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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第28話 マーヴェラス・ファイブ〈伝説の5人〉(その3)


「目の前に現れたのは、自分と同じ15歳にはとても思えないほど、大人びた二人の少女だった」


 “敵地”に向かう空の上で、エミはケイトに向かってそのように語って聞かせた。

 高速で空を飛びながらエミが“自分の昔話”を始めたので、ケイトは何事かと思って聞いていた。

 エミはケイトの真横を飛んでいたので、他の周りの連中には、よく聞こえていないかもしれない。

 

「私たち、日本の三人の魔法少女に合流したのは、フィンランド人と、もう一人は、フランス人と日本人のハーフの娘で、二人とも、とても足が長かったわ。魔法少女というよりも、フィギュアスケートの選手が二人揃って現れたのかと思った」


 ケイトは、今までのエミの話を聞いて、エミとシズカがかつて魔法少女で、同じチームとしてミッションをこなしたということに驚いていた。

 これまでの経緯から、エミとシズカがかつて魔法少女だったかもしれないとは、薄々思っていたが、同じ任務を担っていたというのは、意外だった。


 *


「あなたたちが一緒に“仕事”をする魔法少女というわけね。

 わたしは、アリス・藤崎。父が日本人で母がフランス人、国籍は一応日本よ」

 背が高く、我の強そうな少女はそう言って、握手をするために日本の三人に手を差し出した。


「初めまして、私は、ハンナ・ハッキネンと申します。

 フィンランドから来ました」

 

 透き通るように肌が白く、いわゆる銀髪を後ろで一つに結った美少女はハニカミながらペコリとお辞儀をした。


「で、五人揃ったところで、早速だけど、今回の作戦を擦り合わせておこうか」とエミが言った。

 今回のプロジェクトには、世界中の魔法少女の中から、特に優れた五人がピックアップされてチームを組むことになった。

 即席のチームなので、特にリーダーいるわけではないが、チームのメンバーを選んだ国際魔術協会の磯村女史は、今回のプロジェクトでは、五人のまとめ役として、自分が最も知っているエミを指名した。

 エミの師匠のカエデと磯村女史とは、魔法使いの姉妹弟子の関係にあった。


「ああ、あなたが、ミス磯村から贔屓にされている、エミね」


 アリスとしては、別に皮肉を込めたつもりではないだろうが、贔屓という言葉をに向けられて、平然と受け流せなかった。


「別に贔屓にされているわけではないけど」

 

 エミは少しだけ頭に血が上って語尾を強めた。


「あら、気に障ったのなら、御免なさい。贔屓っていのは、悪い意味じゃないのよ、可愛がられているっていう意味で言っただけなんだけど、日本語は難しいわね」


「ちょっと、これから重要な任務に付くんだから、ここで揉めないでちょうだい。エミも、ムキにならないで」


 険悪なムードが漂い始めた二人の間に、シズカが割って入った。


「このまま放っておけば、この世界があと数時間後に壊滅するかもしれないんだから、喧嘩ならそのあとにしな」


 相変らず仁王立ちのままでいたキョウコの方が、リーダーのように二人を窘めた。


「別に喧嘩なんかするつもりはないよ。

 では、仕切り直して、今回の計画のあらましを話します。

 現在GMT(世界標準時)で5時を回ったところですが、確実な情報としては、これから24時間以内に、ヨーロッパの“どこか”から核ミサイルが発射される予定です」


「“どこ”かっていうのは、はっきりとした発射地点がわからないということでいいんですね」


 ハンナが尋ねた。


「そうです。世界中に流れている情報ではR国から発射されるとされていましたが、それは正確ではないかもしれないということです」


「つまり、R国ではなく別の場所から発射される可能性もあるというわけね」


 シズカが答えた。


「そう。確かな情報として掴んでいるのは、欧州のどこから、核ミサイルが発射されるということだけです」


 エミがそこまで言うと、五人全員がしんとなった。

 一般人なら絶望の表情で頭を抱えたまま、座り込んでいただろう。

 だが、ここにいた五人に、絶望の表情は微塵もなかった。

 面白い冒険譚の続きを聞きたくてウズウズしている子供のような表情で、全員が目を輝かせていた。


「それで、私たちに課せられた使命は、核ミサイルが発射されたのを探知したら、目標地点に到達する前に、これを撃ち落とすということになります」


 ファミレスで客からの注文を受けて、オーダーされたメニューを繰り返すときのような声のトーンで、エミが言った。


「簡単そうだけど、結構難しいかも」


 ハンナが呟いた。


「いや、難しくはないけど、スピードが要求されるな」


 アリスが言った。


「そう、アリスが言う通り。この任務はスピードが命です。

 今そこで、ミサイルが発射された瞬間を捉えるために、キョウコが見張っています」


「なるほど、ただぼおっと突っ立っているわけじゃないんだ」


 アリスが感心したように言った。

 キョウコは意に介すこともなく、地平線の彼方に顔を向けたまま、口の端だけで笑い返した。


「キョウコが察知したら、私たちは、発射されたミサイルにできるだけ近づいて、撃ち落とせば、それで任務完了です」


「核ミサイルってのは、弾頭が爆発しなければ、いいだけと聞いてきたけど、それでいいのか?」とアリス。


「事前に訓練してきたわけじゃないので、確かなことは言えないけど、私もそう聞いています」とエミ。


「地面に落下しないように、ミサイルを“消せ”ばいいのかな」とアリス。


「ミサイルを跡形もなく消せればいいけど、他の地点で爆発したり、不発でも行方がわからなくなるのは、ヤバイと思う」とキョウコ


「爆弾としての機能を停めて、静かに落下させるのがベストなわけね」とシズカ。


「国連軍が後で回収できるようにというわけか」とアリス。


 と、その時、キョウコの眉がピクンと上がった。


「! 早速きたぞ、ミサイルが発射された。

 ここから南南西の方角、約5232キロの地点だ」


 結果的に、国際機関が事前に掴んでいたように、ミサイルが発射されたのは、R国からではなかった。だが、今はその点、彼女たちには問題ではない。


「ミサイルは、I国に向かって飛翔中!」とキョウコ。


「了解」と全員が返答した。


 弾道ミサイルのスピードは、毎秒3キロ、マッハ9、音速の9倍にも達する。F-15などの戦闘機の4倍の速度だから、発射されてからどんな迎撃態勢を取っても、追い付くことはまず不可能だ。

 

「ミサイルの軌道よりも先回りするわよ、みんな掴まって」


 魔法少女といえども、空を飛んでいては間に合わない。

 ここはテレポート能力に優れたエミとシズカ、二人の力を合わせて五人全員が“目的地”に向かうことにした。

 五人がパッと消えて、ミサイルが到達する地点よりも先の空間にパッと現れたとき、ミサイルはまだ空に現れておらず、I国の国境付近には、欧州の春らしい爽やかな風が吹いていた。


「さあ、来るわよ、準備はいい?」


 エミ以下、全員がそれぞれのマジック・ワウンドを片手に、空中でミサイルを迎え撃つ構えを取った。

 ロケット特有の白く長い噴射を靡かせながら、細長い物体が近づいてくる。


「せーの、えーい」


 エミの掛け声で全員が魔力を込めた。


 巨人が投げつけたダーツの矢のように勢いよく飛んでいたミサイルは、五人の魔力の前に水中に投げ入れられた小石のごとく、とたんに揚力を失って、糸の切れた凧よろしく、速度を下げた。


「ここは、私に任せて」


 空中で勢いを失ったミサイルに対して、アリスが、すかさず別の魔法をかけた。

 途端に、ミサイルの筐体は、組み立てたときのリベットが弾け飛び、溶接部分からバリバリと毟り取られるように剥がれ落ちた。

 それは、目に見えない“神”の手でプレゼントの包み紙がビリビリと破り取られたかのような有様だ。


「うっ!」


 その様子を見て、ハンナが思わず、嘔吐くように口元を抑えた。

 ハンナはあからさまに反応したが、そこから受けた印象は他の三人も同じだ。

 ミサイルの筐体が四方から毟り取られ、燃料層や配管など、格納してあった部品が飛び散る様子は、生き物が刃物で解体されて、内臓がむき出しになったような不気味さを連想させた。


「まずい!」


 ミサイルの頭部から黒い核弾頭が顔を覗かせたのを見て、シズカが“瞬間移動”の魔法をかけた。

 黒い弾頭は、パッと消えて、近くの空き地の上に静かに姿を見せた。

 このまま分解が進めば、核弾頭もバラバラになる、そんな気がして慌てて魔法をかけたのだ。


「一丁上がりね!」


 冷や冷や顔の四人をよそに、皆の方に振り返ったアリスは、得意げな顔でウインクして見せた。




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