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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【2】 開戦

港町キャトル。

大通りに面して港が眺望できる小さな宿屋に、4人の少女が声を殺して相談していた。

「ノクトゥルナ、どう? もう上陸した?」

セミロングの金髪娘が、窓から港の方を伺いつつ、傍らにいる小柄なローブに身を包んだ少女に尋ねる。

「今接岸した、あの船」

その小柄な少女ノクトゥルナが、港につけた船を指さした。


「ノクトゥルナ、あなたの見た追撃隊の情報を教えて」

金髪娘オルガナがノクトゥルナに聞き、ノクトゥルナが「昼の目」で見た追手の人員を語る。


まず、宝玉少女。

これは見た目がこどもだけど、おそらく魔神クラスの魔人を吸収していて、既に封印を解いている。極めて危険。

くれぐれも見た目にごまかされてはいけない。

次いで、魔王の血を引く若い女が一人。おそらく魔王の娘か、近親者。これも相当強そう。

そして魔剣使いの剣士、これは男。

当面手強そうなのはこの3人。

それ以外に、湾曲刀と槍を構えていた少女戦士が二人、そして魔法使いの女。

この三人は似たような年恰好。

そして初老の男と、中年の小男。この二人は剣士の仲間みたい。

戦闘員はこのあたりだと見ました。


オルガナがノクトゥルナに尋ねた。

「覚醒し、魔神級の力を持つその宝玉少女ってのが、アニトラが以前攫おうとして失敗した娘だな?」

「はい、おそらく」

すると今度はオルガナが窓の後ろにいた褐色の短髪を見て言う。

「パーヴィエ、聞いた通りよ。ここで連中を始末するのは困難みたいだから、足止めに切り替えよう」

パーヴィエと呼ばれた短髪の少女が、それに応えて言う。

「そうだな、連中の目的がよくわからんのが不安だが、宝玉少女や魔王の娘がいるんじゃ、無理はしない方がよさそうだ」

そしてノクトゥルナを見て、

「私たちにどれがその宝玉少女か教えてくれた後は、すぐにアニトラ、レモナの後を追ってくれ」

と言い、ノクトゥルナがそれを聞いて、頷いた。

終止無言だった細い目をした黒髪の少女ポーラ・ヴィクが

「それじゃ、逃げる時の算段もしておかないとね」

と言って、4人は締め切った暗がりの中で、計画を練る。


船から上陸した一団が、港に現れる。

ノクトゥルナが窓から隠れるようにして、一人ひとりを指さしながら伝える。

「あれが宝玉少女、あれが魔王の娘、あれが魔剣使いの剣士...」

「よし、それで大丈夫だ。おまえはアニトラ達を追ってくれ」とパーヴィエ。

「うん、無理をしないでね」

ノクトゥルナはそう言って、その宿屋から気づかれることなく抜け出していった。



キャトルの港に上陸したゲルン達は、港に繋がっている大通りの前に姿を現す。

「それじゃ、ベルトルド、戻ったらエギュピタスに伝えてくれ」

と言って、海竜船の船長に別れを告げた。


「さて、それじゃ私たちは調査開始ですね」

ルルがそう言ってゲルンの前に出ようとしたとき、一行の前に一人の少女が立ちふさがった。

女性としてはやや長身だが、男性に比べると少し背が高いと言った程度。

ゲルンやメルシュほどの高さではない。

茶色に近い褐色の頭髪が短く刈り込まれていて、シルエットだけなら男子とも見えた。

だがさらに大柄だったレモナと違い、ことさら目立つ色の衣装ではなく、灰色に近い青黒い戦士服で、袖口は腕にぴったりと張り付いている。

脚部もパンツルックではあるのだが、それほどラインが際立っていることもなく、ふくらみも少し取っている。

いかにも動きやすそうな、いでたち。

そして右手に長い金属棒、恐らくは錫杖を握りしめて、ゲルンとルルの前に立ちふさがった。


「なんだ、おまえは?」

ルルがそう言って警戒すると、

「宝玉を身に入れた少女と、その一味だな」

短髪女が笑うような表情で尋ねた。

「何?」

ルルは警戒の色を見せて後ろに飛びのき、ゲルンも剣の柄に手をかけたまま、この女を凝視する。

トルカ、エルゼベルト達もこれに気づいて、ゲルンの背後で抜刀の姿勢をとる。


パーヴィエは、錫杖をドンと地面にたたきつけて

「悪いが、ここから先へは行けないよ」

そう言って、口中で何やら呪文の詠唱を始めた。

するとパーヴィエから金色の光が立ち起こり、パーヴィエのからだを包んでいく。

(これは、何かの攻撃シグナル?)

ゲルンがそう考え、一瞬反応が遅れたその時、背後からルルが突っ込んでいった。


ルルはゲルンの前に短髪女が現われた時、直感的には「敵だ!」と感じた。

しかしゲルンは動かない。

まさか確信が持てないのか? いや、剣士様に限ってそんなことはない。

恐らく、目の前の相手が敵だと認識はしているはず。

ひょっとすると説得の可能性を考えているのか?

そんなことが脳内を一瞬の間に駆け巡る。

次の刹那、その女が錫杖を立てて、詠唱を始めた。

(こちらの言を待たずに攻撃をしてくるつもりだ)

直感がルルを動かした。

ゲルンと短髪女との間にはまだ少し距離がある。

そうするとゲルンの魔剣より、自分の槍の方が有利だ。

そう考えて、金色に光り始めた短髪女に、槍を構えて突進した。

相手の胸元に、槍が命中!

串刺しにした!

そう思った瞬間。

ルルのからだは跳ね返され、背後にあった貿易商の穀物袋の中に叩き返された。


槍は確かに短髪女をとらえたと思った。

剣の届かない位置にいるのなら、槍を持った自分が適任のはず。

その考えに間違いはなかったのだが。

立ち上がろうとするルルの腹部に、強い痛みが襲ってきた、

呼吸するのも辛くなり、穀物袋の中から起き上がると同時に、膝をついてしまった。


「こちらに準備時間を与えてくれないとはねぇ」

パーヴィエはニヤニヤ笑いながら、成人の一倍半はあろうかという錫杖をくるくる回しながら、再び構え直す。

ゲルンのその錫杖の素早い動きを見ていた。

ルルが槍を構えて突っ込んでいくと、パーヴィエが半身に反らしてその穂先を躱す。

それと同時に、片腕で錫杖を構え直して、ルルの鳩尾におみまいしたのだ。

錫杖の先端を基点にして、ルルが反対側に吹っ飛ばされる。

(見事な反射神経だ)

とゲルンは考え、剣を構えた。

すぐさまルルの元に駆け寄りたかったが、そんな猶予を許してくれる相手ではない。

そう思い、ゲルンもまた正眼に構え、パーヴィエと向き合った。


一方パーヴィエの方も、槍を掲げて突っ込んでくる褐色娘には、詠唱中ではあったが対応できた。

確かに素早かったが、それだけにスキもあったからだ。

加えて槍の穂先もまっすぐで、変化を考えなくても良かったため、不意を突かれたが対処としては十分だった。

しかしこれを見て、恐らくノクトゥルナが「警戒すべき」と言っていた魔剣士が、まったくスキを見せずに、構え直している。

ルルを吹っ飛ばしたあと、二の矢、三の矢、とばかりに打ち返していくつもりだったが、ここで動きが止まる。

(なるほど、かなりの腕だ)

そう考えて、今度は詠唱による身体強化、剛力化で対応しようとする。

パーヴィエの全身に、再び金色の光が立ち込めてきた。


ゲルンの背後では、トルカとフリーダがルルの元へ駆け寄り、介抱する。

命に別状はなさそうだったが、鳩尾に深い打撃をくらって、ルルがぜえぜえと息を吐いている。

これを見て怒りに燃えるトルカが湾曲刀を抜き、短髪女の方へ向かっていこうとしたとき

「あぶない!」と言って、エルゼベルトが後ろからトルカを押し倒した。

「エレゼ、何すんのよ」

トルカが地面に伏せながらエルゼベルトの方を見ると、彼女は背後にある港湾倉庫の壁を指さした。

そこには何か、空気の渦のようなものが巻いてい、しばらくすると、その壁に穴があけられていることがわかった。

「え?」トルカが驚いてエルゼベルトの顔を見ると、

「風魔術よ、おそらく風弾」

そう言って、短髪女の後ろから出てきた短髪女よりは少し小柄な金髪娘に目を向けた。


「すごいのね。不意を突いたつもりだったんだけど」

そう言ってその金髪少女オルガナは、枯れ木の枝を右手でいじりながら近づいてくる。

その小枝をくるくる回しながら、「それ」と言って、また風を打ち付けてきた。

風弾は空気を凝縮して圧力で吹き飛ばす技だが、オルガナのそれはほとんど弾丸のような速さと強さを維持していた。

音もなく、その風弾がエルゼベルトの頬をかすめていく。

「フリーダ、あなたはルルの介抱をお願い」

エルゼベルトがフリーダに声をかける。

フリーダがその声を受けて、ルルに治癒術をかけようとしたとき、ニレがフリーダとザックハー、メルシュに向かって言った。

「三人ダ。モウ一人イル」

「フリーダ、あなたは負傷者を頼みます。あの二人はエルゼベルト姫と剣士様にまかせて、我々でアレに対処します」

トルカが立ち上がり、湾曲刀を構え直した。


三人目の少女ポーラ・ヴィクは、何もしゃべらずにゆっくりと迫ってきた。

表情をまったく出さず、両手を水平に上げると、その腕から紐のようなものが空中に舞い始める。

紐に見えたそれは、空中で舞い始めると横幅を増し、布帯であることがわかる。

しかしその布は、まるで意識を持った動物のように地面に達すると、あらたにヒトガタとなって立ち上がった。


その布が空を駆る勢いでニレ達に迫ってきた。

瞬く間にニレがその布につかまり、巻き込まれていく。

「ニレちゃん!」

トルカがそちらへ近寄ろうとするが、布人間に阻まれて、進めない。

湾曲刀を振り、布を切り裂いていくが、すぐさま布同士が絡みつき再生し、またもとの布人間に戻っていく。

ザックハーが胸衣を開いて白い吸血鬼を出そうとしたが、それより速く、全身を布に包まれてしまい身動きがとれない。

メルシュも同様に、足を取られてしまい、徐々に布に包まれていく。


「ミンナ、離レテ」

ニレの声がトルカ達に届いた。するとニレを包んでいた布の塊が、ふわり、と空中に浮く。

トルカはニレの意図を理解して、身動きがとれなくなっていたメルシュを引っ張りながら遠ざかる。

ポーラがそれを見逃すはずもなく、そちらに布を放とうとしたとき。

ニレの布玉が空中で煙を上げ始めた。

やがてその布玉から炎がこぼれ始め、そして全体に及ぶ。

ニレを包み込んでいた布玉が炎の球体になり、布だったものがボロボロ炭化しておちてくる。

そしてその中から、魔焔公の力を解き放ったニレが現われた。

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