第19話 真の魔法少女(その3)
「ところでナーシャ、さっき、あなたは戦闘機を操っていた犯人を見たと言ってたわね。そしてそれは魔女だったと」
「はい。犯人は魔女でした」
「あなた、犯人の顔は覚えてる?」
「戦闘機からちらっと見ただけなので、さすがに顔まではよくわかりませんでした。でも彼女の服装は覚えています。
黒いロングドレスでした」
「それって、やっぱり“黒の魔女”ってことですか?」
サキが誰にともなく尋ねた。
「そうとも限らないわ。私たちは黒の衣装を身に着けているけれども、黒い衣装を着ているものすべてが黒の魔女というわけじゃない。
例えて言えば、カラスは黒いけれど、黒い鳥がすべてカラスというわけじゃないのと一緒よ。
論理学で習わなかった?って、あなたたち、まだ中学生だったわね」
「私は知ってますよ、論理学。大学で習いました。
エミさんが言う通り、人やモノは見た目で判断すると、誤った推論に陥りやすいということです」
ナーシャが自慢するわけでもなく、普通に返答した。
「ナーシャって大人びているけど、もう大学卒業してるの?」
ケイトが驚いて訊いた。
「はい、まだ16になったばかりですけど、飛び級で卒業しました。
それはともかく、犯人の一人が、魔女であることは事実です。
ですが、犯人のすべてが魔女とは限らない」
ナーシャのその言葉を聞いてしばらくの間、エミは腕を組んだまま押し黙っていた。
「犯人の一味に魔法使いが絡んでいるというのは、実にやっかいね」
「エミさん、犯人に心当たりはあるんですか?」とサキ。
「犯人のグループはもう目星が付いているわ。
ただ、相手の魔法使いについては、まだよくわからないわね。
なぜナーシャの戦闘機を利用したのか、たまたまナーシャが乗っていただけなのか、それともナーシャが乗っていたことを知っていて、わざと襲ったのか」
「犯人のグループって?」
「世間にはあまり知られていないけれど、“アイオン”と呼ばれる国際的な組織があるの」
「アイオン?」
「ギリシャ語で、時間とか人の生涯の意味を表す言葉で、グノーシス主義という古代ギリシャの宗教では、永遠を司る神のことをアイオンと呼んだそうよ。
で、人類の終焉を司ることが自分たちに課せられた使命だという教義の下に集まった連中が作り上げたのが、アイオンというわけね」
「いわゆる新興宗教とか、ですか?」とサキ。
「国際的なグループではあるけど、宗教団体とは違うと彼らは言っているわ。
団体の中にいわゆる教祖がいるわけではないし、司祭とか神父とかがいるわけでもない。
人類の終焉を信じる科学者や政治家、財界人などが集まって組織されているだけに厄介な存在なのよね」
「そのアイオンが、人類の終焉をカウントダウン通りに進めるために動き出したというわけですね」
「その通りよ、ナーシャ、あなた飲み込みが早いわね」
黙って聞いていたケイトは、エミの話に何だか付いていけそうになかった。
「ナーシャ、あなたの師匠とアオイちゃんは、たぶん、本国政府の依頼で、アイオンの動きを追っていたんだと思うわ」
「その情報は確かですか?」
「実は、日本の諜報機関からそうした情報が入っていたのは事実よ」
「待ってください。そんな国際的な組織に、私たち魔法少女だけで立ち向かうことができるんですか?」
ケイトは、不安になった。
「もちろん、私たちだけじゃないわ。
アイオンの動きに対して、何とか食い止めなくてはいけないと、日本だけでなく、各国の政府が警戒しているし、水面下でさまざまな組織が動き出してもいる」
「政府の組織って、警察とか軍隊とかですか?」
「ちょっと違うわね。
アイオンの連中の目的は、世界の終焉だけど、軍隊のように目に見える武器を用いて世界を滅ぼそうというわけではないから」
ケイトはますますわけがわからなくなっていた。
武器を使わずに世界を滅ぼすことなどできるのだろうか。
「つまり、彼らは、さっきも言ったような、貧困とか戦争とか、世界の綻びを利用して、人類を滅ぼそうとしているの。
そして、最も厄介なのが、今回の件でもはっきりしたけど、魔法使いの力を借りているということね」
「それなら、なおさらのこと……」
ケイトはそこまで言って、自分が思ったことをそれ以上口にすることができなくなった。
「なおさら、何なの、ケイトちゃん」
エミはその答えを知っているのに、わざとケイトに答えさせようとしているかのように、問うた。
「なおさら、白の魔法少女と一緒に、つまり、彼女たちに協力を仰ぐべきだと思います」
「それはできない相談ね」
エミはケイトの意見に即答した。
「どうしてですか?」
「いいこと、まず私たち黒の魔法使いは、白の魔法使いと長い間、それこそ、数世紀に渡って対立を続けているのよ。
それと、これが一番重要な点なんだけど、アイオンに協力している魔法使いの正体がわからない限り、彼女たちに協力を仰ぐわけにはいかない」
「アイオンに協力しているのが、白の魔法使いかもしれないと……」
「その可能性はもちろん、捨てきれないわ。
今回の犯人がエミさんだと、相手の魔女が言ったのも、自分たちが犯人でないことを誤魔化すためのカモフラージュかもしれないし」
エミが答える前に、サキが言った。
「サキちゃん」
「いいこと、ケイト。
あなたは、どうも白の魔法少女に肩入れしているみたいだけれど、私たちが黒の魔法少女だということを忘れないでほしいわね」
サキはケイトに対して怒り始めていた。
エミの話では、ケイトには魔法少女として抜群の素質があり、黒の魔法少女のリーダーとして、これからみんなを引っ張っていかなくてはならないのではなかったのか。
それが、今の話の中でも、彼女にはリーダーとして甘い部分があり過ぎて、イライラさせられるのだ。
「サキちゃん、ケイトちゃん、喧嘩は止しましょうよ」
アズサが二人の間に割って入った。
「いい? 私たちにできることは、アイオンに協力している魔法使いのグループの動きをできる限り食い止めること。
本当にもう時間がないわよ。
そのために、残り二人の仲間がここに集まり次第、敵のアジトに乗り込むことにします。
エミが話をまとめるように、きっぱりと言った。
そういえば、5人のうち、あと二人残っているのだ。
ケイトは、ふと、ナーシャの方を見た。
「ナーシャちゃんは、私たちの仲間じゃないのよね?」
「オー、違いますね。でも、引き続き、私は私で今回の犯人には当たらせて戴くことにします。
私の乗ったFFを壊されてしまいましたから、ぜひ敵は打ちたいです」
ナーシャが腕を捲り上げるポーズを取って笑ってみせた。
ケイトには、ナーシャの性格が羨ましかった。
そして、彼女の黒でもなく、白でもない、ただの魔法少女という境遇も。
(そうだ、私が目指しているのは、ただの魔法少女なんだ。
きかっけとして黒の魔法少女になったけれど、ナーシャみたいに、いつか、ただの魔法少女と名乗れるようにしよう)と、ケイトは密かに思うのだった。
「そうそう、最後に、言っておくけど、ケイトちゃん、みんなのリーダーはあなたに任せます。
黒の魔法少女、ノワール・ケイトとして、よろしくね」
椅子から立ち上がってエミが言った。
「サキちゃん、も、いいわね」
エミが念を押すように言うと、サキは黙ってコクリと頷いた。




