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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第46話 魔法少女よ、永遠に(その3)


 マリーが何のためらいもなく首都の街中に群がる群衆に向けて放った莫大なエネルギー波は、大気中の電子をことごとく弾き飛ばして全方位に散った。

 結果としてそこには、人や建物の一切をすくい去った、数キロに亘る広大なクレーターが出現するはずだった。

 実際、空気中の水分や塵が燃え尽きた後の炭化した乳白色の膜は大きく膨れ上がり、そこに位置していたオフィスビルや高層マンションの影を覆いつくしてしまうと、上空を飛んでいた報道ヘリのレポーターは言葉を失って、次に現れる地獄絵図を頭に浮かべながら、再び地上に視界が開けるのを待っていた。


「これは、いったい何事が起きたのでしょうか。我々の目の前を飛んでいる大男の目から赤い光が地上に放たれました。

 すると続けて、地上では爆弾でも破裂したかのような大きな音とともに、巨大な爆炎が吹き上がりました。

 これは、私たちが過去のフィルムやビデオなど、記録映像で目撃したことのある核実験の模様と瓜二つといっても、過言ではありません。

 そう、まさに、この首都東京の街中は、核ミサイルでも打ち込まれたかのような様相を呈しています。

 さらに信じられないことですが、その巨大な爆発は、我々が飛んでいるヘリの目前に、今も漂う、白っぽい大男の目から放たれた一筋の怪光線によって、もたらされたものなのです」


 雲とも見紛まがう爆発後の白い水蒸気が、まだ下界に霧のように立ち込める中、ヘリのレポーターは必至の報道を続けていた。


「サキちゃん、どうしよう」


 口元を抑えたままのアズサが涙声を上げた。

 どうしようと言われても、どうすることもできない。サキも泣きたい気持ちは同じだ。この爆発では、何十人、いや何百人の人が怪我をしていることだろう。否、単に怪我では済むはずがない。死者が出てもおかしくない。

 いや、被害の規模や大きさなど想像できない。ただ予想できたのは、これまで自分たちが平和に暮らしてきた街中で、まるで戦場のような悲惨な状況が生まれつつあるということだけだ。


「あれ? 見てみて? なんか変だよ」


 未だ視界を遮る白煙漂う街の真ん中を、ミサトが指差した。

 そこには、一人の少女がぽつんと立っていた。

 少し遠巻きに少女を取り囲むように、人々が群がっている。

 ある者は崩れ落ちるように頭を抱え、ある者は耳を塞いで目を瞑り、ある者は拝むように手を重ね、ある者は手を組んで祈り、爆発のショックで、誰もが膝を付いていた。

 その中で唯一、片手で持った杖を上空に向け、杖の先端で一点を指し示すように両足で踏ん張る少女の姿があった。


「ケイトよ、あれは!」


 サキは、街の中にケイトの姿を認めたのと同時に、爆発で吹き飛ばされたはずの建物や車、さらに集まった人々がそのままの姿で残っていることに気づいた。


「これは、どういうこと?」


 ミサトも、街中に“何の異変も起きていない”様子に驚きの声を上げた。


「我々は、夢でも見ているのでしょうか?

 先ほど、我々がヘリで飛ぶこの真下で巨大な爆発を確認したばかりなのですが、地上を覆っていた煙幕が消えた今、ご覧ください。

 なんと、街は、何事もなかったように、建物も、人も車も、そのままの姿で現れました。

 さきほどの爆発は、空中だけで起こったものなのでしょうか。それとも、何かのトリックだったのでしょうか」


 まさに狐に摘ままれた思いで、レポーターは放送を続けた。


 *


「これはケイトの魔法だわ」


「ケイトちゃん、やるわね」


 ティル・ナ・ノーグにある地下の大広間では、テレビで流れる臨時ニュースの生中継を、壁のスクリーンに映し出されていた。

 アリスとハンナはまだ手当てを受けており、意識がしっかりしていた仮面の魔女とエミが、地上に出て行ったマリーとゴーレムの成り行きを画面越しに監視していた。


「間一髪、マリーの命令でゴーレムが放った魔力を、ケイトが防御魔法で防いだみたいね。

 あなたから授かったあの魔石がなかったら、きっと防げなかったかもしれないわ」


「確かに魔石の力はあったかもしれないけど、あの子の防御力も大したものだわ。

 あの破壊的な魔力をまともに受けたら、普通の魔力ガードでは、吹き飛ばされてもたないはずよ」


「親バカね。……いや、冗談よ。

 確かにケイトちゃんの魔力は凄いわ。ただし、“防御”に関しては、ね。

 ここからは、本当の力が試されるときよ。マリーに勝てるかどうか、魔法少女として、真の力が発揮できるかどうか」


 *


「ふーん。また、お前か」


 先ほどティル・ナ・ノーグの戦闘で、自分の攻撃をことごとく防がれたことをマリーは思い出していた。

 あの子の魔力は、少なくとも防御に関しては、かなり高い。

 本人は、気づいていないのかもしれないが、防御力が高いということは、その力を攻撃に振り向ければ、それなりの力を発揮できるということなのだ。

 ただし、防御に使う魔力を攻撃に振り向けるには、それなりのスキルが必要だ。

 そのやり方をこの子は、知っているかどうか、きっとまだ知らないのだろうと、マリーは踏んだ。


「なるほど、そうなれば、まだ、こちらに勝ち目はあるな」


 マリーは得心した。いずれにせよ、これからひと暴れするためには、目の前の少女は目障りだ。次の段階に目覚める前に、今すぐにでも、排除しておきたい。


「ウルティマ、次の攻撃だ」


 マリーはウルティマにもう一度、衝撃波を放つように命令した。

 ウルティマが攻撃したときに、ケイトは再び防御に回るはずだ。

 その時、すかさず、自分の魔力を相手の隙に叩き込む、そうすれば勝てると踏んだ。


「えいっ!」


 ケイトは、マリーがゴーレムを使って次の攻撃を放つことを予測していた。そうなれば、たった今張り巡らせた魔力のバリアでもう一度、街全体をカバーしようと、あらかじめ身構えていた。

 ゴーレムが放った衝撃波はさきほどよりもかなり弱かった。

 街一つを吹き飛ばすような大きなエネルギーを放つには、魔力をそれなりにチャージする必要がある。

 かなり巨大なエネルギーを放ったばかりで、それだけの魔力は、まだ、十分に蓄えられていなかった。

 ケイトは、そうした魔力の事情を、今のゴーレムの攻撃で直観的に感じ取った。


(これなら、十分に防げる)


 そう思った時だ。張り巡らせてあるはずのバリアの隙間を抜けて、マリーの放った針のように突き刺す攻撃がケイトの右肩辺りを貫いた。


「うっ!」


 これまでに感じたことのない、電気ショックのような鋭い痛みが襲う。痛みのため、ケイトのかけていた防御魔力が自然と緩み、バリアが解ける。


「ケイト!」「ケイトちゃん!」


 上空で見守っていた四人の魔法少女が口々に叫んだ。

 倒れかかったケイトの元に、真っ先にサキが駆け付けた。


「しっかりして、ケイト」


 サキはケイトに肩を貸して、マリーの方を睨んだ。


「黒猫ちゃんたち、集まってきたね。まとめて、吹っ飛びな」


 ケイトを中心に五人の集まったところに、マリーが魔力を放った。


「舐めるなよ!」


 ケイトほどの威力はないが、ミサトが防御魔法で自分たちの手前の空間に“盾“を作り、マリーの攻撃を防いだ。


「へえ、少しはやるね」


 マリーが感心して隙が空いた。

 今がチャンスだ。と思ったユキは、マリー目掛けて突っ込んでいった。

 ユキは、これまで黒の魔法少女の中にいて、じっとしていたが、別にマリーに対して怯んでいたわけではない。

 マリーが、なかなか隙を見せないので、攻撃をしなかっただけだ。ところが、今、自分の攻撃をケイト以外の魔法少女に防がれたことで、動揺が見られ、隙が生まれた。


「やあー」


 ユキは、マジック・ワウンドを木刀のように頭上まで大きく振りかぶり、マリーの頭目掛けて叩きつけた。


「うわ、なんだ、コイツ」


 マリーは近接戦を挑んできたユキに驚いて、その物理攻撃を躱すので一杯いっぱいだった。


「今だ、やっちまえ」


 ユキの攻撃で、チャンスとみたミサトも飛び出す。


「あ、待ちなさい」


 サキだけは冷静だった。

 見た目は少女でも、中身は史上最大級の魔女相手に、物理で勝てるはずがない。


「うぜえな、お前ら」


 マリーはユキとミサトの攻撃を空中で後退りしながら受け止め、返す“刀”ならぬ、杖で魔力を放った。


「うりゃー」


 マリーが蠅を追い払うように放った魔力で、ミサトとユキは呆気なく吹き飛ばされ、地面へと落下した。


「うわっ」


 アスファルトに叩きつけられる寸前で、二人の身体がフワリと止まった。


「間に合ったわね」


 ミサトとユキのすぐ近くに、白の魔法使いのアカリの姿があった。


「助かったよ、ありがとう」


「別に助けたわけじゃないわよ、今はお互いに協力するときだから、しかたなく……」


「いいじゃんか、そんなに肩肘張らなくても」


 ツンデレかよと思ったが、まあ悪い奴ではなさそうだと、ミサトは感じた。

 アカリのほか、他の白の魔法少女も、五人全員が集まっている。


「ユキ、相変わらず無茶しますね、自重してください」


 白の魔法少女の一人ユイが、姉のユキを窘めた。


「あ、ユイ、いいとこに来た。ねえ、あの魔法少女、二人でやっつけようよ」


「無理ですよ」


「そうかな?」


 ユキの言っていることは、一概に無謀とは言えなかった。

 マリーに“物理”で体当たりしてみて、一人では無理だが、みんなで掛ればなんとかなると、感じたのだ。


 *


「それよ、それ!」


 ティル・ナ・ノーグで、テレビの映像だけでなく、魔力で状況を観察していたエミは、一見すると、ユキの無謀な攻撃を見て、勝機を感じていた。


「どうかしたの?」


 終始心配顔だったエミの顔色がパッと輝いたのを見て、仮面の魔女が尋ねた。 


「マリーに勝つ方法は、これしかないわ。今から、ケイトにテレパスを送るわよ」


 エミは、ケイトと頭の中で会話するために、目を閉じて集中し始めた。


 *


「あ、エミさんだ!」


 サキに支えられて立っていたケイトが、エミのテレパスに気づいて顔を上げた。


(ケイト、よく聞きなさい。

 あなたたちがそれぞれ単独でマリーを攻撃しても勝目はないわ。

 さっき、礼拝堂でアリスと闘った時のことを思い出すのよ。

 あそこであなたは、私やサキとか、皆の力を集めて防御魔法を使ったでしょ。

 あの時と同じように、そこにいる皆の力を集めて、今度は攻撃魔法を放ちなさい。

 今持っている魔石ソレイユの力と合わせれば、きっと勝てるはずよ)


「攻撃魔法ですか?」


 エミの話に応えるつもりで、つい言葉が口に出た。


「攻撃魔法、あなた使えるの?」


 ケイトの言葉を聞いてサキが尋ねた。


「消滅魔法は使ったことがあるけど、それだと、アオイちゃんはたぶん救えない。どこか遠くに体ごと飛ばすだけだから」


 攻撃魔法でマリーに致命傷を負わせたら、アオイちゃんも死んでしまうのではないか。ケイトは決心が鈍った。


(ケイト、躊躇ためらってはダメ。

 アオイの身体は、マリーに乗っ取られているのよ。このままでは、彼女の暴走を止めることはできないわ)


 躊躇しているケイトにエミが喝を入れた。


(あなたの攻撃が効いて、精神的にダメージを与えることができれば、アオイの身体からマリーが出て行くかもしれないし)


 エミだってそんなにうまくいくとは考えていないが、ここはケイトに一縷の望みを抱かせることが必要だ。


「わかりました。とりあえず、やってみます!」


 やっぱり、マリーをこのままにしておくわけにはいかない。

 アオイちゃんの身体をなるべく傷つけないようにして、勝てばいい。ケイトは決心した。



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