13.New year event/初詣です!(後)
「翔くん、ちゃんと私の手を掴んでないと転んじゃいますからね」
「大丈夫だから、そんなに子供扱いしないでよ…」
僕たちは神社に入ってもまるで周りに仲良しアピールを見せつけるように手を繋いで歩いていた。
目的地である御堂に向かう坂道を歩いていた時のこと。
「あっはっはっはっはっ!
お姉ちゃんそれはありえないよぉ…!
もぉ……おなかいたいよぉ…!」
何やら女の子の大きな笑い声が聞こえたと思いきや、声の先で朱色の振袖を着た妹らしき女の子とお姉さんらしき黒い振袖を着た女の子が雪の上に尻もちを着いていた。
「あの子たち、どうしたのかな…?
怪我してなきゃいいけど…」
「心配ですけど、ちっちゃい子が笑ってるところからみて大丈夫だとは思いますが…」
そう思っていると、背後から二人に呼びかけるような声が響いた。
「知子ー!
海麗ー!」
振り返ると、お父さんらしき人とお兄さんっぽい男の子が二人に呼びかけていた。
「お父さーん!
強乃お兄ちゃーん!」
どうやら正解だったらしい。
妹らしき女の子はまるで飼い主を見つけた子犬のように二人の元へ駆け寄った。
「良かったですね。
多分、妹さんらしき子が迷子にでもなってたのかもですね」
「…そうだね」
微笑ましい親子のやり取りに僕はなんだか胸がぞわぞわしていた。
「…とりあえずお参り行こっか」
「はい」
彼らを後目に僕たちは御堂へ向かった。
『…そういえばあの親子、前にも見かけたことがあった気が………気のせいか』
「翔くん。
あれはなんですか?」
道中、涼が指さす先に龍の置物から水がこんこんと湧き、その土台に木杓が三本並べられていた。
「あれは「手水舎」って言って、神様に会う前にあそこで手を洗うことで身体についてる悪い気を洗い流すんだよ。
神様は神聖なものだから、そんなものにご挨拶をするのに汚れたままで行くのは人の家に土足であがるのと一緒だからね」
「なるほどです!
じゃあ翔くん、神様に会う前にあそこで悪い気を落としていきましょう!」
知らないことに関してはまるで子供と同じ涼は手水舎の前で今か今かと待ちわびていた。
「そう焦らないで。
まずは一礼をして右手で柄杓に水を掬って、左手に水をかけて洗う。
次に右手に同じく左手を清める」
涼の隣で清め方の手順を見せ、涼もまた僕の動きに合わせるように手順を踏んで清める。
「そしたら今度は右手で柄杓を持ち、今度は柄杓で掬った水を左手に取り、取った水で口をすすぐ。
軽くすすいだら、脇にある溝にすすいだ水を吐き捨てて」
「はい…!」
少しぎこちないながらも涼はゆっくりと確実に僕の言う通りに手順を進める。
「捨てたらもっかい左手を清め、最後に柄杓に水を貯めて真っ直ぐ垂直に立てながら柄杓自体を清める。
清めたら柄杓を元の位置に裏返しにして置き、一礼をして終わり」
「……」
一から十まで僕の言う通りにこなした涼は最後に一礼をすると、ようやく解放されたと言わんばかりに背伸びをした。
「んーー…。
少しやることは多いですけど…なんだか気持ちがさっぱりした気がします」
「まぁ、神様に挨拶をする前の準備だからね。
……っと、僕も清めなきゃ」
単語帳を作る上で色んな小説や文庫本に必ずこういったしきたりや文化の歴史を嫌でも知るから、こういう時は趣味に生かされてると改めて実感する。
だからこそ、こういった雑学などに関しては少しだけ自信がある。
「………ふぅ…」
柄杓を清め、最後に一礼をして一歩下がる。
「終わりましたか?」
「うん。
行こっか」
ニコッと笑顔を浮かべ、再び涼は歩き出す。
…今更言うのもなんだが、涼は少し浮き足立って目立つ。
さっきの振袖の子たちもそうだが、涼はまた別格に目立つ。
白銀の綺麗な髪、整った童顔、色白の手足、たまに見せる子供っぽい挙動………そのどれもが人目を引きつける。
『もしかしたら、この人の流れの中にも涼と同じアンドロイドが混じってるかもしれない。
涼だって、人工知能を搭載してるとはいえ立派なアンドロイド……ロボットだ。
だけど一昔前とは違って動きもぎこちなくないし、知りたがりところも人間となんら変わらない。
ましてや、誰がアンドロイドが初詣に来ると思うか……』
なんて事を考えていると、坂道を登った頂上の先に目的地の御堂がようやく姿を見せた。
「奥に見える御堂の中にお賽銭箱があるでしょ?
あそこで今年一年の挨拶と祈願をするんだ」
「了解です!」
少し気温が上がってきたのか、シャーベット状になった雪の上を涼はバシャバシャと走った。
「わっ…!」
走った先で氷面があったのか、涼は途中で足を滑らせた。
「っ!?
涼…!!」
二〜三歩後ろにいた僕は反射的に涼の背中を支えることができた。
「…危なかった〜……。
ダメだよ、神社ではしゃいだりしたら」
「うぅ…ごめんなさい…」
申し訳なさげに涼は珍しく謝った。
なんだかいつもの逆パターンな気分に僕は少しだけ優越感に浸れた。
『まぁ転ばずに済んだし、怪我もしなかったから大丈夫か…』
そう思っていると、不意に涼が僕に耳打ちをした。
「…翔くんの手、ドキッとしちゃいましたよ」
「ッ!?////」
鼓膜内に甘く響く涼の声と熱のある吐息が僕の全身を強ばらせた。
その様子を見て涼は「うふふ♪」と笑いながら御堂に向かった。
「涼………はぁ……」
不覚だった。
恐らくさっき足を滑らせたのは、もしかしたら涼の策略だったのかもしれない。
「…さっきの、もしかしてわざと滑ったフリをしたね?」
「さぁ?
どうですかね♪」
後ろ手を組み、ウィンクをしながら涼は舌をペロッと出す。
その小悪魔のような仕草に少しドキッとするも僕は平常心を装った。
参拝の列に並ぶと、早めに僕たちの順番が回ってきた。
「翔くん、参拝の仕方にもお作法とかありますか?」
「うん。
まずはお賽銭を入れて、お辞儀を二回……それから右手を少し下にずらし気味に二回拍手、ずらした右手の位置を合わせて自分の名前と住所と去年の感謝と今年の抱負を口に出さず心の中で伝え、最後に一礼しておしまい」
百聞は一見にしかずということもあり、言葉で説明してから実際に手順を体現する。
それを見届けてから涼も同じく「二礼・二拍手・一礼」をこなした。
「…抱負は何を願ったの?」
参拝を終えて次の人のためにそそくさと立ち退いてから僕は涼に何を祈ったのか聞いてみた。
「んー……。
…内緒です♪」
「なんだよそれ。
気になっちゃうじゃん」
とは言うも、涼はすぐに折れた。
「冗談です。
「今年は、翔くんが怪我をしたりドジを踏まないように」ってお願いしたんです」
「むっ…。
さり気に子供扱いされてる気がする…」
「だってそうじゃないですか」
不意に涼は僕から距離を開けて後ろ手を組みながら上目遣いで覗き込む。
「翔くんには、私が着いてないと心配で仕方ないんですから」
そう言い切るも涼はどことなく嬉しそうだった。
「そういう翔くんは何をお願いしたんですか?」
「僕?
僕は………」
実は二拍手をする直前まで何をお願いしようか考えておらず、どうしようか迷った僕は少しだけ恥ずかしい事を考えてしまった。
「……ずっと………「涼と一日でも長くいられますように」って…」
「………」
僕の抱負を聞いた直後、涼は目を見開きながらまるでフリーズしたかのように黙って僕を見つめていた。
「っ!?
あぁいや、そのっ………へっ、変だよね…!///
ごめん………」
「……ッ!
い、いえ………何でも……ないです…」
そう言うと涼は前髪をいじりながら涼は僕に背中を向けた。
「…翔くんのばーか……」
「…?
今何か言った?」
「何も言ってません。
……そうです!
翔くん、私おみくじもやりたいです!」
御堂と反対側にある横長のテントの中に二種類のおみくじと色んなお守りを販売してるブースが立ち並んでいた。
「いいよ。
やろっか」
おみくじの前にも人が立ち並び、それぞれ普通のおみくじと恋愛みくじの二種類だった。
「翔くんは恋愛みくじひきますか?」
「遠慮しとくよ。
僕には無用なものだからね」
そう言って僕たちは順番に列に並び僕、涼の順におみくじをひいた。
「…涼はなんだった?」
「えっと………「小吉」です。
これは……良いものなのでしょうか…?」
「運勢の中では真ん中ぐらいだね。
良くも悪くもないって感じ。
…下の方になんて書いてる?」
「えっと…………「天の思し召しは人のみにあらず。
天は二物を与えず。
与えられしものが褒美ではなく試練と見たれり。
現状に満足せず精進せよ」……だそうです」
「なるほどね…。
つまり、涼は周りから与えられたり差し出されるものが全て良いものでも悪いものでも「自分の為に与えられた褒美」ではなく「修行のための試練」だと思い止めろってことかな」
おみくじの少し難しい語り口を理解した僕に涼は目を輝かせていた。
「すごいです翔くん!
やっぱり、単語帳を作ってただけありますね!」
「いや、あんまり大声で感激しないで…恥ずいから…///
…そういえば、僕の運勢は……」
自分のおみくじを開くと、運勢は「中吉」だった。
「翔くんは中吉ですね。
私より良いんじゃないですか?」
「運勢の中ではね。
でも、大事なのは書いてる内容だから…」
涼と同じお告げの文面を僕は再び音読で読み上げた。
「「火ノ鳥は真実を照らし心の闇を焼く。
だが火ノ鳥は人の業を焼くことは敵わない。
心の闇に潜む未練の鎖を断ち切ることができれば望む未来を叶えられる」………」
思わず僕は絶句した。
文面の中に聞き覚えのある単語が出てきたからだ。
「未練の鎖………涼子さんのこと……ッ…」
余計なことを言ったと察したのか涼は口を噤んだ。
だがそれよりも、僕はかつて直接言われた言葉を思い出していた。
『アナタ………「未練の影」がありますねェ………』
思い出すだけでも悪寒が背筋を這い上がる。
去年のクリスマス前に出会った全身黒ずくめの顔の見えなかった男っぽい人。
もしかしたら……彼は「神様」だったのだろうか……。
「…翔くん?
大丈夫ですか……?」
「……えっ!?
うっ、うん……!
ちょっと……思い出し事をね…」
「涼子さんの事ですか…?」
「う………うん……」
本当は違う。
でも、涼に変な気を使って欲しくなかった。
そう思っていると、不意に涼が僕のおでこをぺちっと叩いた。
「痛っ!
…ちょっ、何するんだよ…!」
僕が憤慨するも、涼は真剣な眼差しで僕を見定めていた。
「…確かに、翔くんの涼子さんへの思いはすごく素敵だと思います。
でもですね……そうやって過去の思い出に浸って思い出すだけじゃ、きっと涼子さんは喜んでくれないと思いますよ?」
「ッ…。
それは……」
正論だった。
ましてや、おみくじの内容さえ忘れていた。
「私は、翔くんの涼子さんを一途に想い続ける強さはいいと思います。
けどそうやって想い続けるだけじゃ、亡くなった涼子さんにいつまでもおんぶにだっこなんじゃないですか?」
「ッ………」
「あなたは自分が思ってるよりずっと素敵な人です。
翔くんには人を惹きつける何かがあると私は思います。
そりゃ、翔くんは優しくて泣き虫でドジっ子で忘れんぼさんですよ」
「っ!?
そ、そこまで言わなくても……ッ!///」
僕が言い返そうとした瞬間、僕の唇に涼が人差し指で制止した。
「でも、私はそんなデメリットだらけの翔くんがほっとけないって思うんです。
プログラミングされたデータ故のとかではありません。
翔くんと生活していく中で、私はだんだんと翔くんの魅力を知れてるんです。
それが何とは言いません。
でも………あなたが気付いてないだけで、あなたに惹かれたり仲良くしたいと思ってる人は少なからずいるはずです」
「………」
真剣な眼差しで涼は淡々と語っていた。
泣きそうになりながらも僕はグッと涙をこらえて話を聞いていた。
「今の翔くんは弱くなんかありません。
涼子さんが生きてた頃よりずっと強くなってると思います。
でもそれは………涼子さんを愛し、愛された翔くん自身が「あなたを育てた」と私は信じてます」
「ッ……涼………」
結局また泣いてしまった。
涼の言葉はまるで涼子の言葉にも聞こえる。
でも……彼女はやっぱり涼だ。
「その涙だって、翔くんが己の弱さを知りつつも自分を向上させる為の涙です。
泣くことは弱い証拠じゃありません。
翔くんはもっと自分を誇ってください。
……少なくとも、私は翔くんの魅力を理解してるんですから…」
「涼ッ…………ありがとう…」
涼が僕の涙を優しくハンカチで拭き取ってくれた。
どことなく恥ずかしさを感じた僕はハンカチを受け取って自分で涙を拭き取った。
「そうだよね。
僕も泣いてばっかじゃいられないよね…!」
少し乱暴に鼻を擦ると、涼は笑顔を浮かべ後ろ手を組みながら上目遣いの姿勢で僕を覗き込んだ。
「はい!
翔くんはもう弱っちくなんかないです!」
今更ながら涼の優しさが歯がゆく感じる。
でも……心地よい。
「…まるで、涼は「お母さん」みたい…」
「え?
今なんて言いまし……」
『わあぁぁぁぁぁ……!!!!』
「ッ!?」
「ッ!?」
涼が何かを言いかけた直後、御堂に続く坂道の方から子供の泣き叫び声が響いた。
「翔くんっ、今のは…………翔くんッ!?」
涼が声をかけるよりも先に僕は声の方に走った。
シャーベット状の氷道が僕の足元を掬うも、転ぶ恐怖なんて置き去りになっていた。
やがて泣き叫び声の方に行くと、小さな女の子が一人、ぽつんと立って泣いていた。
「はぁっ…はぁっ………君っ、大丈夫!?
怪我とかしてない!?」
声の主は見た目だと五歳くらいの女の子だった。
ピンクのダウンコートに黄色の長靴を履いてるため、怪我をしてるかは分からなかった。
やがて落ち着いたのか、女の子は嗚咽混じりに応えてくれた。
「ひぐっ………お父さん……かえって…こなくて………」
「そっか…。
お父さん、どこ行ったか分かる?」
そう聞くも、パニック状態になってるせいか女の子はそれ以上は喋れずいた。
「じゃあ、お兄ちゃんが一緒にお父さんのこと待っててあげるね。
一人じゃ寂しいもんね」
未だ泣きぐずりながらも女の子はコクコクっと頷いてくれた。
僕は女の子の隣で並ぶようにしゃがんだ。
「…!」
そこで僕はあることに気づいてしまった。
僕と女の子がいた真向かいに、水子を供養する供養場が目の前にあった。
どことなく嫌な予感がした僕は女の子に移動を試みた。
「君、歩けそう?
ここだとお父さん見つけにくいと思うから……」
そう聞くも、女の子は首を大きく横に振った。
一抹の不安が過ぎるも、結局僕はその場で女の子のお父さんを待つことにした。
「……君、名前は?」
「………結花…」
「へぇ〜。
いい名前だねぇ。
お父さんとお母さんから貰ったんだね」
女の子……結花ちゃんはコクっと頷いた。
「お母さんが、おはなすきだって……それで……おはのにあう女の子になってほしいって…」
「そうなんだね。
結花ちゃんはお花好き?」
「うん。
でもね、結花、おさかなもすき」
「そうなんだ!
お魚は何が好き?」
落ち着きが出てきたのか、途中から結花ちゃんは少ししどろもどろながらも会話を続けてくれた。
「結花「グッピー」がすきなの」
「グッピー!?
あの熱帯魚のことだよね!
結花ちゃんはすごい物知りなんだね!」
褒められたことが嬉しかったのか、結花ちゃんはだんだんと僕の顔を見ながら返事をしてくれた。
「グッピーね、ちっちゃいきんぎょばちの中でおはなみたいに生きてるのかわいいっておもったの」
「綺麗だよね。
グッピーってね、お腹の中で卵を孵化…大事に守ってやがてお腹の中で産まれた赤ちゃんを外に出すんだよ」
「そうなの!?
おにいちゃんものしり!」
「あはは…ありがと。
他にもね、オスの方がカラフルでヒレも大きいんだ。
メスの方は逆に地味で身体が大きいんだよ」
「へぇー!
結花しらなかった!
もっとおしえて!」
「じゃあ同じ熱帯魚のエンゼルフィッシュの話もしよっか」
そうして結花ちゃんと熱帯魚や好きな食べ物の話で盛り上がっていると、遠くからお父さんらしき男性の声が響いた。
「結花ー!!!
どこだーーー!!!!」
「あっ……お父さーーん!」
結花ちゃんはお父さんの元に走っていく。
まるで直前までの僕とのやり取りが一瞬で存在しなかったかのように───
「あそこのおにいちゃんとおはなししてたの!
すごくものしりな人!」
結花ちゃんが僕に指をさしたと思いきや、二人は僕の元に来た。
「すみません……うちの娘がお世話をかけてしまったみたいで……」
「あぁいえいえっ!
上にいたら、急に泣き叫び声が聞こえてきて慌てて来てみたら結花ちゃんが泣いてたもので…」
「そうだったんですね…。
うちの娘「パニック障害」を患ってるもので……家でもこういうのが絶えなくて…」
「そ…そうだったんですね……」
衝撃の事実に驚いていると、お父さんの矛先は結花ちゃんに向けられた。
「結花。
あれほど車にお財布取ってくるからいい子で下のトイレのとこで待ってなさいってお父さん言ったでしょ?
どうしてこんなとこまで来たんだ…?」
「…………」
お父さんの叱責に口を噤んでしまった結花ちゃんは見せられてるこちらも胸が詰まる思いだった。
「あの……お父さん…」
お父さんと結花ちゃんがこちらを見てから僕は続けた。
「結花ちゃんに悪意は無いんです。
ただ、こういった子は無意識に徘徊したりする癖が本能的に出てしまうと思うんです。
お父さんの方がすぐ戻るからと思っても、結花ちゃんからすればお父さんが一分でも傍からいなくなることはとてつもなく不安になることだと思うんです。
ですから、出来ることなら結花ちゃんが一人でも落ち着いていられるようになれるまで、お父さんが傍にいてあげないと結花ちゃんもいつまでも変わらないと思うんです…。
…あっ、すみません……知ったかぶりをべらべらと……」
僕が話の腰を折るまでお父さんは目を見開いて僕の話をずっと聞いていた。
「そう………ですか…。
私としては、障害児だろうがなんだろうが、小さいうちから一人で何でもこなせるようにならないといつまでも誰かに縋らないと生きていけなくなると思ってました。
…親なりに考えてはいたのですが………私の考えは間違ってたのですね…」
結花ちゃんに本気で一生懸命思ってたからか、お父さんは分かりやすく肩を落とした。
その隣で結花ちゃんがお父さんの手を握った。
「結花ちゃんは決して弱い子じゃありません。
今は少し脆くてハンデがあるとしても、小さいうちから学んできたことは必ず将来に反映します。
今からでもちゃんと結花ちゃんの隣でその手を離しても大丈夫だと結花ちゃん自身が言えるまで傍にいてあげてください」
僕が優しく諭すと、お父さんは途中から泣き出してしまった。
「すみません…。
小児科の先生から同じようなことは言われてたのですが、その事をすっかり忘れていました…。
……あなたの言葉は、改めて大事な「学び」になります」
「あっ……別に僕の言ってることは別に僕自身が勝手に思っただけで、本当に合ってるかどうかは分からないんで……」
「いえ…。
結花がこんなに他人に固執したのは私と親族以外ではあなたが初めてなんです。
そんなあなたが言うことであれば、信じざるをえませんよ」
涙を拭きながらお父さんは笑顔で応えてくれた。
「ありがとうございました。
今日のことは結花にとっても良い経験になったと思います。
私も、あなたの言葉を忘れず結花ともっと真摯に向き合っていきたいと思います」
「…大変でしょうけど頑張って下さい」
お父さんにそう言い残すと、結花ちゃんがおもむろに僕に近寄ってきて僕のコートの裾を掴んだ。
「おにいちゃん。
またこんど、結花のおうちで結花とおはなししようよ。
おにいちゃんものしりだから結花たのしかった!」
「結花ちゃん……ありがとう。
また今度、どこかで会えたら…ね」
結花ちゃんの目線に合わせてしゃがみながら僕は結花ちゃんの頭をなでると、結花ちゃんは無表情ながらも僕に精一杯手を振ってくれた。
やがて二人は坂道を降りていった。
「すみません、ありがとうございました!」
「おにいちゃんばいばい!
かならずまた結花にあいにきてね!」
「うん!
結花ちゃんも、たくさん色んなことを知ってお父さんとなかよくしてね!」
僕も精一杯叫ぶとある程度、距離が空いてから二人は手を繋ぎながら楽しげに帰って行った。
『いいなぁ…。
家族がいるって………』
そうしんみりしていると、背後からトントンと突然肩を叩かれた。
「お父さん、見つかったんですね」
振り返ると、人差し指をたてていた涼に頬をつつかれた。
「涼…。
…うん、無事に帰って行ったよ」
「迷子だったんですか?」
「そうみたい。
あのぐらいの小さな子は、無意識に歩き回っちゃうからね…」
「…まぁでも、無事に何事も無かったのなら良かったですね……「お兄ちゃん」♪」
「ッ!?///
なっ、なんで急にそんな呼び方……////」
「だって、傍から見ててもあれは間違いなく「お兄ちゃん」でしたよ?
実際、あの子もそう言ってましたよね?」
ニコニコと涼が笑うも、僕は否定も逃避も出来なかった。
「まぁ……そうだけど……だからって、わざわざ涼までもそんな呼び方しなくても…」
「私は嫌いじゃないですけどねぇ。
おみくじといいさっきの迷子の子といい、なんだか今日の翔くんは「お兄ちゃん」してますよ♪」
どことなく楽しくなってきたのか、涼は後ろ手を組みながら僕の周りをくるくる回った。
「もぅ…涼ったら………まぁ、好きに呼べば?」
「そうさせてもらいます、お兄ちゃん♪」
そう言いながら涼が僕の腕に抱きつく。
「涼、歩きにくい……」
「いいじゃないですかぁ。
「妹」がお兄ちゃんに甘えるのは当然です♪」
「どこの頭の中お花畑みたいな妄想全開アニメのイメージなんだよ。
現実の兄妹ってのは実際、アニメみたいに仲良くないしある意味、競争相手みたいなものなんだよ」
「そうなんですか?
…でも、仲が良いことに越したことはないじゃないですか?」
「まぁ………それはそうだけど……」
「じゃあ決まりです♪」
再び涼が僕の腕に抱きつく。
悪い気はしないが、正直周りの目は痛い……。
「翔くん。
このまま帰るのもなんですから、翔くんが良ければこのまま近くのデパートで初売り見に行きませんか?」
「そうだね。
せっかく元旦に外に出たのに初詣だけで帰るなんてちょっと惜しいもんね」
「そうですよね。
それじゃ、今度こそバスに乗って行きましょうね、お兄ちゃん」
「うん、行こっ………ッ!?///」
気付いた時には手遅れだった。
最初うちは普通に「翔くん」と呼んでたため普通に返事をしていたが………。
「やっぱり翔くんは「お兄ちゃん」ですかね?
それとも……「パパ」もいけるかもしれませんね♪」
「もぉ〜〜〜っ!!///
いい加減にしてぇぇぇーーー!!!!」
全力で叫ぶ僕に涼が笑う。
さっきの虚しさも一瞬で吹っ飛んでしまい、僕は親戚のイタズラ好きなお姉さんみたいな涼にいびられながら初売りを見に行くこととなった。




