第126話 楽しい事後処理
すっかり冷めてしまった紅茶を一息に飲んで左手に持つソーサーにカップを置いて冒険者たちに声を掛ける。
「で、参加者は何人になったの?」
さっきの剣士が毒気が抜けた顔で返事をする。
「俺はやらん」
そう言って剣と盾を地面に置きながらどっかと座った。後ろの連中も武器を置いて座った。正規兵の奴はひとりも立たなかった。まぁ正解だよね。誰かが攻撃を仕掛けてきたら今度は俺も手加減するつもりはなかったし。でも、なぜ戦わないという決断をしたのか気になったので今後の参考のために、剣士に聞いてみた。
「なんで諦めたの?」
剣士は俺の顔を嫌そうに見て言った。
「お前の得体が知れん。お前、デミトリーをどうやって殺したんだ。あれを防ぐイメージが湧かん」
剣士は話している途中に壊れた屋敷と壁を見ていた。こういう人物なら長生きできそうだけどね。今回はなんでデミトリーの下になんか就いたのやら。さて、事後処理だ。西地区の正規兵部隊に向かって確認だ。
「正規兵の指揮官は誰だ」
座り込んでいる正規兵達を端からゆっくりと見ていくと、少し離れたところから声が掛かった。
「私です! 私が西地区守備隊、隊長代理のライオネル・ミドリエフです」
さっき案内をしてくれたお人好しだ。ライオネルが青い月明りのせいだけではなく青白い顔でこちらに歩いてくる。俺はその場を動かずライオネルが目の前に来るのを待つ。その間に食事を終えたのかオルカも俺の横に来る。ライオネルと向き合った時、オルカは俺の左、キュロスは右、サリアは俺のすぐ後ろに立っていた。
ライオネルは左手を開いて右胸に当て、右手は軽く握って右腰に当て、右足を引いて左膝を立てて跪いた。咄嗟に剣を抜くことの出来ない態勢。相手に恭順の意を表すための、臣下ではない者が目上の者に対する最上位の騎士の礼だ。畏怖と敬意と恭順の証だ。
「ライオネル。先ほど俺が殺したあいつは何者だ」
視線だけで吹っ飛んで仰向けに倒れたままの死体を指し示す。ライオネルは表情を変えずに死に絶えた男を見つめながら答える。
「大辺境都市グランデール西地区担当筆頭貴族、西冒険者ギルド長官のデミトリー・カルチェンコ男爵でございます」
「お前はカルチェンコ家に連なる者か」
ライオネルがキッと俺の目を見据えて答える。
「我がミドリエフ家は代々ジラール家に仕えております。私は西地区守備隊第三部隊隊長です。西地区守備隊の総隊長と副長は先ほど首を斬られ死にました。第一、第二部隊の隊長も黒焦げになりました。よって、私が現在の西地区守備隊の最上位士官になります」
「はっはっは。そうか。ウォーカーのおっさんの知り合いか」
俺がそう言うとライオネルが眉を寄せて口をぽかんと開けて俺を見た。
「ライオネルとやら。第三部隊はジラール家のものか」
ライオネルはなんとか誠実に対応しようと言葉を選びながら答える。
「我がミドリエフ家に連なる者で編成されております。ジラール家の者かと問われれば、総意としてそのように申し上げることもできます」
「俺が今ここにいるのはウォーカーとオーサー両名の同意があってのことだ。第一、第二部隊はカルチェンコ家の息が掛かっているんだな?」
俺の言葉の意味は理解できるが、どう対処して良いか苦慮しているようだった。おそろしい悪魔のような子供と、信じられない手練れの三人の若い女性を前にして……三人の女? いや、ちょっと待て! 違うなこれ! くそっ! もういいや。訂正するのもめんどくさい。俺、メイド服着ちゃってるし。
「はい。全員ではありませんが、特に第一部隊はカルチェンコ家に連なる貴族の子弟が多く在籍しております」
じゃあそいつらはちょっと使えないな。キュロスが俺から離れて座ってる奴らの方へ歩き始めた。なにかこそこそし始めた奴でもいたのかな。とたんに座ってる連中の背筋がビシッと伸びた。キュロスの代わりにサリアが右に並ぶ。オルカは絶対に左にいるな。他の三人は空いていると右に並びたがってるように見えるな。いや、今はそれどころじゃない。
「そうか。じゃあ第三部隊で第一、第二部隊を武装解除の上、整列させてその辺に座らせておけ。それとここにいる冒険者を拘束して監視しろ。ウォーカーかオーサー、またはその家系に関わる者以外の奴にはデミトリーの遺体含めて誰にも絶対に引き渡すな。捕縛した連中と死んだ奴のリストを作成してあとで俺たちの内の誰かに渡せ。いいか、こいつらは俺のものだ。横取りする奴がいたらそれが誰であろうと俺が直接奪い返しに行って礼をしてやる。行け」
「ははっ!」
ライオネルが頭を完全に下げて視線を切って返礼した。これもその場を辞する際の最上位の礼だ。目線を下げることで、いつ斬り捨てられても文句はありませんという意だ。
が、下がらない。
「どうした。なにかあるのか」
ライオネルが目を上げずに畏まって返答する。
「恐れながら、お名前をお伺いしたく願います」
あー、そうね。忘れてた。
「俺のことはロックと呼んでくれればいい」
「はっ! それでは失礼いたします!」
ライオネルは視線を下げたまま立ち上がって数歩下がると、キビキビとした動作で振り返り、さっきまで歩哨をやっていた部下たちに命令を発した。
「キュロスさん、サリアさん、ちょっとここをお願いします! そこに並んでる生ゴミ馬鹿貴族とか捕縛してる連中が変な動きをしたら遠慮なく首を刎ねるか黒焦げにしてください! 俺とオルカは屋敷の方の後始末に行ってきます!」
座ってる連中が首を竦めた。
「はーい。お土産よろしくね」
サリアが、夫が出張に行く新婚夫婦みたいなノリでウィンクする。
「だけどあんた、なんでそんな可愛いカッコしてるわけぇ?」
続けて今度はよだれの垂れそうな舌なめずりをしながら俺のメイド服のスカートを捲ろうとする。それは話すと長くなりますと答えてキュロスを見る。キュロスは笑顔で軽く手を振ってきたので手を振って応える。俺はオルカを連れて屋敷に向かう。歩きながら命令を下しているライオネルに呼び掛ける。
「ライオネル! デミトリー死亡と全面降伏を周知させろ! 戦争を終わらせろ! オーサー邸の襲撃部隊にもデミトリー死亡の報を入れろ!」
それを聞いたライオネルが一瞬震えたようにしたあと俺に敬礼しながら大声で応える。
「了解しました! 閣下!」
俺って閣下なんだっけ? ぜんぜん違うけど都合がいいからそっとしておこう。
「オルカ、行こう。宝探しだ!」
オルカに向かって小声でそう言ってから全速力で走り出す。俺の仕事は終わったのだ。ここからは約束のものを頂戴するだけだ!
まずはバーズを探してオーサーのところへの派遣で厄介払いしなければ!




