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いつもの見切り発車…
月が欲しいとねだった私に、貴方は蔑んで欲深いねといった。
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「おはようございます。セリシア様」
「神の恵みを、セリシア様」
「ごきげんよう、皆さまに神のご加護があらんことを」
聖シグリア皇国における第1級聖教会に認可されている聖セリシアの生まれ変わりの彼女を一目見ようと今日も大勢の信者が教会を訪れていた。
艶やかな黒髪と洗練された微笑みに誰もが見惚れた。
何と言ってもかつてこの世が悪に滅ぼされそうになったとき救ったかの聖女の生まれ変わりのセリシア。そのうちからにじみ出る聖なるオーラに誰もが知らずに膝をおり祈りをささげていた。
祈りをささげ終え、帰っていく彼らを見送った聖女はその微笑みを一瞬のうちにゆがめた。
「かったるい。何がごきげんようよ?こんな生活ありえないんだけど」
静まり返った教会で私は毒を吐いた。
もともと私は私生児だった。生れ落ちて捨てられてシスターになるしか道がなくて、気が付いたら聖女まで上り詰めた。
だが、この私を聖女の生まれ変わりとあがめるこの国の上層部も教会も民衆たちにもほどほどあきれる。聖女セリシアと同じ顔で同じ名前…それくらいしか類似点はない。
だが何よりも私が聖女セリシアの生まれ変わりでないことは私自身が一番に理解している
唐突だが、私には前世の記憶がある。
もちろん聖女セリシアだった前世ではない。
どこの世界かまではわからないけれど、そこで生きていた私はまさに世界は私を中心に動いていたといっても過言ではなかった。
恵まれた家柄・美貌まさに私に手に入らないものはなかった。
好き勝手生きてきた。蔭では蔑まれようともそんなことどうでもよかった。
そんな私に神は嫉妬したのか…最後は旦那の愛人に階段から突き落とされて死んだ。
あの女は地獄に落ちればいい。
何はともあれそんな私はこの現状に納得がいかないのだ。
今はまだ本性を出さずめんどくさい聖女の役をしているが、そろそろ王か貴族の愛人にでもなって悠々自適な生活を手に入れたいもの。
前世が聖女だった?何の冗談、我儘や強欲やらなんやらと悪女・悪妻といわれていた私が聖女なんて何の罰ゲーム。
そろそろ、自由に生きたっていいでしょう?
「そうはいきませんよ。セリシア様、聖女は聖女らしくしていてくださいね」
後ろに控えていたお目付け役の聖騎士、クロードはあきれたように私に忠告してきやがった。