第14話 仲間から家族に
肝心のステーキは絶品だった。
焼き加減はミディアムレアで、噛むと溶けるように柔らかくそれでいて噛みごたえもあって、肉汁とソースの旨味が口の中いっぱいに広がる。
肉の質が良いのか、下処理や焼き加減が最適だったのか。またはその両方か。
仲間達は絶賛の嵐である。
フリッカでさえまあまあねと彼女にしては珍しく素直に称え、ジーランは追加でステーキを二枚、レムリアは四枚平らげた。
「な、なんだ……力が湧いてくるぞ!」
「ん。元気いっぱい」
「……そうね、私も今ならいくらでも魔法が使えそう」
「わ、ワイルさんが……作ってくれた、おかげ、かな?」
どうやらワイルの料理には一種のバフのような効果があるらしい。流石は四等級の調理の異能だ。ただ料理が美味いだけではなく、食べる事で様々な効果がつくのだろう。
「あんたやるじゃない。正式なコックにしてあげてもいいわ」
「……美味かったぞ」
「満足した」
「お、俺もこんな美味しい料理、初めて、でした」
礼を受け取ったワイルは呆然としながら己の手を見つめた。
それから最後に僕に双眸が向く。
「君の才能は本物だ。美味かったよ」
そう断言すると、ワイルはポロポロと涙を溢した。
「お、俺……戦争で両親が死んでから、スラム街に住む事になってっ……生きるために、悪い事もしてっ……組織に入っても、何やっても上手くいかなくてっ……無能って……ずっとずっと言われてきたっす……」
ワイルは溢れ出る気持ちを我慢できなかったのか、目元を腕で擦りながら、
「でもこんな俺にも……人を傷つける才能じゃ、なくって……喜んでもらえる才能が……あったんすねッ……」
彼の独白に感じ入るものがあったのか、皆茶化したりせずに黙り込む。
「……その才能を活かして、いずれは店を出すのも良い」
表向きは高級レストランで、VIPルームに案内する客からは危ない仕事も請け負う。そういうのかっこいいよね。ゆくゆくはそうしていきたい。
折角前世の記憶があるので、様々な料理を彼に再現してもらい、店の売りにするのも面白い。儲けられそうだし、僕の食欲も満たせる。一石二鳥だ。
食事もひと段落して、僕は円形のテーブル席の椅子から立ち上がって注目を引く。
「皆、聞いて欲しい。今、僕は幸せを感じている。心を許せる仲間と、楽しく美味い食事ができている。だがこの時間は夢だ。いつかは覚める夢。いずれ金は尽きて、毎日この暮らしを続けてはいけなくなる、もし続けていきたいなら、僕達はこの裏社会でのし上がって行く必要がある」
仲間達の顔つきが変わって、徐々に真剣さを帯びてきた。僕は彼ら一人一人と目を合わせながら続ける。
「その上で、僕は自分の異能の全てを君達に伝える事にした。能力を教えるのは、君達を信頼しているからだ。最低の奴隷の身分から、皆で一緒に抜け出した。血縁以上に信頼できる。僕は勝手に君達を家族だと思ってる」
「……家族……」
「血縁以上……」
「裏切りはない絶対の絆。だから教えるんだ」
念を押した僕に、照れ臭そうに鼻の下を擦ったジーランが尋ねた。
「テイムだろ、ウィルべル。お前の能力は。改めて言わなくても――」
僕はそよ風を生み出した。
室内で無風のはずなのに、急に風が吹いてワイル以外の面々が目を丸くする。
「なんだ、その力は……」
「ウィルベル、貴方風魔法も使えるの? でもおかしいわよッ、異能はテイムのはずでしょ?」
何気に初めてフリッカが僕を名前呼びしてくれた。
「凄い、ウィルベル」
「ふ、二つも異能を……?」
「いや、セオドア。違うんだ。この風魔法は昨日、僕達に絡んできたチンピラの一人が宿していた異能だ。僕は人間もテイムできて、テイムした人間の異能を没収し、その分を自分に対して付与できるんだ」
「お、おいおい、そんなの反則じゃねえか……! 最強の異能だろッ」
「ああ、そうなれるかもしれない。そして没収した異能は、僕だけじゃなくテイムした別の人間にも付与できるんだ」
実はこの検証は、既にワイルで試した。買い出しに行かせたとき、護身用として風魔法を付与したのだ。
僕の期待通り、問題なくワイルは風を操れた。
「最強になれるのは僕だけじゃない。つまりテイムした人間達も一緒になれるという事だ。ここまで言えば分かるね?」
「う、うん。ウィルベルくんはお、俺たちを……」
「テイムさせろって事ね?」
セオドアとフリッカに頷く。
「裏を返せばお前は、俺達から力を奪えるって事だ」
「ん、いつでも、好きな時に」
ジーランとレムリアの懸念に僕は首を縦に振った。
「でも僕はそんな事はしない。しても意味がない。一人では何もできないんだから。受け入れてくれたら、僕達は本当の意味で家族になる。血縁を超えた絆を結ぶんだ」
だから僕を受け入れて欲しい。
彼ら四人には強制しない。僕を信じて欲しい。僕と家族になって欲しい。
それは紛れもない、僕の本心だ。
天涯孤独の僕に、ぬくもりをもう一度与えて欲しい。
「頼むよ、皆」
彼らしかいない。
ひたすら真摯に頼み込む。
「――お、俺は、いい、よ」
最初に答えてくれたのはセオドアだった。
「……もう、俺に、家族はいな、い。ウィルベルくんが、そうなってくれるなら、俺は凄く嬉しい」
「……私もよ。下民にしては見所がある奴だし。特別待遇で、フリッカと呼び捨てにする事を許可してあげる」
フリッカも肯定してくれた。でもごめん、許可する前から呼び捨てにしていた。
「……ま、俺が望むのは強者との戦いだ。より強くなれるなら、俺はお前に従おう」
ジーランは力強い瞳で真っ直ぐ僕を捉えた。
彼の望みに必ず応えてみせる。
「ありがとう。だが、これは五分と五分。あくまで僕達は対等だよ。家族に上も下もないのと同じでね」
最後にレムリアも、
「レムも別に良い。その代わり、レムの世話いっぱい焼いて。いっぱい構って」
「勿論さ」
承諾してくれた。
今日は素晴らしい一日だ。
「僕達が裏社会を支配するんだ。四大勢力も貴族も寄せ付けない、大きな力に共になろう」
僕はそう呟き、テイムを発動した。
赤い光の膜が一瞬、四人全員を包んでから何事もなかったように消えた。




