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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第34話 人類初期化(リセット)計画(その3)


 巨大スクリーンに映し出されたウォーカー男爵の演説は、さらに続いた。


「人類をリセットした後の再編を、自分たちではなく、人類の中でも優れた能力を持つ、魔法使い、ひいては現在我々と敵対している魔法少女たちに託すべきではないのか、これまでの闘いを通して、そう考えるに至ったのです」


 画面の中でそのように語るウォーカー男爵という“老人”を、ケイトは気味悪く感じた。何か得体の知れない変質者的なものさえ感じる。


「うわあ、寒気がする」

 

 ケイトの気持ちを代弁するように、隣に立っていたアズサが両手で肩を抱えて、苦虫を噛んだような顔つきをしてみせた。


「敢えて言いましょう。私たちアイオンは、魔法少女のあなたがたに、我々人類の未来を託すのです。

 もし、魔法少女のどなたかが、これをご覧になったのなら、我々の意志を引き継いで、どうか、人類の未来の再構築に力を貸してほしい。

 否、あなたがた魔法少女が、新たな人類の礎とならんことを、願うものであります」


 ウォーカー男爵の目は、孫ほども年の離れた少女に対して、恋の告白をする哀れな老人のように潤んでいた。

 男爵の画面は、そこでプツリと消えた。

 

「さあ、これでわかったでしょう。

 行き詰ったこれまでの人類を駆逐し、私たちが、これからの新しい人類の“イブ”となるのよ」


 アリスが皆を招き寄せるように、両手を広げた。


「冗談じゃないわ、アリス、あなたは狂ってる」


 エミは魔法少女たちを庇うように、眉間に皺を寄せながら、左右に手を伸ばした。


「アリス、あなたの言うことには確かに一理あるわ」


 シズカが口を開いた。


「シズカ、あなた、アイオンの考え方に同調する気?」


 エミが驚いて声を発した。


「どうしようもない人間がいることは確かだし、それを一人一人正していくのでは切りがない。その点は、私もその通りだと思う。

 だからと言って、罪もない人まで巻き添えにするのは、納得できないわね」


 敬虔なクリスチャンのシズカが、ここでジェノサイド的なアイオンの思想に感化されるとは、エミも考えていなかったが、その一言を聞いて安心した。


「でも、今のウォーカー男爵のビデオを見ただけで、あなたがアイオンの一味なったというのは、ちょっと納得できない。

 今まで敵だった、男爵に、ちょっとおだてられたぐらいで、私たち魔法使いが新しい人類の礎になるべきだと、あなたは本当に考えているの?」


「もちろん、私がアイオンに加入した理由は、これだけではないわよ」


 アリスは真剣な表情を取り戻して言った。


「きっかけはウォーカー男爵のこのビデオだったけれど、私が人類リセット計画を引き継ごうと思ったのは、魔法使いや魔法少女、つまり、私たちについての“真実”を知ったからよ」


(魔法少女の真実? それって何?)


 ケイトは声にこそ、出さなかったものの、自分が魔法少女、特に黒の魔法少女に選ばれたときから、何か釈然としないものを抱えていた“何か”が、アリスのこの一言に、その理由が隠されているような気がした。


「エミ、それにシズカ、それと、ここにいる魔法少女のあなたたち、あなた方は、なぜ魔法少女になったのか、その理由がわかる?」


「え? 今さら、何を言っているの、魔法少女に選ばれたからに決まっているじゃない。私もかつて、師匠に選ばれて、現在の魔法使いにまでたどり着いた。そして今回、この子たちを選んだのは、この私よ」


「なるほど、で、エミ、あなたは、なぜその子たちを選んだの?」


「それは“才能”があったから……」


「それは魔法少女の才能なの?」


「魔法少女の……才能というのとは、ちょっと違うわね。

 適正があったという方が正しいかしら。

 彼女たちを選んだのは、それぞれ“魔力”を持っていることがわかったからよ」


「もし、あなたが、この子たちを選ばなかったら、この子たちはどうなっていたかしら?」


「まあ、普通の子として、過ごしていたんじゃないの?」


「フフフ、それはきっと違うわね」


「?」


 アリスの一言に、その場にいた一同が疑問に思った。


「いいこと、私たちが、もし魔法少女に選ばれなかったとしたら、“異能者”として、政府や国際機関から葬り去られていたはずなのよ」


「何を言っているの。魔法少女になる才能があっても、魔法少女に選ばれない子はいっぱいいるじゃない?」


「だから、そういう子は、元々、魔法少女に選ばれることはない。

 才能があって、魔法少女にならなかった子は、いわゆる超能力と呼ばれる存在として、運が良ければ、その道で活躍できるかもしれない。でも、それはごく一部の人間だけよ。大抵の人間は危険な異能者と見做されて抹殺されるのよ」


「そんなバカなこと、初めて聞いたわ」


「これは事実よ、そうした異能者の抹殺を一時期担当していたのが、私たちのかつての指導者ボス磯村女史というわけね」


 そのアリスの一言に、エミだけでなく、シズカも声が出せなかった。 


「結論から言うと、魔法少女とは、遥か昔、人類に害を及ぼす惧れのある“異能者”を封じ込めるために作り出したシステムなのよ」


「そんな情報、どこから手に入れたの?」


「残念なことに、これは磯村女史から直接聞き出したんだから間違いないわ」


 エミもシズカも、アイオンがここで“壊滅”したあの時以来、磯村女史とは、一度も会っていない。

 そのまま例の国際機関に勤めているのか、別の場所に異動したのか、はたまた退職したのか、彼女のその後の動静については全く知らない。

 

「ウォーカー男爵のUSBを磯村女史の元に届けて以来、私は国際機関の監視対象に入ってしまった。

 きっと中身を見ているに違いないということで、機を見て始末しようと目論んでいたようね」


「まさか、そんなこと……」


「通学のとき、横断歩道を渡っている最中、車に撥ねられそうになったり、電車を待つ駅のホームで突き落とされそうになったり、気のせいでは済まないことがたくさんあった。特に変身していなければ、身体能力も一般的だし、気を付けていなければ、とっくに死んでいたでしょうね」


「あなたの命を狙う必要があったの?」


「危険な因子は摘み取っておいた方が安心でしょ、私が彼女の立場なら、やっぱりそうするし」


 アリスは、当時のことを思い出していたのか、瞳に幾分か憎悪の色を浮かべてそう言った。


「そこで、思い切って、磯村女史と直接対決することにしたの」


「その時に、魔法少女の秘密について、聞き出したというのね」


「そう」


「磯村先生が、よくそんな“秘密”をあなたにバラしたわね」


「さんざん、殺そうとしてくれたんだもの、こっちだって、多少仕返しのつもりで、“攻撃”したわ。

 その時、私たち魔力を持つ人間と違って、一般人の痛みへの耐性はかなり低いってことが、改めてわかった」


『御免なさい、赦して。私だって、仕事でしたことなのよ、あなたに恨みなんかこれっぽっちも持っていないんだから、お願い、助けて』とか言って。

 磯村女史がこんなみっともない命乞いするなんて、情けなかった」


「あなた、まさか……」


「……磯村女史、可哀そうだけど、その場で死んでもらったわ」


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