第13話 約束のステーキ
テイムの真価を理解してから一夜明けて。
二階にある客室のベッドで僕は起床した。
久しぶりに熟睡できた気がする。
自らの手を天井に伸ばし、それから首を触る。
重かった手錠や首輪はもうついていない。昨夜の出来事は夢ではなかったようだ。
それに安堵しながら僕は身支度を整え、木製の階段を下って一階に降りた。
「やあ、皆。おはよう」
「あ、お、おはよう。ウィルベルくん」
「主人より遅く起きるなんて、なってないわね。下民」
「ウィルベル、起きやがったな」
「お、おはようございますっす!」
レムリア以外の仲間達は起きていた。カウンターの椅子や置いてあるソファなど好きな場所でくつろいでいる。
昨日のうちにフリッカとセオドアにはワイルの事は紹介してある。
ジーランはその二人から説明されたようだ。ワイルはてきぱきと酒場の床を掃除している。
「セオドアからちらっと聞いたが、ウィルベル。コイツ本当に調理の異能持ちなのか?」
「うん。だと思う」
「なんで分かったんだ。お前テイムの異能持ちだろうが」
「テイムしたら、なんとテイムした人間の異能が分かったんだよ」
八等級以上だから、できてもおかしくはない。そういうものかと、ジーランは納得したようだ。
「人もテイムできて、更に鑑定要らずか。便利じゃねえか。それで、昨日の雑魚どもはどうした?」
「魔鼠が見張ってる。情報は色々引き出し中だよ」
僕はカウンターの椅子に座り、
「裏社会の勢力図なんかも知れた。その上でこれからの僕達の方針を決めたいと思う。ただその前に、まずワイルの異能が本当に調理かどうか確かめてみたくはないか?」
空腹を訴える自身の腹を僕は撫でた。
「飯屋には行かねえのか? コイツの腕を信じるってのか?」
「食堂に行っても良いけど、多分四等級の調理の異能を持ってる人間は貴族が雇ってる専属のコックとかしかいないんじゃないかな」
「私は賛成よ! 新たなコックの出来を私が見極めるわ!」
「う、うん。ここ、なら騒げるし……奴隷から抜け出せた、記念で、盛大にパーティ、しない?」
「……なら、そうするか。よし、ワイル、てめえは肉を大量に買ってこい」
ジーランの命令に、愛想笑いを浮かべたワイルはおどおどと僕に視線を向ける。
思念で行けと伝えると、彼は慌てて金を持ち酒場を出て行った。
僕達はその間、協力して汚れているキッチンを掃除する。
買い物をしに行ったワイルが袋に大量に肉を入れて帰ってきたのは、それから一時間程経った後である。
表街の方まで一人で行って帰ってくるのは大変だったろう。へとへとのようだが、これからが本番だ。
お昼時が近づいたことでようやくレムリアも起きてきて、円形のテーブル席に座って足をブラブラ揺らしている。
「ふんふんふ〜ん」
首もリズミカルに振って非常に楽しみなようだ。
「さて、作り方は僕が説明するから、調理は君がするんだ」
「わ、わかりましたっす。で、でも料理なんか俺、初めてなんすけど、本当に俺に異能なんかあるんすかね?」
「いいから始めて」
紐を解き、油紙に包まれた塊肉をまな板の上に乗せる。
ワイルが緊張しながら牛のブロック肉をナイフで切り分けていく。
酒場の包丁は予めセオドアが研いでくれたようで、切れ味は抜群だ。
牛ロース、それもリブ側ではなくサーロインの部分を買って来させた。脂身と赤身のコントラストが素晴らしい霜降り肉だ。
「ワクワク」
待ちきれず、キッチンにレムリアが入ってきた。
「……お前本当に初めてか?」
「そ、そのはずっすけど……」
ジーランがカウンターから身を乗り出してキッチンを覗き見る。
確かに初めてなのに、驚くほど均等で綺麗にスライスできている。
スイッチを押すと火が点く魔導コンロは壊れていたので、フリッカが魔法で点火してその上にフライパンを置いた。
香ばしい匂いが部屋に立ち込める。
「な、なんか、食材の声? が聞こえるっす……もうそろ反対側焼いた方が良い気がしまっす」
「食材の声……何それ」
勿論、僕は聞こえない。
ワイルは軽快な動作で肉をひっくり返した。
トングで肉を軽く触り、肉の弾力を確かめてうんと頷く。
僕は指示をするのを忘れて見守る事にした。
結果的に出来上がったのは、前世のレストランで出てくる品とさして変わらないものだった。
鉄板の下に玉ねぎが敷き詰められ、その上に迫力あるステーキが乗っている。味付けはガーリックソースで、香ばしい匂いが部屋全体に立ち込めていた。
予めこの宿屋跡にあった食料で卵サラダを作り、パンをお供に僕達五人の前にステーキは提供された。
「……初めて調理したっすから、あ、味の保証はできないすけど……」
僕は異能の凄まじさを実感した。
初挑戦、見様見真似ながら熟練者のような調理技術を既に持っている。
歩く事や話す事のように、できるのが当たり前のような感覚なのだろう。
僕以外の面々は、不安そうにしているワイルにお構いなしにステーキに夢中のようだ。
「……ありがと。ウィルベル」
レムリアが何故か僕に礼を言った。
「いや、作ったのはワイルだから」
「でも見つけたのはウィルベル。約束を守ったのもウィルベル。ここまで連れてきたのもウィルべル」
だからありがとうと、レムリアは涎を垂らしながら幸せそうに微笑んだ。




