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Reconnect Fate〜二度目の初恋を君に捧ぐ  作者: 鷹利


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6/8

6.Summer time/夏と海と水着です!

今日は六月二十四日。

気温も二十度を超え、少し暑さが目立ってきた。


『沖縄半島の方から温暖前線が北上しており、しばらく暑い日が続くと思われます。

日中は紫外線も強くなりますので、お出かけ予定の方は日傘や日焼け止めを塗るなどの対策をお願いします』


ぼーっと眺めるテレビのアナウンサーの格好も薄手気味で、夏の到来を予感させていた。


「翔くん、海行きましょう!

私、海行きたいです!」


「あー…そうだねぇ……。

海もいいねぇ…………えっ、海っ!?」


僕がテンプレートな驚きをするも、涼はキラキラと子供のように目を光らせていた。


「はい!

私、海行ってみたいです!」


意気揚々に語るも、僕には一抹の不安があった。


「でも、アンドロイドって海行って大丈夫なのかな…?

塩水とか潮風で壊れたりしないかな…」


「その辺は大丈夫です!

私には、防水・耐水・防塵・耐衝撃・耐熱仕様が施されてるので、よほどの事がない限りは壊れることはありませんよ!」


ふんすと鼻を鳴らす涼だが、それでも僕は不安が抜けなかった。


『涼自信があー言ってるけど……なんか怖いなぁ…。

というか、耐水と防水の違いってなんだっけ……』


そんなつまらないことを考えてると、おもむろに涼が僕の手を取った。


「ちょ…涼!?」


「早く、翔くんも着替えてください!

時間は待ってはくれないんですから!」


「いや、それはそうだけど………ってか、今からっ!?」


僕の意見も聞かぬまま、ただ子供のようにはしゃぐ涼に気圧され、結局僕たちは海へ行くととなった。





















電車に乗ること二十分ほどして僕たちは駅におりてタクシーで十分ほどの距離を走り、目的地の海へと着いた。


「うわぁ…!

すごく綺麗ですね翔くん!」


「う…うん。

そうだね…」


麦わら帽子に白のワンピースという、いかにも田舎の美少女を絵に書いたような格好で涼は初めての海に感動していた。


『いつからだろうか。

こうして遠出をしなくなったのは…』


涼子がガンに倒れる前は、お互い高校生ということもあり、さすがにそれほどの距離はなかったが、よくショッピングモールやたまにゲームセンターで遊んだことはあった。

…そういえば、涼子は生前、僕に言ったことがあった気がする。


『翔ちゃん。

私ね、いつか海に行きたいんだ。

お父さんとお母さんとは小さい頃よく行ってたけど、中学校からは友達とも行かなかったから…。

だから、今度二人で海に行こうよ!』


そんな事を言ってた記憶がある。

でも、それも叶う前に涼子はガンに倒れてしまった。


『あれからもう四年ぐらい経つのかな…』


一人思い出に耽っていると、突然涼が僕の頬をつねった。


「もぉ〜、せっかく海に来たのに翔くん何か考え事ですか?」


「ふぇ…?

あぁいや、なんれもないよ…」


つねられながら返事をすると、涼はクスクスと楽しげに笑った。


「…そうです!

翔くん、私海に入りたいです!」


「そ、そっか……えっ、海に!?」


「はいっ!」と涼が気持ち良く返すも、僕は気が気でならなかった。


「で、でも…アンドロイドが海に入ったら、さすがにまずいんじゃ…」


「それに関しては大丈夫です!

先ほど「企業」に連絡をしたところ、あくまで「足を濡らす程度なら問題ない」と返答をいただきました!

なので、正確には浅瀬で足が浸かる程度でいいんです!」


「あ………それなら…大丈夫か…」


ほっと胸を撫で下ろすも、次の瞬間、涼は爆弾発言を投下した。













「なので翔くん!

私、水着も着てみたいです!」













「……………え?」


脳が彼女の発言を理解するまで数秒かかった。

もしくは、脳が彼女の発言の意味を拒絶してた気がした。


「ですから、水着を着てみたいです!

うんと可愛いのを着て海に入りたいです!」


「………………………」


とうとう僕は言葉すら出せずいた。

よく小説とか漫画とかの表現で「語彙力を無くす」という表現を使うが、僕の場合は語彙力どころか「言葉すら失った」。


「翔くん、近くのデパートでさっそく水着を買いに行きましょう!

「企業」で電車賃も含めてお金は出してくれるそうなので、翔くんも一緒に水着買いに行きましょ!」


「……えっ!?

い、いや…そういう問題じゃ……って言うか、何で僕まで!?」


僕がようやくまともに返事をする頃には、気付けば涼に再び僕は手を引かれてデパートへと向かっていた。


『ど……どうしてこんなことに………』






















「翔くん、これとかどうですか?

すごく可愛いですよね!」


「う……うん…。

すごく…可愛いね……」


デパートの二階の水着コーナーで涼は海を待ちきれない子供のように次から次へと水着を選んでいた。


『涼が楽しそうなのは僕も嬉しい……けど、これは何だか違う気がする……』


涼は大胆にも露出度の高い水着ばかりに目が向き、色も控えめな黄色や大胆な黒まで仮合わせで楽しんでいた。


『ダメだ…。

涼が楽しそうなのは僕も楽しくなるけど………どうしてそんなに「ビキニ」ばかり選ぶの………!!!!』


もちろん、涼には涼が似合うものを着て欲しい。

ビキニだってもちろん似合うに違いない。

だが、僕は涼のスタイルを知らないプラス、何処と無く周りの目が気になる気がしてそれはそれでもどかしかった。


『以前のヤンキーの三人の件もあるし、下手にナンパとかされてまた悪目立ちしないでほしいな…。

まぁ、あれは僕が悪かったのもあるけど…………ビキニ姿の涼……』


最後に何か余計なことを考えてしまった気がするも、ビキニを仮合わせした涼の脳内イメージを考えていると、またも僕は涼に頬をつねられた。


「んもぅ〜、翔くん真面目に聞いてますか?

私は真剣に選んでるんですよ?

翔くんもちゃんと見てくれないと困りますよ」


「ふぇ…?

あ、ごめん……」


朝と同じようなシチュエーションで謝ると、涼はクスクスと笑って再び水着選びに専念した。


『どうしよう。

ビキニ姿の涼はすごく見たい…。

でも、その姿を他の人たちにも晒すとなると何となく嫌な気がする…。

でも、涼がどうしてもビキニがいいって言うなら……』


考えながら何気に色んなタイプの水着を見定めていると、僕の目にとある一着の水着が目に入った。


「……涼!

これなんてどうかな!」


「…?」


僕が指さす水着を涼は手に取り見定める。


「……翔くんは、これがいいんですか…?」


「えっ…!?

……えっと……こ、これも可愛いし、大人っぽいかなっと思ってね…!

涼はどうかな……?」


先ほどとは打って変わって、涼は何故か急にしおらしくなってしまった。

もしかしたら、気に入らなかったのかもしれない……。


「……これ…試着してみますね…」


「う……うん!

絶対似合うよ……!」


僕が選んだ水着を持って涼は試着室のカーテンを閉める。

僕は試着室の前で待つことにした。


『涼……急に大人しくなっちゃったけど、やっぱり気に入らなかったのかな…。

ビキニとかはあんなにはしゃいでたのに…』


そう考えていると、目の先で僕たちより年下っぽい女の子三人が同じく水着を見に来ていた。


「ゆーなはどれにする?

このビキニ可愛くない?」


「えー、私お腹ちょっと出てるからあんまり大胆なのはちょっと…。

ナイトプールとかならビキニでも多少大丈夫だったかもだけど、普通に海じゃねぇ…。

…みちるはどうするの?

かなたくんに大胆なのでお願いって言われてるんでしょ?(笑)」


「その話やめてよぉ。

私だって体型に自信ないのに、大胆なのなんて言われても……はぁ、読モとかみたいな高身長でおっぱい大きい人が羨ましいなぁ…」


「ッ…!?///」


聞いてはいけない事を聞いてしまった気がした僕は、彼女らに見えない位置で涼の着替えを待つことにした。

その間も僕に気付いていない女子三人は際どいキーワードを平気で口にするもんだから、今更見つかったらどんな目を向けられるかなどと様々な考えが僕の脳内でグルグルと交錯していた。

そんな矢先のこと。


『……翔くん…。

水着…着たんで……開けますよ…?』


「……えっ!?

う、うん!

全然いいよ!!!」


半ばパニック状態で涼に返事をしてしまい、僕は自分の存在を教えるほど大きな返事をしてしまった。


『し…しまった…!

あの子たちにバレちゃう…!』


僕の返事に女子三人が振り返るのと同時にカーテンが開かれた。


「っ…………」


開かれたカーテンの先には、大人っぽさを醸し出しながらもどこか可愛らしさも垣間見える水色のパレオ付きビキニを纏った涼が少し恥ずかしげに立っていた。


「………ど、どうかな…翔くん……。

き……着てみたけど……変…じゃないよね…?」


涼が何故恥ずかしがってるのかは分からないが、人間とは思えぬほど色白な肌色に程よく出るとこは出て……「控えめに」出てる身体つきは、モデル雑誌の女優レベルの美しさだった。

そんなあまりの美しさに僕は思わず見とれていた。


「……あ、似合わないなら他のにしますから…!

せっ、せっかく翔くんが選んでくれたのだけど…」


「…っ!?

い、いや…とても似合ってるよ!

僕、女性の水着とかよく分かんないけど、何となくこれが目に入った時間違いなく涼に似合うと思ったんだ…!

……とても……綺麗だよ……」


「っ………」


似合ってないと勘違いした涼の誤解を解くために、とにかく思いつく限りの言葉を並べてみたものの、それでも涼の反応は何処と無く控えめだった。


「…じゃあ………これに…しますね……」


そう言い残し、涼は再びカーテンを閉めた。


『……とりあえず……大丈夫だったっぽいな……』


ため息すら着きたくなるほどの安寧に胸を撫で下ろすと、先ほどの女子たちの会話が聞こえてきた。


「…ねぇ、今の人見た?

めっちゃ綺麗じゃなかった?」


「分かる!

すごい肌白くてくびれもあって、オマケに綺麗なおっぱいだったよね…!」


「いーなぁ。

私もあんな身体つきに生まれたかったぁ……」


「………(汗)」


どうして女の子とはそうも簡単に男の前で際どい話を出来るものか。

……いや、男でも同じ人はいるか。


「……てか、あの人さっきの人の彼氏さんかなぁ?

なんかすごい褒めちぎってたけど」


「そうかなぁ?

でも、何か水着選んだとか言ってた気がしたけどあの人が選んだってこと?」


「まーじー?

彼氏に選んでもらうとかリア充かよぉ。

いーなぁ、私も彼氏に水着選んで欲しいなぁ……」


『………(汗)(汗)(汗)』


女子三人の会話が何処と無くさっきよりもはっきりと聞こえる気がするのは……気のせいだろう。

オマケに何となくチクチクと僕自身もつつかれてる気がする…。


『頼む涼…。

早く着替えて僕をこの修羅場から脱出させて……(汗)』





















デパートで水着を買い、僕たちは再び海へと歩いていた。

あれから涼の水着を買った後、涼は僕の水着も欲しいと聞かなかった為、結局、僕はラッシュガードタイプの水着を買った。

僕は身体つきもヒョロガリだし、見せられるほどの筋肉も自信もない。

涼はあくまでも水着でお揃いにしたいという理由だった為、ラッシュガードで承諾してくれた。


「じゃあ、また後で」


「うん。

着替えたらその辺で合流ね」


僕たちは更衣室が無かったため、互いに位置の離れた公衆トイレでそれぞれ水着に着替えることにした。

お互いに着替えを持ち歩くためのバックも買ったので、着替えはバックに入れて持ち歩ける。

水着に着替えを終えてトイレを出ると、私服の時よりも全身に気持ちいい潮風が感じれた。


『これはこれで正解…かな』


公衆トイレから少し海寄りの砂浜に腰を下ろして涼を待つことにした。

視線の先では親子連れが楽しそうに水のかけあいっこをしたり、押し寄せる波に足元を掬われ転ぶ男の人。

日差しは強いものの、冷ややかな潮風のお陰で体感温度は低く、砂浜に座る僕はうっすら眠気が襲ってきていた。


「だーれだ♪」


不意に後ろから両目を塞がれた。

もちろんこんな事をするのは涼しかいない。


「うわっ…!

ちょ…びっくりするからやめてよぉ…」


「えへへ、ごめんなさい♪」


振り返ると、後ろ手を組みながら先ほどのパレオ付きビキニに麦わら帽子の涼が楽しそうに笑っていた。


「何見てたんですか?」


「ん…?

見てたというか…寝そうになってたって言うか…」


返答の途中で涼は隣に座った。

隣から見ても、本当に絵になる……いや、モデルになれる様だ。


「気持ちいいですもんね。

翔くんはあの子たちみたいにはしゃいで遊ぶタイプじゃないですもんね」


「…どうせ僕は木陰で眺めてる方がお似合いですよ」


軽く皮肉混じりに返すも、涼は年上のお姉さんの様に優しく笑った。


「でも…その方が翔くんらしくていいと思います。

今だって、私も楽しいんですから」


『……』


多分、僕は考えちゃいけないことを思った。

アンドロイドが感情に流されるものなのかと。

いくら人工知能を搭載してるとはいえ、そこまで人間に近くなれるものなのかと…。


「…翔くん、あれを見てください!

ドローンを飛ばしてますよ!」


涼の言葉に後ろを振り返ると、海から少し離れた木に囲まれた公園で男性がドローンを操縦していた。


『ドローンにも人工知能が搭載されてるのもあるんだよね。

そう考えると……すごい世の中だよな』


この現代において人工知能の発達と人間の生活圏内への浸透スピードは凄まじいものだ。

ついこの間初めて人工知能というものが発表されたと思いきや、あっという間にこの日本でも人工知能搭載の機械やスマホも珍しくない。

…そんな最中での(かのじょ)の登場は流石に驚きを隠せなかった。


「…翔くん。

楽しくないですか…?」


「……え?

い、いや…そんなことないよ!

ちょっと考え事をしてただけで…」


「…考え事って何ですか?

もしかして……昔の恋人さんのことですか?」


「っ!?

それは違うよ…!

そうじゃなくて……っ…」


どう言えばいいか分からなかった。

海に来てまで人工知能のこと、涼の事を考えてたなんて…。


『あっ……』


そうだ。

僕はバカだ。

海に来てまで何でそんなことを考える必要があるのか。


「…翔くん。

もう、帰りましょうか…」


「えっ…!?

どうして……」


聞くまでもなかった。

その答えを僕は知ってた。


「…だって……水着選んでる時から翔くん、何処と無く楽しくなさそうっていうか……無理に私に合わせてたんじゃないかって…」


「そっ、そんなことないよ!

そりゃ、最初は海に行きたいって言った時はびっくりしたけど、今は来てよかったと思うよ!」


「…じゃあ、どうしてそんなに楽しくなさそうなんですか?

翔くん、さっきから気が抜けると何か思い詰めたように考え事をするから……面白くないのかなって……」


『っ……涼……』


失態だった。

別に楽しくない訳じゃない。

むしろ、こんなに満たされてる自分を疑ってしまう。


「…涼。

僕はね、今すごく幸せだよ。

涼子が亡くなってからずっと出来なかったこと、してあげられなかったことの自責の念で僕は自分を押し潰しかけていたんだ。

そんな時に涼が来てくれて、涼は僕の潰れかけていた精神(こころ)を癒してくれたんだ。

だから僕は君に感謝してる。

これからも、どうかそばにいて欲しいと思ってる。

僕には……涼が必要なんだ」


僕が語ってる間、涼はうつむきながら黙って僕の言葉を聞き止めていた。

やがて涼はうつむいたまま静かに呟いた。


「だったら……もっと私を……」


「え…?

うわッ…?!」


突然、涼は僕を押し倒した。

砂浜の上ということもあり、怪我をすることはなかったが、僕は逃げられずじまいになった。


「ちょ……涼っ…!

こんなとこ、誰かに見られたら……!」


「関係ないですッッ!!!!」


「ッ…!?」


突然の怒声に僕は思わず声を詰まらせると、涼は僕の頬に両手を添えた。


「翔くん…。

今の貴方には、一体何が見えてますか…?」


「ぇ………何って………それは………」


「答えてくださいッ!!!!」


回答に迷い、思わず目を逸らすと涼は再び声を張り上げた。


「ッ……。

……そんなの………「涼」しか見えてないよ……」


「…………」


涼は何も答えなかった。

ただじっと僕の目を見続けた。


「……嘘ですよね」


「…え?」


やがて口を開いた涼は思わぬ言葉を発した。


「…今の私には、翔くんは昔の恋人さんの面影しか見えてないですよね?」


「ッ…………」


図星だった。

僕は何も言えなかった。


「確かに、私は試作型人工知能搭載アンドロイド「アイ」改め「涼」です。

この名前の意味も翔くんと生活していくうちにようやく理解しましたよ。

だって、翔くんは恋人さんのことを考えると何処か遠い目をしてますから。

でもですね、いつまでも恋人さんのことばかり考えてれば、貴方の未来は何も変わりませんよ。

それは、翔くんが愛した恋人さんが望むことですか?」


「ッ…!」


悔しいが、全部涼の言う通りだった。

結局、僕は涼に涼子の面影を重ねていただけだった。

涼に感謝をしてても、結局僕は涼子の事を忘れられずじまい。

…こんなんじゃ、想い半ばに旅立った涼子に顔向けできない。


「…お願い翔くん。

今だけでいいから「私」を見て……」


涼は僕の頬に手を添えたまま顔を近付けた。

それも、唇が触れ合う直前の位置まで。


「ッ………涼……」


彼女は至って真剣だ。

今僕の目の前にいるのはアンドロイド………ではない。


「………涼…。

…君は………とても綺麗だよ…」


それが精一杯だった。

少しの間、涼は僕と見つめ合うものの、やがて顔を離した。


「………そう思うなら、ちゃんと私の事もこれから見ててくださいね」


ゆっくりと立ち上がり、涼は僕に手を差し伸べた。


「……うん。

そうだね」


涼の手を掴み立ち上がると、涼は僕の手を掴んだまま海に走った。


「じゃあ、まずは翔くんの頭を解してあげますっ!」


「ちょ……涼…!?

何を……!」


海に向かって走ったと思いきや、涼は突然立ち止まり、その場で僕の手を両手で掴みながらグルグルと回り始めた。


「待って涼っ!

目ぇ回っちゃうよ…!!」


僕の身体はだんだん遠心力によって浮き上がり、最終的には………。


「うわぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ………!!!!」


そのまま海にジャイアントスイングで投げ込まれた。


「………ぷはっ…!

げほっ、げほっ………た、助け…………あれ……浅…い…?」


軽いパニック状態になっていた僕だったが、てっきり足のつかないところまで勢いで投げられたと思いきや、実際は腰まで浸かる程度の場所に落とされていた。


「うふふ…。

あはははは!」


「ちょ……涼…!

………もぅ…」


怪我をするかもしれなかった恐怖に怒ろうと思ったが先ほどの涼の「頭を解す」という発言に、恐らく計算通りの仕込みだと気付いたら、何となく怒る気も失せた。


「あはは♪

これで少しは頭もスッキリしたんじゃないですか?」


「…お陰様でね。

お気遣い感謝します」


涼が未だ浅瀬でへたり込んでる僕に歩み寄ろうとした時だった。


「…あっ、すいませーん!

そこの美人のお姉さん、ボール取ってくれませんかー?」


涼の足元にビーチボールが転がってきたと思いきや、その声の先ではいかにもチャラチャラしてそうな金髪・色黒の二人組の男たちが手を振っていた。


『ッ!?

まずい…!

このままだと涼が…!』


こないだのヤンキーたちの件を思い出し、僕は涼に呼びかけようとするも、既に涼はビーチボールを「拾って」しまっていた。


「はーい!

いきますよー!」


ふんわりと涼の手からビーチボールが浮き上がるも、僕には予想がついていた。


「お姉さん一人?

せっかく可愛い水着着てるのに一人じゃつまんないっしょ?

どうせなら、俺たちと一緒に…」















『バシュンッッッ!!!!』













破裂音と爆発音を混ぜ合わせたような異音が聞こえたと思いきや、涼の放ったボールはまるで弾丸のように男たちの間を一瞬ですり抜けて行った。


「…あっ、ごめんなさい!

私、取ってきますね…!」


涼がおぼつかない足取りで駆け出すも、二人組の男たちは青ざめた顔で(ほう)けていた。

やがて男たちは正気に戻ると、さっきまでの現実に血の気を引かせていた。


「………あぁいや、大丈夫です!

あ、ありがとうねお姉さん…!!」


「お、お姉さんナイスなレシーブでしたよ!

…そ、それじゃあ…!!!!」


「あ、あの…!」


涼が呼び止めようとするも、ナンパする相手を間違えたと思ったであろう彼らは、むしろ逃げるようにボールを取りに走っていった。


「…私、何か不味いことでもしてしまったんでしょうか……?」


「さ……さぁね…。

あはは…(汗)」


今だけは、あの二人組に同情するしかない僕だった。





















それから涼と普通に海で遊んだり、砂浜を端から端まで歩いたりして、時刻は既に夕方の四時を回っていた。


「そろそろ帰ろっか。

あまり暗くなるまでいると危ないし風邪ひくかもだし」


「そうですね。

…シャワー、どうしましょう?」


「近くの漫画喫茶で借りよう。

温泉の方がいいけど、ここからだと漫画喫茶の方が近いしね」


「わかりました。

じゃあ、着替えたら公園のブランコで待ってますね」


そう言って涼は先に公衆トイレに向かった。


「………」


ふと、彼女の後ろ姿を見送ってると、僕を押し倒した時に言ってたセリフを何気に思い出した。


『今だけでいいから「私」を見て…』


あれは本当にアンドロイドの言葉なのだろうか。

人工知能搭載アンドロイドとは言いつつ、本当は涼子なんじゃないかと…。


『「私」を見て…』


「……」


いや、彼女は涼子じゃない。

似てるだけで中身は「涼」なんだ。

でないと…涼子があんな事を言えるものか…。


「……今はやめておこう…」


彼女が自身の言葉でそう言ったのであれば、僕はそれを受け止めなければならない。

だって……彼女は涼子ではなく……「涼」なのだから……。





















その後、着替えた僕たちは予定通りに漫画喫茶のシャワーを借りて塩水汚れを落とし、帰りの電車に乗っていた。


「今日は楽しかったですね。

初めて海に来ましたけど、想像よりずっと楽しかったです」


「それなら良かった。

来たかいもあるってもんだよ」


「まぁ…実際は、私がわがままを言って翔くんを無理やり連れてきちゃったんですけどね…」


「ううん。

最初はびっくりしたけど、僕も楽しかったよ」


「そう…ですか…」


おもむろに涼は僕の肩に頭を乗せてきた。


「…すいません翔くん…。

少し…情報整理のため……スリープモード………休ませて…ください……」


そう言うと涼はそのまま僕の肩で寝息をたて始めた。


「…おやすみ、涼…」


そっと僕は彼女の手に触れた。

白くて小さな涼の手は、体温こそ無けれどとても綺麗だった。

その時だった。


「翔……ちゃん……」


「ッ…!?」


心臓が飛び跳ねた気がした。

それは確かに彼女の口から発せられたものだった。


「り……涼……子……」


恐る恐る呼んでみるも、変わらず彼女は眠っていた。


「…翔…くん……ちゃんと…シャキっと…して……くださ…」


「あ………なるほど………」


涼の途切れ途切れな寝言の中にあった「翔」と「ちゃんと」という単語が数珠繋ぎに聞こえただけだったようだ。


補足的な涼の寝言に僕は冷や汗をかきながらもホッと胸を撫で下ろした。


『そんな訳……ないよな…』


一瞬ながら聞こえた「かつての彼女」の呼び名。

それは涼がわざと発したものなのか、偶然が生んだ神様のいたずらか…。


『涼子。

僕は今でも君を忘れられない。

だけど……今は……』


再び静かに寝息を立てる涼の手を握り、僕は誘われるように睡魔に意識を委ねた。


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