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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第31話 アイオンの魔女(その3)


「ちょっと、アリスちゃん、何を言ってるの?」


 アリスの言葉に思わず、エミが声を荒げた。


「私たちがあなたにそんなこと言われて、『はい、そうですか』といって協力するとでも思っているの?」


 エミは半ば呆れた声を出した。


「どうかしら。“私の方”に協力したいと思っている魔法少女もいるんじゃない?」

 

 アリスにそう言われて、エミは周りの連中を見返した。


 黒の魔法少女たちは、アリスの言葉を否定するように、一斉に頭を横にブルブルと震わしせた。ただ一人、サキを除いて。


(サキちゃん、まさか……)


 エミはサキが迷っているような顔をしているのを見逃さなかった。


「サキちゃん、大丈夫?」


 ケイトはサキの様子が少しおかしいことに気づき、思わず声に出して尋ねた。


「……大丈夫よ」


 サキは内心迷っていた。このアリスという魔法使いが特に悪い魔女には思えない。少なくとも白の魔女のシズカよりも好感が持てる。

 サキは昔ら、漫画やアニメに登場する、シズカのような聖女ぶるキャラクターが苦手というか、嫌いなのだ。

 エミという魔女は、ポンコツ臭は漂っているが、心の中にあることを変に隠すことなく、ズバズバと曝け出す正直なところに好感を持っている。

 アイオンの魔女というだけで、アリスという魔女は本当に自分たちの敵なんだろうかと、サキは、疑心暗鬼に陥っていた。

 そして、ケイトもサキとはまた違った意味で、アリスに対しての判断を迷っていた。

 まだアリスのことがよくわかっていないし、ここでお互いに戦うべきではないと、単純に思っていた。


「アリス、あなたが、私たちに協力を仰ぐということは、そのゴーレムを使って、人類を滅ぼそうというわけよね」


 シズカが青ざめた顔でアリスに尋ねた。


「もちろん、そのつもりよ」


 アリスは今さらな質問を受けて、シズカの方に顎をしゃくってみせた。


「かつてはアイオンと闘っていたあなたが、なぜそんなことを考えるようになったのか、私にはよくわからないわ」


 実際、シズカは哀しんでいた。正義の心を持った者が、どんな理由があれ、途中から悪の心を持つようになるとは、敬虔なクリスチャンであるシズカには理解できないことだ。

 逆ならわかる。悪に染まった心は、洗い清めることで、善の心に生まれ変わることがあるからだ。

 そして、そうした悪人から善人へと生まれ変わる人間を、これまで自分の生まれ育った教会の懺悔室で、牧師である父のもとで、改心した人間を数多く見て来たのだ。


「どうしてそういう考えに至ったのか、聞かせてちょうだい」


 シズカにそう言われて、アリスは、口の端でニヤリと笑った。


「そうね、あなたたちの協力を仰ぐのだから、その理由をちゃんと話さないとね」

 

 アリスは、マジック・ワウンドを天井の方に掲げて、中空に映画のような大型のスクリーンを映し出した。

 その動きに釣られて、一同はその画面の方を一斉に見上げた。

 これから何かの上映会が始まる、そんな雰囲気に包まれた。


「これらの映像は、私が見た記憶のイメージを魔力で投影したものよ。すべて実際に“私”が体験したもので、架空の事柄や、空想の産物は混じっていないから安心して」


 そう言うと、アリスは、真剣な顔で一同を見回した。


 スクリーンには、マーヴェラス・ファイブの戦いの模様が映し出されていた。

 まだ、あどけなさの残る、エミやシズカ、そしてアリス、ハンナ、そして、もう一人の日本人、キョウコがアトランダムに映し出されている。

 まるで、魔法少女の実写版映画を見るかのようだが、エミはその様子を懐かしそうに眺めていた。

 シズカは、むしろ、自身の黒歴史を見させられているようで、恥ずかしさの方が勝っていた。

 他の魔法少女たちは、スクリーン上に映された伝説の五人の活躍の姿に圧倒されるばかりだった。


 アイオンの作り出したタルタロスという人造人間は、人間のような曖昧な姿ではなく、SFアニメに登場するロボットや、特殊兵器のように、ある意味、“完璧”に近い姿をしていた。

 肌は、人間のように曖昧な感じではなく、鋼そのものの質感で覆われている。

 華奢で華麗な、十五歳の少女たちでは、幾ら束になったところで、到底勝てそうには見えない。

 それが、たった五人で、巨大なタルタロスの軍団は、次々とスクラップと化していく。

 アリスが言うように、確かに不完全なのかもしれないが、それにしても、マーヴェラス・ファイブの魔力は、凄まじいものがあった。

 特に、アリスの攻撃は、他の四人のように、単に魔力を用いた光線や熱線の類を放射するにとどまらず、目に見えない巨大なプライヤーとか、ペンチとかで、タルタロスの腕を鷲掴みにし、捩じり切る、そんな乱暴で、破壊的な様子を見せた。

 核ミサイルを、まるで動物を解体するかのように、分解してみせたというが、まさにその魔力を用いて、相手をバラバラにする、そんな暴力的な何かだった。


「問題はここからよ」


 伝説の五人の活躍がしばらく映し出されたあと、どこか見覚え絵のある建物の正面が映った。それはまさしく、この廃墟が、廃墟となる前の在りし日の姿だ。


「あの日、アイオンとの最後の決戦が、ここで行われた。

 そしてその時、“敵”のウォーカー男爵に止めを刺したのが、この私よ」


 アリスは、祭壇の前まで後退ったウォーカーと対峙していた。


「あの時、私以外の四人は、別の敵と闘っている最中だったので、このシーンは初めて見ることになるわね」


 アリスは画面から目を離さず、周りに告げた。

 エミもシズカも、一歩身を乗り出すようにして、その画面に注目した。


〈もうこれで、お終いね。降参なさい〉


〈ふっ、覚悟はできてる。ここで降参して生き延びたとしても、本国で裁判に掛けられれば、断頭台送りはないにせよ、終身刑は免れまい〉


〈それだけのことをしてきたのだから、当然の報いよ〉


〈まあ、随分と長い闘いだったが、君たちたった五人の少女、いや、もう立派なレディと呼ぶべきか、いずれにせよ、か弱そうな君たちにしてやられるとは、正直、歯痒いわい〉


 ウォーカー男爵は、聖職者の着るような黒い詰襟をきっちりと首元までボタンを留めて着こんでいた。胸元が濡れているように見え得るのは、黒くてよく判別できないが、傷口から滲み出た血かもしれない。

 目にはすでに光はなく、顔色は歴戦の疲れだろうか、それとも今回の戦闘で致命傷でも受けたのか、紫色に歪んでいる。


〈正直、君たちの力に恐れ入ったので、最後に言い訳させてもらおうと思うが……、我々の誤算は、君たちの力を侮ったのではなく、君たち、魔法少女、それに、魔法使いと呼ばれる、異能力者を味方に付けなかったことだと、今さらながらに思っておるのだよ〉


〈何を言いたいの? あなたたち敗因は、私たちを味方にしなかったってこと?〉


〈そうだ、その通り、君たちを敵に回して戦うのではなく、最初から味方になってもらえば、こんな結果になることはなかった〉


〈でも、そんな戯言はもう終わりよ。これでアイオンという悪の組織は滅ぶ〉


〈浅はかな。君はまだ若いから、わからんのだろう。私が死んだところで、アイオンという組織がなくなることはないのだ〉


〈何を言っているの? アイオンはあなたが首謀者でしょう。そのあなたが消えれば、組織も消滅するはずよ〉


〈ふふふ、アイオンというのは、人類が常に抱えているある種の“概念”なのだ。国家や会社のような組織とは違う〉


〈難しいことはわからないわ。とにかく、あなたは、これで最後よ〉


〈もちろん、覚悟はできている。私はここで死なせてもらうことにするよ。国に帰って生き恥を晒すつもりは毛頭ない〉


 ウォーカー男爵は息も絶え絶えにそう言うと、右手を黒い上着の真ん中辺りのボタンを外して内ポケットに差し込み、小さな切片のようなものを取り出した。どうやら、それはUSBメモリーのようだ。


〈これを君にやろう。アイオンという組織が、君ら魔法少女というか、異能者とどう関わっているのか、その中身にヒントがある〉


 ウォーカー男爵は、アリスにその小さな切片を手渡すと、静かに目を閉じた。


〈最後に、頼みがある。私が息を引き取ったら、君のその魔力で、私の身体を粉々に吹き飛ばしてくれ。ここに遺体を残して国連軍などに回収されるのは御免だ。最後の頼みだ……、よろしく頼む〉


 アリスが返答しかねているうちに、ウォーカー男爵の全身の力が抜けて、永遠の眠りについた。


 それぞれ、戦闘を終えた四人の魔法少女が自分の元に近づいてくる気配を感じて、アリスは咄嗟に魔力でウォーカー男爵の遺体を宙に持ち上げた。

 さらに聖堂の天井付近まで持ち上げると、出力を振り絞って、男爵の遺体を天蓋ごと吹き飛ばしてしまった。


〈グォアアアアアン〉


 映し出されたスクリーン越しから、当時の轟音が響き渡った。


「というのが、最終戦の真実よ」


 そこまで映すと、アリスがスクリーンを閉じた。


「その時、ウォーカー男爵から預かったデーターというのは、どうなったの?」


 映像を見終わったシズカが、当然のように尋ねた。


「一応、アイオンが滅んだということで、五人が解散して、私が個人的に預かっていたわ」


「なぜ、私たちに“そのこと”を言わなかったの?」


「敵から貰った妙なデーターだったから、ちょっと迷ったわ。自宅に戻ってからも、机の引き出しに放り込んだままで、捨てようか、自分のPCで中身を見てみようかとも思ったけれども、何か危険なウイルスが入っているかもしれないし、しばらくは放置していた」


 アリスは、当時を振り返るようにそう告げた。


「そして、ある日、やっぱり、かつての指揮者である磯村女史に相談するのが一番だと思って、彼女に連絡を取った。

 それが、アイオンの魔女と呼ばれる今の私、そして、アイオン復活の始まりに繋がったのよ」


 アリスは、スクリーンを閉じて誰もいないはずの虚空を睨みつけながら、憎悪を含んだ口調でそう述べた。


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