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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第36話 ケイトの決断(その2)


 魔力を溜め込んだ巨大な泡は、弾け飛ぶと同時に幾千もの魔力弾を周囲に放った。

 それは、膨らみ過ぎた風船が爆発して勝手な方向に飛び散るのとは違い、アリスのテレキネシスで見事にコントロールされていた。

 密度の高い魔力弾が、黒の魔法少女と、白の魔法少女のいる二手に分かれて放たれていった。

 

 もし、魔法少女に変身していなかったら、彼女たちは、その魔力弾の高輝度に網膜をやられて何も見えなくなっていたかもしれない。

 変身していたので、かろうじて目を開いてその弾道を捕らえることができたが、エミとシズカが直前に危険を察知して前面に張り巡らせた魔力のバリアがなければ、それも不可能だったろう。

 だが、通常の魔力攻撃なら裕に防げるそのバリアも、アリスが放った幾千もの魔力弾の前では、薄いガラス板のように脆かった。


〈パリッ!!〉

 

 まさにガラス窓に鉄球がぶつかってヒビが入ったかのような音が、盾の後ろにいたケイトたちの耳に届いた。


「うわあ」「ぎゃああ」「きゃあああ!」


 誰彼となく、悲鳴に近い声が上がる。

 ビュンビュンと音を立てながら高速で飛び去った魔力弾は、ケイトたちの後ろで炸裂し、聖堂の崩れかけた壁に、柔らかい粘土に五寸釘でボツボツと打ち付けたように、たくさんの穴を開けまくった。

 普通の人間が、これをまともに体に食らっていたとしたら、即死していたかもしれない。

 ケイトは、アリスの力が自分たちよりも遥かに上であることを実感しないわけにはいかなかった。

(このままでは、全員、皆殺しにされる)と、ケイトが思ったその時だ。


「やるわね、じゃあ、今度はこっちの番よ!」


 アリスの攻撃が止んだ瞬間、魔力の盾を解いたエミは、すかさずマジック・ワウンドを振るってアリスのものとは異なる魔力光を相手に放った。

 不意を突かれたアリスは、エミの攻撃をまともに浴びて片足が一歩後退った。


(さすが、エミさん)


 声には出さなかったが、自分たちは絶体絶命だと思っていたのに、エミの魔力がアリスに拮抗できるだけのものであることを知ってケイトは安堵した。

 また、その点でエミの力を見縊っていたことを少しだけ反省した。


「私も反撃します! エイィ!」


 エミだけではなかった。

 サキがエミと同じようにマジック・ワウンドを振るって、魔力光を放ち、攻勢に転じた。

 しかし、サキの魔力光は、アリスの片手の一振りで弾き返された。

 初弾で不意を付かれたアリスだが、サキの攻撃を避けるだけの余裕はあった。


「ふん……、やるじゃない」


 エミの攻撃で苦痛に顔を歪めていたアリスの表情には、なぜか嬉しそうな色も混じっていた。


 サキの攻撃がトリガー(切っ掛け)となったのか、他の魔法少女たちも、攻撃に転じた。


「くそっ、リックのかたきは、取らせてもらうぜ!」

 

 “相棒”をやられて頭に血が上ったミサトは、すでに気を失っていたギターの残りの弦を弾いて、独特の魔力弾を放つ。

 すかさず、アリスがそれを弾き返す。


「えぃ!」


 ミサトに釣られたかのように、ユキ、先ほどまで手が震えていたアズサまで、魔力光を放った。

 アリスは、それらの攻撃をテニスの試合で、アマチュアが精一杯放ったスマッシュを、軽く受け流すプロの選手のように真横に弾き飛ばした。


 絶対絶命だと思っていたのは、自分だけなのか、ケイトは恥じ入るばかりだ。


「ケイト、しっかり!」


 エミにそう言われて、ケイトもマジック・ワウンドを握り直したが、皆と同じように魔力を放つことができなかった。


(だ、ダメだ!)


 その様子に気づいたのか、アリスは、ケイトに対して集中的に魔力弾を放った。


「わっ!」


 ケイトはアリスの攻撃が自分の足元に炸裂して飛び退いた。

 目に見えない鉄球が地面に落ちたように、ボツボツと砂埃を立てて数個の穴が穿うがたれた。


「ハハハハ、黒の魔法少女の“エース”がその調子じゃ、あなたたちに勝ち目はないわね」


 アリスが高らかに笑った。


「うちのエースは……」


 エミは、アリスの放った一言に顔を曇らせた。

 一方のケイトは、混乱していた。

 自分がエースとか、アリスは何を言っているのだろうか。

 先ほどは、サキのことを黒の魔法少女のリーダーだと勘違いしていたくせに、今度は、煽てるようなことを言う。

 これも一種の精神攻撃なんだろうか。

 ふと、ケイトが横を向くと、ノワールサイドとは違い、ブランサイドの魔法少女たちは、大海原に筏一つで漂流しているかのように、シズカの後ろに縋りつくように一つに固まって動けなくなっていた。

 ケイトのその視線に気づいたのか、アリスも白の魔法少女の方を振り向いた。


「あちらは、もう戦意喪失のようね」


 アリスには、やはり余裕がある。

 ここで能力的に彼女に対抗できるのは、やはりエミさんしか、いない。もしかすると、シズカさんにもそれなりの力があるのかもしれないが、これでは無理そうだ。

 ケイトは、どうしていいかわからなかった。

 踏切で立ち往生し、猛スピードで向かってくる電車にどう対処していいのかわからずパニックに陥ったときと同じ気分を味わっていた。

 

「言っておくけど、さっきの攻撃は、20%程度よ」


「嘘おっしゃい! 50%は出してるでしょ」

 

 アリスの煽りにエミが応えたが、それって、どうなの?と、周りの誰も思ったに違いない。


「なら、今度は、本気よ。全力でいくから、覚悟しなさい」


「100%の力を出してくれるって、ことね。望むところよ」


(いや、望んでいませんから)と、ケイトは心の中で思ったが、エミさんだって本心ではないはずだ。


 ケイトは覚悟を決めた。

 ここは攻撃よりも、全力で防御に徹しようと。


 アリスの言葉は、“嘘”ではなかった。

 彼女が両手を高々と天に翳すと、最初の攻撃の裕に十倍以上はある強烈な魔力が解き放たれていくのをケイトは全身に感じた。


シールド全開!」


 ケイトは、誰に教わったわけでもなく、先ほどのエミの仕草に倣って、魔力の盾を前方に出現させるように念じてみた。


 結果は、なんとかうまくいった。

 エミさんが出した盾と同じような透明のバリアが、自分たちの周囲に張られている。


「それで、避けきるかしら?」


 アリスは、ケイトが張ったバリアを見ると、ほくそ笑んでさらに魔力を上げた。


「地獄の業火ヘルズ・フラッシュ!!」


 アリスが、初めてその技名スキルを詠唱した。

 しかも、その呼び名が、“地獄”とは、この人は、やはり魂を悪魔に売り渡した魔女なんだろうか。

 ケイトは、アリスの攻撃と同時に、自分の魔力も精一杯引き出すように絞り出した。


 アリスが放つエネルギーと、ケイトの盾のエネルギーがぶつかり合い、周囲は、眩しさで目を開けていられないほど、真っ白に光った。


「バキバキバキバキバキ!!!」


 瞬間、何百という稲光が同時に起きたような轟音が周囲に走った。

 やがて激しい閃光が止み、その反動で辺りが急に暗くなったように感じられた。


 気づくと、ケイトの視界の向こうに、アリスがぽつんと立っていた。

 だが、その姿は、マジック・ワンドを自分の身体を支える杖代わりに地面に突き立てて、今にも崩れ落ちんばかりに両膝を曲げていた。


「くっ、馬鹿な……」


 アリスは信じられないという顔でケイトを見返した。

 ケイトにも、何が起きたのか、理解できなかった。

 アリスの放ったエネルギー弾は、ケイトの作った盾によって弾き返され、カウンターとなって己の身に降り注いだのだ。

 それほど、強力なシールドをケイトは無意識のうちに編み出していた。


「驚いたわ、ケイトちゃん。

 やっぱりあなたの魔力は凄いわね、アリスの攻撃を弾き返すほどのシールドが張れるなんて」


 周りにいた全員の無事を確かめると、エミは素直に歓喜の声を上げた。




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