第11話 テイムの真価
長くて激しい一日だった。振り返るとそう思う。
奴隷商館を焼き払い、逃げ出したその足で闇市に行き、金目当てに尾行してきた男達を痛めつけた。
そのおかげで、僕達はようやく落ち着ける場所を見つける事ができた。
ここはスラム街にあった宿屋跡。家具がそのまま残されていて、一階は酒場で二階と三階が客室になっている。
この宿屋跡は僕達を襲ってきたヒュドラの面々が使っていた住まいだ。人が使っていただけあって、状態は悪くない。食料や水も結構溜め込んでいた。
欠点は全体的に煙草臭い事くらいだ。まあそれくらいは我慢できる。
酒場を見回すと仲間達は各々自由にしていた。セオドアはチンピラが持っていた武器を床に並べて、物によっては分解したりしていた。
カウンターの椅子に座ったフリッカは自らの指に嵌まる二つ目の魔瘴石の指輪に見惚れている。
レムリアは疲れたのか先に客室で寝ているはずだ。
ジーランも同様。
僕は酒場にいる二人に程々にして休むように告げ、外に出た。
アーチ型の木製扉の前には魔鼠が身体を丸くしている。
更にその横にはチンピラ十二人が手足を縄で縛られた状態で転がっている。
様子は様々で、魔鼠に怯えてガタガタと身体を震わせている者や、フリッカの魔法で全身に酷い火傷を負ってぐったりしている者、ジーランや魔鼠に蹂躙された痛みを我慢しながら、僕を睨んでくる人もいる。
とは言え、微塵も罪悪感は感じない。
僕は見張ってくれている魔鼠を撫でながら礼を言い、男達を見下ろす。
「……貴方方には実験に付き合ってもらいます。命が惜しければ、僕のテイムを受け入れて欲しい」
「……馬鹿か、ガキ。テイムの異能で人がテイムできるはずねえだろうが……いいから俺たちを解放しろ!」
腕に多頭の蛇の刺青を入れた坊主頭の青年が怒鳴った。
僕は魔鼠の毛並みに手を置く。
意図を汲んだ魔鼠は尻尾を高速で地面に叩きつけた。刹那、爆発でもしたように盛大に土煙が上がる。
坊主頭の青年は怯えたように首をすくめた。
「……僕の力を疑う必要はない。できるものはできるんだから。拒否したら魔鼠が食い殺す。いいね?」
そう脅してから、僕は一人一人にテイムを発動した。
奴隷商館では傭兵のラズに拒否された。テイムを受け入れるかどうかはテイム対象の意思に依ると考えられる。
その考え通り、無事全員テイムできた。赤い光が全身を包んで消える。
これでテイムはある程度の関係性を構築するか、脅して強制すれば人間もテイムできる事が確定した。
「な、なんだ……妙な安心感が……」
「……頭の中に突然、声が聞こえるぞッ」
「……ルードさん。これ人もテイムできてるって事すか?」
「……等級が高いのかもな。ガキ、お前の力は、ひょっとするとヒュドラに利益をもたらすかもしれねえ。これが最後の忠告だ。俺たちを解放して、一緒にアジトに来るんだ」
だが、テイムしたからと言って敵対感情が消えるわけではないようだ。
洗脳とは違う。脅してテイムの受け入れを強制できるが、敵意はそのまま残ってしまう。
つまりテイムした相手は僕を普通に害する事ができる。
「ふむふむ、分かってきたぞ。この力が」
それから彼らの文句を無視して、僕はまだできる事を探す。
等級が高いと、異能はより強力になる。まだあるはずだ。絶対秘められた力があるはず。
目を閉じてテイムした相手の精神との繋がり注意深く探ると、見えたものがあった。
「ねえ、君……四等級の調理の異能を持ってるよッ」
僕が指名したのは、チンピラ達の中で最年少の人物。年齢としては十五、六歳で、ダークブラウンの長髪をマンバンヘアにまとめた少年だ。
「へ? お、俺っすか?」
「嘘つくな、鑑定士でもないくせに。そいつは何やらせてもダメな無能のワイル。異能持ちなわけがない。靴磨きすら碌にできず、幹部のローゼンさんを怒らせる始末だ」
どうやら名前はワイルと言うらしい。彼は口を開けたまま呆けた表情で固まっている。
次に僕はぺらぺら喋る坊主頭を指名した。
「それから坊主頭。君は剛力の異能持ちだ。ただ一等級だね。怪力の異能の下位互換で、更に等級も圧倒的に低いとなると……」
君の方が無能だ。そう告げると、彼は顔を真っ赤にし始めた。怒ったようだが、怒鳴り散らさないのは魔鼠を気にしているからだろう。
事実としてワイルの方が圧倒的に役に立つ。彼はどうにか説得してヒュドラを抜けさせ、コックとして迎え入れよう。
「……それから金髪に鼻ピアスの君。君は何と二等級の風魔法を使えるようだ。僕達と戦った時、この力を君は使わなかったようだが……いや、使えるかどうかも分からなかったんだね」
鑑定しなければ、使えるかなんて分かるわけがない。
「魔法って、あの魔法……お、俺、使えるのか……?」
「ドラス。なら今すぐ魔法を使え! この縄を切れ!」
坊主頭が叫んだ。
金髪鼻ピアスが目を白黒させながら頷いた。
閉眼して、眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべる。
今、風を操ろうと必死に念じたり想像力を働かせたりしているのかもしれない。
だが残念ながら、もう風魔法は発動できない。
「もう無理だよ。君の力は……僕が頂いたから」
僕はこみ上げる笑いを我慢できなかった。手を上げて、勢いよく振り下ろす。
その手刀の延長線上にあった瓦礫に風の刃がぶつかった。今、何が起きたのかチンピラ達は分からず、時間でも止められたように静止している。
僕は自らのテイムの真価を理解した。
テイムした対象の異能は、どうやら《《奪取して付与できる》》らしい。




