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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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第111話 秘密の花園

 商業ギルドを出て、俺にとっての最優先事項を済ませに行く。行先はすぐそこだ。身体強化は弱めで走る。


最高級娼館『一夜の夢アン・レーヴ・デュヌ・ニュイ


 先導はキュロスに任せている。到着前に俺とオルカの武器防具を『収納』して武装解除する。キュロスは敷地表玄関から堂々と入って行った。歩哨(セントリー)も黙礼でスルー。普通ここは馬車で入るからね。徒歩で入るのはありえない。


 建物は、もはや城ともいうべき豪華な外観だが、派手さというよりは荘厳さや静けさを連想する造りになっている。ガラスもふんだんに使われているのに中は無人にしか見えないし、外観からは部屋数も何階建てなのかもわからない。


 デカい扉にも門衛(ゲートキーパー)が左右に一人ずつ付いていて、俺たちが近付くと両側から大きく扉を開けてくれた。キュロスが「ありがとう」と言って入っていく。俺は軽く会釈して入ったけど、これは思いっきり前世影響の所作だった気がする。中には美しい女性のコンシェルジュがいてキュロスに敬語で話し掛けている。ここまで出会った敷地内の人すべてに奴隷紋があった。


 玄関ホールの中央には受付カウンターと奥にクロークがある。ホールの両側には大きな螺旋階段があって二階に通じている。きっとロビーは二階だ。


 コンシェルジュは階段は上がらず、カウンター横にある美しい装飾のあるドアを開けて俺たちを案内する。ドアを抜けた先の広い通路を歩いて行くとキュロスが振り向いた。


「ロック、せっかくきてくれたからいろいろ案内してサービスしたかったんだけどね。今夜は時間がなさそうだからまた今度ね。女将さんのところに案内するわ」


 いたずらっぽくウィンクしながらそう言うとまた先導して歩き始める。いよいよ噂の女将とご対面か。この城を一代で築き上げたという『女帝ジーナ』とはいったいどんな強烈な婆さんなのか楽しみなような怖いような気分だ。


 奥へ奥へと案内され、客が通ることのなさそうなフカフカの絨毯が敷かれた長い廊下を歩いて行く。汚れひとつ無い美しい壁紙と、職人が持てる技術を全て注ぎ込んだような機能的で美しい照明に照らされる長い廊下を歩く。途中、壁の代わりに大きなガラス壁の場所もあり、廊下の両側に美しい庭園が見えた。


 どうやら廊下は本館とは別の建物に続いているようだ。廊下の先にまた大きな扉がある。案内のコンシェルジュの女性が扉を開き、礼をして迎え入れてくれる。キュロスが長剣(ロングソード)を預ける。扉を抜けて中に入るとそこも明るいホールになっていた。


 ホールの真ん中ではシェリルとサリアが待っていた。昼に着ていたドレスのままだ。またこうして美しい姿を見ることが出来るとは思っていなかったので嬉しい誤算だ。


「シェリルさん、サリアさん、またその見目麗(みめうるわ)しい御姿を見ることが出来て嬉しいです!」


 すると頭の上から声が聞こえた。


「キャー!」「かわいい!」「あら、銀色の子も美しいじゃない!」「サリア、そのコ私にちょーだーい!」


 サリアがキッと上を(にら)んで大きい声を出す。


「あんたたち! わたしのゲストに向かってうるさいわよ!」


 上からは「やーん怒らないでー」とか「サリアちゃんもかわいい〜」とか声が降ってきて、サリアが(すご)んでもまったく効果がないということだけはわかった。


 見上げるとまたキャーキャー始まったが、そこには美しかったり可愛かったり色気があったり、とにかくここがスラムだとは思えない。全員に奴隷紋があるのに、前世でいうアイドルグループも目じゃないほどの正に美姫達が連なっていた。思わず声が出る。


「うわー。これはすごい」


 サリアが上を見ながら呆れたように話し掛けてくる。


「ここは外の人間が入って来ることはないからね。お客じゃない男が珍しいのよ」


 見上げてると手を振ったりウィンクしてきたりとても賑々(にぎにぎ)しい。色気を振り撒いているわけではなく、ただ遊んでいるのだ。なにせ娯楽の無い世界だから、若い女の子にとって俺たちは面白いおもちゃでしかない。


「サリア! そのコがロックくんなのよね!」

「お肉美味しかったわよー!」

「ねぇ、男の子ってホントなの?」


 その声が聞こえた瞬間、女性達がざわついた。全員が知っているわけでもないから当然か。


「はい、ボクはこう見えても正真正銘、女性が恋愛対象の男ですよ。まだ十歳なのでお姉さんたちには会いに来れないのが残念です」


 キャーの声がギャーッ!になった。サリアが流し目で俺を見ている。


「あ、あんたね、いい度胸してんじゃないの。ボクってなによ、ボクって。そ、そんなのわたしだって言われてないわよ」


 お、刺さったか。覚えておこう。すると上にいる女性たちがじわじわと動いている気配がした。それを見たキュロスが慌てる。


「あ、これダメ! 早く行こう!」


 そう言うと俺の手を引いてホール奥へ続く廊下を早歩きで進み出した。俺は慌ててもう片方の手でオルカの手を握る。その瞬間また「きゃー」と始まった。後ろを振り返るとシェリルの後ろ姿が見えた。すっ、と淑女の礼(カーテシー)をした。途端に喧噪(けんそう)が止み、人っ子ひとりいないような静けさとなった。それに気付いたキュロスが立ち止まり振り返る。シェリルが礼を終わってこちらに振り返るとにこやかに歩き出した。


「さ、行きましょう」


 そう言うとそのまま先導してくれた。さ、さすがだ。格の違いというものを見せつけられた気がした。(うつわ)っていうのは経験値と比例するものではないんだなぁ。って思った。でも、なんか、シェリルからすこーしだけピリピリしたものを感じるのは気のせいだろうか? 誰も一言も発せないまま進んで行く。もう案内の女性もいない。


 俺の前を白いドレスのシェリル、その左に黒いドレスのサリア。俺はシェリルの真後ろを白いドレスの大胆に開いた背中から覗くシミひとつない綺麗な背中を見ながら進む。左手はオルカ、右手はキュロスと繋いだままなことに気付く。ふとキュロスを見上げると、少し緊張しているのがわかった。サリアに視線を移すとそっちも同じだ。目の前のシェリルの表情は見えない。左のオルカを見るとにこぉっと笑った。癒される。おかげで緊張が移りかけていた俺の心がほぐれた。少し右手に力を入れるとキュロスがこっちを見て微笑んだ。あとは、


「サリア。ドレス、とっても綺麗だね。似合っているよ。シェリルもとっても素敵だね。ひょっとして俺に見せてくれるために脱がないで待っててくれた?」


「っ! あ、あんたねぇ! そ、そうよ。どお? うれしいでしょ?」


 サリアがいつもの調子で強がっている。


「うん。とてもうれしいよ。これからも綺麗なサリアをもっとたくさんボクに見せてね」


 サリアの顔から「ぼんっ」っていう効果音が聞こえた気がした。キュロスがくすくす笑いながら手に力を込めてきたので俺も握り返した。戦闘服姿のキュロスもかっこいけど、いつかキュロスのドレス姿も見せて欲しいね。ドレスから見えているシェリルの背中がすこーし赤くなってる気がする。


 それからどれだけ歩いただろう? いや、ほんの十数歩だった気もする。記憶がはっきりしない。だが、今、目の前には金の装飾をあしらった豪華な扉がある。マジか。堂々と金色使ってるぞ。ここまでは皇族も入ることは叶わないという自信の表れだろうこれ。扉の手前でこれかよ。この中に入る資格って存在するのかよ。


 シェリルがノッカーを「コンコン」と静かに二度叩く。


 音も無く扉が開いていった。




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