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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第17話 真の魔法少女(その1)

 ケイトはナーシャに尋ねたいことが山程あった。

 

「ナーシャちゃん、アオイちゃんは元気なの?」


「落ち着いて、ケイト。なぜ彼女がここに現れたのか、その説明を訊く方が先よ」


 心が急くケイトを窘めるように、エミが二人の間に割って入った。


「オー、あなたがケイトたちの師匠ですね。

立ち話も何ですから、こちらに座ってもよいですか?」


ナーシャは部屋の中をしげしげと見回して、近くにあったソファを指差し、ニッコリと笑った。


「そうね、みんなも座りましょう」


 拍子抜けしたように、エミが言った。


「あ、私、お茶淹れてきます」


 ナーシャの対面のソファに座りかけて、パッと飛び跳ねるように立ち上がったアズサは、気を効かしたつもりで、そう言ったものの、エミの“住処”なので、キッチン場所がよくわからなかった。


「あら、御免なさいね、魔法でお茶も出せるといいんだけど、そんな都合のいい魔法はないのよねぇ。

 キッチンは、この部屋を出て廊下の突き当りにあるから、よろしくね、アズサちゃん。

 で、戦闘機のパイロットさん、あなたが魔法少女だったということは、偶然なのかしら」


 エミは、疑いの眼差しをナーシャに向けた。


「それはよくわかりません。

 ただ、私の乗ったFFファイティング・ファルコンが何者かによって、動かされていたことは間違いありません」


「つまり、あなたが意図的に東京に向かって飛んできたのではないということ?」


「もちろんです。私がテロの犯人だとしてもそんな無謀なことはしませんね。それでは自爆テロです」


「でも、魔法少女なら高層ビルに突っ込む直前で脱出することもできるんじゃないの?」


「オー、さすがにそれはないですね。

 戦闘機のスピードは通常の乗り物のスピードは違います。

 ちょっとタイミングが狂えば、そのままFFもろとも、一緒にオシャカです」


 やがてアズサがティーポットに淹れた紅茶とティーカップのセットを運んできて、皆の前に並べた。


「どうぞ」


 見ると、どこから見つけ出したのか、籠に入れたクッキーまで用意してあった。


「あ、いけませんでしたか?」


 テーブルの上に置いたクッキーの籠を睨んでいたエミに気づいて、アズサが顔を赤らめた。


「いえ、大丈夫よ、召し上がって頂戴。

 えっと……、あなたの話を信用するなら、今回の一件は、魔法少女のあなたがコントロールされるぐらいに、かなり強力な魔法使いが、犯人として潜んでいたということかしら」


「はい、そうです。

 実は、私、自分のFFが東京へ向かう途中で、犯人を見ました」


 ナーシャの一言を訊いて、紅茶の用意をしていた一同の動きが一瞬止まった。


「なんですって?」


「はい、犯人の魔法使いを見たんです」


「犯人を見た?」


 エミとナーシャのやりとりをじっと見守っていたサキが声を上げた。


「犯人は、ビルの屋上にいました」


「ビル?」


「FFがぶつかりそうになった高層ビルよりも低いビルです」


「でも、そんなビルの屋上から、戦闘機をコントロールするなんて、かなり強力な魔法使いだわ。

 その魔法使いは、女性、いわゆる魔女だったの?」


 エミのその言葉を聞いて、ケイトは、犯人は、エミさんだと言った白い魔法使いのシズカの言葉を思い出した。


「ちょっと、ケイトちゃん、なんで私を見るのよ。

 私は犯人じゃありませんよ」


 心配そうなケイトの表情を汲み取ったエミは、冗談とも本気ともつかない抗議の言葉を発した。


「うーん、私の“感覚”では、この方は犯人ではなさそうですね」


 ケイト以上に、エミのことをじっと見つめていたナーシャが言った。


「アナスタシア、あなた、魔法の“感覚”がわかるの?」


「はい。わかります。今回も、皆さんの魔法を感じ取ってここへたどり着きました。ナーシャでいいですよ、エミさん」


「あの、魔法の感覚って何ですか?」


 ケイトが誰にともなく尋ねた。


「いわゆる人間には五感があるように、魔法使いの中には、魔法の匂いのようなものを嗅ぎ取る能力を持っている人がいるのよ。

 どうやら、このアナ…、ナーシャも、その一人のようね」


「その通りです。あなたたちの魔法の匂いと、犯人の魔法使いの匂いは、ちょっと違います」


「……ということは、犯人の魔法使いは……」


 サキはそう言った切り、それ以上のことが言えなかった。


「白い魔法使いという可能性もあるけど、黒い魔法使いという可能性もあるし……」


 エミがサキの言葉を引き継いで考え込んでいると、ナーシャが不思議そうな顔をして皆の方を見回した。


「あの、その白い魔法使いとか、黒い魔法使いって、なんのことですか?」


 ナーシャが尋ねたその一言に、ケイト、サキ、アズサの三人が驚いた顔をした。

 ただしエミを除いては。

 エミだけはナーシャの一言に難しそうに眉間に皺を寄せていた。


「そういえば、ナーシャちゃん、あなたは、黒と白、どっちの魔法少女なんですか?」


 当然のようにケイトが訊くと、ナーシャから意外な答えが返って来た。


「黒? 白? 言っている意味がよくわかりません。

 私は、“ただ”の魔法少女です。黒とか白とか、色の区別なんてありません」


「そんな……。

 エミさん、黒と白の魔法使い以外に、魔法使いなんているんですか?」

 

 サキの質問にエミは何も答えなかった。

「えーと、見たところ、皆さんは、黒の魔法使いのようですが、その服装の色のことを言っているのですか?」


「それだけじゃないわ。

 魔法の特性として、黒の魔法と、白の魔法があるということよ」


 ナーシャの疑問に、サキが答えた。


「なるほど」


 そう言ってナーシャは立ち上がると、片手を斜め前方に挙げて目を瞑った。

 目の前にある見えないガラス窓でもふき取るように、勝手をワイパーのようにさっと動かすと、ナーシャの身体の周りに閃光が走った。

 次の瞬間、ナーシャのパイロットスーツ姿は、引き裂かれたように飛び散り、代わりに新たなコスチュームへと変わった。

 それは目にも鮮やかな「青」色の衣装だった。

 黒の魔法少女たちとはまた異なってはいたが、一目で魔法少女とわかるコスチュームだ。

 金髪と碧い瞳のナーシャによく似合う「青」色だ。


「これが私の魔法少女の“正装”です」


「青? あなた青の魔法少女なの?」


 サキが尋ねたると、ナーシャが大袈裟に首を振った。


「違います。さっきも言ったように、私はただの魔法少女です。

 色で呼んだり、呼ばれたこともありません。

 でも、コスチュームの色は、最初からこの“シーニー”でしたね」


「シーニー?」


「おお、御免なさい、ロシア語でシーニーは、青っぽい色のことです」


「どういうことなんですか、エミさん。

 黒と白以外にも、彼女のような魔法使いがいるんですか?」


 サキはエミの方を振り返って尋ねた。


「まさか、こんなに早く“別”の魔法少女が現れるとは、ね」


 エミは、やれやれという表情で、ゆっくりと語り始めた。



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