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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第29話 アイオンの魔女(その1)


「それは、終わりではなく、長い闘いの始まりにしか過ぎなかった」


 屋根が吹き飛び、外壁だけが残る廃墟となった古い聖堂の前に降り立った黒の魔法少女の五人を前にして、エミはケイトに聞かせていた24年前の“昔話”を締めくくるように言った。


「その当時、人類滅亡の危機を救った魔法少女五人は、伝説の魔法少女、マーヴェラス・ファイブと呼ばれて今日まで語り継がれているわけね」


 エミはどことなく照れくさそうにそう言った。


「もしかして、その伝説の五人の一人って、エミさんですか?」


 ケイトが尋ねた。


「そ、そうよ」


 珍しくエミが顔を赤らめて答えた。


「すると、伝説の五人の中にいた白の魔法少女って、例のシズカと呼ばれていた魔女ですか?」


「さすがに、サキちゃん、察しがいいわね」


「エミさんとシズカさんって、仲間だったんですね」


「ケイトちゃん、それは違うわ」


 エミは、すぐさまケイトの言葉を否定した。


「私たち五人は、国際機関から呼ばれて集まっただけで、決して仲間というわけではなかった」


「でも、一緒に戦ったわけですね。それじゃ仲間なんじゃないですか」


 エミの言葉に納得できず、ケイトが食い下がった。

「確かに、一緒に戦ったけれど、何って言うのかしら、仲間じゃなくて……、そう、チームよ、チーム」


 仲間とチームというのは、違うのだろうか。ケイトにはその違いがよくわからなかった。仲良くないのに、皆で集まって任務をこなすことがどうしてできるのか。


「とにかく、私たち5人は、核ミサイルがU国に打ち込まれることを食い止めた」


 その時の事件は、世間に知られることはなかった。魔法少女たちの活躍は、事情を知っている一部の人間だけしか知らないはずだった。

 しかし、そうした秘密というのは、必ずどこかで漏れ伝わるものだ。いわゆる都市伝説、巷のウワサとして広まっていった。

 さらに事件の発端として、核ミサイルを発射したのは、R国ではなく、世界戦争が勃発することを企む“アイオン”という狂信的な集団が仕掛けたものであるというウワサが飛び交っていた。

 そして、狂信的な集団によって発射された核ミサイルを食い止めたのは、わずか十五歳に満たない、たった五人の“超能力”少女だとウワサされた。


「しばらくの間は、マーヴェラス・ファイブ(伝説の五人)と呼ばれて、語り継がれていた。でも、彼女たちの姿を見たというものは誰もいなかったけどね」


「超能力者と思われていたんですね。魔法少女の存在はあまり知られていないのかぁ」


 残念そうにミサトが言った。


「でも、アイオンという組織が実際に存在することは、事実だった。

なぜなら、核ミサイル事件の数日後、彼らが犯行声明を発表したからよ」


◇◇◇


「一体、何がどうなっているんだ!

 R国がU国に向けて核ミサイルを叩き込んだというニュースが飛び交って、今頃は、世界中が大騒ぎになっているはずだろ」


 E公国のスミス首相は、公邸の執務室に駆け込むなり、秘書官以外に誰もいないことを念のため確かめると、吐き捨てるように叫んだ。

 その時、執務机の上にあった電話機の呼び出し音がけたたましく鳴り響いた。


『これはこれは、新首相、ご機嫌麗しゅう』


 電話の相手はウォーカー男爵だった。


「ウォーカーか、下手な挨拶は止せ。

 それより、例の作戦はどうなったんだ。

 テレビでは、何のニュースも流れていないぞ」


『フットボール(核ミサイル)は確かにキック・オフしたんですが、どうやら着地点に到達する前に、何者かによって、撃ち落とされたとの情報が入っています』


「冗談を言うな。

 専門家ではないが、私だってミサイルについては、多少のことは知っているぞ。

 正確な打ち上げ地点も分からぬミサイルが急に発射されて、簡単に迎撃できるわけがなかろう。


『閣下、そちらの執務室におられるのは、閣下だけですかな?』


「秘書が一人いるが、彼なら構わん。信頼できる男だ」


 スミスは電話機を耳に当てたまま、秘書官の方を睨んだ。

 睨まれた秘書官は無言で軽く頭を下げた。


『確かに、発射時刻が知られていないミサイルが、発射した後で迎撃される事態があるとは、通常では、考えられません』


「つまり、これは普通の状態ではないと、そう言いたいんだな」


『そういうことです。我々もそれに関しては驚いているところです』


「では、事前に情報を掴まれていたということか?」


『そうとも思えません。

 なぜなら、我々が放った“球”は、1つではなかったからです』


「一発ではなかったのか?」


『はい。我々が蹴ったのは、合計10発です』


「……。それがすべて迎撃されたのか?」


『はい。すべて撃ち落とされました』


 *


 人類リセット計画のために、ウォーカー男爵が仕組んだ核ミサイルは、1発ではなかった。

 R国が隣国、U国との戦闘の最終手段として使用したと見せるべく、周到に計画されていたが、その数は10発。

 事前に情報を掴んでいたとしても、すべてのミサイルを迎撃することは不可能なはずだった。

 少なくとも、半数は着弾し、U国へは甚大な被害を齎すに違いなかった。

 U国側は、こうした万が一のR国の核攻撃に対して、欧州勢の協力を仰ぐという事前の約束を取り付けていた。

 ところが、である。

 後にマーヴェラス・ファイブと呼ばれる彼女たちの仕事ぶりには、国際機関の誰もが驚かざるを得なかった。


「信じられん。依頼しておいてこう言うのも何だが、10発すべての核ミサイルを撃ち落としたというのか」


 国連事務総長のペリエ氏は、パソコンに送られてきたバラバラになったミサイルの回収作業を収めたビデオデータを眺めながら、驚かざるを得なかった。


「事務総長、魔法少女の力って、凄いんですね」


 横からパソコンのモニターを眺めていた秘書官が、素直に感想を述べた。


「君もそう思うかね」


「はい、もちろん?」


 事務総長に聞かれて秘書官が不思議そうな顔をした。


「これが、我々の味方だからいいようなものを、もし敵だったとしたら、どうかね?」


「魔法少女が敵だったとしたら、ですか?」


 秘書官は事務総長の言わんとすることを悟って目を丸くした。


「それは、かなり大変ですね」


  *


「みなさん、お疲れ様」


 磯村女史は、殺風景な執務室の応接テーブルの前に招いた五人の少女たちに、それぞれ握手を求めながら労いの言葉をかけていた。


「狭いけれど、適当に座って頂戴。

 近くの喫茶室から注文するから、好きなものを頼んでいいわよ」


「じゃあ、私、フルーツ・パフェ」


 磯村女史の言葉に臆することなく反応したのが、アリス・藤崎だ。


「アリス、あなた、遠慮ってものがないの?」


「いいわよ、エミ。あなたもフルーツ・パフェ頼んだら?」


「いえ、私は、アイス・ティーでお願いします」


「私は、紅茶苦手なので、アイス・コーヒーで」


「へえ、シズカは、コーヒーか。案外、大人なんだ」


「キョウコも、コーヒー?」

「いや、私はコーヒーは結構。ミルクをお願いします」


「ハンナは?」


「私はお水で、ミネラル・ウォーター、ありますか?」


「わからないけど、頼んでみるわね」


 磯村女史は、自分たち大人の前でも臆することなく振る舞う十五歳になったばかりの五人の少女たちを目の前にして、複雑な気持ちを抱いていた。

 この五人の少女が、人類の危機ともいえる事態を回避してくれたのだ。


「あなたたちの行動はとても迅速かつ、正確で見事でした。

 国際機関、いえ、人類を代表して、改めて、お礼を言います」


「でも、磯村先生、そうは思っていない人類もいるわけですよね」


「どういうことかしら?」


「つまり、私たちの行動が面白くないと思っている人もいるってことです」


「今回の核ミサイルを撃った連中のことね。

 それは自分たちの計画が邪魔されたんですから、面白くないでしょうね」


 この時、十五歳のエミは、“現在”よりも真っすぐな瞳で、磯村女史の顔を見つめていた。


「それで、今回私たちを呼び出したのは、どういう理由ですか?」


 エミは、磯村女史がお礼を言いたいと、五人をこの執務室に呼び出したのには、何か理由があると読んでいた。


「あなたは、相変わらず、鋭いわね」


 その時、執務室をノックする音が聞こえ、入って来たウェイターが、注文したメニューをテーブルに並べいった。


「あいにく、当店にはミネラル・ウォーターがございませんで、当店のウォーターサーバーのお水でよろしければ、こちらをお召し上がりください」


 現在ではコンビニやスーパーで当たり前に売られている「水」も当時の日本では商品としては一般的ではなかった。

 ハンナは、ピッチャーに入った水を一口飲んで、「この水は、とてもおいしいです」と笑顔で感想を述べながら、欧州諸国では、はたくさんの「水」が商品として売られていることを話して聞かせてくれた。


「さて、一息吐いたところで、話の続きをしましょうか」


 西村女史が手にしていたホットコーヒーのカップをデスクの上に置いてから、話し始めた。


「率直に言います。

 この度、核ミサイルを発射した“アイオン”という組織が再び動き出しました」


 *


「そして二十年前、今は廃墟となっているこの聖堂の中で、私たち五人はアイオンと戦っていたのよ」


 朽ち果てた聖堂の入り口を、エミが指差した。



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