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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第25話 魔法少女ユキとユイ(その3)


 屋根の上に立てられた十字架がなければ、きっと周囲の民家と区別がつかないだろう。都内に多く見られるそんなミッション系の教会の一つに白の魔法少女たちが集まっていた。

 彼女たちを招集したのは、白い魔女のシズカだ。


「今日は、今年選ばれた白の魔法少女の五人が全員集結します」


 教会としては小さいといっても、一般の民家であれば、ちょっとした“お屋敷”ぐらいの広さはある芝生の庭に、学校の先生のようにホワイトボードを背にして立つシズカと、礼拝堂に備えて付けの折り畳み椅子を青空教室のように並べて座る四人の少女の姿があった。


「まだ、最後の一人が来てないようね」


 シズカは少女たちを見渡し、一人分の空いた椅子を見て言った。

 アカリ、マリ、コトネの三人はすでに初対面ではない。

 先日起きた“戦闘機事件”で、黒の魔法少女と対峙したときに、三人は顔を合わせていた。

 そして四人目の少女は、魔法少女としてここに呼ばれたのは初めてだったが、この教会に来たのは初めてではなかった。

 両親ともに熱心なクリスチャンで、彼女は小さい頃から、日曜のたびに家族とともにこの教会に礼拝で訪れていた。

 アカリは、日曜の礼拝で、彼女の姿を見かけることがあったが、話をしたことはこれまでに一度もなかった。

 目が合うことはあったが、根がシャイなアカリは、同い年ぐらいに見える彼女に興味はあったが、なかなか話かけることができなかった。


「初めまして、だよね。私は桐谷朱莉あかり。よろしくね」


「……私は、相庭花梨かりん。よろしく。

 でも、ここの礼拝によく来てるよね、話すのは初めてだけど」


「あ、やっぱり、覚えてたんだ、よく見かけてたんだけど、なかなか話せなくて……」


「あれ? 私も自己紹介させて、私はマリ、徳永真理だよ」


「マリちゃん、ずるいよ、全員揃ってから自己紹介するんじゃないの? 私は佐倉琴音コトネ。お琴のコトに、音楽のオトと書いて、コトネです」


 アカリとカリンの二人が椅子に座ったまま、ひそひそとやり取りを始めたのをきっかけに、四人全員がお喋りを始めた。


「みんな、静粛に……。さて、最後の一人も来たようね。

 ユイちゃん、ちょっと遅刻よ」


 礼拝堂の庭に面した扉がゆっくりと開き、小柄な少女が欠伸を噛み殺しながら皆の方へ近いづいて来た。


「シスター、集まる時間は、確か3時と聞いた」


「それは勘違いね、集合時間は2時と連絡したはずよ」


「ニジ……、そうかもしれない。最初にニジと聞いたけど、どこかでサンジに変わった」


「それと、ユイちゃん、ここでは私のことをシスターと呼ばないように、いいわね」


「はい、シスター。じゃなくて、シズカー」


「……まあいいわ。皆集まったことだし、改めて自己紹介しましょう。まずはアカリから初めてちょうだい」


 アカリが立ち上がって自己紹介を始めた。


「ねえ、アカリさん、白の魔法少女に選ばれる条件って、どういう条件なんでしょうね」


 自己紹介を終えて椅子に座ったアカリに、後ろからコトネが耳打ちして尋ねた。

 そう言われたアカリは、反射的に最後に遅れてやってきたユイの方を振り返って見た。

 自分のことを言われていると察している様子はまるでなさそうに、ユイは眠そうな目で二人の方を無表情に見返した。


 *


 白の魔法少女の五人がそれぞれの自己紹介を終えると、シズカはホワイトボードに向かい、赤のフエルトペンのキャップをポンと外して、キュキュっと小気味良い音を立てながら、縦書きで大きめの文字を書き始めた。


『最終決戦』


 その文字の意味するところに、そこにいた全員が、疑問を抱いた。


「シズカさん、最終決戦って、なんですか?

 私たち、まだ魔法少女になったばかりですよ。

 黒の魔法少女とやりあったのもこの前が最初だし、もう最終決戦なんですか?」

 

 シズカが説明するのを待ち切れないという感じで、マリが尋ねた。


「そう、あなたたちにとっては、まだ始まったばかりでしょうけど、我々、魔法使いというよりも、私たち人類にとっての最終決戦が、どうやら近づきつつあるのです」


 シズカは、まるで何万人ものオーディアンスが目の前にいるかのように、そこにいた少女たちよりも遠くに視線を合わせて語り始めた。


「その前に、あなたたちのこと、つまり白の魔法少女、ひいては魔法少女全般について、ここで話しておきます」


 シズカはこれから高さ数百メートルのバンジージャンプに臨もうとしているかのように、目を閉じて深く息を吸い込んだまま、しばらく動かなかった。

 

「まず、ここにいるあなたたちが、どういう基準で魔法少女に選ばれることになったのか、それから説明します」


 先ほど、コトネがアカリに耳打ちした疑問を、アカリは聞いていたのか、それに答えるかのように切り出した。


「魔法少女に選ばれる唯一の条件、それは14歳になった少女ということです」


 そこにいた五人全員が、しばらく押し黙ったままでいた。

 ユイを除く四人の頭の中にさまざまな疑問が湧いて出た。


「ちょっと待ってください。では、白の魔法少女に選ばれる条件というのを教えてください」


 堪らず、アカリが手を挙げてシズカに尋ねた。


「今述べた条件がすべてよ。14歳の少女ということだけです」


「それは、魔法少女に選ばれる条件ということですよね。

 では、白の魔法少女と黒の魔法少女は、どういう条件で選ばれるんですか」


「特に違いはありません」


 シズカの目がいつにも増して真剣みを帯びているので、アカリは悟った。


「そうなんですね、だから、彼女のような娘でも、白の魔法少女になれたんですね」


 シズカの胸の内を代弁するかのように、コトネが立ち上がって、言葉にしながら、ユイの方を指差した。


「ちょっと、コトネ。それはユイちゃんに失礼でしょ」


 マリがコトネを窘めた。


「うん、それはユイに失礼。ユイは、シスターじゃなくて、シズカ―に呼ばれたからここに来ただけ」


「みんな、喧嘩しないでね。いいこと、魔法少女になる素質は、14歳の少女なら、誰にでもあるのです。

 私が皆を選んだのは、ちょっと難しい言い方だけど、偶然でもあるし、ある意味、必然でもあるのよ」


「そうだわ、私たちには共通点があるじゃない。

 この教会に礼拝に来ているということ、熱心なクリスチャンであることよ。そうですよね、シズカさん」


 カリンが気づいたように言った。


「その通りよ、カリンちゃん。私があなたたちを選んだ理由の一つは、この教会に通う従順なキリスト教徒だからです」


 シズカの言葉に皆が頷いていたが、アカリだけは、心の中で腑に落ちない点がないわけではなかった。


(では、なぜ、ケイトを白の魔法少女としてスカウトしようとしていたのか……。

 彼女はこの教会には通っていない。もしかすると、クリスチャンなのかもしれないが、もし、彼女を選んでいたとすれば、ここにいる四人のうちの一人はあぶれることになる。それは、いったい誰なのか……)


 アカリはそうしたことも聞きたかったが、シズカはすでに次の説明に入りかけていたため、言い出せなかった。

 

「皆、これだけは言っておきます。

 白の魔法少女だから、明るいとか、素直だとか、そういう性格的な部分で判断してはいけません。

 人間にもいろんな性格の人がいるように、魔法少女にもいろんな性格の人がいます。

 白の魔法少女だから、大人しいとか、正義の心を持っているとか、そういうわけじゃありません」


 シズカは、まだ不機嫌そうな顔でいたコトネに言い聞かせるかのように言った。


「さて、そんなわけで、白の魔法少女と黒の魔法少女は、これまで互いにそれぞれの立場でそれぞれの道を歩んできたのですが、表立っていがみ合ってきたわけではないのです。

 だから、私たち白の魔法使いにとって、黒の魔法使いは、ライバルであっても、倒すべき敵というわけではありません。

 先日の戦闘機事件の真犯人が黒の魔法使いではないことは、あの時の戦いで、私も薄々感じていました」

 

 そこまで述べると、シズカはさきほどよりもさらに遠いところを眺めるように首を伸ばした。


「ここに来て、私たちの真の敵が現れたようです」



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