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輪廻がイヤなら異世界転生。底辺職の先行斥候だけど『出納』スキルで好き勝手に生きてやる!  作者: 秋乃せつな
第6章 DAY6~7

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第100話 マリアージュ

 円形広場の外周の馬車道は時計回りの一方通行になっている。対面通行は箱馬車や荷馬車を引く輓獣(ばんじゅう)同士のトラブルの元だし、バックの出来ない馬車はいろいろと不便なのだ。商業ギルドは円形広場の三時の位置の外側に、冒険者ギルドはその対面の九時の位置にある。


 スラムの冒険者相手に商売をしている屋台は冒険者ギルド側に集中している。俺が屋台を出している商業ギルド前は円卓は多いが、行商人が情報交換や商人同士でギルドを通さない商談をするのに使われることが多い。


 オーサーとサイラスが食べている向こうに荷馬車が近付いて来るのが見えるのだが、アーノルドがそれに反応した。


「ロック! 来たよ! 『金獅子(きんじし)醸造所(じょうぞうしょ)』!」


 なんというグッドタイミング。これは俺が持っているのか、『金獅子の醸造所』の担当者が持っているのか。アーノルドが馬車を先導して、屋台を通り過ぎたところ、先ほどキプロスが停めた場所に荷馬車を停める。御者席から降りた若者がこっちに歩いて来て屋台前にいる串肉を持った二人のおじさんに気が付いて「えっ!?」っと言ったきりフリーズした。しょうがないからこっちから近くに行って声を掛ける。


「こんにちは。よくいらっしゃいました。私がロックです」


「えっ!?」


 また同じ言葉を発してフリーズが続いた。相変わらず先に進まねーな。アーノルドが若者をどんどんと(つつ)いている。それで我に返って自己紹介を始める。きっと事前にアーノルドが俺のことをレクチャーしていて、それを思い出したのだろう。


「あ、ああ、えっと、『黄金の獅子醸造所』のネスターと言います。あ、アーノルドの紹介で、え、エールをお持ちしました」


「わざわざお起こしいただきありがとうございます。まずは、ウチの自慢の串肉を食べてみてください」


 俺は有無を言わさずネスターの手を引っ張って屋台の前まで連れて行く。たぶん円形広場中の視線を集めている。商業ギルドからは衛兵が出動しようとしていたが、そちらを見もせずオーサーとサイラスが片手を上げて接近を止めていた。二人の目線は俺とネスターに注がれている。ネスターは急な展開に目を白黒させている。


「カレンさん、一本お願いします」


 俺はそう言うと小銅貨三枚をカゴに入れる。チャリンという音が涼し気でいいね! オーナーだからと言って商品に手を出すのは三流のやり方だ! という俺のポリシーだ。なにより店で働いている従業員に失礼だろう。


 「はいどうぞ」と美しい女性(未亡人)がネスターに串を差し出す。ネスターは真っ赤になりながら震える手で串肉を受け取る。


「ネスターさん! どうぞ大きくかぶりついてみてください!」


 わざとデカイ声でネスターに声を掛ける。こうしないとたぶん今のネスターには伝わらないと思う。そして案の定、上の空でガブリと肉に食いつくネスター。


「んんっ!? うまっ!」


 まだ口に肉が入ってるのに思わずうなるネスター。よし、勝ったな。


「いかがですか? 私の店自慢の串肉のお味は。それを手作りで調理しているのはこちらのカレンさんです。どうです? このお店に『黄金の獅子醸造所』のエールを置いてみたくはなりませんか?」


「おねがいしまっす!」


 早いしチョロいな。肉か? 未亡人か? 両方か。


「そうですね。なかなか高級な串肉でしてね、ぜひエールと共に売り出したいと思うのですが、あまりエールの仕入れにお金を掛けると店をやっていくのも大変でして」


「そこをなんとか! 勉強させていただきまっす!」


 立場は完全にひっくり返っている。


「そこまでおっしゃっていただけるのであれば、前向きに考えさせていただきたいと思います。そうだ、一度試飲をよろしいですか? ちょうどここに味の違いのわかるお客様がいらっしゃいますし」


 タダ酒にありつけそうだと察したオーサーが猛獣の(わら)い顔になっていた。カレンさんがオーサーとサイラスさんに声を掛けてエールが入るまで串を温め直すとか言ってる。すげぇな。もうそういう店を開いてママやってもらおうかなぁ。たぶん、屋台の百倍ぐらい売り上げるぞこの人。


 ネスターが荷馬車に戻って二つのジョッキを慎重に運んで来た。揺らしてもダメなのだ。さすがだなネスター! それを街の重鎮二名に(うやうや)しく献上する。オーサー達が金を払おうとしたのでそれは我が店からの試供品ですと断る。その代わり、酒の味のわからない私に変わって忌憚(きたん)のないご意見をとする。街の有力者の彼らはタダのものをもらうわけにはいかないし、宣伝に関わるのもマズい。というのは現代社会の考えでこの世界にはまったく当てはまらない。横領や賄賂が当たり前の世界なのだ。それを考えれば今のやりとりは随分と紳士的だ。


 温め直された串肉を受け取り準備は万端だ。二人が串肉を頬張り、その脂をエールで流し込む。


「ぐふ、ぐっふ、ふふ、ふわっはっはっはっは! 優勝」


 オーサーが大変お喜びだ。


「うーむ。これは(たま)らないですね。これからは朝は少し減らしてからこちらに参りましょう。昼の楽しみが出来てこんな幸せなことはありませんね」


 それを聞いてオーサーが(わめ)き始める。


「あー! お前だけそれズルいぞ! 俺と勤務先代われ!」


 このおっさんめちゃくちゃなこと言ってるな。無視しよう。


「ネスターさん、どうやらそちらのエールはウチの商品との相性が良さそうです。それではあちらで具体的な商談といきましょう」


 そう言うとアーノルドがネスターを円卓に連れて行く。俺は商業ギルドの二人を振り向く。


「お二人のような食通の方々にお褒め頂き有難く思います。またいつでもお買い求めください」


 二人はなんかいろいろ言いたそうだったが一応立場はある。


「うむ。気に入った。また買わせに来ることもあろう。その時もよろしくな」


「私も同じように思います。今後もよろしくお願いしますね」


 そう言う二人に頭を下げて見送る。二人はギルド職員へのお土産だと言ってさらに両手に一本ずつ買い足して戻って行った。カレンさんは全開で焼いている。さすがだ。未来が見えているのだ。俺は商談のために円卓に向かう。荷馬車はネスターのところの奴隷が見ているし『銀狼(ぎんろう)の牙』がいるので安心して商談が進められる。


 ネスターとの商談は最初からこちらが有利だった。商業ギルドのお墨付きがもらえたこと、それを()かすには今ここで売りに出すのが最善手! そして今後も『黄金の獅子醸造所』の名前を売り続けるにはここで売るのがこれまた最善! ここで名前を売れば今後は他の酒場で卸す時にどうなると思いますか? 『黄金の獅子醸造所』のエールというブランドとして卸せるんですよ? 客は「あの」『黄金の獅子醸造所』のエールが飲めると店に来るのです! ひとつアドバイスもしましょう。卸した酒場の管理も貴方がなさい。管理するのは水を混ぜる場合はその比率、それと温度です。取り扱うエールを美味しく飲むために温度管理をなさい。


 商談はまとまった。決して『黄金の獅子醸造所』が赤字にはならない金額だ。ネスターは舞い上がってどう考えても赤字だろそれっていう金額を提示してきたから逆に(たしな)めて値段を上げてやった。アーノルドもこれで満足だろう。銅貨を数枚握らせた。


「ネスターさん、卸先には『黄金の獅子醸造所』が造った看板を置かせるっていうのはどうですか。『黄金の獅子醸造所』が造った看板です。それがあるということはその店に『黄金の獅子醸造所』の酒があるということです。デザインに統一感を出して、看板の大きさが変わってもわかるようにするのがいいですね。たとえばこういう風に」


 と、言って地面にデザイン画を描いて示す。周りを揺れる大麦で囲って、獅子と樽のイラストを入れるとか。ネスターは自分の代で飛躍する『黄金の獅子醸造所』が脳裏にイメージできただろうか。


「いやー、アーノルドから大変若くして優秀な酒蔵(さかぐら)の若大将がいると聞きましてね。今日、お会い出来て良かった。アーノルドのお姉さんに感謝ですね。どうぞ彼女をお大事に。きっと我々を引き合わせた天使か女神ですよ」


 これぐらいの盛り上げは許容範囲だろう。今ある分はサービスだと酒樽(さかだる)とジョッキを置いて急いで荷馬車でどこかに行くネスター。いろいろ頭の中を駆け巡るものがあるのだろう。若いって素晴らしいね。もらった酒樽を屋台の下に入れる。周りに氷を置いて冷やすけど、冷やし過ぎないように気を付ける。エールは冷やし過ぎても風味が消えてしまうのだ。


 屋台が忙しくなってきていた。ギルド長が買いに来た屋台という噂は今はどこまで広まっているのだろうか?


 そして円形広場をまた別のざわめきが支配しようとしていた。


 次はなんだ?




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