第115話 魔法使い使い
テラスから飛び降りてゲットーの事務所に向かって走り出す。背中に両刃の直刀を背負った、これまたカッコいい黒い軽装の鎧に身を包んだ忍者みたいなバーズを入れると、斥候三人、両手持ち長刀の戦士と魔法使いという『守備とは?』と言われそうな歪な編成の即席五人パーティーになった。俺はサリアが気になって後ろを付いて行くことにした。サリアは俺の考えに気が付いてニヤリと笑ったが、なんで若手の魔法使いがこんなに身体強化が上手いんだろう。サリアが奴隷になったのって十三歳ぐらいの時だろ? たしか、シェリルも日常生活で身体強化を使いこなしてたよな。俺の疑問に気付いたキュロスが答えてくれた。
「『一夜の夢』でね、普段から時間がある時にいろいろ訓練をしてるのよね。みんなの得意分野を教え合うのよ。魔法、身体強化、武器の扱い、読み書きとかね。全部女将の教えなんだけどさ。あそこにいる娘は得意、不得意はあるけどだいたいみんな出来ちゃうんだよねー。でもまぁ、サリアはその中でも得にアレなんだけどねっ」
なんだよそれ。それでみんな読み書きが出来るのか。才色兼備にも程があるよなぁ。あのキレイで姦しい美姫たちがいる秘密の花園は、山奥で武術を修行しているお坊さんだらけのお寺みたいなことになってるってことか?! 怖すぎるだろ! ワンチャン、トチ狂ったデミトリーが『一夜の夢』をターゲットにしてくれたら一族丸ごと瞬殺されて全て丸く収まるんじゃないかこれ? 今からでもウォーカーに「何かあったら『一夜の夢』に逃げ込め」って言ってやりたくなるな。
「サリアさん、魔法使いなのにすごいですね。サリアさんの実力が知りたいから目一杯で走ってもらってもいいですか」
「いいわよ。ついていらっしゃい」
サリアに先頭を走ってもらう。道は知っているみたいだ。そして、少なくとも前回会った南地区の伝令ぐらいの実力はありそうだとわかった。それって銀等級ってことじゃないか。すごいな。これで魔法使いなの? その可愛いゴスロリドレスの中に何が仕込まれているのか気になってきたよ。
陽が沈んだあとの円形広場は屋台はすっかり片付けられ、普段なら外周の飲み屋も明かりを灯せる高級店が数店は営業していたはずだが、今夜は静まり返っている。不穏な情報は住民のネットワークであっという間に広まる。『走査』に不自然な反応がある。行く先で散開して待ち伏せしてるみたいだ。咄嗟にサリアの前に出て全員に『散開、待ち伏せ』のハンドサインを出して広場を横切って商業ギルド前の馬車道に飛び出す。開けた場所に出て俺に注意を向けさせるのが目的だ。
すると、相当な速度で走る俺の未来到達位置に正確に強弓が降り注ぐ。その全ての矢の横っ面に石を当てて軌道を逸らせる。考えてやったことではない。『走査』で向かってくる反応に石を当てるというほぼ無意識の自動迎撃システムだ。矢は一秒あたり三本ずつ飛んで来る。よし、慣れた。この迎撃法の問題は、それが何か確かめる余裕無く、無差別に迎撃してるってことかな。まぁ、確認してる間なんて無いからいいんだけど。矢の出所を探って射手を特定、人間が昏倒する程度の石を背中にぶつけてしばらく無力化だ。平らな石をぶつけてショックで呼吸が出来ないようにする。背骨を傷めたら運が無かったとあきらめろ。殺す方が簡単なんだけどね。仕事の出来る奴は今後の戦力として欲しい。無力化の方法を研究しよっと。
次の遠距離攻撃はなかった。身体強化を使って高速移動している相手に対して攻撃出来る手段は限られる。待ち伏せでそれが出来る能力はかなり特殊だ。とりあえず待ち伏せしている反応の全てに対して射手を無効化したのと同じ程度の石を背中にぶつける。それを二十四人相手に同時に行った。あちこちでうめき声が聞こえる。
ザイツェフを倒した場所辺りで停止すると、すぐに三人の敵が接近してくる反応があった。とりあえず攻撃るすつもりはないようだ。十五メートル先で三人の敵が並ぶ。同時に俺の左右にオルカとキュロス、後方にバーズとサリアが現れる。
敵は俺の石を受けて尚、ここまでの動きができる奴らだ。装備が異様に良いってことだろう。今回は誰も殺していない。俺から声を掛けてやる。
「ゲットーファミリーの残党だよね。どうする? 続きやる? 装備がずいぶんと良いみたいだから次は加減してやれないけど」
一瞬、相手側で殺気が溢れそうになったけれど、敵のひとりがハンドサインで『待て』を出して気勢を削いだ。
「信じられん。まだ子供じゃないか。お前のそれはなんだ。一回だけ試させてもらっていいか? それで進退を決めたい」
「ずいぶん都合が良くないか? 俺の能力を計りたいって言ってるんだよな?」
「まぁ、そうだな。だけどお前、俺たちのこと余裕で殺せるって思ってるだろ? 俺はまだ死ぬ気も仲間を失うつもりも無い」
ボッ、ドドドッ!
三人それぞれの目の前五十センチの距離に高さ二メートルから重さ三キロの石を時速三百キロで落とした。一瞬、空気を切り裂く落下音がして馬車道にめり込む。あとで穴を戻しておかないとなぁ。
「お前らの頭の真上か前か後ろから落としてやろうか?」
リーダーから緊張が消えた瞬間、残りの二人の殺気も消えた。大した統率力だ。リーダー格の男が口を開く。
「わかった。俺の名はバリウスだ。降伏する。どうすればいい?」
「ものわかりがいいヤツは嫌いじゃない。俺の元で奴隷となって冒険者として働け。それが嫌なら今すぐ殺してやる。やる気があるならその辺で転がってる奴らを拘束しろ。ちなみにどれだけ離れてても、どれだけ高速移動しても、逃亡でも俺たちに向かって来た時点でも頭が吹っ飛ぶからそのつもりでいろ」
「わかった」
それだけ言うと後ろに向かって走り出した。『走査』で監視しているがちゃんと働いて待ち伏せ組を拘束しているっぽい。サリアが近付いて来る。
「アンタ、やっぱりそれ、酷い使い方するのね!」
一瞬で裸にされたことと並べて言ってるのかな? 言葉遣いとは裏腹に口角が上がり今にも高笑いしそうなほど、とっても嬉しそうだ。使い方はどっちも同じように気に入ったらしい。そういえばスキルのことはまだなにも話せていないな。毎日いろんなことが起こり過ぎてゆっくり話もできやしない。
「いいでしょ? 俺の『ストーンバレット』。『探索』と組み合わせられるのに気付いたんだよね」
一応ね、バーズがいるから適当なことを言っておこう。
「無詠唱でその早さでそれをやられたら俺もどうにもならんな。なるほど。お前が暗殺を請け負った理由がわかった。勝ち筋が見えんぞ」
いやいや、ご謙遜を。どうせ『正面から一対一で戦ったら』って枕詞が付いてるんでしょ? そうだ、サリアにお願いしてみよう。
「サリアさん、さっき落とした岩なんですけど、道に穴が開いてしまったんですけど魔法で戻せたりしないですかね? こう、土魔法みたいなものとかで」
「ええぇ。ちょっと待ってよ。防御で土壁を出すっていうのはあるけどねぇ。あんた、魔法使いに土木工事やらせるなんて聞いたことないわよ」
とか文句言いながらやってくれるサリア。人力でやるより効率良さそうだから魔法使いにどんどん工事させればいいのにね。サリアはやったことないって言って、ぜんぜんうまくいかなくてイライラしてる。土さえ盛り上げてくれればあとはこっちでなんとかできるから問題なし! そんなの魔法使いとして納得いかないとかなんとか言い始めてめんどくせーなー! って思ったけど、そこはうまいこと褒めまくって溜飲を下げさせる。最後は「ま、まぁわたしに掛かればこんなものは楽勝なのよ」とかドヤってたから相変わらずチョロくて可愛いなと思ったよ。
そんなことしてたらさっきの奴らが拘束を終えて戻って来た。そうしたら三人組がひとり増えて四人組になっていた。最初の弓使いの狩人も仲間だったらしい。ずいぶんと優秀なパーティーっぽいな。
「よし、じゃあ行こうか。元の組事務所前でお仲間達が待っている。そこで誓約だ。束縛した奴は向こうにいる奴らに回収させよう。行け」
四人が無言で身体強化で走り出す。そしてあっという間に元事務所に到着。篝火が焚かれて人が大勢いるのがわかる。さて、愚連隊のみんなの様子はどうかな?




