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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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第102話 男は外身

 オルカが黙って俺の横に立つ。


「オルカ、ありがとう。忙しくて気が付かなったから助かるよ」


 手が生肉を触っているからオルカの頭を撫でられない。残念。ルシアのところに行って石鹸を借りて洗う。


「ルシア、あそこで肉の仕込みをしていたんだけど代わってもらえるかな」


「うん。任せて。気を付けて」


 オルカがいることで状況を察したようだ。昨日からの怒涛の流れでルシアにも少しは度胸が付いたかな? 身綺麗になったことで自信も付いたかもしれない。


「ライズ! ちょっと行ってくる」


 俺が声を上げたことで昨日から広場にいた者たちはピンと来た様子だ。広範囲で『走査(スイープ)』を掛ける。精度が落ちても構わず範囲をどんどん広げる。円形広場を超えてギルドの裏側まで調べる。意外と囲まれてはいなかった。こいつら、マジで弱体化してるのか。それとも昨日来たヒョロ長の周りの人員だけで対処しようとしているのかもしれない。たぶんそれら全部と、ひょろ長から聞いた話だけではこちらの戦力を正確に測れなかったんだろう。舐めてくれる分には大歓迎。


 俺はもうゲットーファミリーの奴らには容赦しないことにしてるんだよね。こいつらにも家族がいて、それはここのスラムに住んでいる一般人かもしれないけれど、そんなのはもう言い訳にならない。借金、性奴隷、戦闘奴隷、クスリ、お前らはクズで野蛮だから文明社会の中で生きていく価値は無いんだよ。


 オルカと手を繋いで散歩のように足取り軽く歩いて行く。実際、オルカは楽しそうだ。屋台の間を抜けて商業ギルドの前に出て馬車道を左に行く。屋台で働く皆、並んでいる人々、遠巻きに見ていた行商人と冒険者。その全員が俺とオルカを見ていた。そして皆が気が付いた。俺たちの行く先にこちらに向かって来る集団がいることに。手に手に武器を持っている。小刀(しょうとう)ではない。長物(ながもの)だ。長物武器は戦争の道具だ。脅す目的ではない。殺傷兵器だ。言い訳の出来ない武器なのだ。それを持った集団が来る。


「オルカ、今日は手加減無用だ。始めたら遊びは無しで速攻で刈り取る」


 前を向くと昨日のひょろ長がいた。名前を忘れたデカブツは見当たらない。距離十メートルほどで対峙する。やっぱりどいつもこいつもニヤニヤと下品な笑い顔だ。女の子ふたりだと思って殺す気なんてサラサラない。お楽しみなことだけを想像している顔だ。俺が男だと教えたところでこのニヤケ顔はなくならないんだろうな。このムカつくニヤケ顔を失くす方法はひとつだけだろう。それを今からやる。


「なんだヒョロ長。せっかく生きて帰れたのに。お前、寿命がたった一日伸びただけでもう満足したのか。まだ若いだろうにずいぶんと諦めがいいんだな。そんなんじゃ早死にしてしまうぞ? たとえば今日とか」


 ひょろ長は昨日と同じく青い顔色のままだ。精いっぱい報告したのに本気にされなくてこの程度の戦力しか集められなかったことを後悔していそうな顔だ。そして、いつものように口先だけ偉そうな頭の悪そうな奴がひとり。顔に醜く走る刀傷がある。その傷の様子だと相当深くまで斬られたんだな。よく死ななかったな。死んでればよかったのに。


「ほぉ。お前が言ってたのがこれか。なかなかイイじゃねぇか。だがまだまだガキじゃねぇかよ。こんなんじゃすぐに壊れちまって楽しむ()もねーなぁ」


 ヒョロ長の横にいる顔に醜い傷のある大男が何か言ってる。これが例のアレか。


「なーなー、美しい猫娘(ねこむすめ)に夜這い掛けたら引っ掛かれて醜い顔面に一生消えない醜い大傷付けられましたみたいなおじさんさー。ひょっとしてお前の名前ってザイツェフっていうのか?」


「ああっ! なんだとメスガキ! 俺はまだ二十五だ!」


「ああ、やっぱりそうだよなぁ。すっごい良い女を口説こうとしたらあっさり振られちゃったから腹いせに力ずくで襲ったのに返り討ちにあって顔面に一生消えないカッコ悪い傷を付けられた男って珍しいからすーぐにわかっちゃった。それでさ、お前の家族に弟はいるか? ユルゲンとかいう馬鹿っぽい名前の馬鹿なんだけど。お前、最近会ったことあるか? 俺はあるんだけどさ」


 全員の動きが止まった。ユルゲンのことは今、組織を上げて探している最中だ。この近所で足取りが消えてそれっきりだ。


「てめぇ、なにもんだぁ」


 俺は左手でオルカを抱いたまま立っていた。抱いたオルカが「くすくす」と笑っていた。オルカは俺にしがみついていた。右手を背中に回して左手を俺の胸に当てていた。横目、流し目で寿命の尽きた汚いゴミたちを見ていた。早く血を見せろと言わんばかりに舌なめずりをしていた。ユルゲンが死んだ時のことを思い出しているのかもしれない。合わせられた甲殻鎧(シェルアーマー)を通じて早鐘を打つ鼓動が伝わってくる。興奮しているのだ。俺が奴らを殺すところを想像して。自分が殺す時には感じないものを感じている。オルカの足が俺の足に絡みつく。甲殻鎧(シェルアーマー)が擦れる音が切ない。


「おまえらの命日を知ってる者だよ。見てわからんか」


 まだ陽は高い。年端も行かない子供が二人。誰も何も言えなかった。さて、もういいかな? と思った時に声が上がった。


「おお、おお。ガキがよく()くなぁ。見てらんねぇぜ」


 取り巻き連中がニヤニヤとしながら見守る中、ザイツェフが右手を上げて俺に向けてサッと降ろした。


 しばらく何も起こらず、取り巻き連中のニヤニヤ笑いが引き、気まずい沈黙が流れた。


 ザイツェフは口に笑みを張り付かせたままもう一度右手を高々と上げ、勢い良く俺に向かって振り下ろす!


「あー、あのさ、お前、さっきからなにやってんの?」


「っく。うっふふふふ」


 オルカがガマンできずに俺の甲殻鎧(シェルアーマー)に顔を付けて笑っていた。オルカの腰を引き寄せながら艶煌銀青クリア・シルバーブルーの髪に顔を埋めてゆっくりと息を吸う。猫吸いならぬ狼吸いだ。あー、太陽と石鹸のいい匂いだ。ダメだ。ガマンできない。こいつ、マヌケすぎるだろ。


「あはははははは」


 ザイツェフの顔からは表情が消えている。きっとキョロキョロしたいのを我慢している。しょうがないから俺が教えてやる。


「あそことあそこに弓でー、あっちとそこに魔法使い。で、もうひとりあそこにも弓ね。いやーザイツェフおじさん、かっこよかったわー。あ、そうだ。お前の弟のユルゲンな、うーん、顔が思い出せないんだよねー、俺がすぐに殺しちゃったから」


「やぁれっっっ!」


 ザイツェフがやっと号令を掛けた。殺害なのか痛めつけるだけなのか目的はわからないけれど、ターゲットが俺とオルカだということに間違いはないわけで、俺たちが手加減する理由も無い。


 組織のトップ直下の人間だ。周りを固めている者たちも普通ではないだろう。


 オルカは一旦、相手の実力を測るためにバックステップで距離を取った。下がりながら投擲(スローイング)ナイフを投げまくっていた。次々と刺さる投擲(スローイング)ナイフの中、俺は遠慮のないスピードで右翼側に突っ込んだ。右手には『鉄槌(てっつい)金床(かなどこ)』のガイア謹製の短剣(ショートソード)が握られている。調整直後の試し斬りだ。とりあえず最前列の四人ばかりの剥き出しの手足を乱暴に斬り飛ばした。


 一旦右翼に抜け出すとそこからチンピラどもを横断するように再度突っ込んでいく。手足はもう飽きたので次は首だけを狙った。さすがに次期首領の取り巻き。腕は確かなようだ。ほとんどの連中が俺のことを視認している。ただ、それだけなのが残念だったな。


 一方的に実力差があると、身体強化という『魔力』の共鳴が起きて、相手のことが見えているし時間もじゅうぶんあるように感じるという、強い相手側の感覚を自分のものとして受け取ってしまうことがある。実際の弱い側の自分は必死に動こうとするが身体が付いて来ない。迫りくる脅威に対して気ばかり焦って何もできない。夢の中で走っているのにまったく進まないあの感覚を、覚醒した状態で味わうことになる。恐怖の時間の始まりだ。


 今、ゲットーファミリーの連中はその感覚の渦中にある。その短剣(ショートソード)は実によく斬れそうだ。ほら、目の前の仲間の首から柔らかい高級肉を切り裂くように何の抵抗もなく刃が抜けてくるのが見える。血が吹き出ないのが不思議だと思う余裕まである。いち、に、さん、よにん斬られた。あれ? いつのまにそんなに? 次は自分の番だ。


 その時、列の反対側でも爆発があった。人間の手足が飛び散っている。革鎧のない部分で斬り飛ばされている。なにか銀色に光っているように見えるがそれは刃だけではない。反応できずに棒立ちのザイツェフの真後ろで俺とオルカはすれ違った。お互いに視線を交わす余裕もあった。オルカは笑顔だった。俺はそのまま手足の無くなった連中の首を斬っていった。オルカは首が取れかかった連中の手足を飛ばして走り抜けた。


 ◇


 ザイツェフは最初から身体強化を全開にしていた。今さら喧嘩中に油断はしない。だがよく見えなかった。見えなかったのでとりあえずスキルを入れた。ザイツェフのスキルは『金剛(こんごう)』だ。身体が金属のようになって刃を通さないというスキルだ。刃物無効。このスキルのおかげで生まれて一度も斬られたことはなかった。あの女豹(めひょう)に斬られるまでは。あの女は狭いテントの中で長剣(ロングソード)だけしか身に着けていなかった。酒に混ぜたクスリもキマっていたはずだった。なのに負けたのだ。生まれて初めての屈辱だ。奴隷に墜として凌辱の限りを尽くしながら死ぬことも許さず一生買い殺してやるつもりだった。


 『高級娼館 一夜の夢アン・レーヴ・デュヌ・ニュイ』に()(さら)われた。そのせいで未だ指一本触れることさえ許されていない。『一夜の夢』の娼婦は金を出しても抱けない。彼女たちに許された者だけの社交場だ。


 その事情を知っているだと? この黒髪の娘がか!? なぜだ! 手足を撃ち抜くはずだった弓、奥の手だった魔法使いもやられた! 誰にだ?!


 『金剛』は完全に入っている。周りでなにが起きようと俺には時間がある。そう思って周りの出来事に集中しようとしていた。部下たちに何か起きているようだが悲鳴ひとつ、うめき声ひとつ聞こえない。いや、怒号さえない。静かだった。目の前の少女が消えてから三秒はまだ経っていないはずだ。


 唐突に目の前、同じ位置に二人の少女が戻った。二人の手には先ほどまで持っていなかった短剣(ショートソード)が握られている。二人は無傷だ。まさか。左右を見る。部下たちと目が合う。どいつもこいつも恐怖に歪んだ目をしていた。お前ら、何を見たんだ。


 直後、血を吹き出しバラバラになりながら倒れていく部下を見ても何も言うことはできなかった。そうか。やられたのか。だが、今から俺がこの女たちをあの世にイカせてやるぜ。


 ◇


 ザイツェフは両方の腰に差してあった片手剣(ソード)を抜いた。二刀流だ。盾は持たず両手持ちの剣だ。これは戦闘奴隷時代に見たことがある。俺が戦闘奴隷になってまだ一年やそこらだった。そいつは両手にそれぞれ片手用の戦闘斧(バトルアックス)を持っていた。魔獣の大量発生に伴う合同討伐依頼の時だった。南スラムに本拠を置いているクランのボスだった。化け物みたいに強かった。ドーガが忌々(いまいま)()に口にしていたのを覚えている。


「『金剛』か?」


 ザイツェフはニヤリと笑いながら歩みを止めない。


「ほう。『金剛』を知っているのか。くっくっく。恐怖に震えろ」


「あーそうね」


 俺は右の手を耳の横まで上げてからサっとザイツェフに向かって降ろしてやった。


 ザイツェフの目の前に高さ五メートルの巨岩が現れ、ホームストレートを全開で走り抜けるエフワンの速度で激突した。たった五メートル飛翔した後、出現したのと同じように唐突に巨岩が消滅した。ザイツェフは飛んだ。だが、すぐに足が何かに引っ掛かってそこからは二十メートルほど時折バウンドしながら転がり続けた。転がっている間、手足が人体の構造ではありえない角度でプラプラとしていた。


 だいぶ遠くまで行ったな。あそこまで行くのめんどくせーなと思いながらオルカと手を繋いで近付いていく。途中でザイツェフが足を引っ掛けた血みどろの死体だらけの場所があるので、そこはオルカと「せーの」で飛び越えた。


 ザイツェフのところまで行くとすごいことにまだ生きていた。片方の目玉は外に出ちゃってるけど。あれ、視神経がまだ繋がってるから見えてるのかなぁ。聞いてみようかな。


「へー。『金剛』っておもしろいな。まだ生きてるんだ。でもさー、これだったら即死だった方が楽で良かったんじゃない? あはははは」


 ザイツェフがこっちを見ているけどもうなにも言えないみたいだ。


「おい、おっさん。今のはな俺の女のキュロスからのプレゼントだ。あー、一応言っておくけど俺は男だ。女と思ってたろ? 残念、俺は男だ。この美しい銀色の少女を見ろ。これも俺の女だ。わかったか? おい、よく見ろって。俺を見ろ。もう一度言うからよく聞け! お前が何年も片思いで追い掛けてるキュロスはな! 俺のものだ! お前じゃ彼女みたいな良い女は満足させられないんだよ。わかったか! 体が固いだけで中身ふにゃふにゃおじさん! そんなふにゃふにゃでキュロスに迫ってたんだって? はははは! そりゃあフラれるわけだ。彼女は美しいだろ? ああいう美しい娘はな、美しい男にしか(なび)かないんだよ。あの世でも忘れるなよブサイク」


 ドガン!


 数百キロの石で顔を潰して終わった。


「オルカ、俺の女だなんてひどい言い方をしてごめんね。あいつにどうしても絶望を植え付けたくて咄嗟(とっさ)に言ってしまった。ごめんね」


 オルカは頬を染めながら笑顔で許してくれた。



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