはサリアが皆に好かれていることの証だった。昨日、奴隷紋が失くなってから彼女たちには顔を合わせることなくここを出た。解放されてからみんなとは初顔合わせだ。奴隷紋の無いサリアとキュロスを見て涙ぐみながら「おめでとう」と言ってる姫もひとりやふたりではなかった。サリアはどうしていいかわからなくて唇を嚙みながら寝たふりをしているのだ。それがわかるからそれ以上は突っ込まず抱き上げたまま歩いた。サリアのためなら身体強化のオーバードーズぐらいどうってことないぜ!


 ロビーを抜けるドアの前でみんなの方を振り返ると、口々に「いつでも遊びにいらっしゃい」「もう問題起こすんじゃないわよ」「キュロスおめでとう」と口々にお祝いしてくれた。一礼して最後だけみんなに軽く手を振るサリアを抱えてドアをくぐると、目の前に金糸を(まと)った荘厳な扉があった。案内の女性が扉をノックするとすぐに扉が開いた。案内の女性が深々と頭を下げる横を通って部屋に入る。


 中では美の化身が二人。ひとりは優しい女神のシェリル。もうひとりは人間離れした神の創造の上を行く美しすぎるエルフだ。


「シェリルさん、フラン、お待たせ。戻ったよ」


 瞳を潤ませた美人のシェリルが「おかえりなさい」と言う。


 もうひとりの美神(びじん)、エルフのフランシーヌが金緑石(アレキサンドライト)の瞳を細めて「待っていましたよ」と歓迎してくれた。


 ふたりのもとへと歩いてソファーに腰を下すのだが、俺はサリアを抱っこしたまま座った。オルカは珍しく起きないので向かいのソファーにシェリルとキュロスと共にいる。俺の左に座ったフランがサリアの頭を撫でながらいたずらっぽく話し掛けてくる。


「疲れているのにまっすぐここに来るなんて、よっぽど大事な御用のようね」


 俺が口を開こうとした瞬間、サリアがもぞもぞと動いて立ち上がると向かいに座るシェリルの元へ歩いて行った。シェリルが不思議そうな顔をしているとサリアは黙ってシェリルの手を取って立ち上がらせると代わりにそこに自分が座ってオルカの髪を優しく撫で始めた。ポツンと立たされたシェリルが、ふっと微笑むとこちらに歩いて来る。そして黙って俺の右隣に静かに腰を下した。俺はシェリルの左手に右手を重ねた。


「ジーナ、お待たせ。約束を果たしてシェリルさんを解放するために来たよ」


『女帝』ジーナが愉快そうに恒星耀金(ステラ・ゴールド)の髪を揺らしながらシェリルに問う。


「シェリル、貴女(あなた)を解放するのに必要な金貨は何枚だったかしら」


 俺を挟んでシェリルが微かに唇を震わせながら『女帝』ジーナに答える。


「必要な金貨は五千枚です」


 その瞬間、目の前のテーブルの上に大きな金貨の山が現れる。


 ワゴントレーを押すメイドが現れて大金貨を数える。あっという間に数え終わるとカートと共に闇に消えた。


「大金貨五百枚で金貨五千枚分、確かに受け取ったわ。シェリル、これであなたは自由よ。今のあなたに姓は無いのよ。これからどう生きていくかはあなた自身が決めるのよ。人の人生も思ったより長いわ。生きていれば良いこともあるのだと、私も今日あらためて知った気がするの。シェリル、おめでとう」


 金緑石(アレキサンドライト)の瞳がクルクルと色を変えていた。


 受け取った契約書をシェリルと手を繋いだままふたりの目の前で燃やしてこの世から消した。


「シェリル、とりあえず俺たち家族の家に帰ろう。じつは俺たちみんな徹夜でさ、けっこうギリギリで今にも寝てしまいそうなんだ。難しい話や大事な話は落ち着いてからでもいいかな? 時間ならこれからたくさんあることだしね」


「ええ、ええ、もちろんだわ。帰りましょう。わたしたちの家に」


 シェリルの目からきれいな涙が零れていた。悲しくない涙があるんだな。この世界でこんな幸せな気分になれるとは思わなかった。


 で、だ。気付いたら『夕暮れの泉亭』のいつもの俺たちの部屋のソファーに座っている俺だ。え? なんだ? テレポーテーション? フランのスキルか?


「あっ」


 サリアの声がしたのでそっちを見ると、座っている俺の足の間に入って太ももを両脇で抱え込んでいる。なんだこの恰好? 右にシェリルが座って、左にオルカが座っている。キュロスは? 目の前で鎧を脱いでストレッチしていた。


「サリア、なにしてんの?」


 俺の足の間にいるサリアに聞いてみた。


「え、あ、あんたが! 寝ちゃったんだもの! 運ぶの大変だったんだからね!」


 ああ、そうなんだ。そりゃ正直すまん。えーと、シェリルを解放したんだよな。そこまでしか覚えてない。


「シェリル、ごめんね、なにか大事なところで気が抜けてしまったみたいだ」


「ふふふ。いいのよ。徹夜だったんだもの。疲れているのよ」


 俺はおもわず両手をシェリルの顔に伸ばしていた。シェリルは嫌がる素振りも見せずに受け入れた。ああ、そうだ!


「シェリル! 奴隷紋が無い! とてもキレイだ!」


 シェリルの美しい顔と首筋に触れていた。奴隷紋どころかシミひとつもないきれいな首筋だった。シェリルは静かに頷いた。シェリルの顔から手を離した俺はきゅっと太ももを閉めた。サリアが「えっ」と言った。逃がさないぞ!


「サリア! サリアの首も顔もとても綺麗だ!」


 動けなくなったサリアの顔を両手で包んで左の頬を合わせスリスリして、解放するどさくさにほっぺから首筋に向けてチューしてやった!


「あ、あんた! どさくさに紛れてなにしてんのよ!」


 真っ赤になって大きな声を出すサリアを解放して立ち上がりながら言い返す。


「サリア! 俺はサリアのことを俺の好きなようにめちゃくめちゃにしてもいいんだよ! だからクレームは受け付けないよ!」


 大きく口を開けて真っ赤になったサリアは何も言えずにいた。


「キュロス!」


 俺は鎧を脱いだキュロスの胸に飛び込んだ。昨日は痛い目を見たからな! さっき鎧を脱いでいるところを見て思い出したんだ。今の俺の身長だと立ったまま抱き着くとちょうどいいところにクッションがある! ぐりぐりしながらソファーに押し倒す。ケラケラ笑って抵抗しないキュロスの顔を両手で包む。


「キュロス! キュロスもすごくキレイだ!」


 奴隷紋の無くなった者同士の頬を合わせる。キュロスが俺を力強く抱きしめる。抱きしめる。抱きしめる。抱きし


「いつまでやってんのよ!」


 サリアに引っぺがされた。突っ込みが遅いよ! 待ってたのに! そう思って笑ってたらサリアも笑い出した。笑って俺の胸に頭からタックルをかましてきたのでふたりでそのままソファーに寝っ転がってたキュロスの上にひっくり返って笑った。途中でオルカが混ざってきてみんなで笑った。


 よし、そろそろメイド服脱がさせてくれ。




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