3
翌朝、島田家の周辺を1人の少年が歩いていた。貴仁だ。貴仁は真剣な表情だ。どうしてここを歩いているのか。魔界にいるはずなのに。
実はこの貴仁は複製人間で、両親を安心させるために、そして両親を魔界に送り込むために送られてきたスパイなのだ。スパイは魔界に送られるまでに貴仁のふりをして、2人の行動を調べる。そして、魔界に送り込むタイミングを探るのだ。もちろん、両親には内緒だ。
偽の貴仁は島田家にやって来た。貴仁の家はこんな所にあるのか。意外と普通の家だな。こんなに住宅が密集しているのが、東京らしい。
貴仁は玄関を開けた。ここが家の中か。大広間があって、広々としている。
「ただいまー」
と、とこに名津子がやって来た。貴仁が帰ってきたのを見て、名津子は驚いた。まさか、自分の力で帰ってくるとは思わなかった。
「あら、おかえり。探したのよ。どこ行ってたの?」
偽の貴仁は少し考えた。魔界に行っていたと答えてはダメだ。どうしよう。
「そこら辺を歩いてた」
偽の貴仁は少し戸惑った。この答えで本当にいいんだろうか?
「そう・・・。まぁ、帰ってきて嬉しいわ」
偽の貴仁はほっとした。怪しまれなかったようだ。名津子はダイニングに向かった。ダイニングの方からは、みそ汁の匂いがする。どうやら朝食を作っているようだ。
「貴仁ー、ごはんよー」
「はーい!」
偽の貴仁はダイニングに向かった。そこには、優太郎もいる。これが貴仁の父の優太郎なのか。普通の会社員っぽいな。偽の貴仁は椅子に座った。
「いただきまーす!」
偽の貴仁は朝食を食べ始めた。とてもおいしい。
「おいしい!」
「久しぶりのお母さんのごはん、おいしいでしょ?」
名津子は笑みを浮かべている。貴仁が帰ってきて、本当に嬉しいようだ。名津子は全く気付いていない。この貴仁は偽物で、自分と夫を魔界に送り込むためのスパイだという事を。
「うん! おいしい!」
「それはよかった」
優太郎は洗面所に向かった。これから歯を磨いて、出社するようだ。偽の貴仁は、その様子をじっと見ていた。その表情を見て、名津子は思った。どうしてこんなに注目しているんだろうか?
「ごちそうさま!」
偽の貴仁は朝食を食べ終え、リビングでくつろいでいた。偽の貴仁はとても疲れている様子を見せた。まるで、昨日はいろんな所を歩き回って来たような雰囲気に見せるためだ。本当はしっかりと休んでいるし、しっかり食べているのに。
「はぁ・・・」
「十分反省したみたいで」
偽の貴仁は振り向いた。そこには名津子がいる。名津子は穏やかな表情だ。この人が本当に貴仁を家から追い出したんだろうか? 疑問に思うが、家から追い出したのは事実だ。
「うん。これからはもっと頑張るから」
「それはよかった。私もね、いろいろ反省したの。もう家から追い出さないって。近所の人にいろいろ言われてね」
どうやら名津子は反省しているようだ。それを聞いて、偽の貴仁はほっとした。これからはもうしないだろうな。だが、もう後悔後先たたずだ。判決はもう決まっていると思う。おそらく、地獄流しだろう。
「そうだったんだ・・・。でも、悪いのは僕だから」
偽の貴仁は反省しているような表情を見せた。追い出した両親が悪いけれど、成績の悪い貴仁も悪い。
「いや、追い出した私も悪いのよ」
と、そこに優太郎がやって来た。これから出社するようだ。
「じゃあ、父さん行ってくるからね」
「行ってらっしゃーい!」
「行ってきまーす!」
優太郎は出社していった。優太郎は車に乗って行かない。どうやら電車通勤のようだ。出社して間もなく、偽の貴仁は立ち上がった。
「さて、歯を磨いて勉強しないと」
「頑張ってね」
「うん!」
偽の貴仁は洗面所に向かった。名津子はその様子をじっと見ている。
歯を磨いた偽の貴仁は、2階の勉強部屋に向かった。名津子はそんな貴仁を、頼もしそうに見ている。貴仁は本当に反省しているようだ。これからきっといい子に育ってくれるだろうな。
10時ぐらいになった。そろそろ昼食を買いに行かないと。
「お母さん、買い物行ってくるからね」
「はーい!」
名津子は近くのスーパーマーケットに向かった。昼食と夕食の買い物をするためだ。その後ろ姿を、偽の貴仁はじっと見ている。
「どうだ?」
偽の貴仁は振り向いた。そこには紀夫がいる。スパイの様子を見に来たようだ。
「父親は朝7時に出かける、母親は朝10時に買い物に行く」
「そっか・・・」
紀夫はしっかりと覚えた。まだまだ狙う時間はわからない。貴仁が帰るまでにはこの2人を魔界に送らないと。
「うまくやれよ」
「わかってる。俺は絶対に実行するから」
偽の貴仁は笑みを浮かべている。何が何でも実行しないと。
「ありがとう!」
紀夫は消えていった。魔界に戻ったようだ。
その頃、魔界にいる本物の貴仁は、勉強をしていた。自由研究のネタはまだまだ決まらなくて、全く進んでいない。だが、登校日に提出の読書感想文はしっかりと進めている。図書館から借りてきた本を読みつつ、その感想をまとめていた。
「けっこう頑張ってるね」
振り向いた。そこには嶺亜がいる。嶺亜はコーヒー牛乳を持っている。頑張っている貴仁に差し入れを届けに来たようだ。
「うん。認められたいもん」
嶺亜は机にコーヒー牛乳を置いた。貴仁はコーヒー牛乳を飲んだ。とてもおいしい。
「そっか。きっと認められると思うよ。積極的だもん」
ふと、貴仁は思った。両親は今、どうしているんだろうか? 貴仁がいなくなって、心配しているんだろうか?
「どうしたの?」
「お父さんとお母さん、心配してるかな?」
嶺亜は戸惑った。家から追い出した両親なのに、それでも恋しいと思っているのか? また会いたいと思っているのか? だが、すぐに元の表情に戻った。
「心配してると思うよ。だけど、頑張っていれば、また会えるよ」
「本当?」
貴仁は思った。本当だろうか? もう会えないんじゃないかと思った。
「うん。きっとだよ」
「ならいいけど、本当に大丈夫かなと思って」
貴仁は両親の事を心配していた。本当に大丈夫だろうか? 貴仁がいなくなって、精神的にショックを受けていないだろうか? 早く帰った方がいいのでは?
「大丈夫だって」
と、嶺亜は龍の姿になった。だが、貴仁は驚かない。それが普通だと思っているようだ。
「私が龍だって知って、びっくりした?」
「うん。父さんは何をしてるの?」
「裁判官。悪い人を裁いてるんだ」
紀夫はそんな仕事をしているのか。さぞかし厳しいんだろうな。家ではそう見えないけれど。
「あの、懲役とか死刑とか言ってる人?」
「そうだな」
「お昼ごはんよー」
瑠奈の声だ。どうやら昼食ができたようだ。その声に貴仁と嶺亜は反応した。
「はーい!」
2人は2階に向かった。2人とも、嬉しそうだ。今日の昼食は何だろう。楽しみだな。
2人はダイニングにやって来た。テーブルにはそうめんがある。
「そうめんだ!」
「嬉しい?」
「うん」
2人は椅子に座った。明はすでに椅子に座っている。
「いただきまーす!」
「いただきまーす!」
3人はそうめんを食べ始めた。それを見て、瑠奈も食べ始めた。
「おいしい!」
「それはよかった」
ふと、瑠奈は思った。貴仁は家から追い出した両親をどう思っているんだろうか? 私の料理は、貴仁の母と比べてどうだろうか?
「本当のお母さんに比べて、どう?」
「わからない」
どうやら貴仁にはわからないようだ。
「そっか。やっぱり本当のお母さんが作ったのがいい?」
「そりゃあいいよ。あんな事されても、お母さん、大好き?」
やっぱり貴仁には、本当の母が作った料理がいいようだ。瑠奈は疑問に思った。家から追い出した両親なのに、本当にそれでいいんだろうか?
「本当に? あんなひどい事をするんだよ」
「それは・・・」
貴仁は少し戸惑った。先日、家から追い出された時の表情を思い出した。思い出すだけでも下を向いてしまう。今頃、反省しているんだろうか? まだ許してくれないんだろうか?
「あんな両親にも問題があるみたいだね」
「けっこう気にしているんだね。どうしたの?」
貴仁は思った。どうして瑠奈は両親をこんなに気にしているんだろうか? 家から追い出しただけで、罪にはならないのに。ひょっとして、両親を何らかの形で叱ろうと思っているんだろうか?
「いや、何でもないよ」
「ふーん・・・」
貴仁はそうめんを黙々と食べていた。そんな貴仁の表情を、明と嶺亜はじっと見ている。
夜、優太郎は仕事を終え、家に向かっていた。今日は貴仁が返って来てくれた。心配したけど、帰ってくるだけでこんなに嬉しいとは。
「ただいまー」
優太郎はいつものように帰ってきた。その声を聞いて、名津子がやって来た。
「おかえりなさい」
それに続くように、偽の貴仁がやって来た。優太郎はいまだに、その貴仁が偽物だとわかっていないようだ。
「やっぱ家族みんながいるのって、嬉しいな」
「そうね」
優太郎は2階に向かった。スーツを脱いで、私服に着替えるようだ。偽の貴仁はその様子をじっと見ている。ここも観察しているようだ。
「貴仁ー、ごはんよー」
「はーい!」
名津子の声を聞いて、偽の貴仁はダイニングに向かった。今日の夕食はハンバーグだ。とてもおいしそうだな。偽の貴仁は椅子に座った。
「いただきまーす!」
偽の貴仁はハンバーグを食べ始めた。とてもおいしい。
「今日はどうだった?」
偽の貴仁はうなずいている。どうやら頑張っているようだ。それを知って、名津子はほっとした。
「勉強、よく頑張ってるみたいだけど」
と、そこに優太郎がやって来た。優太郎はその話を少し聞いていたようだ。
「それはよかった。反省してるみたいだな」
「うん。追い出されたのは自分のせいだと思ってるから」
偽の貴仁はとても反省しているようだ。これからもっと頑張っていこうと思っているようだ。
「頑張ってる貴仁の姿見て、自分も頑張ろうと思ったの。ありがとう」
「どういたしまして」
まさか褒められるとは。偽の貴仁は少し嬉しくなった。
深夜、2人が寝静まった中、偽の貴仁は夜空を見ていた。魔界と同じ、美しい空が広がっている。
「どうだ?」
偽の貴仁は振り向いた。そこには紀夫がいる。紀夫はスパイの様子を見ているようだ。
「父親は夜7時に帰って来るらしい」
ここでもチャンスがつかめなかった。どうしよう。紀夫は焦っていた。早く貴仁を元の世界に戻さなければいけないのに。だが、絶対にチャンスはある。そこを狙おう。
「そうか・・・。どこかで連れ去るチャンスがないか、調べろ」
「はい!」
紀夫は消えていった。偽の貴仁は決意した。絶対にチャンスを見つけてやる! そして、2人を魔界に送り込み、早く貴仁を元の世界に戻するんだ。




