第118話 あれがこうなって
奴隷商人のヤリスが優秀なので奴隷契約もスムーズに終わった。現在、奴隷は総勢二百名を超えている。奴隷になった者からバリウスのパーティーを中心に戦闘部隊の編制も進んでいる。元から奴隷だった仲の悪い連中はこの場の警備部隊に残しておく。こいつらは南地区の組織の奴らを捕らえて奴隷にした奴らだ。向こうにも同じくらい使える奴が捕虜や奴隷になっているなら条件次第で交換してもいいかもな。
奴隷誓約と部隊編成、装備支給が終わった。ベルガーとバリウスを呼ぶ。
「さっきも言ったようにベルガーが折衝係だ。バリウスは現場の指揮官な。俺は今からデミトリーの暗殺任務に行ってくる。せいぜい俺たちが死ぬことを祈ってろ。ま、その前にお前ら自身が死なないといいけどな」
バリウスが事務的に話を進める。
「全部終わったあとにボスに連絡取りたい時はどうすればいいんだ」
「俺の寝床か? 寝床は『夕暮れの泉亭』だ。三階のロックを出せで通じる」
「は? あそこの三階は『誓いの剣』のねぐらだろ?」
へー。そんなに有名なのか。
「うーん、それのご近所さんってやつだな」
ベルガーも一緒になって「よくわからんけどわかった」ってなった。すると俺に能天気な声が掛かる。
「ロック、あんた何か食べたの? しっかり食べておかないと体が保たないわよ」
「あ、サリアさん、そうですね。俺が晩メシ用意するんで一緒に食べましょう」
サリアを見たバリウスが驚いたように声を上げた。
「サリア? その髪、その杖、お前、『爆炎の魔女』か!」
それを聞いたサリアが「ちっ」と舌打ちをした。なんだ『爆炎の魔女』って。騒ぎを聞きつけたスティングたちが寄ってくる。
「『爆炎の魔女』のサリアがいるって聞こえたぞ!」
スティングは相変わらず声がデカい。
「あんたたち! ロックはあんたたちのボスでしょうが! ボスの女のわたしを偉そうに呼び捨てにするんじゃないわよ! 『さん』を付けなさい! 『さん』を!」
「はあ?! ボスの女ぁ? それってキュロス姐さんのことじゃねーのかよ!」
スティング、声デカいってお前。もうやめろ! サリアが俺のすぐ横に控えるオルカを抱き寄せてねっとりと続ける。
「あらぁ、ここにもうひとり女がいるわよぉ。それとこの後にもあんたたちが見たら目が飛び出るぐらいすごいのが控えてるから楽しみにしてらっしゃぁい。ん? 今日知り合ったもうひとりは大丈夫よね……」
なにやら物思いに耽っていくサリア。俺の興味はそんなことじゃないのだがスティングがうるさい。
「なななな、この歳で三人? 四人? 五人? やべぇな! ボスやべぇな! わははは! 俺は今! 猛烈に感動してるぜっ!」
お前にそういう風に尊敬されてもうれしくないよ。
「サリアさん、そういう誤解を招くようなことはですね」
「なによぉ。わたしたちがこいつらにナメられてイヤらしい目で見られてもいいっていうの!」
くっ! ああ言えばこう言う! 今回は俺の分が悪い!
「あー、というわけだから女性陣には敬意を払うように、ね」
スティングを筆頭に三角座りしている有象無象共が「さすが俺たちのボス」になっている。なんでやねん。さっきの戦いで十人瞬殺した時にそれを感じろよ! あとスティングが全員に言いふらしに行ってしまった。なんでお前がそんなにうれしそうなんだよ。いや、そもそも俺が知りたいのはそこじゃないわ。
「バリウス、『爆炎の魔女』のことくわしく」
俺のところに来て「そんなことはどうでもいいじゃない!」とか喚くサリアの口を塞いで大人しくさせてバリウスに話を促す。
「マジで知らないのか。ってボスの歳じゃ知らないのが当然か? サリアは、サリアさんは元、壁の中の冒険者だ。二年ぐらい前にデミトリーの子飼いの貴族の坊ちゃんに迫られた時にそいつの真っ赤で派手な馬車を街のど真ん中にも関わらず火球の魔法でド派手に爆破して燃やしたんだ。それで借金背負わされてそいつに飼われてるとか、フロンティアに逃げてダンジョンに潜ったまま出て来なくなったとかいろいろ言われてたんだ。名前聞くまで忘れてたぜ。今までどこにいたんだ」
サリアさんや。やっぱりやることが派手だね。
「サリア。大変だったんだね。今度そいつに会ったら俺がぶっ飛ばしてやるよ」
「ん、もういいのよ。今はあんたがいるから」
あれ? もしかしてサリアってマジで俺に? バリウスが追加情報をくれた。
「でもな、あれからサリアを探し出せってポメラの名義で依頼が貼り出されたから」
「ポメラァッ?!」
俺とサリアの声が被った。俺たちのあまりの食いつきにバリウスがびっくりしている。
「そ、そうだ。サリアさんが爆破したのは、なにもかも赤くしちまう変人のポメラ・マルチーズの馬車だろ。なんで自分が爆破した相手の名前を知らないんだよ」
「あの時はデミトリーの私兵に囲まれてそのまま奴隷オークション行きだったからよ! 裁判も何もなかったわ!」
ん? キュロスの時は裁判はあったんだよな。キュロスのは突発的な事故、事件だったってことだとすると?
「サリアさん、それ、仕組まれてたんじゃない? サリアさんは有名だったんだよね?」
事情通のバリウスが教えてくれる。
「そうだ。フリーでソロの範囲攻撃魔法でなんでもぶっ飛ばすとんでもない暴れ馬な魔女っ娘がいるって噂になってたからな。そうか。汚い手で囲い込もうとしてたのか。で? 奴隷商人に回されたんだよな?」
「サリアさんは奴隷じゃないよ。ほら、この綺麗な顔と身体を見ればわかるでしょ」
「身体は見えてないでしょうが!」
「ああ、そうか、それを知ってるのは俺だけだった」
「うぐぐっ」
やられたら倍にしてやり返す! 先日の南地区襲撃の約定書に名前の出てきたポメラ・マルチーズ。まさかサリアもデミトリーの被害者だったとは。シェリルもキュロスもサリアもみんな結局はデミトリーの野郎が関わってるじゃないか!
「デミトリーを殺す理由がまたひとつ増えたな。奴が生きている限り誰も幸せになんかなれやしないじゃないか。ぜったいに成功させてなにもかも奪ってやる!」
それにしてもサリアは二年前の冒険者になり立てのころから一目置かれるような前途有望な魔法使いだったってことか。その優秀な魔法使いが二年間、あの秘密の花園で修行してたのか? あのとんでもない大業物を振り回していたキュロスは三年間の修行? なんか怖くなってきた。
「よし、じゃあベルガーとバリウスは向こうを頼んだ。炊き出し期待してるっておっさんに言っておいたからな! うまいメシぐらいは向こうで食わしてもらえるだろ!」
お付きのライアル氏にも聞こえるように大きい声で送り出す。 残ったのは『冒険者にもなれない奴』だ。こいつらは明日また来いと行って解散だ。明るくならないと事務所の片付けもできない。俺たちは二階の一室を借りて食事を摂ることにした。テーブルとイスだけあれば食い物も飲み物も俺の『出納』に入っている。パンとボア肉のサンドで充分だしね。用意してから皆を部屋に呼んでささやかな夕食会だ。




