35 俺達はハルカのお願いで、とある悪魔を探すことになった
翌日、朝日が昇るゴーストタウンにて、サーカス団員であるモアの探索が始まった。
魔物が活発化する夜に人探しなんか出来ないってルーナの判断で、夜が明けるのを待ったのだ。
その間、俺が殺したアンデッドの死体から持ち物を探ってみた。
そうして出てきたのが・・・
「これかぁ」
3人娘と歩く俺が持つのは、小粒なサイズのインカローズ。
立派な半貴石・・・宝石だった。
俺がぽんぽん石を真上に投げて遊んでいると、それを見る興味深々な者が1人。
サリアだ。
「その石ってきれいな赤色なんだね!」
「なんだ?欲しいのか?」
「うん!」
宝石よりもキラキラした彼女の瞳に見とれながら、俺は石を手渡す。
「サリアは宝石が好きなのか?」
「うん、好きだよ」
「・・・まだ子供なのに?」
「だって高く売れるんでしょ?お金がいっぱいあったら、たくさん食べ物が食べられるもん」
まじか。
そっちの意味で宝石が好きなのか・・・
なんか悲しい気持ちになってきたんですけど。
サリアの言葉を聞いていたハルカも、なんか涙ぐんでるし。
ルーナは後ろでくすくす笑っていた。
「・・・サリア。モアを見つけて次の街まで到着したら、いっぱいおいしいもの食べましょうね?」
「え?いいの!」
「もちろんですよ!私達の食費は全部クロロ持ちなんですから!」
「わーい!ありがとう、お兄ちゃん!」
更にキラキラが増した目で俺を見るサリアとハルカ。
俺は一言も奢るなんて言ってないんスけど。
いや、まだ未成年のサリアは別なんだけどさ。
「何ですか!なんか私に文句でもあるんですか!もし何か言いたいなら、まずサリアを通してから私に言ってくださいね!!」
「自分より遥かに年下なサリアを盾にすんなや!!てかお前まだゴーマのおっちゃんから貰った報酬がたくさんあるんだから、それ使えばいいじゃん!」
「これはシャネ〇のリュックを購入する資金だから駄目です!」
「おまっ、またシャ〇ル買う気だったのか!?」
「だって今背負ってるリュックは水没したりなんだりでボロボロですし」
「でもまだ使えるじゃん!」
「しかし、高級感はなくなってしまいました」
「はい!?」
思わず俺は驚愕してしまった。
だって、あのブランドだぜ?
値段高すぎだろ。
しかもリュックの高級感がなくなったからって新しい物を買うって・・・
「なんであんな利便性の一切ない小さな高級リュックを買うんだよ!」
「それは・・・女だからですよ。女だからこそ、良いブランドを買わなくてはいけないのです」
「女の何がそこまで高級ブランドを求めるんだ!?」
「本能です」
「これまた曖昧な理由だなぁ!!」
「女は曖昧に男を惑わしますし?」
「目をパチクリさせて言うなよ・・・」
「何にせよ、私はシャネ〇買いますからね」
ダメだ。
コイツ、本気であのくだらないリュックを買おうとしてやがるぞ。
俺がハルカをどう説得しようか悩んでると、ルーナに肩を置かれた。
「クロロ、諦めなさいな。女に甘いあなたは、やっぱり女に敵わないわ」
「いや、でもさ・・・今回ハルカがリュックを買いたいのって、女であることを盾にして、自分の所有欲を満たしたいだけだからじゃね?」
「あら、分かってるじゃない。でもあなたはそれを分かっていても、ハルカを許しちゃうのよね?」
「どうして断言出来るんだよ?」
「あなたはそういう男だって、女の私には分かるからよ。もちろんハルカもね」
「・・・それも女の本能で分かるって言うんじゃないだろうな?」
「ええ、本能よ。悪い?」
「悪びれもせず言うお前が怖いんですけどっ!!」
「怖いうちは家族の女に逆らえない証拠よ」
そう言って、ルーナはハルカと話し始めてしまった。
なんか2人して俺を見ながらクスクス笑ってるし。
女性特有の笑い方。
あれ、コケにされてるんだか好意的に思われてるんだかよく分からないんだよなぁ。
「女心ってやつは、やっぱり理解しがたいぜ・・・」
「それはサリアも同じ?」
いつの間にか、インカローズを持ったサリアが近寄ってきていた。
「成長したらそうなる・・・とは思いたくないな」
「でもサリア、ずっとお兄ちゃんの味方だよ」
「ああ、ありがとな。じゃあこれはクロロお兄ちゃんとの約束だ」
「うん!」
「しかしサリアは数年後、クロロの服と一緒に自分の服を洗濯したくない!とか言い出すようになり、やがて視線すら合わせてくれないような仲になるのでした・・・!!!」
「おいぃぃ!!縁起でもないこと言うなよ!!」
こんなふざけたことを言うやつは1人だけだ。
「でもですよ、実際悪魔にも反抗期はありますし」
「うっ・・・いや、しかしサリアは違う!きっとサリアは良い子のまま成長するし!!」
「フフ、そうやっていつまでも現実逃避していればいいですよ。世に生きる父親達と同様に、いつか愛娘が口にするであろう、うぜぇって言葉に怯えながら、ね?」
「お前、どんだけ俺に精神的ストレスを与えれば気が済むの・・・」
「そうやってサリアに対して幻想を抱くのをやめるまで、ですかね」
・・・別にいいじゃんかよ。
本当は俺だって、サリアに反抗期が来ることくらい分かってんだよぉ。
一緒にお風呂入れない時期が来るのは分かってんだよぉ。
でも、少しの間妄想に浸らせてくれてもいいじゃないかって話なんだよぉ。
「しかし本当に綺麗ですね、サリアの持ってるインカローズ」
彼女の目線は、サリアが大切そうに持っている赤い宝石に移っていた。
てか唐突に話題変えてきたな・・・
まあ別にいいけど。
「本当はインカローズって色々なカラーバリエーションがあるんだよな。シナモン色とか、ピンクとか」
「ええと、石の中に含まれてる不純物の量によって、色の度合いが違ってくるんでしたっけ?」
「らしいな。ベメント地区(旧称弘前)近くにある閉山した鉱山が、丁度良質なインカローズの産出地で、不純物の少ないピンク色とか赤色の綺麗な宝石が取れた・・・んだったよな?ルーナ」
「ええ、その通りよ」
「で、ちょうど赤色のインカローズをアンデッドが持っていたから、恐らくはベメント地区の鉱山から魔物がやってきた可能性が高いんじゃね?って話なわけだ」
こんな荒廃したゴーストタウンで、質の良い宝石が見つかるってことはそうそうないだろうと思われる。
ここベメント地区の非難は、それほど緊急性のない状況下で行われたと事前にギルドで聞いている。
なら、元の住人が換金出来るような代物をこの町に残しておく可能性は低い。
また、俺が殺したアンデッドが生前に宝石を所持していたということも考えられるが、ハルカ曰くサーカス団員達の間では高価な物は所持しないルールがあるらしい。
サーカス団の収入は殆どが孤児院への寄付に充てられているため、常時貧乏な状態であった。
そんな中で個人が高価な物を所有して、盗難などのいざこざがあった場合、後処理が非常にメンドクサイから、だとのことだった。
「なるほどなるほど。そして見栄っ張りなクロロは、ルーナが推測したことをまるで自分が考えたことのように、モノローグで読者に語ったわけですね?」
「私の考察を掠め取るとは、最低ね」
「最低ですね」
ハルカもルーナも俺をどんだけ攻めれば気が済むんだよ
俺、最近イジられキャラが定着してんなー。
正直すごい不満なんですけど。
と言うかルーナはそれを分かってて、俺を最低呼ばわりしてるなこのヤロー。
「うん、俺はもうどんなこと言われても諦めが付くからいいんだけどさ、そろそろ画面の前の人達のことをネタにするのはやめないか?あんまりメタ発言を取り入れると、後から描写の矛盾やら変な設定破りやら指摘されて、物語の収拾がつかなくなるぞ」
「そんなクロロの発言もまた、メタフィクション的ではありますよね」
「人の揚げ足を取るなよ・・・」
「そのセリフ、事実を指摘された人が言い訳として使う言葉の定番ですよね~」
頭の中にむむっと不満の感情が浮かぶ俺。
ハルカの主張に、ちょっと反論したくなっていた。
なんかたまにはカウンターパンチを入れてやりたい気分っていうか・・・
イジられキャラはもううんざりなのである。
たまには仕返ししてやらなきゃなぁ?
どんなこと言われても諦めが付くって言葉はどうした!ってツッコミはこの際なしだ。
「おいおいハルカよ。言い訳ってさ、そもそも物事の道筋を説明して、”正当性のある訳”を発言する場合に言い訳って使うけど、普段聞くところの言い訳って言葉は”取り繕い”みたいにネガティブなニュアンスで使われてる感じがしてさ。なんか言い訳って言葉をハルカは誤解しているような気がするぞ」
「お、変なところで突っかかってきましたね・・・つまりクロロは、言って訳を話すから言い訳なのであって、その言葉に元々取り繕いなんて意味は含まれていないと。何故なら”訳”とは、物事の道理を示す言葉だから・・・とでも言いたいのですか?」
「その通り!」
「でもそれって、本人が客観的に正しく言い訳をした場合に限りますよね?もし仮に主観的な言い訳をした場合、その言い訳の根拠が正しくないケースなんてザラですから、やはり言い訳というのは正当性を取り繕っている言葉と言えなくもないですけど」
「ん?あら?いや、でも・・・」
「でも?でもって何ですか?何か言いたいことがあるならハッキリ言った方がいいですよ?(ニタリ)」
あれ?
やばい。
ニタリとわざとらしく笑うハルカの言ってることが正しい気がして、何にも言えねぇ・・・
「あっれれ~?私への反論がないってことは、やっぱり言い訳出来ないってことですか?うわ~たまに反論してきたと思ったらそれですか。これは恥ずかしいですね。恥ずかしすぎて、私まで耳が真っ赤になりそうですよ」
「ぐぬう・・・」
「お兄ちゃん・・・」
俺の隣を歩いていたサリアが、心配そうに目を向ける。
よりによって、サリアに。
やばい。
涙腺が崩壊しそうなんすけど。
「もう1回クロロの言ってたことを復唱してあげましょうか?言い訳って言葉はさ、本来物事の道筋を説明して、”正当性のある訳”を発言する場合に・・・プフッ。あ、すいません。あまりにも滑稽すぎて笑ってしまいました」
「うわあああああああああ!!!俺をイジるのはもうやめてくれええええええええええ!!!!」
屈辱的すぎて、両の耳を塞ぎながら逃走を開始する俺。
なんか視界がうるうると歪んでるけど、決して泣いてなんかいないんだからなっ!!
これはあれだ・・・目から鼻水が出てるだけだしっ!!
ちょっと今日は風邪気味で、溢れた鼻水が目から出てるだけなのだ!!
「あれ?ま、待ってクロロ!?ちょっとからかいすぎました!!ごめんなさい!!だから逃げないでー!!!」
俺が逃げたことに驚いたのか、走って追いかけるハルカ。
いや、しかし・・・せっかく逃げてるのに追いつかれるとか、もっと恥ずかしいし!
なのでもっと走る俺。
念のためもう1度言うが、さっきから目を伝い落ちてるのは涙じゃないんだからなっ!!
鼻から溢れた鼻水・・・もしくは心の発汗現象なんだからなっ!!
「クロロがいないと、魔物が来た時私達どうするんですかー!!」
「ちょっと!!クロロが走ったら私まで走ることになるじゃない!!」
「待ってー!!お兄ちゃーん!!!」
ハルカに続いてルーナとサリアも走ってきてるし!
ちょ、こんな俺の姿見せたくないんですけど!!
「こっちに来るなあああああ!!!!」
「本当にごめんなさいー!!本当に反省するから止まってくださいー!!!」
「クロロォ!!そこで止まらないと、あなたを凍らすわよ!!!」
「サリアを置いていかないでよー!!!」
俺達4人は、泣きながら、困惑しながら、怒りながら、慌てながら・・・
実に感情豊かに。
そしてなにより、とても愉快に。
仲間を取り巻く陰鬱さを、無意識の内に誤魔化すように。
目的地まで走り抜けた。




