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貴仁は7月26日を迎えた。今日は実家で迎える朝だ。魔界に住んでいた頃が懐かしいけれど、いるべき場所の実家に慣れていかないと。本来はここにいるべきなのだから。
貴仁はいつものように起きた。貴仁は両親がいる幸せを感じていた。だが、貴仁は知らなかった。その両親は偽物で、本物の両親は今頃、魔界の牢屋に入れられて、今日の裁判で判決が下るという事を。
「おはよう」
「おはよう」
貴仁はダイニングにやって来た。両親はいつものように迎えてくれた。今日は仕事が休みだ。偽の優太郎は今日は休みなので、家でくつろいでいるようだ。いつもの平凡の朝だ。貴仁はいつもの表情でその様子を見ている。だが、昨日とは違う朝だ。だが、徐々に慣れていかなければならない。
「どうだ、家で迎える朝は」
「いいね!」
貴仁は笑みを浮かべた。偽の両親は笑みを浮かべた。貴仁が喜んでくれて、本当に嬉しいようだ。以前の両親に比べて、とても優しい。おそらく、反省しているのだろう。
「本当にごめんね」
「いいよ。反省してるから」
貴仁は反省しているようだ。その様子を見て、偽の名津子は思った。謝っているのだから、もう家から追い出すのはやめよう。これからは仲良く暮らしていこう。
「そう・・・。もうやらない?」
「やらないって約束するよ。近所に注意されたんだもん」
どうやら、名津子は近所の人々に注意されたようだ。以前から注意されていたが、今回の件でかなりきつく言われたようだ。
「そうなんだ・・・」
貴仁は椅子に座った。目の前のテーブルには朝食が置かれている。今日の朝食はみそ汁とごはんと納豆だ。
「いただきまーす」
貴仁は朝食を食べ始めた。とても嬉しそうだ。その様子を見ていると、顔がほころぶ。どうしてだろうか? 嬉しいからだろうか?
「おいしい?」
「うん」
おいしいと言ってくれて、本当によかった。また今日も頑張ろうという気持ちになれる。
「それはよかった」
「こうして普通に食べられるって、いいでしょ?」
「うん」
貴仁は、ここで両親と一緒にいられる幸せを感じていた。本当の両親ではないにもかかわらず。
「こうしてまた3人で暮らせるって、嬉しいよね」
「ああ」
偽の優太郎は朝の散歩に出かける事にした。散歩をすると、日ごろの疲れがすっきり取れるからだ。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃーい」
その後も貴仁は朝食を食べている。その様子を見ているだけで、とても嬉しい。
「ごちそうさま」
貴仁はご飯を食べ終えて、朝の情報番組を見ていた。こうしてここの番組を見るのも、久しぶりだ。また見る事ができて、本当に嬉しい。どこかすがすがしい気分だ。どうしてだろうか? 久々に見るからだろうか?
「朝の番組見られるのも、嬉しいな」
「そうでしょ?」
偽の名津子は考えた。そろそろ全国高校野球選手権大会の時期だ。今年はどんな高校が出るんだろう。東京は東も西もまだまだ決まっていない。
「そろそろ高校野球が近づいてきたね」
それを聞いて、貴仁はワクワクしている。毎年見ていて、毎年興奮している。今年はどんなドラマが待っているんだろう。今年も期待だな。
「うん。今年はどこが優勝するのかな?」
「わからないよ」
そろそろ歯を磨いて、勉強をしに行かなければ。貴仁は立ち上がった。
「さて、歯を磨いて、勉強をしないと」
「頑張ってね」
貴仁は洗面所に向かった。その様子を偽の名津子はじっと見ている。その後ろに、龍がいるのを貴仁は知らなかった。
「はぁ・・・」
偽の名津子はため息をついた。本物の名津子のふりをするのに、疲れていた。だが、今月は頑張らないと。頑張ってさえいれば、自分は本物の名津子となれる。
「どうだ?」
偽の名津子は振り向いた。そこには監視をしている龍がいる。
「順調よ。気づかれてない」
「よかったよかった」
龍はほっとした。どうやら、偽物だとバレていないようだ。
「で、あの夫婦はどうなった?」
「今日、裁判をかけられるみたいだけど、俺の見解では、地獄流しだろうな」
龍は思っていた。家から追い出した事を考えると、これは因果応報の考えから、地獄流しにされるだろうと思っている。地獄流しとは、魔界にある地獄で死ぬまでさまよう刑で、水も食料もない中でさまよい続けて、飢えの中で死んでいくという。ここから生還した者はいないと言われている。
「そっか。それでいいさ、あの夫婦は」
「そうだね」
偽の名津子もそう思っていた。あの夫婦は地獄流しにされるべきだろう。そして、自分の犯した罪と一生向き合わなければならないだろう。
「まぁ、あの2人が地獄流しで死ねば、もう一生この姿でいられるんだからな。その方が貴仁くんが幸せだろうなと思ってな」
偽の名津子は思っていた。この愚かな夫婦よりも、自分の方がずっと教育がうまい。こんな夫婦は死んで同然だろう。
「私もそう思う。あんな夫婦が育てる価値なんてないからね」
「うんうん」
そろそろ帰らなければいけない時間だ。どうか頑張ってほしいな。
「じゃあな」
「ああ」
そして、龍は消えていった。それと入れ替わるかのように、貴仁が洗面所から出てきて、2階に向かった。偽の名津子はその様子をじっと見ている。
その頃、本物の優太郎と名津子は牢屋にいた。昨日の夜、帰ろうとしたら、何者かに連れ去られて、馬車に入れられて、ここにやって来た。昨日は何が起こったのかなかなか理解できなかった。だが、ようやくわかってきた。2人は思った。ここはどこだろう。まるで中世の牢屋のようだ。ここは住んでいる世界とはまた別の魔界だという事はわかる。今思うと、おとといの夜の帰りの車窓で見た物は、連れ去られる前兆だったんだろうか? 2人は怖くなった。
「・・・、貴仁・・・」
「心配だよな・・・」
2人は貴仁を心配していた。貴仁は今頃、どうしているんだろうか? みんなに支えられながら、暮らしているんだろうか? 一緒に暮らせなくて、本当に申し訳ない気持ちだ。もし再会できたら、謝りたいな。だけど、会えない。どうしよう。このまま自分たちは魔界で死んでしまうんだろうか?
と、そこにミノタウロスがやって来た。何だろう。2人はじっと見ている。ミノタウロスは牢屋の鍵を開けた。
「出ろ!」
「えっ、帰れるんですか?」
2人は帰れると思った。だが、ミノタウロスは厳しい表情だ。ひょっとして、これから裁判にかけられるんだろうか?
「いや、裁判だ!」
「なぜ?」
2人は戸惑った。どうして裁判にかけられるんだろう。自分たちは警察に捕まるような事をしていない。あるとすれば、貴仁を家から追い出したぐらいだ。
「裁判だ!」
ミノタウロスは持っていた鞭で2人を叩いた。2人は痛がった。だが、ミノタウロスは表情を変えない。
「私、何も悪い事を!」
2人は思った。ひょっとして、貴仁を追い出したから、捕まったのでは?
「まさか、貴仁を追い出したから?」
「ああ。そうだ。間もなく裁判が始まる! 早く来るんだ!」
やっぱりそうだ。だが、それだけで捕まって、裁判にかけられるって、あまりにもひどくないか? これは注意だけで済むだろう。それに、こんな事はもうしないから早く元の世界に帰してくれ。貴仁が待っているじゃないか。
「そんな・・・。それだけで・・・」
「ぐじゃらぐじゃら言ってんじゃねぇ!」
ミノタウロスはまた鞭で2人を叩いた。
「痛い!」
2人はさらに痛がった。だが、ミノタウロスの表情は怖いままだ。
「こっちに来い!」
2人は通路を進んでいく。左右にはいくつもの牢屋があり、その一部には白骨化した遺体がある。おそらく、この中で死んだ人々だろう。
進んでいくと、大きな扉が見えてきた。裁判所だ。それを見て、2人は肩を落とした。これから裁判にかけられる。自分たちはこれからどうなるんだろう。2人は緊張している。
裁判所に入ると、そこには何匹かの龍がいる。そして、その真ん中の高い場所にいるのは、紀夫だ。この人が裁判長だろうか? 2人は考えた。2人は全く知らなかった、この男が貴仁をしばらくの間保護していたという事を。
2人が中央に立つと、紀夫が木づちを叩き、裁判が始まった。
「それでは、島田貴仁追い出し事件の裁判を始める! お前はなぜ、島田貴仁を追い出した?」
紀夫は厳しい表情だ。その表情を見て、2人は震えている。どんな判決が待っているんだろうか?
「小学校の成績が悪かったからです」
「そんな事で追い出すなんて、度が過ぎている!」
紀夫は怒っている。あまりにも身勝手だ。それに、暑いのに水を与えないのはあまりにもひどいじゃないか? もし、熱中症で倒れて死んだら、どうするんだ。紀夫の怒りは収まらない。自分だったら水を与えるだろう。それに、家から追い出さないだろう。
「私たちも、それを注意されました。もう追い出さないようにします!」
2人は誓った。もう貴仁を家から追い出さない。これからはひどいしつけはしない。だから、もう返してくれ!
「もう遅いわ! 今頃、島田貴仁は別の家族と暮らしている! お前はもう捨てられたのだ!」
「そんな・・・」
それを知って、2人は絶句した。別の家族と暮らしているとは。一体、誰と暮らしているんだろうか? 早く貴仁に会いたい。そして、その両手で抱きしめたい。
「もうお前には島田貴仁を育てる権利はないのだ!」
「そんな・・・」
育てる権利がないとは。あまりにもひどすぎる。自分たちは愛情をこめて貴仁を育ててきたのに。貴仁は私が生んだのに。どうして育てる権利がないというんだろうか?
「私は愛情をこめて育てたのに!」
「いや、それは愛情じゃなくて暴力だ! 言い訳は許さん!」
紀夫は机を叩いた。家から追い出すのは愛情ではなく暴力ではないか。いつもそんな言い訳を言いやがって。あまりにもひどいじゃないか。お前はそれを愛情だと思っているのか。
横にいたミノタウロスは名津子を鞭で叩いた。名津子はその場に横になった。
「痛い!」
「痛いのはわかっている!」
ミノタウロスは厳しい口調だ。その声を聞いて、名津子は凍り付いた。こんなに怖いのか。
「起きろ! 裁判は続いている!」
次にミノタウロスは名津子を蹴った。とても痛くて、名津子は泣きそうだ。
「どうしてそんなひどい事をするんだ!」
「お前は罪人だからだ!」
2人は驚いている。罪人だと? 自分は警察に逮捕されるようなことをしていない。家から追い出しただけでこんな事になるなんて、あまりにもひどすぎるだろ?
「私は悪い事なんて1つもしていない!」
「黙れ! お前のした事はとんでもない事なんだぞ!」
紀夫はとても怒っている。その様子を見て、2人は凍り付いた。こんなに怖い裁判官、初めて見た。
「おとなしく聞いていろ!」
「はい・・・」
2人は泣いている。早く元の世界に、貴仁の元に帰してくれ。また一緒に貴仁と暮らしたい。
紀夫は木づちを2回叩いた。おそらく、判決を下すのだろう。
「判決! 島田優太郎、島田名津子、追い出しの罪のより、地獄流しの刑と処する!」
それを聞いて、2人は驚いた。地獄流しの刑とは、何だろう。死ぬまで地獄をさまようんだろうか? あまりにもひどすぎる。
「そんな・・・」
「さぁ、行け!」
ミノタウロスは、また2人を鞭で叩いた。
「痛い!」
ミノタウロスは2人を裁判所から牢屋に連れて行った。2人は泣いている。また一緒に暮らしたいのに、こんな事になってしまった。貴仁を家から追い出さなければ、こんな事にならなかったのに。後悔しても、もう遅い。
2人は再び牢屋に放り込まれた。2人は下を向いて泣いている。
「入れ!」
「はい・・・」
名津子は力がなさそうだ。朝から何にも食べていない。とてもお腹が空いている。だけど、何にも食べれない。これから地獄流しになると、今後も食べられない日々が続くんだろうか? そしてその中で、飢え死んでいくんだろうか?
「私たち、どうなっちゃうんだろう」
「わからない・・・」
2人は絶望していた。これから自分たちは、どうなるんだろう。明るい未来が見えてこない。あるのは、地獄をさまよう自分たちだけだ。
名津子は貴仁を思い出した。また会いたいよ。でも、会えない。どうしたらいいんだろう。わからない。
「また貴仁に会いたいわ・・・」
「俺もだよ・・・」
優太郎も貴仁を思い出していた。貴仁にまた会いたいのにもう会えない。今頃、新しい両親と一緒に幸せに暮らしているんだろうな。そう思うと、より一層泣けてきた。




