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魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
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第13話 緊急事態(その3)


「私たちは、戦闘機じゃなくて、パイロットの人を消しちゃったってことですか?」


 ケイトは、エミと一緒にどんな魔法をかけたのか、そもそも、自分が使っている魔法が、一体どんな魔法なのか、まだよくわかっていなかった。


「最初に説明しなかった私も悪いけど、ケイトちゃん、あなたが今使っている魔法は、別にモノをこの世から完全に“消し去る魔法”というわけではないのよ」


「どういうことですか?」


「さっき私が使った瞬間移動の魔法は、自分に対するテレポーテーションだったけど、あなたが使った魔法は、それを相手に対して行う魔法なの」


「じゃあ、パイロットの人はこの世から消えたわけじゃなく、どこかに“移動した”ということですか?」


「そういうことね。

 この前の埠頭であなたがギャングどもにかけた魔法も同じよ。

 彼らはきっとこの地球の“どこか”に飛ばされているはずね。

 そこにいる白の魔法使いのお姉さんも……」


 と、エミはシズカを指差して言った。


「どうやら、私がかけた魔法で、エベレストの山頂へご旅行されていたそうだし」


「エベレストじゃないわ、アルプスよ、マッターホルンの山頂」


 シズカがエミの言葉を顔を赤らめながら訂正した。


「そんなことはもうどうでもいいわ。

 それよりも、今回のこの航空機事故は、どういうことか、きちんと説明してくださらない?」


「? 何か言いがかりされているようだけど」


 シズカの物言いに、エミが苛立ちをみせた。


「私は、どこかの国の戦闘機がハイジャックされて、都心のビルに向かって飛んでいるという防衛庁の緊急無線の内容を、たまたまキャッチしただけよ。

 そして、それを食い止めようとして、みんなをここに呼び集めたというわけだけど」


「私が掴んだ情報では、あの戦闘機は、別にハイジャックなんかされていないようだけど」


 シズカはさらに厳しい眼つきでエミを睨んだ。


「何が言いたいの?」


「実は、あなたが魔法でコントロールして、戦闘機を高層ビルにぶつけようとしたんじゃないの?」


「バカなこと言わないで。

 つまり、この騒ぎは、私たちの自作自演だと言いたいわけね」


 エミが敢えて“私たち”と言ったことに、ケイトは心の中で、私たち魔法少女を巻き添えにしないでほしいと思った。


「シズカさん、私たちは、戦闘機を高層ビルなんかにぶつけようなんてしてません」


 ケイトは思わず心中を口にしていた。

 白い魔法使いに、これ以上誤解を受けたくないという思いが強く湧いていた。


「浅吹さん、やっぱりあなたは……」


 シズカは何かを言いかけて辞めた。


「やっぱり、何なんですか?」


 シズカの横にいたアカリが尋ねた。


「今はいいわ。

 それより、“漆黒の魔女”がついにその本性を現したということが、これではっきりしたわ」


「ちょっと、待って。なんでそうなるのよ」


 シズカがマジック・ワンドを取り出し、今にも攻撃を仕掛けんばかりの態勢を見せたので、エミも釣られて身構えた。

 二人の魔女が対峙したため、白と黒、両サイドの魔法少女も、ただ一人、ケイトを除いて、互いに睨み合う形となった。

 

「待って、待ってください」


 ケイトはシズカを見たときから、いや、白の魔法少女のアカリを最初に見たときから、彼女たちとは事を構えたくないという想いが強かった。

その大きな理由は、相手が“白”の魔法使いということ。

エミの手前、口に出せなかったが、自分は白の魔法少女に選ばれたかったというのが正直な気持ちだった。


「私たち、正義のために魔法を使うのであれば、白も黒も、お互いに争う必要なんてないはずです」


「ケイトちゃん、それはド正論ね。

 でもね、この白い魔法使いさんたちとは、そもそも考え方が違うのよ。

 私たち黒の魔法使いは、いわゆる性悪説の立場で、この人たちは性善説の立場なの」


「セイアクセツ、セイゼンセツ……、よくわかりませんが、それでも、やっぱりお互いに争うべきじゃない気がします」


 ケイトも、こうなったら後に引けなかった。

 ここで争っても、互いに傷付くだけだ。

 とにかく争うべきではない、ここはその思いを貫くしかない。


「やっぱり甘いわね、浅吹ケイト。

 彼女たちとはいずれ決着を付けなくてはならないわ」


 サキが業を煮やして前に出た。

 その動きに呼応するかのように、白の魔法少女のマリ、続いてコトネが攻撃に出た。


「えい!」


 海上での空中戦が始まってしまった。

 マリの攻撃は、サキが反射的に躱した。

 一方、コトネの攻撃は、虚を突かれた形で、アズサに命中した。


「きゃあ!」


 コトネが放った正体不明のビームに、アズサは全身の力が抜け落ちて、海上へと落ちて行った。


「アズサちゃん!」


 ケイトは、落ちて行くアズサの姿を追った。

 頭からダイビングするように落ちるアズサの体を、海面に達する直前で受け止めたが、勢い余って、二人とも海中に落下した。


(う、苦しい)


 泳ぐのは特に苦手ではないが、衣服を着たまま、しかもアズサを抱えて海中に沈んだことで、ケイトは少しだけパニックに陥った。

 何とか海面まで浮き上がったケイトは、先ほどエミがやって見せたテレポーテーションを真似て、魔法をかけた。

 海上には、先ほど、戦闘機が掠めていったタンカーが見えた。

 移動先として、そのタンカーの甲板の上をイメージした。


「うわ!」


 結果として、テレポートは成功したが、甲板の上に突如現れた二人の少女に、近くで慌ただしく作業をしていた乗組員の一人が腰を抜かさんばかりに驚いていた。


「驚かせてしまって、ごめんなさい」

 

 ケイトは、乗組員に一礼すると、空の上にいたエミに無事であることを示すように手を振ってみせた。

 ケイトが甲板の上で手を振る様子を見て、エミはホッとしたが、アズサとケイトが脱落したので、今や四対二となった。

 勝ち目のない闘いは、絶対にしないこと。

 これは、経験上、学んできたことだ。

 これまでに、無理な闘いをして失敗したことが幾度となくあった。

 自分だけならまだしも、可愛い弟子たちを、すでに危険な目に遭わせてしまっている。

 人数的に圧倒的に不利になったことをみて、エミがサキに耳打ちした。


「逃げるわよ」


「え?」

 

 サキは不満げな声を上げたが、エミの命令に従うほかなかった。

 エミは言うが早いか、サキの袖を掴み、ケイトとアズサがいたタンカーの甲板上に、瞬間移動した。


「ケイトちゃん、アズサちゃん、二人とも無事なようね。

 じゃあ、行くわよ」


 エミは、三人の魔法少女の身体を自分の傍に引き寄せるようにすると、ワンドを胸の前で振るい、最後の力を振り絞るように、テレポーテーションを試みた。


「あ、待ちなさい」


 アカリは、目の前から忽然と消えたエミとサキが、タンカーの甲板上に現れたのを捕らえて声をかけたが、次の瞬間、黒の魔法少女たちの姿は、再び消えていた。


「逃げられました」


 アカリの報告にシズカが軽く頷いた。


「タンカーも火は収まったようだし、戦闘機のパイロットは、“テレポート”されて姿は見えないけれど、きっとどこかで無事でしょう」

 

 シズカは総括するように、辺りを見回した。


「事は、重要な局面に向かって進んでいるようです。

 漆黒の魔法使いたちが、今回のような動きを見せたからには、私たちも、今後のことについて、全員を集めて対策を練ることにしましょう」


「ちょっと、待ってください。

 帰る前に、お聞きしたいことがあります」


 シズカが撤収しようとする様子をみせたので、アカリが慌てて訊いた。


「あの浅吹ケイトって、本当に黒の魔法少女なんですか?」


 アカリの質問にシズカは、しばらく押し黙ったままでいた。


「それについては、この後、ゆっくり話します。

 とりあえず、戻りましょう」


 白の魔法少女たちは、大量のMPを消費する瞬間移動を使うことなく、カモメが漂うに、ゆっくりした速度で帰路に着いて行った。



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