第十三章 再来
六月。大阪に再び梅雨が近づいた。
二人の告白を断った夏から、十か月ほどが経っていた。
田中とは同期として普通に話すようになっていた。以前よりむしろ仕事の議論は遠慮がなくなった。田中は美月の案に反対し、美月は田中の見積もりを容赦なく直す。
佐藤とはプロジェクトが終わったあと接点が減った。それでも廊下で会えば話し、困ったときには相談できる先輩のままだった。
二人とも、去年の告白を蒸し返さなかった。
そのことが、美月には大きかった。
ある金曜、田中からメッセージが来た。
〈久しぶりに二人で飲まへん? 嫌なら全然気にせんで。去年みたいにみんなでもええ〉
美月は少し笑った。
去年と変わらず、彼はまだ確認している。
〈二人でいいよ〉
送ると、数秒後に〈まじで〉と返ってきた。
週明け、社内で佐藤と会った。
「水野さん、去年の秋の案件、社内表彰の候補に挙がったんだって?」
「なんとか」
「おめでとう。よく頑張ったね」
「ありがとうございます」
佐藤は少し迷ってから言った。
「もし差し支えなければ、今度食事でもどうだろう。お祝いという名目で。もちろん仕事とは切り離して」
去年なら、心臓が速くなっただろう。
今の美月は、自分の気持ちを確かめた。
佐藤と話したい。田中とも話したい。
怖いからではなく、知りたいから会う。
「ぜひ」
答えると、佐藤は穏やかに笑った。
二つの誘いが重なったのは偶然だ、と美月は思うことにした。
偶然でなかったとしても、判断の中心に置くのは自分の気持ちだ。そう言い聞かせないと、すぐ見失いそうだった。
その夜、ベランダに出ると、遠くで雷が光った。
湿った風の匂いは一年前と同じだった。
でも、美月はもう、雨が来ることを怖いとは思わなかった。




