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Reconnect Fate〜二度目の初恋を君に捧ぐ  作者: 鷹利


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10/12

10.Merry for…/あなたとの聖夜

十二月二十四日、約束のクリスマス・イヴ。


「翔くん、早く行きましょ!」


「わ、分かったからそんなに引っ張らないで…」


約束していたテーマパークに行けるということもあってか、涼は珍しくテンションが上がっていた。


「うー…さむっ……」


小さい頃から身体が弱い僕は暑いのも寒いのも苦手ゆえ、夏も冬も苦手だった。

今日だってダウンコートの下に三枚着込んでも露出した肌身から感じる冷気にひどく凍えていた。


「翔くん、大丈夫ですか…?」


「う、うん。

カイロ持ってるから大丈夫だよ」


あまりの寒さに忘れていたが、念の為にと持ってきておいていたカイロをポケットの中で発熱させると、寒さで震えていた身体は自然と落ち着きを取り戻した。


「うー………暖かい……」


ようやく手に入れた「暖」に弛緩していると、そんな僕の様子を見守っていた涼が僕のポケットに手を入れてきた。


「わぁー、いいですね!

私も暖かいです♪」


「ッ…!?///」


突然のことに僕の脳内はパニックを起こしかけるも、どことなく強がりたがった僕はそのまま歩くことにした。


「しょ、翔くん、いきなり歩き出さないでください!

転んじゃいますから…!」


「大丈夫だもん。

これくらいで転ぶほど僕はドジじゃな……うわっ…!」


そう言った矢先のこと。

凍っていた水溜まりの上を無意識に歩いていた僕はギャグ漫画よろしく九十度の楕円形を描くように足を滑らせた。


「翔くんッ!」


背中を地面に打ちかける直前に涼が僕の背中を支えてくれたことで僕はなんとか転ばずに済んだ。


「焦った…。

死ぬかと思った……」


「んもぅ……マンガみたいに転んで怪我をするのは洒落にならないんですから気をつけてくださいね」


僕が転ぶ直前、涼の手が僕のポケットから抜けていたことで何とか僕は一命を取り留められた。


「ありがとう涼…。

背中ならまだともかく、これが頭を打ってたら本当に洒落にならなかったよ…」


「本当ですよもう。

…罰として、翔くんはテーマパークに着くまで私と手を繋ぐこと!」


「えっ……手を繋ぐなんて、そんな子供じみたこと………ッ!?///」


僕のセリフを遮るように涼は僕の手をもう一度ポケットに入れてそのまま僕の手を握った。


「これなら、滑っても転ぶことはないですよ」


ニコニコと涼は楽しげに笑う。

僕はただ、何も言えず黙ることしか出来なかった。


「さっ、早くテーマパーク行きましょ!」


少しこそばゆい気もするが、涼の手は冷たいながらも僕の心臓をドキドキさせるに難いことはなかった。


『…なんで………「恋人繋ぎ」なんだよもう………////』





















駅で電車に乗って少し離れた地域にあるテーマパークに僕らはようやく着いた。


『こういう所がこのご時世に残ってるなんて、ある意味凄いことだよな…』


僕らが訪れたテーマパークはかなり古く、東京や大阪にある有名なテーマパークに比べたらまさに月とすっぽんそのもの。

でも個人的にこういう所は好きだ。


「素敵な所ですね!

翔くん、早く中に入りましょ!」


「うん。

入ろっか」


平然を装ってはいるものの、実は内心僕もワクワクしていた。

なんというか……童心に帰った気分と言うべきか…。


「見てください翔くん!

すごく古そうなゲームコーナーもありますよ!」


涼の言う通り、入口から入ってすぐ側にレトロな雰囲気のゲームコーナーがあった。


「ほんとだ。

景品も今どきと比べてもやっぱ違うね」


釣り竿の糸の先に着いた磁石で同じく磁石の付いた景品を釣り上げる釣り竿タイプのクレーンゲームや、一世代前ぐらいの荒い画質のシューティングゲーム、様々な歴史を感じさせるレトロゲームが入口の片隅で点在していた。


『こういう古いのを大事にしてるのって何だか嬉しく思うんだよな…。

僕もこういうの好きだから…』


レトロゲームにしんみりしつつ、券売機で入場券を買って中に入ると広い敷地内にこれまた古めかしい観覧車やジェットコースター、メリーゴーランドなどの屋外遊具が立ち並び、様々な年齢層のお客さんたちが楽しんでいた。


「すごいですね翔くん!

どれも楽しそうですね!」


「そうだね」


すぐ目の先でエアー遊具の中で駆け回る子供たちにほのぼのと見ていると涼が突然、僕の手を掴んだ。


「翔くん、私あれ乗ってみたいです!」


涼が指さすのは一見してもごく普通のティーカップ。

稼働している四台のうち、一台でカップルと思わしき男女が楽しそうに回っていた。


「いいね。

あれから乗ろうか」


ちょうどタイミングよく終わったところで僕たちも乗ることにした。

ティーカップに乗り込むと涼は子供のように中央のハンドルを掴んでいた。


「アトラクションが動いたら、このハンドルを回すとこのティーカップも回るんだよ」


「そうなんですね!

楽しみです!」


子供のようにはしゃぐ涼に見とれていると音声アナウンスと共にアトラクションが回り始めた。


「わぁ〜…!

楽しいですね翔くん!」


「うん。

さっき言ったように中央のハンドルを回してご覧。

あっ、ゆっくりね…!」


「わかりました!」


過去のヤンキーの三人や海のナンパ二人組の件を思い出し一瞬、不安がよぎるもそれを察してか知らずか涼はゆっくりとハンドルを回した。


「ほんとです…!

ほんとに回ってます翔くん!」


涼は純粋に楽しんではいるが、体幹が弱い僕はこれでも酔いそうになっていた。


「そっ、そう…だね…。

あまり回しすぎないでね……壊しちゃうかもだから…!」


アトラクションに気遣うイメージで遠回しに減速を求めるも、初めて乗ったアトラクションに涼は夢中になっていた。

やがてアナウンスが流れたタイミングでようやくティーカップも稼働を止めた。


「はぁ〜…。

すごく楽しかったです♪」


「そ…それなら良かった……」


こういう時、自分の身体の弱さを呪ってしまう。

この程度で酔いかけてしまうなんて、つくづく僕は弱っちすぎる…。


『いや、ネガティブな考えはやめよう』


今日は涼が純粋に楽しんでくれてるんだ。

下手なことをして涼にガッカリして欲しくない。


「翔くん!

私、今度はあれ乗ってみたいです!!」


次に涼が指さしたのは…………「ジェットコースター」だった。


『…………』


広大な室内を駆け巡るジェットコースターに恐怖と歓喜の入り交じった叫声が響く。

涼はふんすと鼻を鳴らして目を輝かせていた。


「………うん…。

乗ろっか…」


そのあとの記憶は………正直、あんまり覚えてない…。





















「大丈夫ですか翔くん…?

絶叫系ダメならそう言ってくれれば……」


「ううん…。

強がった僕にも責任あるから……」


ジェットコースターを満喫(?)した後、僕は涼とベンチで一休みしていた。


「昔から絶叫系は見るのもダメだったんだ…。

テレビとかも、見てるだけで酔ってくるというか………」


「じゃあ、どうして…」


ジュースを一口飲んで僕は答えた。


「……涼がいるから……かな…」


僕の答えに涼は一瞬、目を見開くもすぐ微笑んだ。


「…だからと言って、無理はしちゃダメですよ。

あなたの身に何かあれば、困るのは私だけじゃないんですから」


ぺちっと涼は僕の前髪を避けておでこを叩いた。

なんか子供扱いされている気はするものの、僕は嫌な気はしなかった。


「そうだね…。

でも……僕は涼が来てから色々と変わった気がするんだ」


「変わった…?」


「うん。

涼が来てからというものの、僕はそれまで亡くなった涼子の事で頭がいっぱいで毎日が暗い日々の繰り返しだった。

ちょっと悪いことがあればすぐ落ち込んで、立ち直ったと思えば持ち前の鈍臭さでまたダメになったりして……でも、涼がうちに来てから僕の生活はだんだん明るみを取り戻したんだ。

それまでは、ちょっとした事ですぐ涼子に縋って自分を責めて何も出来なくて……なのに、今はもうそんな考えはどこにもないんだ。

ちょっとやそっとしたことで僕はもうくじけないんだ」


長々と自分語りをするも、涼はニコニコと笑顔を浮かべながら黙って聞いてくれていた。


「それなら私も嬉しいです。

私はあくまでもあなたの生活を支えるためのアンドロイド……いえ…「パートナー」として翔くんのお役に立てればそれでいいんです」


「涼……」


そっと僕の手に涼は自分の手を乗せる。

その優しさに僕は泣きそうになるも、ぐっと目の奥で堪えた。


「ありがとう。

君のおかげで、本当に僕は強くなれた気がする。

本当に……ありがとう…」


思わず涼子を抱きしめそうになるものの、その気持ちを堪えて僕は笑顔で返した。


「じゃあ、もう一回ジェットコースターに乗ってみますか?

強くなれた気がするなら、もう絶叫アトラクションも克服できたかもですし」


「………それはやめとく……」


「あはは」と笑いながら涼は立ち上がりながら僕の手を引いて立ち上がらせた。


「翔くん、まだまだアトラクションは沢山あるんですから、強くなった気がするならまだまだ遊ばないとですよ!」


「…そうだね」


それから涼に引かれるがまま、思うがままに僕たちはアトラクションを楽しんだ。

子供のようにはしゃぎ、次から次へとアトラクションを吟味する涼の後ろ姿に僕もまた忘れかけていた童心を思い出した気がした。





















「テーマパーク楽しかったね。

涼が誘ってくれなきゃ絶対行かなかったし」


「そうですね。

私も、翔くんと来れて良かったです」


帰りの電車の座席で僕たちは今日の出来事を語り合っていた。


「疲れたけど……本当に楽しかった。

絶対、僕一人や大学の友達とは来なかった………涼…?」


隣で涼は僕の肩に頭を乗せていた。


「翔くん……少しだけ……休ませて………くださ…い………」


そう呟き、涼はすうすうと寝息をたてた。


『いっぱい楽しんだもんね』


周りに誰もいないことを確認して僕は涼の頭を撫でる。

涼の白銀の髪はサラサラと毎日手入れをしているかのように柔らかく心地よい手触りだった。


「…涼。

実はね……僕には夢があるんだ」


涼は返事を返さない。

それでも僕は続けた。


「僕ね……いつか「小説家」になるのが夢なんだ。

一応、恋愛もので考えてるけど……いつか、本気で自分の作品を書こうって決めてるんだ。

もちろん、趣味の範囲内の話だけど、本気で目指してる」


どことなく涼が眠りながらも僕の話を聞いてくれてる気がした。


「単語帳はもう書いてないけど、今でも今まで書き集めてきた単語を何かで活かしたいと考えて……それで小説を書こうって決めたんだ。

もしかしたら……涼と涼子のことを書くかもしれないけどね。

今まであったこと、これから体験すること………その全部を一冊の小説にしたいって思ったんだ」


自分の夢を語る間に何気に涼の手が僕の手に触れた。

僕は彼女の手にそっと自分の手を乗せた。


「これはね……涼子との約束でもあったんだ。

涼子にも同じことを伝えたんだ。

いつか、僕が書きまとめた単語帳を活かせる小説を書きたいって。

涼子も読みたいって言ってくれたんだ」


それが、たとえ二度と叶わない夢であっても───。





















涼子が入院して一年が過ぎた頃の話。


「涼子は退院したらどこか行きたいとことかある?」


学校帰りに僕は涼子の病院に見舞いに来ていた。

その日は涼子の体調も良かったらしく、会話もスムーズに出来ていた。


「んー…。

特に行きたいところとかはないかな。

私は翔ちゃんと一緒ならどこでも楽しいし」


涼子はあまりに無欲すぎる。

年頃の女子とは思えないほどおばあちゃんみたいなセリフばかりで逆に男として少しだけ困る。


「でも、退院出来たらきっとどこか行きたくなるはずだよ。

僕たちだってまだまだ若いんだし、ちょっと遠くても電車とかで移動もできるし!」


少し推し気味に伝えると、涼子はわずかに思慮してから答えを出した。


「じゃあ私、遊園地デートがしたいな」


「いいね!

行こうよ遊園地!」


少し過剰気味に僕は賛成するも、涼子は打って変わって冷静だった。


「遊園地だけじゃない。

水族館とか、お祭りとか、たくさん色んなとこに行って二人で思い出を作ろうよ。

僕も、涼子と一緒ならきっとどこでも楽しいから!」


子供のように浮かれるも、そんな僕を見つめる涼子は相対的に冷静だった。


「翔ちゃん」


おもむろに涼子は僕の手を取った。


「…ありがとう」


気を遣って半ば無理くりはしゃぐ僕を静止するように涼子はただ一言そう言った。


「…涼子。

僕には夢があるんだ」


「夢?」


キョトンと表情を変えて涼子は興味をそそらせた。


「僕ね「小説家」になりたいと思ってるんだ。

ミステリーとかそういう堅苦しいのは無理だけど、恋愛ものとかみたいなライトノベルを自分の言葉で書きたいと思ってるんだ」


「恋愛………」


「その為にはヒロインが必要でしょ?

そのヒロイン役を……涼子。

君に担って欲しいんだ」


涼子は目を見開いた。


「でも…私はこんなんだし、特に特徴があるわけでも可愛げもないし……」


「そんなことない!

涼子はすごく魅力的で素敵だよ!

過去のトラウマから女の子が苦手になってた僕を君は引っ張り出してくれて、挙句は僕の大切な恋人になってくれたんだ。

僕の単語帳だって面白いって言ってくれたし……とにかく、涼子は僕にとってかけがえの無い存在なんだよ!」


一心不乱に語る僕に恥ずかしさを感じたのか、途中から涼子は前髪をいじりながら顔を隠した。


「じゃあ……早く病気を克服して遊園地行かないとだね」


「っ…!」


隠した前髪から片目だけ覗かせながら涼子は憂いの目を向けた。


「私は翔ちゃんの単語帳も好きだよ。

そんな翔ちゃんが書く小説ならきっとすごく面白いと思う。

そのヒロインが私なら……「翔ちゃん先生」のよきヒロイン像になれるように私も頑張らなきゃだもんね」


「先生はまだ早すぎるよ…。

でも、涼子とはまだまだこれからたくさん思い出を作って小説のネタにもしたいし……君に僕が恋人で良かったって思って欲しいから」


「翔ちゃん………」


涼子は涙を滲ませながら笑顔を浮かべた。


「好きだよ涼子。

君が本気で好きだから、君が退院して元気になったら色んな所に行って思い出を作って、君と結婚してから僕は小説家になりたいんだ。

…まぁでも、小説家なんてほんと二の次の話。

とにかく、僕は涼子が元気になってさえくれればそれでいいんだ」


途中から涼子は鼻を(すす)りながら涙を流し、笑顔を絶やさなかった。

その様は、僕には刺激が強すぎる尊さがあった。


「…じゃあ、翔ちゃんが本当に小説家デビューしたら、ファン第一号は私だからね。

誰よりも一番最初に翔ちゃん先生の作品に、人物に惚れた最初のファンだからね。

サインも私が一番最初に貰うんだから。

とにかく……あなたの一番最初は全部私からだからね」


「もちろんだよ。

涼子が一番最初だって決めてるよ」


嬉し泣きをしながら涼子は両手で顔を覆う。

僕はそんな彼女が美しく見えて仕方なかった。


「約束だよ。

私が一番最初に翔ちゃん先生の作品を読んで、一番最初のファンになって、一番最初にサインを貰うんだから…」


「うん。

約束する」


未だ涙を拭う涼子の手を取り、代わりに僕が彼女の涙を拭い取る。


「…女の子の泣き顔を見て笑うなんて、翔ちゃん先生は特殊な変態だね」


「ッ!?

そ、そんなこと…それに、僕は笑ったりなんかしてないよ……!」


わかってると言わんばかりに涼子は楽しげに笑う。


『あぁ…。

やっぱりこの笑顔が好きだ……』


幸せそうに笑う涼子に僕の胸がときめく。


「翔ちゃん」


おもむろに涼子は僕の手に触れる。















「私も、翔ちゃんのこと………大好きだよ」





















『結局、涼子は帰らぬ人となった。

僕がどんなに望んでも彼女は二度と生き返らない。

この世界はアニメやゲームと違って特殊な条件やアイテムで死んだ人を生き返らせることはできない。

…分かってるけど………僕は……涼子に…もう一度……』


その時だった。


『ガタン!』


電車の揺れが一段と大きく流れたと思いきや、僕の肩で眠っていた涼の頭が僕の膝に位置を変えた。


「ッ…!?////」


涼はすぅすぅと変わらず寝息をたてる。

それどころか、僕の膝を枕と勘違いしてか膝に手を添えて頭の位置を擦りながら直していた。


『どっ、どうしよう…!

これはこれで悪くないけど、こんな所誰かに見られたら色々と気まずい…!///』


そうは思えど、結局何も出来ない僕はやがて時間経過と共に落ち着きを取り戻し、気付けば僕の膝枕で心地良さげに眠る涼の頭を撫でていた。


『僕は涼子の恋人。

でも、涼のことも好きだ。

浮気になるかもだけど……それでも……』


忘れかけていた恋のときめき。

涼子が教えてくれた感情を涼は思い出させてくれた。

似たり寄ったりで相対的な二人の恋人。

僕は…どうすればいいんだろうか…。


「翔……ちゃん……」


何時ぞやの寝言を涼は何気に呟く。

呼び方も声も雰囲気もかつての恋人の涼子と全くおなじ。


「でも……君は涼…。

君は…僕の…大事な………恋……」


すやすやと眠る涼の寝姿に誘われるように僕もまた睡魔に意識を引っ張られそのまま寝落ちをした。





















『……さー……です…………おきゃく…かー………』


「んぅ………」


誰かの声が気がして僕は目を覚ました。

僕の目の前には駅員っぽい制服の男の人と涼が僕を見下ろしていた。


「あれ………僕……寝過ごして…………ッ!?」


自分の発した一言に僕はとてつもない悪寒を感じ、男の人に尋ねた。


「あ、あのっ……もしかして……」


「終電ですよ。

お客さんたちが最後です」


やらかした。

駅員の隣で涼は申し訳なさげに顔をしかめていた。


「ごめんなさい翔くん。

私が寝過ごしたばかりに………」


「い、いや、僕も寝過ごしちゃったから…!

…とりあえず、降りよっか!」


急いで電車を降り、駅のホームの階段を上がっては降りて待合室から出ると、そこに広がっていた光景は……知らない場所だった。


「ここ……どこだろう…」


改めて目の先にあったバス停の時刻表を覗くと………そこは僕たちの家より二十キロ離れた駅だった。


「そんな………」


時刻は夜の二十三時。

タクシーで帰ることは出来るが、あいにく近場には停まってはいなかった。


「どうしましょう翔くん……」


不安げに涼が僕の服を掴むも、それを省みず僕は歩き出した。


「とりあえず近くまで歩こう。

近場にならタクシーとかもいるはず」


涼の手を掴んで歩くと、数分もする頃に居酒屋の集まった通りが見えてきた。


『良かった…。

この辺ならお客さんを待ってるタクシーもいるはず。

予約車でない限り、それを使って家に帰れば…』


「翔くん」


おもむろに涼は一件の建物に指をさした。


「今日はここに泊まりましょう」


そう言って涼が示唆したのは………まさかのラブホテルだった。


「ッ!?////」


僕がたじろぐも涼は僕の意見も聞かず、今度は僕の手をひいて敷地内に入った。


「り…涼…!

ここ……ら…ラブホテ………////」


ラブホテルと言いたかったが、なんだか恥ずかしくなった僕は結局言えずじまいで彼女に誘われるがまま中に入った。


『ど……どうしてこんなことに………』




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