表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女ノワール・ケイト  作者: 未来乃メタル(みらいの・めたる)
11/48

第11話 緊急事態(その1)


 ケイトとサキが呼ばれたのは、周辺に高層ビルが立ち並ぶ、都心の一角にある公園だった。

 住宅街にある公園とは異なり、子供用の遊具などはなく、木製の座りにくそうなベンチがところどころにぽつぽつと置かれた公園で、平日にこの中にいるのは、近くのオフィスビルに勤めるサラリーマンがほとんどだ。

 時間は午後4時だが、すでに仕事を終えたのか、休憩時間なのか、ベンチに腰かけていたビジネススーツやノーネクタイで白いシャツ姿の男たちが、ふいに現れたケイトとサキの姿をちらっと横目で睨んでいた。

 都会では、平日でもコスプレ姿の少女たちが、自撮りなどをするために、時折この公園にも姿を見せる。

 きっとそうした少女の類だろうと思ったのか、二人の姿を見ても、さほど怪訝な顔で見続けるものはいなかった。


「確かにこの公園で間違いないはずだけど……」


 ケイトとサキは、公園内に入るなり、周囲をぐるっと見回したが、呼び出しをかけたはずのエミの姿がなかった。

 

(サキ、ケイトちゃん、ここよ、ここ)


 頭の中に聞こえてきた声に、二人はきょろきょろとその姿を探したが、どこにもいない。


「はっ」として、上空を見上げると、近くあった高層ビルの半分ぐらいの高さのところに、エミともう一人の人影が、透明のガラス板の上に乗っているかのように浮かんでいるのが見えた。


「行きましょう」


 サキはケイトに呼びかけて、人目も憚らず、飛び上がった。


「え?」


 ケイトは公園にいた周りの人に見られるのではないかと、心配になったが、サキはそれにはお構いなしだった。

 しかたなく、ケイトもサキの後に従って飛び上がった。

 公園にいた数人の男たちがその様子に気づいたが、ドラマか何かの撮影かもしれないと思うぐらいで、特に関心を示す者はなさそうだ。

 すぐに自分の手元のスマホの画面に視線を戻す人がほとんどだ。


「新しい仲間を紹介するわね、彼女はサエキ・アズサちゃん」


 ケイトとサキが合流するなり、エミは、隣に浮かんでいた少女を紹介した。

 アズサと紹介された少女は、小声で「どうも」と言いながら、ペコリと頭を下げて挨拶した。

 頬を少し赤らめ視線が伏し目がちなところを見ると、少しシャイなのかもしれない。

 彼女も、ケイトとサキ同様、少しデザインが異なる黒い魔法少女の衣装を身に着けていた。

 体格はケイトと同じぐらいか、わずかに小柄な感じもした。

 髪は長く、後ろで束ねていたが、そのせいもあってか、魔法少女というよりも、メイドのコスプレに見えなくもなかった。


「はじめまして。私はサキ。影山咲よ。よろしくね」


 エミから紹介される前に、サキは率先して名乗った。


「えっと、浅吹ケイトです」


 ケイトも、サキに釣られるようにして挨拶した。


「これで五人のうち、三人が顔を合わせたわけね」


 エミはちょっと満足そうな笑みを浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻って告げた。


「いいこと、三人とも。今は緊急事態よ。

 このままでは、これから数十分後に、このビルに某国の戦闘機が突っ込みます」


 エミは向かいにある高層ビルを指差して言った。


「え? どういうことですか」


 サキが声を上げた。


「詳しいことは後で話すとして、いわゆるテロの一種が起きたの。

 某国の戦闘機が乗っ取られたと言ったらいいかしら。

 三人は、その“力”で戦闘機がビルに突入しないように食い止めなければならないわ」

 

 その“力”とは、もちろん、魔法の力のことだろう。

 ケイトは、戦闘機がビルに突っ込むと聞いて、かつて、アメリカのニューヨークで起きた大規模テロ事件のことを思い浮かべていた。


(あの大惨事がこれから数分後に、この都心で起きる?)


 そんなこと、急に言われても、俄かには信じられなかった。

 もし本当にそうだとして、それをこの三人の魔法少女だけで食い止めることができるだろうか。

 もちろん、エミさんも協力はしてくれるだろうけど、ケイトにだってわかる。

 戦闘機の飛行スピードは、並大抵のものではない。

 通常の魔力では、歯が立たないのではないか?

 ケイトが抱いた疑問を、サキの方がエミにぶつけていた。


「でもエミさん、戦闘機がこのビルにぶつからないようにするなんて、いくら何でも、私たちの力では無理なんじゃ……」


「もちろん、闇雲に魔力を放っては全然無意味よ」


 エミは説明を続けた。


「時間がないから、一度しか言わないわよ。よく聞いてね。

 サキとアズサちゃんは、戦闘機が見えたら、できる限り、その進路曲げてちょうだい。

 私とケイトちゃんは、進路を曲げたあとの戦闘機を消します」


「ええ? 戦闘機なんか消せるんですか?」


 ケイトが思わず疑問を口にした。


「大丈夫よ、昨夜のことを思い出して。あなたならできる」


 エミはポンとケイトの肩を叩いてから、遥か彼方の方に顔を向けた。


「さあ、もうじき来るわよ」


 エミが“来る”と言ったのは、もちろん、戦闘機のことだ。

 ところが、それより先に視界に現れたのは、二人の白い人影だった。

 

「あ、マリさん、いましたよ、黒の魔法使いが」

 

 現れたのは、白の魔法少女の二人、マリとコトネだった。


「あなたたち、ここで何を企んでいるんですか」


 そう告げたのは、マリの方で、彼女の方がリーダー格なのか、コトネはマリの後ろに控えるようにして下がった。


「あらあら、面倒ねえ。

 あなたたち、私たちの仕事の邪魔をしないでくれるかな」


 エミがやれやれという顔で白の魔法少女に向かって言った。


「仕事って、どういう……」


 マリが尋ねようとしたとき、アズサが叫んだ。


「あ、見えました」


 それは紛れもなく、戦闘機の機影だった。

 たまに空で見かけるような高いところを飛ぶ機体ではなく、遠目でも、かなりの低空飛行に感じられた。


「来たわよ! サキとアズサちゃん、行って!」


 サキとアズサはマジック・ワンドを取り出すと、だんだん姿が大きくなってゆく戦闘機に向かって同時に振り被った。


「何なの、これは!」


 白い魔法少女の二人は、戦闘機を避けるように数メートルほど飛び退いたが、それぐらいの距離は、あまり意味をなさなかった。

 まっすぐに向かってくる戦闘機は、サキとアズサの魔法でその機体を若干横に傾けたが、それだけだった。

 そのままでは、魔法少女たちが背にしている高層ビルの中腹あたりに確実に突っ込む。


「ケイトちゃん、行くわよ!」


 ケイトは、エミに言われるまま、一緒にマジック・ワンドを振った。


(消えて!)


 昨夜と同じように、念じたはずだった。


 考えた以上に早い速度で突っ込んでくる戦闘機に、思わず目を瞑った。


〈ゴオオオオオオオオオオオ!!!〉


 戦闘機の発するジェットの轟音が極近くで鳴り響き、彼女たち全員の耳をつんざいた。


 再び目を開けたときに、戦闘機の機体は、視界になかった。


(成功したの?)


「まずいわ!」


 そう叫んだのは、エミだ。

  機体が傾いたことで、進路は右に逸れたが、ビルを避けたあと、急上昇して旋回していた。

高層ビルに激突するのは、かろうじて免れたが、機体を“消す”ことはできなかった。


「このままでは、別の場所に突っ込んでしまうわ。もう一度、魔法よ」


 エミがケイトに指示した。


「は、はい」


 ケイトは『お願い、消えて』と心の中で精一杯念じながら、大きく弧を描きながら飛んでいる戦闘機に向かって、再びワンドを振った。


「ダメ、やっぱり消えない」


 エミの声でケイトが目を開けた。

 いったいどうすればいいのか、もうわからなかった。

 戦闘機は元来た方向へ向かって、ゆっくり飛んでいくように見えたが、実際はかなりのスピードのはずだ。

 

「追いかけましょう」

 

 エミが先に飛び立ち、黒の魔法少女の三人もすぐに続いた。


「どうします? マリさん」


 唖然とするばかりだったコトネがマリに尋ねた。


「私たちも追うのよ」


「あ、待ってください」


 マリとコトネが彼女たちの後を追った直後、白の魔法少女のアカリが遅れて現場にやってきた。


「いったい、ここで何があったというの……」


 すでに小さな影となって飛んでいく魔法少女たちの姿を見て、不吉な予感を抱えながら、アカリも後を追うことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ