第11話 ルールと慣例
冒険者ギルドへは十二歳から登録できる。
とはいえ、スラムには戸籍や出生証明書など無いのですべては自己申告だ。認められるかは職員次第だ。
冒険者ギルドは都市内とスラム、それぞれに支部と出張所という関係で存在する。都市内には中央に本部があり、壁の内側に東西南北のそれぞれ支部がある。そこから更に最外周防壁の外側、スラムにあるのが出張所だ。スラムのギルドは、都市内ギルドの出張所として、郊外で討伐した動物や魔獣を都市内まで持ち込む手間と、解体による汚染を防ぐために納品を受け付ける。
都市から離れた郊外のギルド出張所として設立したのに、その後スラムが広がってその場所を飲み込んだのだ。
スラムの出張所は『スラムギルド』『出張所』『窓口』などと呼ばれる。頭に東とか西など方位を付ける時は、自分が所属している場所とは別のギルドを呼称する時だ。
都市内のギルドに所属している者は、都市内ギルドとスラムギルドの往復と、往路だけは森の野営地と呼ばれる安地まで無料でギルド運営の駅馬車を利用できる。森からの帰りの駅馬車は素材運搬が主用途となる。どの場合も奴隷には関係が無い話だ。
スラムギルドは、スラムが巨大化したことにより半ばなし崩し的にスラム住人を冒険者として登録、依頼を斡旋するようになったという経緯がある。スラム出張所で登録したスラム住人の冒険者は、都市内ギルドの依頼を受注することはできない。
冒険者ギルドに所属している者は普通にコツコツと地道に仕事をしながら生きていくことが出来ないような奴らばかりだ。魔獣、スキル、身体強化や魔法なんていうものが存在するから、こんな歪な社会が成り立つのだ。
スラムは、教養も、礼儀も、作法も、生まれた時から存在していないような野蛮な世界だ。
ライズたちは、魔石は大きさにもよるが、草原狼のものなら大銅貨は堅いんじゃないかと言って興奮している。
今回は魔石の他にも毛皮やツノ、牙、爪に肉など綺麗に全部そろっているから凄そうだと言っている。
まぁ、そこから税金がガッツリ引かれるんだけど、って言ったら、そうだったと落ち込んでいた。いや、お前らの金じゃないけどね、それ。
ライズのパーティーは、全員が十二歳以上なので西スラムの冒険者ギルドにすでに登録済みらしい。パーティー名はあるのかと聞いたら胸を張って『銀狼の牙』だと教えてくれた。
銀狼とは、遥か北方の、雪に閉ざされ人が近寄ることさえ許されない高山地域に生息する、それはそれは美しい銀色の毛並みを持つ魔狼のことらしい。真剣な眼差しで『灰色狼』とは違うんだと力説されたがよくわからん。
いつか銀狼を倒して冷気の加護が宿る牙を手に入れるんだと、そこには絶対にいないだろうグランデール北の山を遠い目で見ながら、良い笑顔で語ってくれた。俺は「そうか」と言うのが精いっぱいだった。
大人っぽく思えてたライズもそういえば十四歳って言ってたなと思い出しながら……
ライズたちを助けたのは大正解だった。道中で聞けた西スラムの話は、俺にとっては金品に勝るなによりの収穫だ。これだけの情報を自力で得るのは大変だったに違いない。
スラムが近付いてきたが、ライズたちはここまで街道を避けて物陰や地形の起伏に隠れるようにして移動を続けた。持ち運んでいるものが隠しようもないほど大きいのが問題だそうだ。どこで誰が見ているかわからないから可能な限り隠れて歩かなければならない。子供たちだけでこんな貴重なものを運んでいるのは略奪してくださいと言ってるようなものだからと。
俺としてはまぁどうでもいい話だなと思いながら聞いていた。というか、むしろテンプレよろしく絡んできて欲しいぐらいだ。そうすれば労せず金品が手に入るんだろう?
というようなことを遠回しに言ったらライズたちは困惑しながら「それはそうだけど……」みたいな返事だった。
ここぞとばかりに、ここでの犯罪の定義についても聞いてみた。殺されても証拠が無い限りはどうにもできないし、犯罪を取り締まるような者もいない。あるのは自衛と暴力集団という組織や仲間だと。まぁ、スラムなんてどこもそんなもんだな。普通だ。
では、ギルドや冒険者は?
これは『組織』になる。組織内での表立った争いはご法度だ。喧嘩ぐらいは日常茶飯事だし、殴り合いぐらいでどうこう言われることも無いが、武器を抜いたら話は変わる。危ない奴と認定されて総スカンを食らうし、やり過ぎて相手を再起不能、ましてや殺してしまうと資格や財産の没収ということになり、そこではもう冒険者としてやっていくのは不可能なまで追い詰められるらしい。これもまぁ争う相手や理由によったりするので、結局はギルドマスターや、場合によっては貴族の裁定になるそうだ。
オーケー。『先に手を出したらダメ』ね。
わかりやすくていいね。
と言ったらやっぱり引かれた。




