第116話 頭の悪い良い方法
オーサーから派遣されて来た案内役の部隊が事務所のずいぶん手前で固まっている。まあね、敵対組織の奴らがあんなに大勢いたら怖くて近寄れないよなぁ。隊長っぽい人に声を掛けよう。
「すいません、遅くなりました。ロックです」
声を掛けるが相手が子供ということでうさんくさそうにこっちを見るだけで何も言ってこないオーサーの兵。そりゃそうだな。
「あっちを先に片付けてくるので少しお待ちください」
そう言って篝火に照らされるゴロツキ集団に向かって歩き出す。
「なんなのよあいつら。自分たちじゃできないからわたしたちが手を貸してやろうっていうのにずいぶんと失礼じゃない」
サリアが俺の代わりに怒ってくれている。そんなサリアを微笑ましくて見ていたら俺の視線に気付いたみたいで「あんたのためじゃないわよ!」とか今度は俺に向かって悪態をつき始めた。サリアがいると飽きないわ。あと、悪態をつけばつくほど可愛い。最初に会った時はずいぶんとしおらしかったんだけどな。商売モードで猫被ってたんだなあれ。キュロスは前回の南地区の事件以来ちょっとお姉さんっぽくなった。オルカはずいぶんと女性っぽさが出てきたかな? どうかな? そうでもないか。シェリルだけは変わらないな。
篝火が焚かれている元事務所前に到着だ。新たに捕らえられた、奴隷化がまだ済んでいない連中が座らされている。奴隷紋のある連中が周りを囲んだり歩哨に就いたりしている。先に奴隷化した者達より、捕らえられている奴の方がぜんぜん多い。人種バラバラ、怪我人ちらほら、男女混合。なんというまとまりの無さ。
そんな集団を抑えるかのようにスティングが背中に両手剣を背負って腕を組んで仁王立ちしている。そして、その近くに奴隷紋の無い連中が十人ほど武器を持って立っている。さて、こっちはこっちでまたひと悶着ありそうだ。
「スティング! どうなってる!」
仁王立ちの虎男に声を掛ける。
「おー、ボス。待ってたぜ。こいつらボスの強さに納得したら子分になってもいいって言うから連れてきたぜ。って、あれ? バリウスじゃねーか。ははは! おめーらもやられたのか?」
バリウスというのはさっきの四人組のリーダーのことだ。
「お前な、勝手にいなくなったと思ったらもう奴隷になってんじゃねーか。ああ、俺たちもさっき軽く一発やられた。どうにもならんからとっとと諦めてこっちに来た」
するとスティングの前にいる連中のひとりが俺たちを指さしながら喚き始めた。
「バリウス! お前、それマジで言ってんのか? こっちの戦力を見ろ。今すぐそいつらやっちまえばいいだけだろが!」
スティングの前に立つ連中のひとりから至極まっとうな意見が出たがバリウスが落ち着いて反論する。
「ちょっと落ち着け。お前らがやりたいなら勝手にすればいいがな、俺たちは参加しないからな。ボス! あー、名前聞いていいか」
そうか。まだ名乗ってなかったか。奴隷紋が付く前なのにもうボス呼ばわりか。即決即断が出来て好印象だよバリウスくん。
「俺の名前はロックだ」
そう言うと反抗的な連中が騒ぎ出した。
「はぁ!? なんで女のガキ相手にしなきゃなんねーんだ! ボスってそっちのデカい獣人じゃねーのかよ! って、お前バーズじゃねーか! なんでこんな化け物がここに来てんだよ!」
俺じゃなくてバーズにビビり始めた。バーズがおもしろがって声を掛ける。
「俺は今回はロックの助手だからな。お前達のことは俺の管轄外だ。お前達には何があっても手は出さん。納得できないなら勝手に好きにやってくれ。ただな、時間がないから早めに頼むぞ」
そう言うとバーズが俺から離れていく。サリアとキュロスがニヤニヤしながらバーズに付いて下がった。オルカはサリアに手を引かれて下げられた。そしてポツンと残される俺。
その間もバリウスと呼ばれた奴とその仲間たちはスティングの近くに行って奴隷商人のヤリスに自分たちの誓約書を作らせている。スティングも入れると五人組のパーティーか。こいつらは使えそうだな。反抗的な連中がバリウスがまったく戦う素振りすらないのを見て、俺に視線を移して怪訝な顔で見てくる。
「で? どうする? お前らが使えるかどうかもわからんし、時間も無いから殺してもいいんだけどなぁ。スティング! こいつらお前が連れて来たんだよな? 使えるのか?」
「まーなぁ。組織の中じゃ腕の立つ方だから生かしたまま連れて来た。ボスと戦って勝てばボスになれるぞって言ってな。説得するってこういうことだろ?」
めちゃくちゃ頭悪い方法だけど効果的だな。
「あはははは。うん、それでいいよ。お前ら、良かったな。使える人材って紹介されたから殺さないでやるよ。で? どうする? 一人ずつやると時間もったいないからやるなら全員いっぺんに来いよ。あーちょっと待て。ちなみに参加しないなら今すぐヤリスのところへ行って手続きしろ。痛い思いしなくて済むから」
俺が話し終えるとピーンと緊張の糸が張ったのがわかった。座って見てる連中も、すでに奴隷になった連中も、オーサーから派遣されている連中も、この一戦に自分の人生が掛かっていることがわかっているのだ。誰も自ら奴隷手続きに行く者はいなかった。さっきから反抗的な奴が攻撃開始の号令を掛けた。




