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40 遂に俺達はダンジョン最深部で彼を見つけ出した

 星門の先。

 巨大な通路を俺達は歩いていく。

 ここは左右に見事な石の柱がずっと並んでいる。

 まるで石作りの王宮・・・その廊下をまんまでかくしたかのようだ。

 奥からは眩い極光色の光が空間全体を照らしていた。

 オーロラが視界いっぱいに漂っているのだ。


 「・・・この光、すごく綺麗だな」

 「それ、特異点(コア)から漏れ出てる命の光よ。魔物の体と命の源ね」

 「この光から魔物が生まれてくるのか・・・」


 なんとも複雑な気分だ。

 死んでなお、汚染物質を通して俺達を殺そうとする元凶の祖が・・・元はこんなにも美しい輝きそのものなのだから。

 いや、だからこそか。


 俺達のような知的生命体は基本的に愚かだ。

 過去幾度となく、自然環境を殺してきたからだ。

 俺達加害者の色はハッキリと汚れていて、被害者であるこの星(スティーラ)の色は一点の不浄も感じさせない。

 こんなにも俺達が汚れているからこそ・・・こんなにも命の源流が煌びやかに見えるに違いない。

 そう、知性とはどうしようもなく穢れているものなのさ。


 「というかさ、何でここの通路はこんなにでかいんだ?しかも」

 「ガーディアンがここを出入りするからよ。普通は星門の前でガーディアンが最深部にあるコアを守護しているものだけれど、今回は違うみたいね」

 「コアの・・・傍にいるみたいだな」


 直接見なくても分かる。

 命の奔流に混じって、凄まじい殺気が俺達に浴びせられている。

 只ならぬ存在が最深部で俺達を待ち受けていることは、もはや自明の理だった。

 それだけこの殺気が嫌悪感に満ち満ちているのだ。


 「・・・怖い?」

 「俺、一応サリアのガードだったドラゴンタイプのガーディアンを倒してるんだけどな」

 「命の膜の中にいる魔物は、総じて弱体化するものよ。しかも洗脳をかけた魔物は更に弱くなる。だからこの先のボスとドラゴンを比べたらダメよ」

 「あのドラゴンよりも・・・強いのか?」

 「シュア・・・もちろんよ」


 まじっすか。

 あり得ねぇ。

 いや、あり得るけども。


 上には上がいる。

 上を見上げればキリがない。

 しかしまあ、俺はジョーカー的な魔法を有しているわけで。

 だからどんな相手にも等しく勝ちの目は存在している。


 故に、強さの指標とはとんでもなく曖昧なものなのだと思う。

 誰もが頂点だと認めざる負えない者が、ある日実力で劣る者に敗北することだってある。

 アリが人に勝つことだって、確率的にはあり得るのだ。

 実際、アリの持つ猛毒で何人もの人間が死んだりしたことだってあるし。


 以上を纏めると、結局のところ・・・

 ありとあらゆる現象の確率に0%と100%が存在しないってだけの・・・それだけのことだった。

 確率なんて曖昧なものをあてにしていると、重要な決断をする時に限って破滅してしまう。

 だから、最初から最後まで自分を信じてやっていくしかない。

 ドラゴン以上の何かと戦う羽目になっても、俺は俺の判断を信じるだけだ。


 そんなことを思っている内に、命の母と繋がる路(ダンジョン)の最深部へと到着した。

 そこもまた、凄まじく広い空間。

 長方形にかたちどられた、古代のコロシアムを思わせる。

 壁面が淡い光を発しており、広間全体が発光していた。

 そして奥には、それ以上の輝きを持って自己を主張するコアの存在があった。


 「あれがこの星(スティーラ)の・・・触覚?」

 「この星の意思を魔物達が代行するのなら、あれは星の意思の顕現そのものよ」


 コアの形状はクリスタルだった。

 オーロラ色に光り、2メートルぐらいの大きさを持つ神秘の石。

 意思と意志を保持する星の欠片。


 原理はちっとも分からないが、宙に浮いている。

 何とも繋がっていない。

 単体でそこにあるように見える。

 しかし、それはこの星と堅い繋がりを持っているはずなのだ。


 「コアを見つけたら、破壊するのが定石(セオリー)なんだよな?」

 「ダンジョンのコアを潰せば、魔物の発生源の1つを潰したことになるもの。更に生きて帰れば大手柄よ」

 「それでも俺達は評価してもらえないんだよなぁ・・・」

 「処刑人だってそれは同じよ。コアを潰したって誉め言葉の1つもないんだから。しかもダンジョン攻略者の大半が処刑人って言う事実、知ってる?」

 「世の中、世知辛いっすね・・・」

 「障害者にだけ、ね?」


 俺とルーナはただ単に呆れながら、上を見た。

 気配を感じたからだ。


 ヒューと風を切る音が上から聞こえてくる。

 そして、コアの近くにそれは落ちてきた。

 ガラガラと大きな反響音を出しながら、広範囲に土埃を舞わせて。


 落下した存在。

 それは星の殺意の象徴であり、世界で最も強大な力を持つ魔物の王の一片。

 ・・・ガーディアンだった。


 「キングリッチ・・・!!」


 ルーナが本当に珍しく、声を大きくその名を叫んだ。

 そいつは先ほど倒したリッチを100倍にもでかくした姿だった。

 巨大な髑髏。

 俺はリッチを骸の王と称したが、それは間違いだった。

 こいつこそが、死者の王。

 ノーライフキング。

 きっと、それに相応しい力を備えているに違いなかった。

 しかし・・・


 「コイツ、動かない・・・」


 キングリッチは落下してから動く気配が一切ない。

 俺達を襲うどころか、見向きもしない。

 それは何故?

 いや、答えはすぐに分かった。


 「・・・死んでるわ、このガーディアン」


 ルーナが即座にそう判断した。

 言われてみれば、確かにキングリッチの全身はボロボロだった。

 右腕は切断されたのか失われており、頭蓋骨には巨大な亀裂が入っている。

 魔物特有の殺気も何も感じられない。

 なら、俺達が感じた気配は・・・


 そこで気付く。

 キングリッチの肩に2人、何者かが乗っていることに。


 1人は人間だった。

 ボロボロのマントに身を包んだ小柄な男。

 しかしその顔は凶悪な人相を浮かべている。

 ・・・ハルカとサリアを誘拐した男だった。


 そしてもう1人。

 そいつは道化師の格好をした男の悪魔だった。

 精悍な佇まいで、悪いような奴には見えない。

 しかし、凶悪な魔物が闊歩するダンジョンにいる時点で、そんな印象は当てにならないことを俺は知っている。

 こんな迷宮じみた場所なんて、何か重い事情がなければ来るはずもないのだから。

 そして俺はこの悪魔の男が何者なのか、既に知っている。


 サーカス団員はリッチと共に大半が死滅した。

 しかし、その中にはサーカスの看板役である道化師・・・ピエロの服装をした特徴的な者はいなかった。

 だからピエロの格好をした者こそが、サーカス団員の中心的存在であり。

 つまり俺達が見ているこの奇抜な服装をしている者こそが・・・モアだった。


 「やあ、また会ったね」


 俺達の家族をさらった貧弱そうな男があいさつをする。

 言わずもがな、そんなものは無視した。


 「つれないね」

 「そんな挨拶はどうでもいいわ。ハルカとサリアをどこへやったのか答えなさい」

 「まあまあ、自己紹介くらいさせてよ」


 ルーナの突き刺すような言葉に対して。

 男はニヤリと相変わらず邪悪な笑顔を晒し。


 「ボクはネロ。危険指定者にして、このダンジョンにおける新しいボスさ。よろしく」

 「お前・・・」


 危険指定者。

 まあ、予想していたことではある。

 ネロと名乗ったこの男がアンデッドを生み出していたことは確実だ。

 しかし、何故ネロがアンデッドを操れていたのか?


 アンデッドを死体から治療魔法で作り出せたとしても、アンデッド自体を操ることは出来ない。

 魔物はまず洗脳しないと、使役することが原則として不可能だからだ。

 洗脳魔法と治療魔法は全くの別物だから・・・

 だから、俺はこう考えた。

 もう1人、洗脳魔法を持った者がネロと関わりを持っていると。


 俺は、本当は予想していたんだ。

 それがモアであることを。

 だって、リッチ戦の時にピエロ姿のアンデッドは1人もいなかったのだから。


 「・・・そして、ボクの隣にいるこの悪魔がキミ達の探していた人物・・・クラウン・クラウンの道化師、モアだよ」


 モアと紹介された男が、俺達を見つめる。

 澄んだ目だった。

 ハルカの話では、子供好きだったという彼。

 姿を見る限りではだが、アンデッド化していないみたいだった。


 死んではいない。

 生きている。

 でも、他のサーカス団員は団長も含めてみんな魔物化していた。

 ・・・何故、彼だけが生き残っている?

 たまらず俺はモアに話しかけていた。


 「お前がモア・・・か?」

 「ああ、そうだ。私がモアだ」


 彼は話せる。

 理性もちゃんとある。

 だから疑問はますます募るばかりだ。


 「モア。お前、ハルカって天使の女を・・・覚えてるか?」

 「覚えている。シーリエで私と一緒に仕事をした子だ。忘れるはずもない。」

 「・・・お前の隣にいるネロが、ハルカをさらった奴だってことも知ってるのか?」

 「知っている。私がネロにハルカをここまで連れてくるように頼んだのだからな」

 「・・・あなたは敵ね?」


 ルーナの目付きが著しく変わっていく。

 モアのことを敵として認識しているのが分かった。


 「モア、お前ハルカの味方じゃなかったのか?」

 「誰がいつそんなことを言った?貴様が勝手に推測して私のことを味方だと、頭のどこかで決めつけていたのではないのか?」

 「だって・・・だってハルカは、あんなにお前のことを心配して・・・!!!」

 「私も心配したから、ここまで彼女を連れてきたのだよ」

 「・・・どういうことだよ」

 「分からないか?今の私は貴様の味方ではない。しかし、敵でもない。利害関係が一致するかどうかは、これからの話し合いで決めることだ」

 「何を馬鹿なことを言ってるのよ。話し合い?なら、ハルカとサリアを誘拐した意味は何だっていうのよ?しかも私達は魔物の大群に殺されかけたのよ?素直に話し合いに応じるとでも?」


 彼女の指摘はもっともだった。

 話し合いをするつもりなら、あんなに大量の魔物をけしかける必要はない。


 「・・・訂正しよう。最初はハルカと罪のない子供だけを連れて、彼女達と話し合いをするつもりだった。アンデッドを通して見た貴様らは、どうにも癖のある手練れのように見えたのでな。話すとこちらの身が危ないと思ったのだ」

 「アンデッドを通して・・・私達を見ていたのね」

 「最初に貴様らが殺したアンデッド。あれは監視と貴様らの誘因を目的として送った魔物だ。団員のバッチとインカローズを見させれば、ここに行き着くだろうことは簡単に予想出来た」


 ・・・まんまとここに誘われたわけか。

 くそ、全然気付けなかった。


 「最初は魔物を使って、貴様ら2人を殺すつもりだった。こちらも危険指定者の身でな。厄介ごとは早期から片付けた方が良いと思ってのことだ。だから・・・すまなかった」


 モアがお辞儀をして謝罪した。

 そこに偽りの感情があるかと問われれば・・・ないように見えた。

 俺は他人の嘘を見抜くのが得意な方だ。

 孤児として・・・そして危険指定者としての生活や経験が長いためだ。

 でも、”まだ”彼に悪意のようなものは感じられない。


 「私とネロがお前達の味方になるか、それとも敵になるかはこの時を境にして決めることなのだ」

 「・・・なら、聞くわ。あなた達は一体ここで何をしているのかしら?私にはただあなた達2人が、このダンジョンで静かに生活しようとしていたようには思えないんだけど?私とクロロが味方になった場合、どんな目論見を担がされるのかしらね?」


 そうだ。

 このダンジョンで危険もなく生活するなんて有り得ない話だ。

 ただ静かに余生を過ごしたいなら、ルーナのようにひっそりと生活すればいいのだから。

 魔物をあんなに大量に使役する必要性は・・・薄いだろう。

 彼らは何かの目的があるからここにいる。

 それに・・・


 「それにモア、なんでお前だけが生き残ってるんだよ。他のサーカス団の仲間はみんな・・・」

 「殺されたよ。みんな、ここでな」


 モアは両腕を広げて、悲しげに全体を見渡す。

 まるでここで会ったことを、骸尾の王の肩から俯瞰して思い出すように。


 「お前達は今、疑問だらけだろう。何故、私以外のサーカス団員がここで殺され、私の仲間であるネロにアンデッド化されたのか?何故、そんなネロと私は仲間なのか?何故、このダンジョンにハルカを呼び寄せたのか?何故、ここにガーディアンの死体が転がっているのか?」

 「・・・教えろよ。答えてみろよ。なんでハルカとサリアを危険な目に合わせたのかを・・・!!」

 「もちろんだ」


 彼は俺達を見下ろしながら、全く表情を崩さないでそう答えた。

 ここからが、彼らと俺らのターニングポイントだ。

 理由を問い、それに答える。

 それだけで俺達の人生は変わってしまう。


 人生は選択の連続である。

 分岐点は無数だ。

 しかし、進まなければならない。


 あらゆる可能性が俺達を分岐する。

 全てを選定する。

 一瞬一瞬を形作る。

 そんな無数の選択肢の前触れにと。


 彼は過去を語り始めた。

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