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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【1】 追撃

フレーボムの港、午後。

何人かの客が船を待つ船着き場に、衣装がてんでちぐはぐな一団がいた。

以前ニレを攫おうとしたメーネム以下の誘拐団である。

だがおよそ統一感に欠けた十人ほどの一団。

その中の一人、大柄の女がキャスター付きの大きな袋を引きずって待っている。

「首尾は?」

周囲に聞こえるか聞こえないかの小さな声で、メーネムに尋ねる。

「もうすぐのはずだ。本国が船を寄越してくれたので、対岸のコートブルクではなく、その少し西、キャトラへ向かう」

こちらも小さな声で答える。

もっとも陽が既に傾きかけているため、それほど他の客はおらず、静かなものである。


専用艇ということであれば、他の客は無視できるので、乗ってしまえば一安心、と考えていたメーネムだったが、アニトラはもちろん警戒している。

なにせ宝玉少女があの空中を浮遊する姿を見ているのである。

海峡など安心材料にはならない、と考えていた。


同行することになっていたツァハリアスが、レモナに尋ねた。

「おまえさんだけでもそいつを抱えて一気に対岸まで飛べないのかい?」

するとレモナは苦笑い。

「無茶言うな。いくらなんでもこの距離をジャンプできないよ」

「すまないね、こちらも宝玉からみの魔術にはそれほど詳しくないのでね」

とツァハリアスも苦笑いしつつ、返している。

そうこうするうちに小さな船の影が近づいてくる。


すると北の方角から馬車を駆り、猛スピードでやってくる一団がいる。

船着き場につくと、先頭の馬車からゲルンとメルシュが降りてきた。

「間に合ったか?」とゲルン。

「あれだ。少し遅かったようだな」

二台目の馬車から水軍の将、ベルトルドが降りてきて、沖合に遠ざかっていく船を指さした。

「ありゃあコートブルクの連絡船じゃないな」

「ベルトルド、おまえの船でも無理か?」

ゲルンの問いに、ベルトルドが眉をしかめる。

「あの細長い船型と帆を見ろ。あれはたぶん高速艇クリッパーだ。今からだとさすがに厳しいな」

「それでも連中の行き先を確認したい。真南ではないところを見ると、たぶんコートブルクではないみたいだしな」

ゲルンの言葉にベルトルドが頷いて、自分たちの船に向かった。


その頃、間一髪でフレーボムから離岸した高速艇クリッパーの中では、ノクトゥルナが後方を見ながら、呟く。

「追手...すごく速い。危なかった」

これを聞いてレモナが話しかける。

「ノクトゥルナ、もう追っ手がかかったのか?」

「そうみたい。明らかに私たちを追っている。でもたぶん追いつけない」

これを聞いていたアニトラが二人の会話に入ってくる。

「もう私たちに気づいて追いかけて来たってのかい? あの曲芸団にそんな素早い動きができるとは思わなかったが」

「いえ、あれは曲芸団の方ではない。海獣に船を引かせている。たぶん『山の魔王』の一味」

ノクトゥルナの答えに、アニトラが不思議そうに言う。

「わかんないわ。なんで『山の魔王の宮殿』のやつらが私たちを追ってくるの?」

「そこまではわかんないよ」


これを聞いてレモナが確認するようにノクトゥルナに聞いた。

「確認しておきたいんだけど、連中は好意的な態度ではないんだよね?」

「たぶん。殺気がある」

「ということは、向こうにも宝玉少女はいるのかい?」

こう聞かれてハッとしてノクトゥルナは、再び船を凝視した。

フードの下、前髪に隠れていたノクトゥルナの瞳に赤い光が宿り、どんどん強くなる。

「いる。まだ子供だけど、たぶんあれだ」

「そうかい、よーし」

とレモナが言うのを聞いて、アニラが制止する。

「レモナ、今はまだ止せ。あいつらの力に対して、今正面からぶつかるのはまずい」

これを聞いて、レモナが少し膨れてアニトラの方を見る。

「アニトラともあろう者がビビッたのかい? この程度の距離なら十分行って帰って」

「おやめ。聞いてなかったのかい。あの宝玉少女はもう覚醒し、魔神級の力を持っている可能性が高い」

さすがにこの言葉には沈黙してしまうレモナ。

「いかにあなたでも、異空間を通っているときに、焼き殺されるよ」


アニトラは船長の方を向き、

「聞いた通りだ。追手がかかっている。なるだけ早く頼む」

と言う。

船長は比較的若い男だったが、アニトラの意を察して船員に命令する。

次にアニトラは、レモナが持ってきた荷物を解いていく。

キャスター付きの革袋から、ころん、とブレンダが転がり出た。

だが何か薬をかがされているのか、昏々と眠っている。

「念のためだ。ノクトゥルナ、こいつの意識をもっと底深く眠らせておいてくれ」

「わかった」

と呟いて、小さなローブ姿が近づいてきて、眠っているブレンダに視線を向ける。

ブレンダの身体が震え、小さな呻き声がもれたあと、痙攣したように震える。

少ししてがっくりと、今度は眠っているというより失神しているかの如く、動かなくなり、ただ寝息がこぼれるのみ。

それを見てアニトラが続けて言う。

「キャトラに着くや否や戦闘になる可能性がある。タイスに連絡して、戦闘員を回してもらってほしい」

「うん」

こう言って、ノクトゥルナは、今度は西南の方を見て、何者かと交信をしている。

しばらくしてノクトゥルナがアニトラの方を向く。

「三人ほど回してくれるって。7番、2番、10番」

これを聞いてレモナがヒューと口笛を鳴らした。

「そいつは心強い」



ベルトルドの船は数十分遅れての出航だったが、なんとか高速艇クリッパーとの差を縮めていった。

追いつくのは無理かもしれないが、連中の上陸先ならわかりそうだ。

「もう少し近づけば、私が雷撃できるわよ」

エルゼベルトが前方を見据えながら、物騒なことを言い出す。

「いや、向こうにもブレンダが乗っているんだ。それだと船を沈めてしまいかねない」

ゲルンがこう言うと、エルゼベルトは肩をすくめて後ろを下がる。

だが、ゲルンの背後にいたニレの様子を見て、ギョッとなった。

エルゼベルトだけでなくトルカもこれに気づいて、

「ニレちゃん、どうしたの?」と尋ねる。


ニレは先行する船を眺めながら、瞳が赤く光っていたのだ。

「誰カガコノ船ノ中ヲ覗キマシタ」

それを聞いてフリーダが言った

「つまりこちらの人員を確認されたってこと?」

「タブン」

しばらく考えていたゲルンがトルカやメルシュの方を向いて言った。

「向こうに千里眼がいるとすれば、こちらのメンバー、特にニレがいるのを知られてしまったということだ」

「ニレちゃんをさらいに来る、ってこと?」

トルカが心配そうに尋ねるが、ニレは意に介さず、といった風に

「ソレハソレデ、ムシロ歓迎スベキコトデハナイカナ」

などと言っている。

「あのエギュピタスの中から簡単に攫ってしまった、と言うのは用心しておいた方が良い」

「そうね、あの誘拐の速さを思うと力押しの戦闘ではなく、何か魔術的な方法でしょうし」

フリーダがこう言った後、ゲルンがベルトルドに指示を出す。

「俺たちを下ろしたあと、エギュピタスの連中にやつらの行く先を伝えておいてくれ」

「どうやらこのままだと、キャトルの港につきそうだな」

とベルトルド。

海竜船も目的地に近づきつつあった。




キャトルの港についた高速艇クリッパーから、アニトラ達が降りていく。

ここは漁港だがオストールほど鄙びたところではなく、それなりに大型船でも利用できるくらいの広さはある。

しかしさすがにコートブルクに比べると手狭な港で、港と市街地との距離が近い。

荷下ろしをし、ブレンダが入っている革袋を引いていると、数人の出迎えがあった。


男の兵士が5人、文官が1人、そして女が3人。

そのうちの一人、暗褐色のタイツを履き、左腕に青い金属円盾を付けた短髪の女が話しかける。

「よう、アニトラ、久しぶりだな。首尾は?」

アニトラが革袋をポンポンと叩き、レモナとノクトゥルナを指さしながら言う。

「この二人のお陰でうまくいった。しかし、面倒なやつらに追撃されている」

「面倒なやつら?」

「ああ、詳細は一段落してから説明するが、どうも宝玉の力を解放した連中がまもなくここに上陸する」

「迎え撃つ準備をした方が良い」

ノクトゥルナがその短髪女の前に進み出ていった。

「あたしたちは戦闘要員とは言いかねるからね」とレモナ。

「よしわかった。アニトラとレモナは魔女姫を連れて行ってくれ。ノクトゥルナはここでそいつらを教えてほしい」

「うん。でも私も戦闘力は低いから、教えたら退散するよ」

短髪女がノクトゥルナの頭をフード越しに撫でまわしながら、

「おう、後はあたしたちにまかせときな」

と笑顔で言う。

一同、荷物を抱えて、市街地の中へと身を隠し、追撃してくる相手を迎え撃つ準備を始めた。



ほどなくして、もう一艘の船が港に近づいてきた。

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