第103話 閉店
屋台に戻る時に最初に手足だけ飛ばしてまだ生きてる奴は首を刈ってトドメを刺しておいた。オルカと並んで歩きながら短剣の手入れをした。刃こぼれひとつない。素晴らしい剣だね! 鞘に戻しながらアーノルドを探した。
「アーノルド、あそに転がってる奴らの装備の後処理を頼んでもいいかな。回収品は『夕暮れの泉亭』に持って帰りたいんだ。他のモノと一緒に修理と査定に出したいから」
「わかった。全部で何人いたんだい」
「えーとね、二十一人だね。五人ばかり周りにいた」
弓と魔法使いの場所を教えるとバルとウィルを連れて行った。商業ギルドでリヤカーを借りるらしい。なるほど。任せて大丈夫そうだ。
円形広場は静かだった。肉を焼いてる男二人がぼーっとしてる。
「二人とも肉が焦げるよ?」
カレンさんは全開で肉を焼いていた。ライズかルシアが何か言ってあったのかな? 俺の方は見ないで仕事に集中してたっぽい。
さすがに食欲がなくなったのか列が少なくなっている。まあ金銭的損失は死んじまったチンピラ連中からの補填で賄えるだろう。
屋台を手伝わせていた足の悪い男が肉を回し焼きながら俺に震える声で話し掛ける。
「あ、あんた、マジでなにもんだい。本当に、はったりじゃないんだな。いったい、どこまでやる気なんだ」
まぁ、成り行きだしなぁ。先のことはあんまり考えてないんだけどね。
「そうだなぁ。そりゃあ行けるところまでだろ」
男は青い顔をして首を横に振るだけだった。肉の仕込みをしているルシアのところまで行く。
「ルシア、ちょっと大量に仕込みたいからこのまま一緒に付き合って」
ルシアが不思議そうな顔をしている。
「でも、もう並んでいる客も減ったのにいいのか?」
「うん。ほら、さっきサリアが三十本持って来いって言ってたでしょ」
「え! あれって冗談じゃないのか!?」
そう思うよな? 甘い!
「それは半分そうだと思うけどね。別に三十本持って行っても呆れられるかもしれないけど金は払うだろ? だったら売り付けちゃえばいいんだよ。それにきっとこれを食べた人の中にはまた食べたいって言う人も出て来るだろうし。宣伝にもなってこんなおいしい話はないよね。だからこれはサリアからの贈り物だよ」
「そ、そうなんだな。商売は怖いな」
ルシアはビビっていたが近くで聞いていたアーノルドの目がキラキラしていた。
俺はライズを呼び寄せて肉を包むための葉っぱを取りに行かせた。そこらへんに生えている葉だが、大きくて、これで包むと食べ物が腐り辛いという。抗菌作用がある葉が簡単に手に入るのはいいね。きっとこいつがここに生えているのには理由があるんだろう。これが無くなったらスラムの衛生環境に悪影響がありそうだなと思う。
カレンさんに言って、お土産用に葉っぱを常備することも相談だ。水洗いだけより熱湯にさっと一回通したいんだよね。
ふたりで仕込みまくって三台の屋台で焼きまくりだ。できるだけ温かいものを持って行かせたいからね。ウィルとキリエが職人の息子らしく刈ってきた葉を使って配達用の手提げカバンを編んだ。そこに焼き上がった串肉を詰めて配達だ。ライズ、バル、ウィルの三人に行かせる。がんばれ! 飲まれるなよ! みんなで手を振って見送る! その際、ライズにデカイ声で宣言させるのも忘れない。
「それでは! 『一夜の夢』に串肉のお届けに行ってきます!」
「お得意様への配達いってらっしゃい!」
商人たちは聞き耳を立てているぞ。大量の串肉を持って出前に行くライズたちを見て噂話をしている。商業ギルドへの出前のために横を通り過ぎるキリエに声を掛けているやつもいるな。きっと『一夜の夢』への出前のことを確認されているんだろう。キリエは最年少だが、ウィルと同じで緊張とか物怖じしないんだよな。行商人相手に平然と受け答えしている。
「ルシア、仕込みはもうそこまででいいよ。今ある分で今日は店じまいにしよう」
アーノルドに足りそうか確認してもらう。今並んでいる人数分には充分足りそうだった。今から並ぼうとする人には売り切れだと伝えるように頼む。明日は何時からだと聞かれているみたいだ。営業時間はカレンさんに任せた。
さて、そろそろ今日は店じまいだ。これから俺はやることがあるしね。
出前から帰って来たウィルに屋台にあるザルカゴを集めてもらう。ライズから出前の報告を聞いた。出前が来るという話が通っていたらしく、結構な歓迎を受けたらしい。裏口から中に通されていろいろなものを見て来たっぽい。こいつらにはまだちょっと早かったか? たぶん明日以降も出前がありそうな気がするんだよな。なにかが歪められて成長してしまわないか少し心配だ。いや、嘘だ。ちょっと楽しそうだ。明日行けたら俺が行こうっと。
屋台二号、三号の営業が終了した。掃除して屋台を返却した二人が戻って来た。
「ご苦労様。じゃあこれが今日の日当ね」
そう言って銅貨三枚を渡すと足の悪い男の顔が曇った。
「どうした? なにか不満か?」
「いや、逆だよ。半日も働いてないぞ俺」
一番の串肉屋も同じようなことを言う。
「なんだよ。じゃあ金返すか?」
いや、それはしないけどとか言うから『銀狼の牙』のみんなが笑った。男たちもそれが俺の冗談だとわかって笑った。
カレンさんとルシアが人数分の串肉を持って来た。円卓を囲んでみんなにエールと一緒に配った。
「昨日はテストみたいなものだったから今日が実質的に営業初日だね。ちょっとだけバタついたけど何事も無く乗り切れたのは皆のお陰です」
いっせいにブーイングが起きる。
「うちの店ではこれが通常営業なんです! 今日はお疲れさまでした。みんなありがとう。明日もよろしくね。乾杯!」
俺たちは串肉の味を知っているが、酒屋のメアリーと屋台の男二人は知らない。みんな見ないフリで彼らが串肉を食べる瞬間を観察していた。果たして彼らが食べた瞬間に驚愕する表情を見て爆笑だ。
「ちょっと待て待て! なんだこれ! 美味すぎるだろ!」
足の悪い男がデカイ声を出した。男の名はガーニーと言って妻子持ちらしい。串肉は家族のために残して持って帰るとか言い出したから俺のやつを渡してやったら大層喜んだ。一番の串肉屋はビート。パっと見、いい男で三十にもなるというのに独身だそうだ。無口で大人しい。職人気質って感じだ。串肉をひとくち食べては悩み、食べては考え込んでいる。飲み食いが終わりみんなでジョッキを洗ったり屋台の返却など後片付けをしているとビートが俺のところに来て真剣な顔で話しがあると言い始めた。




