第24話 魔法少女ユキとユイ(その2)
「あ、来た来た。彼女が最後、五番目の魔法少女、草凪由希ちゃんよ」
「ちょっと、どういうこと?
この間、私を襲った理由を聞かせてちょうだい」
エミに紹介されて頭を下げた“五番目”の魔法少女が頭を上げ終わらぬうちに、居ても立ってもいられなくなったミサトが、食って掛った。
「ええ?」
藪から棒に言い寄られた少女は、訳が分からないというふうに目を丸くして、傍らにいたエミに救いを求める素振りを見せた。
「ちょっと、ミサトちゃん、ユキちゃんがどうかしたの?」
「そう、そのユキ、ユキ?
……名前がちょっと違うような、でも、私を襲ったのは、間違いなくあなたよね」
そこまで聞いて、エミがユイと呼んだ少女は、思い当たるところがあったのか、「あ!」と声を上げた。
「ごめんなさい、それは本当に私じゃないんです。
それは、きっと姉の“ユイ”だと思います」
少女は縮こまるような姿勢でミサトに言い訳した。
「ユイ? そうそう、確かにユイと名乗っていたわ。
でも、あなたとそっくりだったけど……、まさか双子とか言うんじゃないでしょうね」
ユイは、ミサトにそう言われてコクリと頷き返した。
周囲にいた、ケイト、サキ、アズサの三人は、彼女たちのやり取りを呆気に取られて見ていた。
「ねえ、私たちにもわかるように説明してほしいんだけど」
少し苛立ちながら、サキが尋ねた。
「この娘、えっと、ユキさんでしたっけ、先日、彼女にそっくりな魔法少女に街中で襲われたんです」とミサトは、これまでの経緯を話し始めた。
ただし、“喋る”ギターのことはなんとなく暈しながら。
「そうなんだ。
で、ユキさん、そこにいるミサトちゃんを襲ったのは、自分ではなく、双子の姉のユキの方だったってワケね」
ミサトの話を聞いて、エミがユキに訊いた。
「そうなんです、姉は私より先に、白い魔法少女に選ばれて……。
今日は私がここに呼ばれる前に、彼女を選んだ魔法使いのところに同じように呼ばれて出かけて行きました」
ミサトは、ユキの話を聞いても、俄かには信じることができなかった。
彼女が言っていることは、どこまでが本当だろうか。
もしかして、双子というのは作り話で、自分を襲ったのを誤魔化すために嘘を吐いているのではないかと、疑っていた。
だが、自分を襲った魔法少女とは、幾らか雰囲気が違うことも確かだ。
まさかジキルとハイドのような二重人格ということもあり得るのではないか。
〈いや、このユキちゃんは、この間の魔法少女とはどうも様子が違うようだぜ。
俺の感じでは、この娘が発している魔力は、この間の娘の魔力とは何か違う〉
突然、心の中にリックの声が響いてきたので、ミサトは慌てふためいた。
(バカ、喋るんじゃない!)
〈ああ、御免、つい喋っちまった……〉
ミサトとリックのやりとりに気づいたのか、周りにいた全員の目が、ミサトの方に注がれた。
「どういうこと、そのギターさん、お喋りできるの?」
ケイトがミサトに尋ねた。
「えっと、リックの声、聞こえたんですか? ケイトさん」
リックの声が聞こえたのは、ケイトだけではないようだ。
ミサトが見回すと、全員の目が自分に集まっている。
「しょうがない。今後のこともあるし、お話しておきます」
ミサトは諦めたように背中の黒いギグバックを降ろして、バックの中から赤いギターを取り出した。
「ミサトちゃん、随分古めかしいギター持ってるのね」
エミがリックを見て、懐かしそうな声を上げた。
「確か、そのギターって、リッケンバッカーよね、ビートルズのジョンレノンが使ってた」
〈おう、お姉さん、詳しいね、そう“オイラ”はリッケンバッカーのリックさ、よろしく〉
お姉さんと言われて、エミは満更でもない顔をして見せた。
*
〈……というわけで、俺もスーパーなギターに変身して、ミサトのピンチを救ってやったのさ〉
リックの最後の説明には少し釈然としないものがあったが、ミサトは、リックを自分の武器として使ってもいいかと、エミに尋ねた。
「もちろん、いいわよ。リックは特に害を及ぼすような存在でもなさそうだし、何よりもミサトちゃんの魔力に感応して変身までしてるんですからね。それにしても不思議な話ねえ」
エミは、ソファの上に立掛けたリックをまじまじと見回した。
〈あんまり見つめないでくださいよ、照れ臭いじゃありませんか、エミ姉さん〉
「あら、元々赤いからよくわからなかったけど、もしかして照れてるのかしら」
〈はは……、それはともかく、このユキちゃんと、この前の魔法少女は、やっぱり別人のようだな。
彼女から感じる魔力は、この前の魔力とはやっぱり別物だよ、ミサト〉
リックから言われなくても、初対面からしばらく時間が立った今では、ミサトも、ユキとユイが別人という気がしていた。
ただ、不思議なのは、ここにいるユイの方が黒い魔法少女で、ユキの方が白い魔法少女という点だった。
これは、逆なのではないか。もしかして、白の魔法使いか、それとも、エミのどちらかが彼女たちを取り違えたのではないのか。
「ねえ、エミさん、こう言っては失礼かもしれないけど、ユキさんって、本当に黒の魔法少女なんですか?」
ミサトの質問に、エミがきっぱりと言った。
「それは間違いないわ、ユキちゃんは、黒の魔法少女として私がスカウトしました。
それと、ユキちゃんとユイちゃんが双子だってことも、ちゃんと知っています」
なぜ、それを早く言わないのか、とミサトは抗議したくなったが、まずはミサトが話すのを待つことにした。
「ミサトちゃんだけでなく、ここにいる皆も同じように感じているのかもしれないけど、あなたたちが抱いている黒の魔法少女のイメージって、クールとか、悪とか、そんな感じでしょ?」
エミは、全員に向けて話していたのだが、その視線はケイトの顔をじっと見据えていた。
(エミさんは、特に私に向けて話しているんだ)
ケイトは、再三再四言われていたので、エミが言わんとすることはわかっているつもりだ。だが、心の底で納得するまでには至っていないのも事実だ。
「でもね、ミサトちゃん、それはイメージで、実際の魔法の適性と、その人の持つ性格とか、キャラクターとかはあまり関係がないのよ。だって、黒の魔法少女は、別に“悪”というわけではないから」
エミはそこまで話すと、それ以上の説明はしなかった。
「ミサトさん、御免なさい、姉は悪い人ではないんですが、少し粗暴というかストレートな性格で、自分が魔法少女に選ばれた後、私も魔法少女に選ばれたことがわかると、勝負を挑んできたんぐらいで」
「別に、あなたが謝ることはないわ。
ところで、お姉さんとあなた、勝負したときはどっちが勝ったの?」
「それは、私が勝負に応じなかったので、特に勝ち負けはなかったです」
何となくだが、この点では、ユキは嘘を吐いているようにミサトには思えた。
もしかして、このユキって娘は、ユイよりも断然強いのではないか、そんな気がした。
「さて、仕切り直しとしましょうか。
自己紹介はもういいわね」
エミは、ミサトの誤解が解けたと踏んで話を進めた。
「もう一度言いますが、私たちは、悪の魔法使いではありません。
ここは言葉よりも行動で示すことにしましょう。
せっかく五人すべてが集まったのだから、歓迎パーティーでも開きたいところだけど、今はそんな暇ないわ」
リビングの中央に全員を集めると、エミは円陣を組むように指示した。
「これから、敵の本拠地に乗り込むことにします。
覚悟はいいわね、サキ、アズサ、ミサト、ユキ、そして、ケイト」
エミは全員の名前を始めて呼び捨てにした。
「では、リーダーのケイト、出発の号令を掛けてちょうだい」
「は、はい。
では、皆さん、出発します!」




