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34 ハルカは自身の思い出を語った

 俺はアンデッドタイプの魔物を処理した。

 剣で首を落として。


 ゴロリと転がる血の気の失せた頭部。

 腐った肉に蛆が湧いていて、気持ちが悪い。


 「よし、出てきていいぞ」


 俺は後ろで隠れていた3人娘に合図した。

 ぴょこりと物陰から現れる俺の家族。

 ハルカが真っ先に駆け寄ってきて・・・


 「経験値はどのくらい貯まりましたか?」


 と、早速雑にボケてきたのだった。

 本当に、早速って感じ。


 「現実世界で経験値は数値化されないだろ」

 「数値化されたら困るぐらいのショボさですものね?」

 「ショボい奴がアンデッド殺せると思うか?」

 「バイ〇ハザード風に言えば、このアンデッドは1番最初に登場するチュートリアル的存在なのでしょう。たかがチュートリアルでエネミーに殺されなかったことを自慢する人ほど、見苦しいものはないですね」

 「いや、確かに弱い敵ではあったけどさ・・・」


 てかなんで大昔のゲームに例えたんだよ。

 そもそもバイ〇ハザードにレベルなんかないし。

 と、そこでルーナがアンデッドの頭部を見て渋い表情を見せる。


 「ハルカの例え、間違ってないかもしれないわね」

 「え、バイ〇ハザードですか?それともカプ〇ンですか?」

 「制作会社は流石に違うだろ・・・」


 多分俺とハルカにしか分からないネタだったからだろう。

 ルーナの頭上にクエスチョンマークが浮かんでる気がする。

 あと、首を傾げてるサリアの上にも。


 「生物災害、実際に起きるかもしれないわって意味よ」

 「・・・あ、治療魔法か」

 「そうよ。ここにアンデッドがいたということは、アンデッドを作り出した者がいるということ。なんの意図で作ったのかは分からないけれど、アンデッドはこの1体だけとは考えにくいわ」

 「え、どういうことですか?」


 ルーナの語りについていけない様子のハルカ。

 まあ、シーリエの外から出た機会なんてこの旅以前はなかっただろうし・・・

 知識も少ないだろうし、即座に理解することなんて出来ないよな。


 「えと、アンデッドは治療魔法によって作られるって話はしたよな?」

 「はい。魔法で死んだ体が動き出すって」

 「そうそう。でも、死んだ体を動かすのって普通の治療魔法じゃ無理なんだ」

 「・・・危険指定されるような魔法のレベルってことですか?」

 「正解。通常の治療魔法じゃあ、せいぜい外傷を痕もなく治すぐらいなんだよ。上級であっても、欠損した腕を生やすとか、猛毒を癒したり、くらいかな

 「死んだ体がもぞもぞ動き出したら、それは異常な魔法ってことですか」

 「うん、アンデッドがそこにいたら、危険指定者がいる可能性は高いよ。魔物も死者を動かすレベルの治療魔法を持ってることはあるけど、命の膜の外にしかいないしな」


 なるほど~とハルカが納得。

 サリアはぽかーんと頭の処理が追い付いていないようだ。

 かわいそうだけど、彼女の理解を待ってる暇はないんだよなぁ。


 「ということはですよ・・・どういうことだってばよ?」


 結局分かっていたかのようで分かっていなかった!!


 「さっきなるほど~って言ってたじゃん!あの全て謎は解けました的な発言はなんだったんだよ!!」

 「分からないことが分かったので、なるほど~と言ったんです!!」

 「なに誇らしげに言ってんの!?ややこしい納得の仕方すんなや!!」

 「まあ、危険指定者みたいな逃亡生活送ってる人が、たった1体だけしかアンデッドを作ってない可能性は低いし、自衛のために何体もアンデッドを製造してたら生物災害並みに被害が出そうだから、この街やばいし早く逃げようぜ?みたいな感じですよね?」

 「・・・分かってんじゃん」


 ピエロだ・・・

 ここにピエロがおるわ。


 「嘘吐きの道化師ってタチが悪いな」

 「私は喜劇王ですし?」

 「映画の中の道化師役では中年以降落ちぶれてたし、最後に死んじゃうけどな」

 「でも幸せの中で死ねたからいいじゃないですか」

 「逆に死ねないことは不幸せ、ね」


 俺はアンデッドの頭部から切り離された体を見ながらそう言った。

 アンデッドの服装は・・・偶然にも、ピエロみたいな服装だった。

 サーカスの団員みたいな、そんな派手な衣装。

 胸元に着けられていたバッジがキラリと輝いて、俺の目を惹きつけた。


 「このバッチ、CLOWN・CROWNって書いてるな。意味は・・・」

 「道化師の王冠・・・」


 ハルカが平坦な声でそう言った。

 ボソッと。

 彼女らしからぬ声で。


 ハルカがゆっくりとアンデッドの死体に近付く。

 一気に張り詰めた空気。

 いつものコミカルさはどこにいった?

 全然彼女らしくない。


 「・・・どうしたの?」


 サリアがハルカの服をつまむ。

 けど、反応がない。

 余裕もなさそうだった。


 「何か心当たりでもあるのね?」


 ルーナが反対側から彼女の肩に手を置く。

 何も察せない俺はただ1人で突っ立ってる他ない。

 そこでハルカは振り返った。

 サリアでもルーナでもない、ただ立っているだけの俺を見て。


 「・・・これ、私のお世話になってたサーカス団のバッチです」


 悲しげにそう言ったのだった。



 ---



 俺達が泊まった廃墟内部の安全を確認して、俺達は隅っこの方に腰かけた。

 月夜のうっすらとした光が室内を包み込む。

 ふんわりとした光は、多少なりともリラックス効果があるようにも思える。

 これからシリアスな話をするには、ちょうどいい雰囲気だろう。

 

 「で・・・落ち着いたか?」


 さっきまで少しパニックに陥っていたハルカに声をかける。

 本当なら、このゴーストタウンから一刻も早く逃げ出したいところではある。

 しかし、彼女がそれを拒否した。

 なんでって話だよな。

 だから今、それを聞くのだ。


 「ごめんなさい。取り乱してしまって・・・」

 「いいよ、大丈夫。お互いをフォローし合うのも家族の役割、だろ?」


 出来るだけニカッと明るく言ってみる。

 いつものハルカをイメージして。

 彼女はこんな時にどう明るく話してくれるだろう、とか想像しながら。


 「そう、ですよね」

 「もちろんさ。助け合いが大切に決まってる。人を責めるなんて、酷い奴らのすることさ」

 「責任の押し付け合いは私も嫌いです」

 「本来責任ってのは共有するもんだしな。ここがどっかの会社ならいざ知らず、俺達は家族だ。だからな・・・話したいことがあったら話していいんだぞ?」

 「確かに、家族はブラック企業じゃないものね」


 ルーナの横槍に、お互いクスクスと笑い出す。

 先に寝かせておいたサリアを起こさないように、静かにな。

 そして、彼女の語りは唐突に始まった。


 「・・・私は孤児院で育ちました。親は、事故で死にました」


 それはやはりというか何というか、重い内容だった。

 ホームレスをしていた彼女。

 何かしらの事情がないはずないのだ。

 今まで深く聞かなかっただけで。


 「産まれた時から魔法が使えなかったせいで、孤児院内でもお荷物状態でして。当時の私は役立たずの自分を憎んでたし、それと同じくらい私を責め立てる周囲の世界を憎悪してました」

 「・・・俺と同じ、孤児院育ちだったんだな」

 「私は最初からクロロが孤児院育ちって気付いてましたよ?」


 ・・・本当は俺も気が付いてたんだ、とは言えなかった。

 今までその話題を逸らしてきた罪悪感があるから?

 いや、違う。

 いくら家族だからって、軽々しく人の過去に触れていいわけがないんだ。

 人の思い出に軽々しく触れてはいけないんだ。

 だから、俺は・・・


 「世間と自分を恨みながら、しばらくは孤児院で普通に過ごしていたんですけどね。ある時サーカス団がシーリエに公演しにやってきたんです。それが・・・」

 「クラウン・クラウンか」

 「ええ」


 クラウン・クラウン。

 この世に存在している5つのサーカス団、その内の1つ。

 俺も耳にしたことはある。

 世界に笑いと馬鹿笑いと大爆笑を!ってキャッチコピーだったはずだ。


 「・・・孤児院のみんなと公演を見に行った時、とても楽しかったですよ。見る前は馬鹿なキャッチコピーだなって内心馬鹿にしてたんですけどね、サーカス会場は笑顔と歓声に満ちていました」

 「なんか、楽しそうだな」

 「実際楽しかったですよ?音楽に合わせてリズムよく舞う水流とか、火の竜と踊るダンサーとか。魔法に合わせて流れる音楽がマッチしていて、すごく輝いてたんです」


 サーカスの様子を語る彼女は、少しだけだが笑っていた。

 温かい思い出に浸りながら。

 よっぽど面白かったのだろう。

 なんか俺も公演見たくなってきたな。

 ルーナはというと、別にって感じだった。

 相変わらずドライなんスね・・・


 「余りにもそのサーカスが楽しそうで、公演が終わった後こっそり団員さんの1人に声をかけたんですよ。その人が、前にクロロに言った旅芸人の人だったんです」

 「・・・シーリエにいた頃、そんなこと言ってたな」

 「クロロと出会った時ですね・・・懐かしいです」

 「ああ、そうだな」


 本当に、懐かしい。

 あの頃からハルカはムードメーカーだったもんな。

 その時、教えてくれたもんな。

 旅芸人のことを。

 と、思い出にちょっぴり浸っているところで思い出した。

 ルーナってこのこと知らないよな。


 「・・・ルーナはハルカの事情、知ってるのか?」

 「前に本人から聞いたわよ。家族になるならクロロに話したこと、全部伝えなきゃねって」

 「へぇ。なら話にはついていけてるのか」

 「まあ、ね」


 なら、話は早い。


 「・・・その旅芸人とはシーリエで別れたんだっけか?」

 「そうですね。その人はモアっていう男の悪魔で、サーカス団のピエロ役をこなしてました。孤児だった私と仲良くしてくれて・・・街の公演が終わるまで、彼の仕事を手伝っていたんです」

 「一緒にいられたのは、サーカス団が街に滞在している間だけだったってことか」

 「ええ、とても短かったですよ。けど、すごくやりがいがありました。魔法も使えない私にメルトはずっと構ってくれて。だからその頃の私は、このサーカス団でずっとやっていくんだって言ってました」


 ああ、なんだか嫉妬してしまう話だな。

 ハルカにそこまで言わせた彼に対して、感謝はしている。

 が、同時に悔しい気持ちも混入している。

 それは俺が、ハルカにもっと笑ってもらいたいと、家族としての立場から願っているからだろうか?

 それとも・・・恋慕の情が働いているからなのだろうか?

 ・・・分からない。


 「彼と話していると、世間と自分への恨みを忘れていることが多かったです。ああ、自分はここで役に立ってるんだなって。周囲にも認められてるんだなって思ってたからなんでしょうね。その時だけは、自分自身も許してあげられましたし」

 「・・・誰だって、人の役に立ちたいよな。自分のためだけに自分を生かしたくはないよな」

 「あ、分かってくれますか、この気持ち?」

 「俺も大っ嫌いだったからな、自分が」


 世界を恨む気持ち。

 自分を恨む気持ち。

 両者は激しくぶつかり合い、心を黒い淀みで埋めていく。


 分かる者には分かる苦しみ。

 分からない者には一生分からない苦しみ。

 理解と無理解との間には、絶対的な壁が存在する。

 障害者の気持ちが健常者に決して理解されないように。

 勝手に解釈されているだけのように。


 「世間に適応出来ないからって、勝手に弾かれてさ。俺達みたいな無能者や異常者を、健常者達は虫を見るような目で見つめるんだよな」

 「・・・残念ながら、そうですね」


 笑って彼女も同調した。

 世界はそう定められていると。

 彼女がこれ以上なく理解しているからだろう。

 ああ、だから彼女はサーカス団に思い入れがあるのかと。

 俺はやっと心から理解出来た気がした。


 人は障害者をかわいそうだとか、役立たずだとか、勝手に評価しながら・・・

 さも興味深そうに、珍妙そうに、生理的嫌悪を伴いながら・・・

 別物扱いをする。


 俺達は、害ある猛獣か?

 それとも無害で無能な虫けらか?

 慈悲をもって受け入れられる哀れな存在か?

 ・・・どれも違うだろ?


 同じ生き物さ。

 欠陥があろうとなかろうと、お前らと同じ生き物だ、と。

 お前らが勝手に心の中で弾劾しようとしているだけで、俺達は平等で同じ命なのだ、と。

 そう訴えたかった時代が俺にはあった。

 媚びを売っても、プライドを捨ててでも、人から否定されても、苦しくても、俺達は必死に生きるのだと。

 そう生きる指針を決めた時代が、俺にもあったんだ。


 けど、俺達は結局は社会不適合者だ。

 俺達が何を言おうとも、思おうとも、異常は異常でしかないのだと。

 世間はそういう目でしか俺達を認識出来ない。

 ・・・変えようもない事実。

 逆らうことは許されない。


 でもな。

 普通の人とは求める幸せが違ってもいい。

 生き方が違ってもいい。

 せっかく命と呼ばれる尊い希望を貰ったんだ。

 大事に、大事にしなきゃな。


 「だから家族がいるんだよな」

 「人は・・・支えあわなきゃ、生きていけませんから」

 「・・・同感ね」


 俺とハルカとルーナの意見は、見事に一致していた。

 同じ苦しみを知る、生涯に渡って障害を背負う運命を持った者だからだろう。

 運命共同体。

 そんな言葉が頭に浮かんだ。


 「・・・同じようなことを言ってくれた悪魔が1人、私にはいるんです」

 「モア、か?」

 「もし彼が、サーカス団を抜けていなかったとしたら。もし彼が、この町にいたとしたら・・・彼が死んでいたとしても、結末を見届けたいなって、思ったんです」


 そうか・・・

 やっぱ、ちゃんとした理由があったんだな。

 いつもふざけてはいても、ちゃんと俺には分かってたさ。


 お前がどうしようもなく怖がりで、自分の心を守ろうとして道化になっていることぐらい。

 怖いから、余計に人と触れ合いたいんだよな。

 そして傷付き、失敗する。

 心が壊れそうになる。

 でも、怖がることなんかない。

 俺だって同じような失敗を何回も繰り返してきたさ。


 今度は、同じ者同士で支えあおう。

 触れ合って、生きていこう。

 この出来事は、彼女の重荷を減らしてあげることの出来る、絶好の機会のように思えた。

 思えた瞬間、俺は言った。


 「・・・モアを探そう」

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