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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第23話 魔法少女ユキとユイ(その1)


 藪から棒に攻撃を仕掛けられて魔法少女のコスチュームに変身したミサトは、最初に変身したときは何か違うという違和感に襲われた。


「あれ?」


 その違和感の正体はすぐに判明した。

 ギターを抱えたまま変身したせいだろうか、肩からストラップでギターを下げていることに気づいた。

 よく見ると、リッケンバッカーに変わりはないのだが、ミサトと同じように、ある意味では、それ以上に“お目貸し”していた。


「何、このギター、ちょっと派手過ぎない?」


『おいおい、俺だって好きでこうなったわけじゃないぜ!』


 1970年代に流行ったサイケデリック柄のようなペイントが施されていて、ミサトとしては、あまり趣味じゃないし、ステージでこんなギターを持ったとしたら、色物バンドと間違われそうなカラーリングだ。


「これ、なんて柄だっけ……」


『自分じゃよく見えないんだよな、ちょっとそこの窓に俺の姿を映してくれないか』


 ミサトは仕方なく、通りに面した民家のガラス戸を鏡替わりに、リックの姿を映してあげた。


『うわあ、こりゃ派手だ。ジミー・ペイジのドラゴンテレキャスや、クラプトンのサイケSGも霞んじまうほどだぜ』


「なに、それ? 譬えが全然わかんないんだけど」


『わからんでも、いい、それより、何か、俺、強くなったような気がするんだが……』


「強いってどういうこと?」


『ミサト、ちょっと何か、ギターのフレーズを弾いてみな』


「じゃあ、ちょっとだけ」


〈ドゥルルルルルル……〉


 ミサトの弾く“トリル”は平常でもかなり高速だが、魔法少女に変身したせいか、いつもよりさらに速く指を動かすことができた。

 あまりに速いトリルの音は、車のエンジンが1万回転以上でローターが焼き切れるぐらいに速く回ったときのような音がした。そして、それは単に音だけに留まらなかった。


 ギターから放つ衝撃波となって辺りの空気を震わせ、近くにあった電信柱から延びた電線が細かく波を打った。


 ミサトは、その思いも寄らぬリックが放った“攻撃”に驚いたが、さらにふと正面を見ると、“空気”呼んで、ミサトが変身するのを待っていた白いコスチュームの魔法少女が耳を抱えてしゃがみ込んでいた。


「うう……耳が、鼓膜が破れる!」


 白の魔法少女は、耳を抑えながら、ミサトの方に恨みがましそうな眼を向けた。


「お姉さん、ずるい」


「お姉さんって、あなた、幾つなの?」


「私は14歳になったばっか。ちょっと前までは13歳」


「じゃあ、私とタメじゃない。お姉さんじゃないわよ」


「誕生日は、いつ?」


「昨日よ、昨日」


「じゃあ、私の方がお姉さんだ」


 なんだ、この娘は、訳わかんねえと、ミサトは思った。調子が狂う。


「それより、お姉……、じゃなかった、あなたの名前教えて」


 ここで自己紹介かよと、ミサトは思ったが、今はこの娘に調子を合わせた方がよさそうだ。


「私は、香坂美郷、見た通り、黒の魔法少女だよ、あんたは、白の魔法少女だろ」


「うん。白の魔法少女、ユイ」


「じゃあ、ユイ姐さん、改めて戦うことにしますか」


「やだ、2対1じゃ、ずるい。こっちに勝ち目がない」


 あれ? ギターを入れて、2対1ってことだろうか。


「ギターは、数に入らないだろ?」


「違う、入る。それ、ただのギターじゃない、さっきから喋ってる」


 リックの声はミサトにしか聞こえないかと思っていたが、どうやら、このユイと名乗る魔法少女にも聞こえるらしい。


「申し訳ないけど、あんたの方から喧嘩をしかけてきたんだから、こっちが手加減するわけにはいかないよ。このギターはこっちの武器なんだから、ずるいと言われてもねえ」


「……」


 ミサトが抗議すると、ユイは黙ってしまった。


「私には、そんな“使い魔”がいない。出せるようになってから、また来る」

 

 ユイはゆっくりと後退りしながら、そう言うと、パッと飛び上がって後ろの角を曲がって姿を消してしまった。


『なんだい、あの娘は、お前さんの敵なのか?』


「私にもよくわからん」

 

 それにしてもユイと名乗った彼女は、リックのことを使い魔と呼んでいたが、言われてみれば、そんな気もしてくる。


「なあ、リックって、使い魔なのか?」


「それこそ、俺に聞かれてもわからんよ」


 ミサトが変身を解くと、リックも元のリッケンバッカーの姿に戻っていた。


「よかったよ、あの派手なペイントじゃあ、もう弾く気がしなかったからね」


『失礼だな、ジミヘンなら喜んで“あの姿”の俺を抱えて、パープルヘイズを弾いてくれたぞ』


 リックの譬えは古すぎてよくわからない。パパなら喜んで聞いてくれそうだが、でも、リックの声はパパには全く聞こえないだろう。


 ※


「じゃあ、改めて紹介するわね、4人目の黒の魔法少女、香坂美郷ちゃんよ」


 エミの屋敷に招かれて、自分のことを紹介されたミサトは、その場にいた3人の魔法少女を順番に眺めていった。ヨーロッパの映画に出てくるような瀟洒な居間に集まった少女たちは、三人とも個性的だった。

 中でも背の高いボブヘアの魔法少女が年長者で、このチームのリーダーだと思ったミサトは、彼女の方を向いて、「よろしくお願いします」と挨拶した。


「こちらこそ、よろしく。私は、影山咲」


「そう、サキちゃんよ。で、こちらが黒の魔法少女のリーダーの……」

 

 エミは、ミサトが勘違いしてそうなのを読んで、ケイトの方を手で示した。


「あ、浅吹蛍糸、です、よろしく」


 この娘がリーダーなのか、とミサトは思い直して慌てて手を指し出した。

 

「御免なさい、えっと、ケイトさん、よろしく」


「ケイト、でいいです、ミサトちゃん」


 同年配から“ちゃん”付けで呼ばれることに慣れていないミサトは、できれば呼び捨てにして貰いたかったが、彼女たちとは顔を合わせたばかりだし、まだ早すぎる気がした。


「初めまして、佐倉琴音です」


 最後に挨拶したコトネは、ミサトが背中に背負っているいる黒いバッグに気づいて「あ」と声を上げた。


(え、この娘、リックに気づいたの?)


 ミサトは、この場にリックを連れて行こうかどうか、迷ったが、エミからの呼び出しが、緊急事態だということを聞いて、やはり自分の武器であるリックを連れて行ったが良さそうだと決めてこの場にやって来た。

 あらかじめ、リックには、お互いに“会話”しないように注意しておいた。

 あの白い魔法少女にリックの声が聞こえたように、きっと、ここにいる連中にも聞こえるに違いない。


「あの、ミサトさん、その背負っている黒いバッグって、ギターですよね、ミサトさん、ギター弾けるんですか?」


「ええ、少しだけ……」


「いいなあ、ミサトさん、ギター弾けるんだ。私もギター弾いてみたいと思っていたんです」


 コトネの目が輝いていた。

 どうやら、ギターに興味があっただけで、リックの存在に気づいたわけではなさそうだ。


「今度、機会があったら、ギター、教えてください」


 ミサトはきっぱりと断りそうになって、口を噤んだ。

 今断ったら、嫌な奴と思われてしまうだろう。でも、ミサトにはギターを他人には教えないというポリシーがあった。

 理由としては、自分はそんな柄ではないということ、人にモノを教えるには向いていないということがわかっていた。

 以前、同じようにミサトがギターを弾けることを知って、教えてほしいと頼んできた友達がいた。

 最初のうちは、ミサトも喜んで教えていたが、しばらくして教えていくうちに、「そうじゃなくて、こう弾くのよ」と相手が弾けないことにイライラして、つい声を荒げてしまったことがあった。

 その時、相手が押し黙っているのを見て、ミサトはしまったと反省したが、その友達は、ミサトから教えを乞うこともなくなり、やがて疎遠になってしまった。

 そうした経験もあって、金輪際、相手にモノを教えるのは、辞めようと決心していたのだ。


「ええ、そのうち」


 コトネの頼みをミサトが曖昧にぼやかしていると、居間の入り口からもう一人の少女が入ってくるのが見えた。


「遅くなって御免なさい」


 頭をペコリと下げた少女の顔を見て、ミサトはその場で飛び上がりそうになった。


「あ、来た来た。彼女が最後、五番目の魔法少女……」


 エミがそう紹介した少女こそ、先日街角でミサトに急に襲い掛って来た、白の魔法少女、ユイにほかならなかった。



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