第129話 残業は続くよどこまでも
屋敷の外にも建物がある。まずは私兵の訓練場と武器庫だ。今回は出動が掛かっているのでほとんど残っていなさそうだけど念のため。急いで武器庫に行くと、予備の武器防具や矢など残っていたものを根こそぎいただく。訓練場では訓練用の道具なども全部もらっておく。兵舎の私物はさすがにそのままだ。まぁ、なにも無いよりはマシという程度の収穫かな。さて、次が最後かな。
そういえば犬獣人奴隷メイドのカローネってデミトリーの奴隷じゃないんだよな。なんだっけ? ドストエルだっけ? たしかウォーカーかオーサーが三男がいるって言ってたんだよ。カローネもドストエルがどうこうって言ってて、カローネには奴隷紋が失くなってたから。誰だ? 俺か? バーズか? ドストエルはいつ死んだんだ? まぁいいか!
それで、屋敷にはスラムギルド長にしようとしていた三男のドストエルも同居していたわけだが、後宮があるんですよ、この屋敷。本館に比べれば小さいけれど、それでも充分でっかい三階建ての屋敷。後宮には愛人を住まわせてるわけだ。住んでいるのはデミトリーとドストエルの愛人だ。なんかもうすごい。
ドストエルは本館にもひとり住まわせているんだそうな。それがさっきの二階の居室にいたやつだ。本妻が来た時にヤバいだろうにね。そうです。デミトリーも、三男のドストエルもちゃんと自領に本妻がいるんだけど、五年前にグランデールに来た時から単身赴任なんだよね。それでもう、いろんなことが弾けちゃって、愛人囲って好き放題さ。そんな後宮の家捜しに来ました。別に楽しくはない。
後宮に着くとライオネルの部下が二人、歩哨として出入り口を警備していた。
「ご苦労さまです。ロックといいます。ちょっと用があって中に入りたいので開けてもらえますか」
そう言うと歩哨がお前は何を言ってるんだっていう顔で見てきたんだけど、ひとりがオルカの方を見て眉を寄せた。オルカは今、腰に装備ベルトをしていて、短剣を差している。俺は相変わらずの丸腰メイド服のままだ。着替える時間が無いの!
「あれ、それって短剣? なんでメイドが?」
その声を聞いてもうひとりの兵が何かに気が付いたみたいだ。
「し、疾風の銀狼!」
な! なんだそのかっこいい二つ名みたいなの! オルカは少し小首を傾げているだけで自分のこととはこれっぽっちも思っていない。
「で? 開けてくれる?」
悲しい気持ちでもう一度問う。
「と、言うことは、あ、あんたが黒目黒髪の、ロック様?」
そう。さっき名乗ったし。
「ライオネルから聞いてるんだね。そう、俺がロックでこっちがオルカね」
「失礼しましたー! ただ今開けさせていただきます!」
急に親切になる兵隊さん。まぁ、わかってもらえればいいよ。開けてもらった扉をくぐって中に入るとゆっくりと扉が閉められる時にふたりの話し声が少し聞こえたんだけど『しにめがみ』ってなんだ?
中に入るとツンと澄ました奴隷女中が三人も立っていて、真ん中の一番年上だろうメイドがズイっと前に出て見下すように俺たちの前に立ちふさがる。
「お前達、誰の命で来たのですか。ここはお前達のような者が入って良い場所ではありません」
俺たちのような者ってどのような者なのかぜひ聞かせてもらいたいね。
「ちょっとややこしくてすまないな。俺たちはこんな格好をしているがここの女中じゃあない。俺の名はロックだ。デミトリーが死んだのは理解しているか? デミトリーを殺したのは俺だ。お前にはまだ奴隷紋があるということはここの女主人でいいのか? 愛人なのに主人なのか? よくわからんが誰かに仕えているのだろう。そいつに面通しさせろ」
この小娘は頭がおかしいのか? っていう顔を三人中三人がしている。左でスラっという何かが奔る音がした直後に冷たいが誰の耳にも聞こえる小声で『ソード』と聞こえた。俺の横から出されたオルカの右手に片刃の短剣が握られる。左手には自ら抜いた両刃の短剣が既に握られていて二刀流の完成だ。
ほらほら、お前らが俺のことを見下すからオルカちゃんがオコだぞ? どうすんだこれ? あまりのオルカの迫力に偉そうだった女中の顔が真っ青だ。
「俺の話を聞いていたか? デミトリーは俺が殺したからもうこの世にいないんだよ。早く愛人の元へ案内しろ。まあ安心しろ。別に殺しに来たわけじゃあない。ただな、この屋敷の主人だったデミトリーは国家に対する反逆で死んだんだ。この意味がわかるか? 皇帝に逆らうような愚かなことをしたと言ってるんだ。お前らの今後の身の振り方がどうなるかはお前らの主人であるデミトリーとその息子の愛人たちのひと言で決まるということを理解するんだな。わかったならとっとと案内しろ」
俺が言い終わるとオルカがずいっと一歩前に出る。強気だったメイドが「ひぃっ」っと二歩、三歩と後ずさる。そして「た、只今」と言ってそのまま屋敷の奥へと歩き出す。
メイドは、ひと際大きな扉の前まで来ると俺たちとは視線を合わせようとはせずに向き直った。
「皆様、こちらのお部屋にてお待ちでございます」
へー、ひとまとまりになってるのかな? それは呼び出す手間が省けていいね。俺はアゴをシャクってドアを開けろと催促する。
メイドがドアノックすると中からは労いの感情を一切感じない偉そう声がした。
「どなたかしら」




