第131話 お仕着せ
さあ、俺の『出納RTA』は終わったぞ! 早いところ事後処理を終えてシェリルの元へ帰らねば! 『出納』の中のリストを確かめるととんでもないことになっていた。大漁だ。なんならもう働かなくてもいい、一生分の金がある気がする。スキルの効果で何がどれだけあるかはわかるが、そもそも理解できないものも多くて全容は計り知れない。でもまぁ、戦利品は多くて困ることはないよね。
ホクホクで食堂に顔を出すと休んでいる者はおらず、活気ある様相だった。そこには兵士はおらず、先ほどの元奴隷のメイドたちが出来上がった食事をテーブルに並べるために厨房とを忙しく往復して運んでいた。気軽に配ったり、すぐに手に取って食べられるように配慮したビュッフェスタイルの軽食だ。指揮を執っていたオズワルドが俺が入ってきたことにすぐに気付いて声を掛けてきた。
「ロック様、お疲れ様でございます。軽食を御用意しておりますのでご休憩はいかがですか」
俺が何をして来たか予想は付いているだろうにその事に関してはおくびにも出さない。なんと気持ちの良い仕事ぶりだろうか。
「ありがとうございます。オズワルドさんのお陰でとても順調に事が運びました。この御恩は近い内に必ずなんらかの形でお返しいたします。食事の手配をお願いできればと思いここに来たのですが。さすがですね。ありがたくいただきます。ですがまず、皆様は食事は摂られましたか? まだでしたら、まずそれを配る前に済ませてください。食事を配る皆さんが空腹のままではいくら勧められても誰も安心して美味しくいただくことができません」
オズワルドはにこやかに目礼するとカローネ含め数人のメイドを名指しで呼び出して食事休憩を命じた。命じられたメイドたちは驚いていたが、カローネが俺たちを見つけて駆け寄って来た。
「オルカ、ロック、もうお仕事は終わったの? 今ね、ごはんを食べなさいって言われたのよ! 一緒に食べましょう」
とても嬉しそうなカローネの笑顔に釣られてこちらも笑顔になる。
「いいね、徹夜で走り回ってお腹が空いていたんだ。せっかくだから御馳走になるよ」
カローネにはオルカと先に行ってもらって、俺はオズワルドに後宮の守衛の二人に温かい飲み物と食べ物の差し入れをしてやって欲しいと頼んでから二人の元に行った。頼んだのは守衛の分だけだ。オズワルドはその意味を正確に理解しているだろう。
二人が俺の分の食事も用意してくれていて、楽しく美味しく朝食を頂くことができた。カローネ以外の同席した若いメイドたちは、最初こそ俺たちと一緒なことに緊張していたが、俺たちがメイド服を着ていたことと、カローネの屈託の無い明るさにすぐに食事に夢中になった。彼らは数時間前まで奴隷で、おそらくここでは虐げられる存在だった。きっと食事を作ったり配膳はしても、自分たちが口にするものはそれとは別物だっただろうことは容易に想像がつく。簡単な朝食だったが、美味しい美味しいと喜んで食べていた。うん、確かに美味いなこれ。さすがこの街で一番の屋敷にある食材だ。こういうこともあろうかと、ここではなにも収納しないでおいたのだ。
食べたあとは自分で食器を下げるついでに厨房のスタッフに挨拶をしに行ったら、なぜかオズワルドが付いて来てくれた。調理が一段落ついていたこともあって、オズワルドの紹介で料理長のバロッサが話相手になってくれて食材や厨房についての説明が聞けた。俺が水回りから火回り、食材の保管法についてまでいろいろ質問するものだからバロッサもおもしろがって教えてくれた。楽しいがキリがないので、また今度機会があれば料理についても教えて欲しいと言ってその場を辞した。
食堂では食べ終わった者から次の者を指名することで順番に食事が摂れていた。食事が終わった者は出前よろしく温かい料理を各所に運び始めていた。オルカもカローネの手伝いをしていたらしく、俺が厨房を出ると、ちょうど何回目かの出前から戻って来たところだったみたいだ。厨房から出た俺を見てカローネが走り寄って来た。
「ロックー! 聞いて聞いてー! オルカったらすごいのよ!」
ん? なんだ?
「兵隊さんにお食事を配りに行ったらね、みんなが『疾風』が来た『銀狼』だって大騒ぎなのよ! 兵隊さんがいっぱい来てお食事運ぶの手伝ってくれるから私たちすぐにやることなくなっちゃうの! 兵隊さんがみんなオルカに敬礼してくるからびっくりしちゃった!」
一緒に配膳に行っていたであろう他の若いメイドも興奮気味だった。なんかえらいことになっとるな。オルカが戦うところを直接見た第三部隊の兵士ってライオネルと歩哨に就いてた二人だけじゃないのか? なんでそんな噂になってるんだ? あと、配膳中っていっても剣をぶら下げたまま無表情にスープをよそい続けるオルカが目に浮かぶだけなんだけどな。オルカちゃん、第三部隊の中でアイドル化してないか? たぶん本人めっちゃ塩対応だと思うけど。違うのかな? ここでも娯楽に飢えた奴らが大げさに騒いでいるのだろうか。
「オズワルドさん、そろそろ皆さんも興奮が冷めて徹夜の疲れが出るころだと思います。サウナがあれば使ってもらって、早めに順番でもいいから仮眠を取って休むことをお勧めします。数日は混乱が続くと思うので、長期戦のつもりで参りましょう。私に何ができるかはまだわかりませんが、ウォーカーとオーサーのおっさんたちには機会があれば声を掛けておきます」
そう言ったらオズワルドは目を見開いたあと「おっほっほっほ」と上品に笑った。カローネ始めその場にいた人たちが驚いていたから珍しいことだったのだろう。笑い終わると礼をしながら「仰せのままに」と大げさに言われた。
「カローナ、いろいろありがとう。俺たちはそろそろ行くよ。また近いうちに会えたらいいね」
カローネは自分の左頬を抑えながら俺を見た。
「ううん。こちらこそありがとう。またね」
そう言うとオルカのカチューシャと髪型、メイド服の着付けを直しながら別れの言葉を掛けていた。俺は別の若いお姉さんメイドたちが寄ってたかって直してくれた。もはや抵抗など出来ないほどの囲まれっぷりだった。なんかどさくさに紛れていろんなところを触られた気がする。そもそもこれ、もう脱ぎたいんだけど?
あっという間に仕上がってしまった上に皆から一斉に「行ってらっしゃいませ」とお辞儀をされたらそのまま食堂をあとにするしかなかった。




