5
優太郎と名津子は夢を見た。あまりにもひどい夢だ。突然、誰かに捕まえられて、裁判をかけられている。2人はその理由がわからない。何も悪い事をしていないのに。普通に生きてきただけなのに、どうしてだろう。
ここは裁判を行う場所だ。だが、周りには人間ではなくて、魔獣がたくさんいる。真ん中の席には裁判長らしき魔獣がいる。そこには青い龍がいる。青い龍は厳しい目をしている。これから厳しい判決が下されるんだろうか? そう思うと、下を向いてしまう。
それを聞いて、優太郎と名津子は驚いた。それだけで捕まえられ、裁判にかけられるとは。あまりにもひどい。もっと貴仁と一緒に暮らしたいのに。
「島田優太郎、島田名津子、そながらは島田貴仁を家から追い出し、食事を与えなかった。そして、飢え死にさせた!」
優太郎と名津子は呆然となった。貴仁は帰ってきたじゃないか? 目の前にいるじゃないか?
「えっ!? そんな・・・。貴仁は帰ってきたじゃないか!」
ひょっとして、魔獣に生き返らせてもらったのかな? そして、優太郎と名津子を裁判にかけるように命令したのかな?
「えっ!? 生き返ったの?」
「フッフッフ・・・」
突然、貴仁が笑い出した。まさか、貴仁はあいつらに洗脳され、魔獣の味方になってしまったのか? それとも、そこにいるのは偽物の貴仁で、そこにいるのは魔獣では?
「そんな・・・」
「島田貴仁はあまりにもひどい理由で飢え死にした! だから、私が生き返らせた、私のしもべとしてな!」
どうやら、彼らのしもべとして生き返らせたようだ。もう元の貴仁は戻ってこないんだろうか? あまりにも残念過ぎる。もっと一緒に行きたかったのに。
「判決! 島田優太郎、島田名津子は島田貴仁を餓死させた事に伴い、地獄流しの刑に処す!」
それを聞いて、優太郎と名津子は呆然となった。こんな判決が下るとは。こんなの、嘘に決まっている。地獄流しにされるなんて、嫌だよ。
「はっ・・・」
優太郎と名津子は目を覚ました。そこはいつもの寝室だ。どうやら夢だったようだ。でも、あまりにひどくて、リアルな夢だったな。
「夢か・・・」
と、優太郎は思った。まさか、今そこにいる貴仁は偽物だろうか? それとも本物だろうか? 本物であってほしいな。
「どうしたの?」
「いや、裁判にかけられる夢で・・・」
それを聞いて、名津子は驚いた。自分も同じ夢を見たからだ。
「裁判?」
「貴仁を飢え死にさせた罪で。それに、今いる貴仁は偽物だって事で」
やはり優太郎もそんな夢を見ていたのか。名津子は、これから自分たちはどうなるんだろうと思い、少し震えた。
「そんな事ないよ」
「そうかな?」
だが、名津子は疑わしい。ひょっとしたら、今、この家にいるのは偽物の貴仁ではないだろうか?
「うーん・・・」
名津子はダイニングに向かった。早く朝食を作らないと。
名津子はダイニングにやって来た。と、そこには偽物の貴仁がいる。だが、名津子には貴仁にしか見えない。今日は早く起きたんだな。どうしたんだろうか?
「おはよう」
「おはよう」
名津子は貴仁に聞きたい事がある。本当に貴仁だよね。
「ねぇ貴仁、本当に貴仁だよね」
偽物の貴仁は、少し戸惑った。ばれたらどうしよう。その2人を地獄流しにしなければならないのに。それまでスパイとして送り込まれたのに。
「そうだよ。どうしたの?」
「い、いや、何でもないよ・・・」
名津子は少し笑った。自分はとんどもない妄想をしてしまった。本当に申し訳ないな。
「そう、だよね・・・」
偽物の貴仁は笑みを浮かべた。名津子はどうしたんだろう。どう見ても貴仁なのに。
「どうしたの、母さん」
「ごめんごめん」
名津子は偽物の貴仁を抱っこした。疑って申し訳ないと思っているようだ。
一方、本物の貴仁は目を覚ました。徐々に魔界での生活に慣れてきた。だけど、自分は現実の世界の人間だ。いつかは戻らなければならない。ここの事をまだまだよくわかっていない。できれば、元の世界に戻る前に、ここの世界を見て回りたいな。
貴仁は1階にやって来た。そこには、紀夫と瑠奈、明と嶺亜がいる。どうしてだろう。ここの家族いる方が幸せに思えてきた。だけど、本当の家族ではない。本物の家族のもとに帰らなければならない。
「おはよう」
「おはよう」
貴仁は何かを言いたそうだ。明はその表情が気になった。もし言いたい事があったら、話してほしいな。
「どうしたの?」
「魔界って、どんな所かなと思って」
それを聞いて、明は納得した。この子は現実世界からやって来た。魔界の事をまだまだ知らないな。じゃあ、魔界の事を知ってもらうために、ちょっと散歩に連れて行こうじゃないか?
ただ、貴仁はびくびくしている。本当は怖い所じゃないかと思っている。
「どうしたの?」
「怖い所かなと思って」
明は笑みを浮かべた。そんなに怖くないよ。優しい魔獣ばかりだよ。かわいい魔獣もいるよ。
「それはほんの一部だよ。地獄と言われている所で、悪い事をした人が死ぬまでここでさまよっているんだ」
「そうなんだ・・・」
それを聞いて、貴仁は思った。ひょっとして、両親は地獄をさまよう羽目になってしまうんだろうか? そのために、ここに連れてこられたんだろうか?
「それ以外は、とっても楽しい場所だよ」
「へぇ・・・」
だが、貴仁は少し興味を持った。ちょっと行ってみたいな。龍になった明の背中に乗って、空から見てみたいな。
「どうした?」
「見たいなと思って」
「ふーん・・・」
と、そこに瑠奈がやって来た。どうしたんだろうか?
「明、いい機会だから見させてやりなさい」
「は、はい・・・」
「ありがとう!」
貴仁は魔界を空から見てみる事にした。いい機会だ。元の世界に戻っても、この景色を忘れないようにしよう。
明は龍の姿になった。いよいよ貴仁を乗せて魔界を旅する。きっと気に入るといいな。
「さぁ、行くぞ!」
「うん!」
明はあっという間に舞い上がった。龍って、翼を持たないけれど、こんなに飛行能力が高いんだな。すごいな。
「すごい! こんな風に空を飛ぶなんて初めて!」
「本当?」
貴仁は空から魔界を見ていた。とてもいい風景だな。まるで日本の田舎のようだ。かつての世界はこんな風景だったんだろうか? 開発が進み、徐々に都会になっていった。だけど、ここにはそれ以前の風景がよく残っている。これが現実世界と魔界の違いだろうか?
「すごい景色でしょ?」
「うん」
しばらく向かっていると、商店街らしきものが見えてきた。多くの人がいて、買い物をしている。とても賑わっているな。まるでショッピングセンターのようだ。
「あれが商店街?」
「うん。魔界商店街だよ」
貴仁はその風景を興味津々で見ている。どうやら気にってもらえたようだ。もっと素晴らしい風景を見せてやりたいな。きっといい思い出になるから。
「賑わってるね。楽しそうだね」
ふと、貴仁は思った。明日はここに行ってみようかな? 魔界の商店街って、どんな場所なんだろう。誰にも話したくないけれど、いい思い出になるだろうな。
「明日はここに行ってみようか?」
「うん」
その先には、大きな建物がある。何をする建物だろうか? とても立派だ。とても気になるな。
「あれは?」
「魔界の裁判所だよ。悪い事をしたら、ここで裁かれるんだ」
すると、明は下を向いた。何か言いたい事があるんだろうか? とても気になるな。
「ふーん・・・」
「うちの父さん、ここで働いてるんだ」
それを聞いて、貴仁は驚いた。紀夫はここで働いているのか。どんな仕事風景なんだろうか? 見てみたいな。貴仁はますます魔界に興味を持った。
「そうだったんだ!」
「うん。驚いた?」
明は少し笑みを浮かべている。父さんはすごい人なんだぞ。
「もちろんだよ」
その先には、どこまでも続いているような広い森がある。いったいここは何だろう。
「広い森だね」
「うん。ここに入ったら、誰も出てこれないらしいよ」
貴仁は呆然となった。地獄流しにされたら、ここに連れていかれて、死ぬまでここでさまようんだろうか? そんなのは嫌だな。
「そうなの?」
「うん」
森を抜けた先には、砂漠が広がっている。全く草木が生えていなくて、骨が至る所にある。ここが地獄だろうか? だとすると、そこら辺にある骨は地獄流しにされた人々の死体だろうか?
「あの先は?」
「地獄だよ」
やはり地獄のようだ。地獄流しにされると、ここに連れていかれるんだな。
「これが?」
よく見ると、所々に人々が歩いている。彼らは何日も水も飲めず、何も食べていないのか、フラフラだ。彼らは死を待つのみなんだろうか?
「うん。さまよってるのが地獄流しにされた人々。この人たちは、ただ死を待つのみさ」
「悪い事をしたら、こうなるんだね」
貴仁は思った。悪い事はしてはならないな。悪い事をしたら彼らのように地獄流しにされるんだな。両親がこうならなければいいけど。
「うん」
「どうしたの?」
明は貴仁の表情が気になった。ひょっとして、両親も地獄流しにされるんじゃないかと思っているようだ。安心させなくては。
「お父さんとお母さん、こうなるのかなって」
「どうだろう。僕はならないと思ってるよ。また一緒に暮らせると思ってるよ」
明は励ました。あともう少しで元の世界に戻れて、両親と暮らせると思うよ。貴仁はいい子だから。
「そうであってほしい。あんな事されたけど、やっぱり父さんと母さんが好き」
それを聞いて、明は思った。家を追い出されても、そんなに両親が好きなんだろうか? そんなの、親として失格だと自分は思っているんだけどな。本当にそんな両親とまた暮らしたいんだろうか?
「・・・、あんな事されても?」
「どうしたの?」
貴仁は戸惑った。ひょっとして、両親とは再び住めなくなるんじゃないかと思った。やっぱり本物の両親がいいよ。
「本当にいいの?」
「なぜそう思ってるの?」
だが、明は話そうとしない。何か言いたくない秘密があるようだ。
「・・・、いや、何でもないよ・・・」
「まさか、父さんと母さんを地獄流しにするの?」
貴仁は不安になった。まさか、両親を地獄流しにするんじゃないだろうね。元の世界で、また両親と一緒に暮らせるんだよね。
「いや、わからない。でも、そんな事にはならないと思ってるよ」
「そうかな?」
どうやら、両親は地獄流しにされないと思っているようだ。それを聞いて、貴仁はほっとした。
「不安なの?」
「うん・・・」
明は少し笑みを浮かべた。貴仁を安心させようとしているようだ。
「大丈夫だよ」
「ありがとう」
そして、明は家に戻ってきた。紀夫はすでに仕事に出かけていて、そこには瑠奈と嶺亜がいる。
「今日は楽しかった?」
「うん」
貴仁は嬉しそうだ。どうやら、空中散歩を楽しんだようだ。これはいい体験だったようだな。
「元の世界に戻っても、ここでの事、忘れないでね」
「うん!」
貴仁は決意した。元の世界に戻っても、ここの事は絶対に忘れないよ。




