第110話 オール・オア・ナッシング
あとは帰って風呂入ってメシ食って寝るだけだと思ったのになぁ。全部放り投げて森にキャンプ行きてぇ。などと思いながら一番楽しい気分になれることを済ませに行こう! と、その前に。こっちが場所的に近いから先に寄るか。はぁ、忙しい。
商業ギルドの入口で停止。急に目の前に三人の美しい女性! が現れて驚く警備員。
「こんにちは。ロックといいます。オーサー様かサイラス様に緊急の案件です。お身内の方に危機が迫っています。至急お取り次ぎをお願いします」
ここでモタモタされるなら強行突破するつもりでいたが、どうやら俺とオルカのことを知っているらしく、内部の職員に緊急事態を告げている。ほどなく警備員の上長らしい人物が現れ「こちらへ」と案内される。俺が来たら何があってもすぐに案内するように先に指示が出ていたらしい。用意周到だこと。緊急だから走ってくれと言ったら、一気に三階の奥まで「道を開けろ」と怒鳴りながら走ってくれた。ひと際重厚なドアを受付も歩哨も無視してノックもそこそこにドバーンと開ける警備隊長。やっぱり商人ギルドは人材が優秀だなぁ。
中にはオーサーとサイラスと文官の他に数人の武装した騎士やら兵士もいる。何ごとかと色めき立つがオーサーが俺を見つけると皆を制しながら声を上げる。
「ロック! どうした!」
「ゲットーファミリーを潰して情報を得たんだ。今夜、日付が変わる頃におっさんの家が襲われるってさ。奴らを奴隷にしてから聞いたから間違いない」
全員がフリーズする。俺の言った話の内容を理解する時間が必要だ。わかる。ちょっと情報量多いよね。
「俺の家を襲撃するのか? もう少し詳しく話せ」
「ゲットーファミリーに殴り込んでボスとその息子たちを殺した。事務所にいたベルガーってのを筆頭にその場で生き残った組員は殺すか俺の奴隷にした。だからゲットーファミリーは解散で今は俺が仕切ってる。今も残りの組員を奴隷にするために探させてる。奴隷にしたベルガーからの情報でデミトリーの襲撃の契約があるってわかったんだ。壁の中の犯罪組織の連中と、今回は冒険者も引き込んで襲撃する計画があるとわかった」
「俺の家がターゲットで今夜なんだな。よし、わかった。まだ時間はある。ロック、助かった。礼を言う」
騎士と兵士の何人かがオーサーの視線ひとつで部屋を飛び出して行った。オブライエン家の騎士と商業ギルド付きの兵だろう。
「それでロック、お前はどうするんだ」
「ゲットーファミリーは冒険者クランにする。依頼として内容が妥当ならなんでも引き受ける。まだクラン設立の話はどこにもしてないけどね。元ゲットーファミリーの奴らには一応、戦闘準備は命じている。ただなぁ、見た目が奴隷紋以外そのままだし装備もちょっと心もとない。『夕暮れの泉亭』に俺が預けている装備があって、ゲットーの連中に回収に行くよう言ってあるんだ。誰か『夕暮れの泉亭』に使いをやってそのことを伝えてもらえるかな。俺、このあとちょっと行くところがあるんだ。それで、この前の南地区の襲撃の時みたいに乱戦になると敵味方の判断が出来なくて邪魔になるだけかもしれない。守るにしても攻めるにしても場所を決めてもらった方が混乱は少ないと思う。ただし、こっちの兵の損耗は気にしなくていい。どうせ皆殺しにするつもりだった連中だからね」
「お前、ゲットーファミリー全員って言ったよな。何人奴隷にしたんだ」
「今のことろ百人もいないな。事務所にそんなにいなかったから。今探しに行ってる。今夜の襲撃に備えて事務所に集合する手はずだから、その時にも増やせると思う。ただ、奴隷にできないなら殺せと命じてるから最終的にどうなるかはわからない」
「ロックよ、俺はお前をどう使うのが一番良いと思うんだ」
それはいい質問だなぁ。よく思いついた。思わずニヤついてしまったぞ。
「俺個人の話をしてるなら簡単だろ。デミトリーの暗殺依頼だ」
オーサー始め商業ギルドの全員が目を見開きながらも表情が一層険しくなる。
「できるのか?」
「わからん。そもそも居場所を知らんし土地勘も無い。目の前にいるなら、出来る」
「前線に出て来るわけはない。意味がないからな。居城にいるだろう」
だったらそれに乗っかってもいいけどな。
「じゃあ俺は居城を襲うっていうことでいいか? 俺の報酬は敷地内のモノを持って帰っていいなら引き受けるよ」
オルカもキュロスもまったくの無反応だ。助かる。
「ノーギャラでいいのか?」
おっと、逆に怪しいか。
「お? くれるものはもらうぞ! 組織を立て直すのに金がいるんだ!」
金は必要だが理由はぜんぜん違う。今度はオーサーが「余計なことを言った」という顔をした。
「まぁ、今言ったみたいにデミトリーの暗殺が成功した帰りに居城から持って帰る分と、他にくれるなら壁の中での商会とクランの設立と商店、商会、クラン本部、居住用の土地建物、俺の周りの人間の市民権と設立当初の税免除が希望だ」
金銭要求なし。オーサーもサイラスもそんなんでいいのかという顔だ。
「ウォーカーもいるし、そんなんでいいならこちらも助かるが、ただな、税金ナシはさすがに厳しい。商会なら安定するまでの設立から五年間を市民の半額の一割五分でどうだ。」
「今年は免除で来年から五年ではどうかな」
「取引成立!」
いつかみたいに笑顔で右手を差し出すオーサー。もちろん、俺も笑顔で右手を差し出して固い握手だ。手を握った瞬間、お互いが悪い笑顔を隠していたが、最終的にどちらが得をするのかはまだ誰にもわからない。
サイラスとキュロスがお互い不安そうな顔を見合わせていた。俺はオーサーに問いかける。
「暗殺はそれでいいとしてゲットーのやつらはどうする?」
「裏口はいざという時の脱出口として私兵で確保する。その前衛を頼む。金貨百枚だ」
「では、取引成立」
俺たちは再び握手をした。今度は悪くない笑顔だ。
「日暮れに揃ってそこから準備になるので、適当に時間を見繕って案内を寄越してくれ。俺は今から少し用がある。デミトリーの情報と案内が欲しい。どこに行けばいい?」
オーサーが少し考えて提案する。
「『夕暮れの泉亭』でいいだろう。ウォーカーに話を通して誰か案内を付けよう」
いいだろう。
報酬のある仕事は初かな?
屋台もいいけどうまくいけば一晩でかなりのものが手に入るぞ。ただし、この戦は負けると何も手に入らないし全てを失う。全か無か。
写真のない世界で対象者の顔も知らず、土地勘ゼロの異世界で暗殺か。十歳の子供の身でよく考えたら酷い話だな! 楽しすぎてニヤけが止められない!
「じゃあ、またあとでね。炊き出しを楽しみにしてるよ!」
「まったく、頼もしいな。では、後ほどな」
オーサーもとても楽しそうに顔の傷を歪ませていた。




