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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第1章 DAY1

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第10話 昔の名前で

 俺の実力にはもうお墨付(すみつ)きをもらえたのか、見張りは俺に任せて全員で解体作業をはじめた。


 リーダーはメンバーから組立て式のシャベルを受け取ると、内蔵処理用の穴掘りを始めた。穴掘りなら周囲の警戒をしながらでも出来るからリーダーの仕事か。ど素人ってわけでもないのか。リーダーの近くに立ちながら解体を見て勉強させてもらおう。


「俺はライズってんだ。西スラムのパーティーでこいつらのまとめ役みたいなことをやってる」


「あっ……俺は、ロック」


 名前なんかどうでもいい。誰になんて呼ばれようと気にしない。奴隷として付けられた灰まみれ(アッシュ)なんて名前に未練などあるはずもない。


 ライズはなにも気にする(ふう)もなく穴を掘りながら話しかけてくる。実は、草原狼(グラスウルフ)の解体なんかしたことないけど、やり方は普通の狼と基本的には同じはずだから安心して任せてくれと言われた。


 まず、胸を開いて心臓近くにある魔石を抜くらしい。担当者が上半身裸で内臓に突撃していた。


 いつ作業中断になってもいいように、価値のあるものから確保するのが基本だ。本当は討伐証明になる尻尾の切断が最優先なのだが、毛皮を()ぐなら尾は付いていた方が価値が高くなるから、いつでも切り落とせる準備だけして、あえて残しているらしい。


 特に今回は、毛皮には攻撃による傷がひとつも付いていなくて価値が高いと思うから、慎重に解体したいとのことだ。うん、良い判断だと思うぞ。


 魔石取りと並行して他のメンバーがツノを解体していたが今回はやめるらしい。外す場合は木槌(きづち)で大工道具のノミのようなものを根本に打ち込んで綺麗に外すのだが、尻尾と同じ理由でこのまま毛皮の方に付けておくそうだ。爪も同様に処理することになった。


 次はデカい牙のような犬歯だ。他の歯も抜くのかと思ったが、魔石も取れたので犬歯以外は後回しにして、先に毛皮を()ぐらしい。


 血で濡れた手や魔石と牙は水魔法を使ってきれいに洗う。解体の指示はさっき声を上げたノッポが出している。なるほど、ここまでこだわるなら毛でナイフを(ぬぐ)おうとした時に我慢出来ず声が出てしまうのも理解できる。そんな思いが顔に出ていたのだろうか、ライズが話しかけてきた。


「ちょいと世話になってる革職人から、持ち込みの素材が酷いと商売にならんって言われて手ほどきを受けたんだ」


 だから、わからないことがあれば何でも聞いてくれ、だそうだ。アピールかな? まあ、それぐらい(したた)かじゃないと生き残れないからな。こいつは良いリーダーになるのかもしれないな。


 草原狼(グラスウルフ)はあっという間に素材になった。


 再襲撃はなさそうだということで他の歯も全部抜いた。爪は毛皮の方に付けておくからここでは処理しない。手が()いたメンバー総がかりだったからこれもあっという間だった。残った内蔵と骨を埋めたら終了だ。


 狼の肉は筋張(すじば)っていて固く、美味くもないが、魔物のグラスウルフなら焼いただけでも充分食えるし、干し肉や煮込みにするなどすれば美味(びみ)らしい。魔獣肉なんてスラムではめったに食えないし、そもそも買えない高級品で高く売れるから、持てるだけ持って帰るべき、だそうだ。


 当然、俺一人じゃ持ち運べるわけも無いので荷運びも任せることになった。俺は貴重品の魔石と牙だけを入れた麻袋を斜め掛けにしているだけだ。もしもの再襲撃に備えての軽装備だ。


 ライズパーティーは全部で五人。

 今日生きて帰れるのはお前のお陰だと全員から口々に礼を言われた。


 スラムでは、ある程度の年齢になると親の手伝いではなく自分の力だけで食い扶持(ぶち)を得ることが必須だ。ライズは母親と妹の三人で暮らしていて、親はスラムで商売をしているらしいが、子供が外に食い扶持を求めるということはうまくいってないのかもしれない。まぁ、俺も他人の境遇に構っている余裕はないので興味は無い。


 それからはライズにいろいろ聞きながら周りの景色、とりわけ遠くに見える山や森の位置を脳裏に刻んで現在地を割り出す作業に取り組みながら歩いた。


 俺のことは、つい最近グランデールの南に流れ着いたばかりで、西側に来たのも今日が初めてだという程度の話だけしておいた。どこで生まれたとか、どこに住んでいるとか、どうやって稼いでるなんていう情報はべらべらと他人に話すことではない。名前ぐらい知ってればいい。その名前でさえ本名である必要もない。生きていくのに必要なことはそんなことじゃないから。


 道中では命の恩人に対するお礼なのか、ライズが南スラムの情報をいろいろ教えてくれた。まず、こんなに都市に近い場所に草原狼(グラスウルフ)が群れで現れることはめったにあることではないということ。ライズ曰く、群れからはぐれたのか、若い個体の新しい集団なのかわからないとのことだが、この十四歳だという少年の聡明さに俺の好感度は急上昇中だ。


 ライズは、どう見ても年下の、子供でしかない俺に対して異常なほど気を使って接してくる。


 「あんた、やけに親切だな」


 と言ったら、いや、お前の方こそちょっと変だぞ、と。子供が草原狼(グラスウルフ)を単独どころか一撃で討伐なんて聞いたことがないしありえない。だいたいお前は俺たち全員の命の恩人だ。恩を受けた相手には誠意を示せっていうのが商売人の親父の口癖だったと。


「まぁそれは、おいしい相手は逃がすな! っていうことなんだけどな」


 と言ってライズは笑った。

 お前はリーダー向きなのか商売人向きなのかわからんと返事をしたら他の奴らも大笑いして、しばらくライズには何が向いてるかの話で盛り上がった。

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