第15話 浮浪者ガチャ
父は母を殺し、父を僕が殺した。
両親を失って、僕は犯罪奴隷に落とされた。
最悪の境遇から一転、光明が見えた今があるのは間違いなく目の前にいる仲間達のおかげだ。
いや、この瞬間からは仲間以上の存在、家族である。
同じ道を歩むと決めたその家族に、僕は今後の計画を述べる。
この国の裏社会で一から勢力を築くより、既存の勢力を壊滅させて乗っ取る方が簡単だ。
最初のターゲットは【狂狼】。
ヒュドラも一目置いているらしい武闘派集団。
戦闘系の異能所有者が多く在籍していそうだ。彼らを潰せば、手っ取り早く力が得られる。
「まずは【狂狼】から滅ぼす」
異論はないか確認の意味を込めて見渡すと、セオドアがおずおずと手を挙げた。
「正面から、やり合うのは、その、厳しいんじゃ? 俺は、戦いとなると、ダメダメだし……」
「セオドア、自分を卑下しない方がいい。適材適所という言葉はまさに君のためにあると僕は思う」
六等級のクラフトの異能。その才を遺憾なく発揮するには舞台が整っていないだけだ。
まずは彼のための工房を作るべきだろう。
「とは言え、その疑問は最もだね。ワイルは戦力として数える気はないから、僕達五人で犯罪組織に立ち向かわなければならない。普通に考えて、僕らがいくら優秀でも数の暴力には勝てない」
「じゃあどうするのよ」
「……簡単だよ。僕達でも勝てる状況に持ち込めば良い。つまりは戦力を潰し合わせるんだ。折角王都には主要な犯罪組織が四つもあるんだからね」
僕はくすりと微笑み、ワイルがコップに注いでくれた水で喉を潤した。
だから魔鼠には全員を食べるなと伝えておいたのだ。
「……な、なるほど。ワイルさんの仲間達を、抗争の引き金として使うん、だね?」
「そういう事か」
「……セオドアはともかくジーラン。貴方、本当に分かってるの? 脳みそまで筋肉のくせに」
「そういうお前はどうなんだよ」
「失礼ね! 私は全て分かっているわ、何でもお見通しなのよ、貴方と違って頭が良いから」
「ほう、じゃあ今俺が履いてるパンツの色を言ってみろ」
「いや、知るわけないし知りたくもないわ!」
僕は二人のやり取りに笑ってしまった。彼らの年相応な面が見れて勝手に嬉しくなったのだ。
素が見れるのは、心を許している証拠だから。
「抗争は今夜から始めさせる。その間、僕達はゆっくり休みながら決戦に向けて戦力を高めたい」
「……誰か仲間に勧誘するのかしら?」
「いや、仲間にはしない。ただホームレスに金を恵んで、テイムさせてもらうだけだ」
僕の目的は異能だけ。
死蔵されている眠った才能を発掘して、僕達が有効的に使ってあげるのだ。
早速、僕とジーランは昼過ぎの太陽が高い時間帯にスラム街に繰り出した。
今から楽しい楽しいガチャの時間だ。浮浪者ガチャ。
ちなみにレムリアはお昼寝中で、フリッカは汚れるのが嫌らしくてお留守番だ。セオドアは現状の宿屋跡に併設する形で簡易的に鍛冶場を作るらしい。
まず表街の鍛冶屋にワイルと一緒に行って、設備や内装を見てくるそうだ。
戦闘力が低いワイルと一緒に行かせるのは不安だが、襲われたら思念で知らせる事ができるし、僕がセオドアにあらゆる異能を付与すれば良い。
護身対策を考えているうちに、目的地に到着した。周囲にはテントやボロボロの小屋が並んでいる。
「――さあ、皆さん集まって下さいっ」
僕は手を叩きながら、空き地に不法滞在している浮浪者達の気を惹くように声を張り上げた。
ジーランが金がはち切れそうなほど詰まった頭陀袋を地面に下ろすと、盛大に金属同士が擦れ合う音が鳴る。
紐を緩め、中から僕は金貨を一枚取り出した。直ぐに目の色を変えたスラム民達が集まってくる。
「僕の力を受け入れてくれた人には、金貨一枚を贈呈します」
「な、なんでもするッ、何でもするぞ坊主!」
「お、俺もだっ、俺もやる!」
金貨一枚は一万ゴールド。節約すればホームレスなら一ヶ月は凌げる大金だ。
空き地にいた二十人弱が手を挙げた。
僕はジーランと顔を見合わせ、笑い合う。
「おい、坊主。力を受け入れるってどういう事だ?」
汚い髭面に歯が欠けた浮浪者が近寄って尋ねてくる。
僕は彼に手を翳し、
「説明するより、体験した方が早いですよ。テイム」
唱えると、赤い光が身体を覆い始める。
「な、なんだ、これ!? お、俺に何をしたんだッ」
「害は何もありません。ただ抵抗せずにいてくれたら、金貨が貰えます。金貨ですよ、皆さん」
金貨を強調すると、男は不承不承ながら頷いた。赤い光は無事、全身を覆って消えた。
テイム成功。
幸先が良い事に、彼は異能を持っていた。二等級の釣りの異能だ。
今のところ別に要らないから奪う必要はないかな。
「はい、金貨です。ありがとうございました、おじさん」
「……え、これだけ? これだけでいいのか、坊主?」
手の上に乗せた金貨に、男は呆けた表情で固まった。
「おい、お前さん、身体は何ともないのか!?」
「あ、ああ。なんともねえよ。痛くも痒くもねえ」
その宣言で、不安が一掃されたのか次は俺だと浮浪者達が押し寄せてきた。
臭くて鼻をつまみたくなるが我慢だ。彼らは今後必要になるかもしれない。僕は今テイムした相手にアドバイスを送った。
「あ、先ほどの方! 釣りの才能があるので、釣りした方が良いですよ! あと皆さん押さないで下さいッ、順番にしますから! 一列に並んで下さい」
見かねたジーランが地面を殴り拳でクレーターを作ると、浮浪者達は驚くほど静かになった。
僕はジーランに礼を言った後、浮浪者達を笑顔でテイムしていく。
残念ながら、ほとんどが異能持ちではなかった。
まあそもそも何か突出した才能があれば、こんな所にはいないかもしれない。
二十四人テイムして、異能持ちは三人だけだった。ガチャにして約12%の確率で、その三人の中で戦闘系に使えそうな異能持ちは一人だけだった。
つまりウルトラレアという名の異能持ちは約4%。
「……ウルトラレアは言い過ぎか。一等級の俊足の異能だからねえ」
「良いじゃねえか。どのくらい変わるか知りてえ。それ、俺にくれよ」
「分かった。いいよ」
まだ二十四連しか回していない。他の場所に行って、片っ端から浮浪者に声をかけてみる事にした。
まだまだ浮浪者ガチャは始まったばかりだ。




