7.Incomprehensible/合コン…ですか
「頼む佐山!
一日だけでいいから、メン参に協力してくれっ!!」
「そう言われてもなぁ……」
大学で二限目の講義が終わった直後のこと。
友達の神原が俺に突如として面倒事を頼み込んできた。
「僕は合コンとか興味無いし、別に彼女が欲しいとかそういうのもないからなぁ…」
「そこをなんとかっ!
三人メンバー必要なんだけど、一人が用事で行けなくなったっていきなりドタキャンしたからさ…!
明後日だから急なのも分かるけど、どうか埋め合わせでいいから出て欲しいんだよ!
近くの女子大の三人で一人は俺と知り合いだからさ!」
「…と言われても……」
友達の頼みと言えど、合コンとなれば少しわけも違ってくる。
ましてや、僕には涼が……。
「頼むよぉ。
他のやつだとヤリ目とかばっかだからさぁ……出来ればそういうのは控えた普通に楽しい合コンにしたいからさ!」
「……普通に?」
「おぉよ!
佐山ってあんま下ネタとか話さないし、むっつりって感じも無さそうだからさぁ……お前を見込んでの頼みだ!」
…そこまで言われては……なんだか可哀想に思えてきた。
「仕方ないな。
その代わり、二次会とかは僕は行かないからね」
「ほんとかっ!?
ありがとぉぉ心友…!」
「ここともって……」
「親友」ならともかく、「心友」はなんか違う気がする。
「じゃあ、明後日の夜七時に駅近の居酒屋で現地集合な!
頼んだぜ「心友」!」
「はいはい……」
しぶしぶながら、結局僕は合コンに参加することとなった。
その日の夜、僕は涼に昼間の件を伝えた。
「合コン…ですか」
「そう。
友達にしつこく誘われて……仕方ないから埋め合わせで出ることになったよ」
涼のご飯を食べながら言うも、どこか涼は不満げだった。
「どうかした涼?」
「…別に」
涼はアンドロイドゆえ、食事を必要としない。
だからいつもご飯を食べる時は僕が食べてるとこを楽しげに見つめているだけ。
少々こそばゆい気もするが、これはこれで悪くない気もする。
でも今日は違った。
「…相手の方たちは、若くて可愛い子なんですか?」
「顔は分からないよ。
神原が言うには可愛いメンツばかりだよとは聞いてるけど、実際どうなのか…」
「ふーん……」
ムスッと頬を膨れさせながら涼はテレビに視線を向ける。
どこか気に入らなかったのだろうか…。
「ま、まぁ僕もそこまで楽しめるとは思ってないし、二次会は断ったからさ…!
終わったらすぐ帰るから…」
「べーつに…。
翔くんはゆっくり楽しんでくるといいですよ」
「涼……」
その後、会話はせれど涼は合コンの日まで僕と目を合わせてくれることはなかった。
そして合コン当日。
駅の傍にある居酒屋に着くと、神原ともう一人チャラそうな同年代っぽい金髪の男が話をしていた。
「おっ、佐山ー!
こっちこっちー!」
神原が叫ぶ隣で金髪の男は微笑みながら小さく手を振ってくれた。
「今日は本当にありがとうな。
…あ、こっちはバイト先の先輩の「遠山凌」先輩。
見た目チャラいけど、中身は落ち着いた人だからあんまり気にしないでな」
「お前が言うかよ…。
あっ、僕は神原の大学の同期で佐山翔太と言います。
本日はよろしくお願いします」
ペコッと軽く会釈をすると、遠山さんは握手を求めてきた。
「よろしくね。
神原の友達だと聞いて少しぶっ飛んでるやつかと思ったけど、全然そんなこと無かったね。
…ごめんね、神原の知り合いってだいたい変なのばっかだったから、君みたいなまともな子初めてだったもんでね」
「あっ、そうだったんですね…」
「ちょ、センパーイ!
俺の「親友」はみんな楽しいやつばかりなんですよ!
その中でも佐山は唯一の「心友」なんですよ!」
「出たよ心友……」
「あはは」と笑う遠山先輩は神原とは別格にかっこよく見えた。
見た目の割に落ち着いてるし、振る舞いも大人の男のソレと言えるのもあり、僕も女の子だったら一目惚れしてたかもしれない。
「やぁやぁ、遅れてゴメーン!
メイクと服選びに時間かかっちゃったよ〜」
声をかけられ振り向くと、ギャルっぽい見た目の女の子とバンギャっぽいボーイッシュな女の子と、その後ろに少し根暗そうな女の子が立っていた。
「久しぶり姫ー!
いやいや、時間ぴったしだよ!
俺たちが少し早かっただけだから気にせんといて」
「いや「姫子」も実際、時間をかけすぎだ。
合コンだから慎重になるのも分かるが、もうちょっと手を抜いても良かっただろうに」
「だってぇ……ウチこういうイベで手抜くとかマジムリぴえんだし?
もしかしたらこの合コンでガチ好きぴ出来るかもしれないならマジ本気モード全開は当たり前っしょっ!!」
「姫子」と呼ばれたギャル系女子は今日の本気度をやたら語るも、あーゆータイプは正直苦手だ…。
「とりあえずメンバーも揃ったみたいだから、中入ろうか」
「ういっすー♪」
「先頭おなしゃすセンパーイ」
「じゃあ行こうか」
「よろしくお願いします…」
「……」
ギャルとボーイッシュ系の後ろに隠れるようにもう一人の子は無言で二人の後ろをついて行く。
どことなくその雰囲気に気が惹かれるも、多分僕と同じ理由で連れてこられたのだろうと思い、僕は敢えて気にしないように全員について行くことにした。
「翔くん、もう合コンしてるのかなぁ…」
翔くんが出かけてから三十分が経過するも、私はつい彼のことばかり考えていた。
「合コン……楽しいのかな…?」
翔くんは二次会には出ないとキッパリ言ったが、私はどことなく不安がよぎっていた。
…別に、疑ってるわけじゃない。
『翔くんを信じてない訳じゃないし、彼が嘘をつくなんて思ってない。
でも…何だろう…。
不思議と彼のことが心配になるというか、気になって仕方ないというか……』
二日前「合コンに誘われた」と切り出されて以降、何故か私の情報回路に齟齬が発生確認して以来、私は翔くんに素っ気ない態度を取ってしまっている。
勿論、それは私の意思ではないし私だってそんな子供っぽいことはしたくない。
なのに………この情報異常は一体……。
「翔くん………」
原因追求の為に情報漏洩防止機能を展開しつつ、情報探索をかける。
『システムはオールグリーン。
異常を検知できませんでした。』
「………」
私はお気に入りの猫の抱き枕にしがみついてソファーに寝入った。
「翔くん…………」
「カンパーーイ!」
「カンパーーイ!」
「カンパーーイ!」
「カンパーーイ!」
グラスのぶつかり音が煌びやかに響き渡り、僕ともう一人の子以外の全員が威勢よく乾杯の音頭をとった。
「……かぁーーー!
ビール飲むなんて久々だぁー。
バイトと大学の講義で全然飲む暇も無かったから尚更うめぇ!」
「神原。
合コンなんだからもうちょい場を弁えたらどうだ。
…ごめんね、うちのお調子者が空気読まなくて」
「いえいえー♪
ウチらもそーゆーノリ全っ然、大歓迎なんでむしろとっつきやすいですよー!
ねぇ凛月?」
「そうだな。
私は盛り上げとかは苦手分野だから、姫子や彼のように盛り上げ上手がいてくれるのは助かるな
…なっ、魅子?」
「……えっ?
うっ、うん…そうだね……!」
「魅子」と呼ばれた根暗そうな子は少しおどおどしつつ麦茶を飲んでいた。
ちなみに神原はビール、遠山さんは氷割りのハイボール、姫子と呼ばれたギャル女子はカシオレ、凛月と呼ばれたボーイッシュ女子はロックの焼酎、僕はノンアルの梅サワーだ。
「そろそろ自己紹介しようか」
「じゃあじゃあ、ウチから自己紹介いきまー!
ウチは「姫宮姫子」っていいまーす♪
趣味はぁー、親友とプリ撮ったり、可愛い写メをSNSにあげてバズり狙いすることでーす!
って言うかー、苗字と名前に「姫」が入ってるとかマジやばたにえんでしょー?
マジぃ、ウチを産んでくれたママとパパにあざーすって感じー?」
『……(汗)』
次から次へとよく口が動く子だと思うも、僕はああいうギャル系はやはり苦手分野かもしれない。
「次、凛月っちゴー!」
「私か?
…私は「三谷凛月」だ。
この二人と同じ女子大に通って今年で四年目になる。
遅れたが、今日はご招待いただき感謝します。
私のようなあまり盛り上げ上手じゃないのは場違いかもだが、どうかよろしく頼む」
ボーイッシュ系女子の三谷さんが静かに自己紹介を終えると、一斉に拍手が響いた。
「魅子。
最後はお前だ」
「はっ…はい!」
三谷さんが優しく諭すも、もう一人の子は緊張してたのか唯一、立ち上がって目が隠れるほど伸びた前髪をいじりながら自己紹介をした。
「えっと……「会津魅子」です。
ほ……本日はお誘いいただき、ありがとうございました…。
姫子ちゃんと凛月ちゃんとは同期で、趣味はアニメとか音楽です……」
ぎこちないうえに言葉の区切り所を上手く見つけられなかったせいか、会津さんが座るも誰も拍手もしなかった。
だが、彼女の性格を知ってるからか、女子陣の反応は暖かなものだった。
「魅子っちやれば出来るじゃん!
来る前に何回も練習したかいがあったってもんだね!」
「そうだな。
ぎこちなさはともかく、よく最後まで言えたな。
偉いぞ」
「そ、そうかな……えへへ…」
ぎこちなく笑うも、会津さんは満更でも無さそうだった。
「じゃあこっちは僕からいかせてもらおうかな。
…僕は遠山凌。
隣にいる神原のバイト先の先輩をさせてもらってる。
趣味は音楽と料理。
最近は特にイタリア料理にハマってるかな。
よろしく」
「さっすが先輩、顔もイケメンでしかも料理上手とか非の打ち所ないっすねー!
あっ、俺は先輩の後輩で隣の佐山と同期の「神原知弦」って言いまーす!
一応、今回の合コンの立案・企画させていただきやしたんでそこんとこおなしゃーす!」
遠山さん、姫宮さん、三谷さんが拍手をすると、全員の視線が僕に集まった。
「ほら、トリはお前だ佐山」
バンバンと背中を叩かれた上、強制的に立たせられた僕は、少し緊張しながら自己紹介を述べた。
「…僕は佐山翔太です。
趣味は……読書…。
好きなものは……本と…生き物かな…」
最後に軽く頭を下げると、それまでの暖まった雰囲気は一気にどこぞに消えた。
「お前なぁ……もうちょっと面白いこと言えよなぁ。
もっとこう……「趣味は宇宙人と交信する」とかさ」
「僕はいつからそんな超常的存在と友達になってんだ。
…まぁ、宇宙人なら僕の隣にいたか」
僕のさり気ないボケに姫宮さんが思わず吹きだした。
「ぶっ…ww
ちょ、なに今のwwww
お、お腹痛いwwwww」
「っ…確かに……今のは……私もツボだった……(笑)」
『……(汗)』
女子二名からは良い意味(?)でツボだったらしく僕の株は地味に上がっていた。
唯一、会津さんは笑ってなかったものの、どこか不思議そうな眼差しで僕を見つめていた。
『変な人って…思われたかな…』
そんなこんなで、合コンはスタートした。
それから二時間ぐらいが経った頃。
「さぁて…時間も時間だし、そろそろお開きにしますか?
だいぶ酒も入って飯も食ったしな」
真っ赤な顔で上機嫌に神原が言うと、同じくテンションが始めとほとんど変わってない姫宮さんと三谷さんも続いた。
「ウチは全然いーよー。
だいぶお腹も膨れたし、SNS用の写メもバッチ撮れたから満足だよー♪」
「私も十分すぎるくらいだ。
これだけ食べれば、明日の朝食もいらないぐらいだ」
「じゃあ、今日はこれで解散…」
「二次会行きたい人ーーー!」
「解散だね」と僕が言いかけた直後、神原が二次会宣言をかけた。
「いいねぇー!
遠山センパイが行くならウチも行きたーい!」
「私も、皆が行くなら付き合おうかな」
「全く、神原は……。
仕方ない、僕も付き合うよ」
四名は賛同するも、僕と会津さんだけは返事をしなかった。
…と言うか…。
「…神原、僕は二次会行かないって言ったよ?
だから僕はここで帰るよ」
小声で神原に耳打ちするも、神原の態度は打って変わって真反対なものだった。
「なぁに言ってんだ。
ここまで来たら付き合えよ。
会津さんだって、お前が来ればどうせついてくるさ」
「い、いや…会津さんはそんなわけ……」
「会津さん。
佐山も行くらしいけど、会津さんも行くよな?」
「ちょ…神原…!?」
僕の予定も虚しく、神原は僕の意見そっちのけで会津さんに同行を求めた。
「………佐山さんが行くなら……」
「えっ…!?」
予想外の返答に僕は戸惑うことしか出来なかった。
「そんじゃ、二次会は近くのカラオケで決まりっしょ!」
「いーねー!
ウチもさんせーい♪」
「異議なしだ」
「僕も断る理由はないな」
「…(汗)」
結局、半ば無理やりな形で僕も二次会に行くこととなってしまった。
『…そうだ、涼に連絡しとこう。
遅くなるってせめて一言でも………あれ…?』
ズボンのポケットを漁るも、そこにスマホはなかった。
『…しまった!
行く前に充電しとこうと思ってそのままだったんだ…!
……涼、怒るだろうな…』
アンドロイドといえど、最近の涼は何かと感情的になることが増えた気がする。
今日だって、いつもなら出かける時は見送りをしてくれるのに今日はずっと素っ気なかったし…。
『ごめん涼…。
帰りに何か買って帰ろう…』
そう心に誓い、僕は二次会に出向くこととなった。
「……」
翔くんが出かけて二時間が経過しても、私の身体の違和感は不思議と抜けていなかった。
ずっと情報探索をかけるも、どの機能も全て正常値。
なのに……何故か胸がドキドキする…。
『翔くん……』
抱き枕に縋り付くも状況は変わらず。
バラエティ番組を流しても意識が集中出来ない。
確かに、あのヤンキーの三人組の時も何処と無く違和感を感じ、思わず彼の跡を追いかけたのが正解……だったのだろうか。
『あの時はたまたまだったと思うけど……「普通の女の子」ならそんな事しないはず…。
でも、やっぱり気になって仕方ない……』
いてもたってもいられなくなった私は、部屋着から着替えて外へ飛び出した。
二次会のカラオケも順調に盛り上がり続け、状況に呑まれていた僕は涼への心配も薄れていた。
『イェーイ!
みんな聞いてくれてサンキュー!』
盛り上げ上手の神原と姫宮さんのお陰で雰囲気は悪くなかった。
…ただ、僕と会津さんだけは少し雰囲気に馴染めずいた。
「会津さん。
時間とか大丈夫?」
「はっ、はい…!
うち、門限とかないんで…」
「そ、そっか…」
途中から僕が会津さんに気を遣う形で曲の合間に会話していた。
「会津さんは、カラオケとかよく来るの?」
「う…うん…。
一人とかではあんまり……基本、姫子ちゃんと凛月ちゃんが誘ってくれるから…」
「そうなんだ。
仲良いんだね…」
そんなぎこちない会話を続けてると、遠山さんが唐突に切り出した。
「…時間も時間だね。
そろそろお開きにしようか」
「ほんとだ、もう十一時か。
女子陣、時間大丈夫?」
「ウチはダイジョーブよー。
でも、あんまり遅いとママが心配しちゃうから、そろそろドロンしよっかなー」
「そうだな。
私は大学の敷地内のアパートだから遅くなっても大丈夫だが、ここは皆に合わせよう」
「…私も、そろそろ帰るって連絡したから大丈夫です…」
「んじゃ、今日の合コンはこれでお開きってことで……皆さん、今日はあざーしたー!」
神原の締めに全員が荷物を持って部屋を出た。
料金を支払い店から出ると、少し肌寒い風が吹いていた。
「折角だから、二人一組で家まで送ってあげようか」
「じゃあ、ウチは遠山センパイにおなしゃす♪」
「じゃあ俺は三谷さんと帰るかな」
「あぁ。
よろしく頼む」
「……」
「…佐山。
会津さんを責任持って送っていけよ」
「…っ!?
わ、分かってるよ…」
各自、相手が決まったとこで再び神原が声を上げた。
「それじゃ全員、おつかれしたー!」
「宜しければ、またよろしく頼むよ」
「うん。
みんなも帰り道は気を付けてね」
「今日は本当にマジ感謝あじゃしたー!」
「き、気をつけて…」
「ありがとうございました…」
二組にそれぞれムードメーカーが配置されたことで、僕たちは先ほどまでの雰囲気が嘘のように静かな帰り道をゆくこととなった。
「あ…あの…会津さん。
今日は、楽しかった…ですか…?」
「……」
隣で何処かうつむきながら歩く会津さんに声をかけるも、すぐに返事は来なかった。
やがて会津さんは顔を上げた。
「あの……佐山さん…」
「は、はい…?」
呼びかけたと思いきや、急に会津さんは歩みを止めた。
そして会津さんは信じられないことを言い放った。
「私……佐山さんに………一目惚れ……したかも……です…」
「え……?」
脳の理解が数秒ほど遅れるも、やはり言葉の意味は変わらなかった。
「…あ、あの……そうじゃないと言いますか…なんと言いますか……」
長い前髪をいじりながら会津さんは言葉を躊躇っていた。
そして踏ん切りをつけたように会話を続けた。
「あの…ですね………佐山さんの落ち着いた雰囲気とか、何気にみんなの話を聞いて笑ってるところとか………そんな佐山さんの雰囲気に惹かれたんだと思います…」
「…会津さん……」
正直、会津さんの気持ちは嬉しい。
でも、僕には涼が……。
「っ!?///」
突然、会津さんは僕の手を掴んだ。
全身に電流が走ったような感覚に僕は身動きが取れなくなっていた。
「私……男の人が苦手だったんです…。
父が小さい頃からよく怒鳴る人で……幼い私には父でさえ家族として見れなかったんです。
母は唯一私に気を遣ってくれて優しくしてくれました。
だから私は姫子ちゃんたちとは仲良くできたんです。
それでも……男の人だけは……苦手だったんです…」
「……」
会津さんは……震えていた。
僕の手を掴むその手は恐怖に耐えるようにか、その時を思い出してか震えていた。
「でも…佐山さんの雰囲気は母に似てて……この人ならって思えたんです…」
「会津さん……」
やがて会津さんは何かを決心したかのように顔を上げたと思いきや、片目だけ前髪から綺麗な瞳を覗かせながら叫んだ。
「私……「佐山くん」と付き合ってみたいです!
もし間違ってるとしても……自分のこの想いを確かめてみたいんです…!」
「………」
吸い込まれそうだった。
彼女の雰囲気、綺麗な瞳、ほのかに香る甘い匂い。
僕は彼女の強い意志に惹かれていた。
「会津さん………僕は………」
その時だった。
『翔くん…!』
「…ッ!!」
涼の声が聞こえた気がした。
いや、正確には脳裏に彼女の声がよぎったと言うべきか。
「会津さん…………ごめんなさい…」
「…っ!?」
予想外だったのか、会津さんは言葉を詰まらせた。
だから僕は丁寧に彼女に諭した。
「…会津さん。
君の想いは理解出来るし、すごく嬉しいよ。
でもね………ダメなんだ…」
僕の選びに選んで絞り出した言葉に思い違いした会津さんは突如泣き出した。
「……私じゃ……ダメなんですか……?
そりゃ…私は根暗で陰キャだし………オタクで見た目にも気をつかえないだらしない女ですけど……」
「そ…そうじゃないよ…!
会津さんはとても素敵な人だよ!
会津さんは、他人をたてるのが上手だと思ったよ。
居酒屋でも率先して焼き鳥の串からみんなで食べれるように取ったり、カラオケでも食べ物の注文とかの電話も自分から率先してる所とか……君はとても素敵だと思うよ…」
そう言い切ると、会津さんはぐずりながらもようやく泣き止んだ。
「じゃあ……どうして………」
「っ………」
言えなかった。
いや、正確には彼女を傷つけてしまうかもしれないという思いが言葉を詰まらせた。
『でも……言わなきゃ。
会津さんも勇気をだして僕に告白してくれたんだから!!』
腹から息を吸い込み、僕は静かに言った。
「僕ね………「好きな人」がいるんだ」
「えっ……」
片側だけ見える瞳は信じられないと言わんばかりに目を丸くしていた。
「その人はね……誰にでも平等に優しくて、綺麗なのに着飾ることに興味を持たないんだ。
それでも……その人はとても素敵な人で、僕の初恋の人だったんだ。
……二年前までは…」
「二年前…?」
「…その人は………ガンでこの世を去ったんだ。
僕と同い年で、高校卒業前にね……」
「ッ…!?」
会津さんは口を抑えて驚きを隠した。
それを見計らってから僕は続けた。
「その人はね……死ぬ直前まで僕と彼女のご両親の前では笑顔を絶やさなかったんだ。
彼女が高二の途中でガンに倒れて、そこからよくお見舞いに行ってたんだけど……その人は絶対に弱った姿を見せなかった。
…とても優しくて、強い人だったんだ」
「……」
やがて会津さんはうつむいた。
それでも僕は続けた。
「僕は彼女のそんな優しさと強さに惹かれたんだ。
いつもどん臭くて自信のない僕じゃ、高嶺の花すぎる人だったんだ…。
それでも……僕は彼女を今でも…」
「佐山さん」
僕の言葉を止めるように会津さんは声色を尖らせた。
やがて僕に頭を下げた。
「…ごめんなさい。
あなたにそんな素敵な人がいるのに、私みたいな陰キャが告白なんてして…」
「いや、だから会津さんも…!」
僕の言葉を遮るように会津さんは僕に背を向けた。
「ありがとうございました。
私、何か吹っ切れた気がします。
佐山さんのお陰で少しだけ自信を持てた気がします。
……本当に、感謝してます」
そう言い残し、会津さんは一人で歩き出した。
「あ、会津さん…!」
手を伸ばそうにも、彼女は止まらなかった。
ある程度、距離を開けたとこで会津さんはようやく足を止めて振り返った。
「…佐山さん。
貴重な時間をありがとうございました。
きっと佐山さんにも、いつかそんな恋人さんみたいな素敵な人がきっと現れてくれますよ。
…きっと……」
「………」
そして会津さんは闇の中に一人消えていった。
『素敵な人………か……。
…………あっ…!』
そこで僕はようやく涼のことを思い出した。
急ぎ家に帰ろうとした時だった。
「…あ…………翔…くん……」
会津さんが歩き去った方向と逆側から家にいるはずの涼がそこに居た。
気温は低く肌寒い風が吹く中、涼は場違いとも言える半袖にホットパンツ姿で立っていた。
「涼……どうしてここに……ッ!?///」
涼がスタスタと早歩きで歩み寄ってきたと思いきや、涼は突然僕の胸に飛び込んできた。
「涼……何をして…!
こんなとこ、誰かに見られたら……////」
「……知らないです…」
「え…?」
涼の言葉に疑問の声をあげるも、涼は顔を埋めたまま僕から離れなかった。
「周りの人の目なんて知らないです。
私だって、どうしてこんなことをしてるのか分からないんです。
でも………「こうしたかった」んです…!!」
「っ………」
涼の罵声にも似た言葉は、不思議と僕の胸をえぐった気がした。
「翔くんが合コンに行くって話をした辺りから、ずっと胸の奥が落ち着かなかったんです…。
アンドロイドの身体なのに……機能障害かもと思っても異常はないし、なのにずっと落ち着かなくて………翔くん。
あなたなら何か分かるんじゃないんですか…?」
「っ…!///」
そこで初めて涼はようやく顔を上げた。
その目に涙こそ流れずとも、涼の顔は不安一色で覆われていた。
その様は…まるで……。
「涼……」
僕はそっと涼を抱きしめた。
「……」
涼は抵抗しない。
むしろ、求めていた気がした。
『たまには思ってること伝えてやらんと、せっかくのべっぴんさんに逃げられるで?』
いつぞやのヤンキーのアニキさんが言ってくれたセリフが脳裏によぎった。
その言葉に背中を押されるように、僕は涼に伝えた。
「心配かけてごめん。
僕は何処にも行かないし、ずっと君のそばにいる。
離れたって僕はずっと君のことを想ってるし、いつだって君が一番だよ。
…僕には涼が必要なんだ。
だから………これからも僕のそばにいて欲しい…」
僕が伝え切るまで涼はずっと黙っていた。
僕はまるでラジオのように、ただ彼女に抱いてる想いを言葉に変えた。
それに呼応するように、涼は僕の背中に手を回した。
「………翔くんは………バーカ……」
「えっ…!?」
僕がびっくりするも、涼も僕と同じように続けた。
「翔くんはおバカさんです。
そんなに考えてくれてるのに、私のこと置いて合コンとか……翔くんは優しすぎるおバカさんです。
バーカバーカです。
何度でも言ってやります。
翔くんは優しくて可愛い女の子を置いて合コンに行く浮気者のスケベさんです………」
「涼………」
ギュッと回された手に力が入った。
やがて涼は震えていた。
「私の気持ちも知らないで合コンに行く浮気者なんてスケベでおバカです。
そんな人………私は……きら………ッ………」
「嫌い」と言おうとしてたのだろう涼は何故か言葉を詰まらせていた。
そしてそこで罵倒をとうとう止めた。
「……そうだね。
僕は涼みたいな可愛くて素敵な子がいるのに、合コンに行くスケベでバカなドジだよ。
……それでも……僕は…………君が大事なんだ……!」
「……!」
その直後、涼の腕に力が更に増した。
それも……僕の身体を折る勢いで。
「いだだだだッ…!!!!
涼っ、苦しい…!
お願いだから、もう少し加減を……」
「嫌ですッ!!!!!!」
初めて涼が声を張り上げた。
それでも抱きしめる力は緩められなかった。
「私がこうしたいと思ってるからしてるんです!!!
スケベでおバカでドジな翔くんの言うことなんて聞きたくないですッ…!!
たとえ「命令」であっても、私は拒否します!!
それがッ………私の「意志」だからッ…!!!!」
「ッ……涼………」
服越しに伝わってくる彼女の身体は非常に冷たかった。
なのに僕に抱きつく力は桁違いに強くて……苦しいけど逃げたくなかった。
その時、僕は何気に気付いた。
『あぁ…。
僕は涼に「恋」したんだ…………』
「……あ、もっしー?
アタシだよ。
…うん、合コン行ったよ。
……居るには居たんだけど……ダメだったよ。
…いや、結構攻めたんだけどね。
なんか、好きな人がいるとかどーとかで断られちゃったよ。
もの大人しくて童貞っぽいと思ったんだけど……意外とガード固くてね……予想外の敗北ってやつ?
…もうちょい色攻めすれば良かったかもだけど、まぁあれじゃどっちにしても無理だったかもね。
……うん、また次狙ってみるよ。
そういうことだから、また機会があれば連絡するよ。
じゃ、また今度ね」
そう言ってスマホの通話を切った女の手には、先ほどまで着けていた「ウィッグ」と「カラーコンタクト」がそこにあった。
「……好きな人ねぇ……」
暗い路地裏の捨てられたダンボール箱の上に座りながら、女はタバコをふかしていた。




